「来てくれたか!」
「ジャック!」
「……」
やはり、この黒い鎧は『ジャック』と呼ばれている。
妖精に与する存在に、よりによって『龍殺し』にしてギル、ザイン、ガルバドスら長や英雄を葬った男の名を冠している。
名を聞くたびに、ジャックにはいいようのない感情が込み上げてきた。
リドリーらしき少女と、ジャックを名乗る強者……。
黒い鎧はライトエルフらを庇いつつ、以前ふるっていた長刀で戦士ギルドの面々を寄せ付けない。
どうやら、前回と同じく撤退のための殿を務めるようだ。
「ほら、しっかりしなさい」
「!」
「増援よ、切り替えないと」
アリシアに肩を叩かれて、ジャックは迷い込んだ心の迷宮から抜け出した。
朗らかな笑顔と共に、アリシアは剣を黒い鎧に向ける。
「相当な腕みたいね、一緒にかからないと危なそう」
「……うしっ!」
ジャックは『パラダイム』から、『アビトレイター』と『グラム』の二刀流へと武器を切り替えた。
アリシア、シーザー、ジェラルドがそれに並ぶ。
「相手にとって不足なし」
「少しは骨がありそうじゃねえか」
「副長、こいつめちゃくちゃ強いっすよ。油断しないで」
「おうおう、『斬鉄』のジェラルドも見くびられたもんだ、若造に
心配されるとはな」
「へへっ……俺も結構強くなったっすから」
ジェラルドは豪快に笑い―
「どりゃあ!」
突貫した。
ジャック、アリシア、シーザーが続く、遅れたのではなく、時間差をつけて黒い鎧の反応を乱そうとしたのだ。
すさまじい剣戟が5人の間で交わされた。
グレゴリー、ガレスらはライトエルフたちを追撃しつつ、そのすさまじさに舌を巻いた。
3人の隊長の腕は十分にわかっているつもりだったが、ジャックはさらにその上をいっている。
その上で、黒い鎧は劣勢気味ながらも、その4人の足止めを続けているのだ。
「しぇああ!」
ジェラルドの突きを躱す。
「ぬん」
シーザーの切り上げを、長刀で封じつつ蹴り込んで距離を稼ぐ。
「やあ!」
アリシアの一撃を受けて衝撃を殺し、態勢を崩した彼女へ切り下す。
「くっ!」
間一髪、ジャックがその一撃を受ける。
一見押しているようでも、僅かの隙を狙って油断なく急所へ迫る。改めて、ジャックは黒い鎧の技量に戦慄せざるを得なかった。
黒い鎧は後退すると、手を天に掲げた。すると、そこに巨大な斧が出現した。
そのまま、大きく飛び上り、思い切り斧を振りかぶる。
「やばい! みんな構えろ!」
斧が大地に接した瞬間、すさまじい衝撃波が周囲に走った。
備えていた戦士たちでさえ、受けきるのが精いっぱいの一撃だ。
(『大地斬』⁉)
ジャックの背に寒気が走った。それは、彼が斧を使う際に使用する技と酷似していたからだ。
加えて、黒い鎧は武器を自在に操ることができるようだ。
それも含め、自分と『そっくり』だった。
「引くぞジャック!」
撤退を遂げたライトエルフの叫びに答えるように、黒い鎧は軽やかに跳ねてあっという間に姿を消した。
追おうとしたジャックであったが、ライトエルフの憎しみのこもった瞳に射すくめられて、その足は止まってしまった。
「愚かなニンゲンどもめ……トゥトアスの怒りを知るがいい……」
吐き捨てるように言って、ライトエルフは撤退した。
残されたジャックは、負傷した仲間の救出も追撃の準備にも移れず、ただ棒立ちでいるしかなかった。