アナスタシア、というよりも『東方山猫』ライアン家のパレードは、ライトエルフの襲撃という衝撃的な出来事で敢え無く中止となった。
「ンマー! アータシの晴れ舞台を台無しにするなんて許されなくってよ!」
「はい、アナスタシア様」
アナスタシア自身はぷりぷりと怒り、続行を主張したものの、未曾有の事態という事もあり、彼女の意向をもってしても挫折を余儀なくされるのだった。
無論、彼女は全く納得などしていない。
その後は、騎士団が現場に現れて、検分と被害状況の把握を開始した。戦争後、砦に続いて王国そのものにまで攻撃を加えられたとあって、騎士たちは緊張と不安を隠せなかった。
ジェラルドなどは『ヴォイド』の関与を疑い、騎士団に詰め寄ってひと悶着を起していた。
それだけ皆が、あの過酷な妖精との戦争の記憶をまだ薄れさせていないという所作である。
「よお、ジャック」
「よ、おっさん」
他の戦士らと一緒に、住民らを返す案内員を務めていたジャックらの元に、レナードが顔を出した。
「またまた大活躍だったそうじゃないか」
「ま、俺強いからね」
「わしはもっと強いぞ」
「なんだ? また見馴れない子を連れてるな。……まあいい、後で城に顔を出せよ
ラークス様がお呼びだ」
それだけ言って、レナードは他の騎士らへ指示を出すために戻っていった。
ジャックは気が重かった、黒い鎧が呼ばれていた『ジャック』という名、リドリーに似た少女、一体何が起こっているのだろうか?
「よっ、しけた顔してるわね」
ジャックの肩を、いつの間にやら現れてたフラウが叩いた。
「フラウ……って、おい、どうなってんだよ?」
「なにが?」
「なにが、じゃねーよ。『ヴォイド』はどこまで嚙んでんだよ」
「あー、オルトロス様が城に呼ばれたみたいよ? 言っとくけどね、あたしは何も知らないよ。今日は、あのオバハンの行列の邪魔するだけの予定だったんだから」
「本当か?」
「流石にさ、妖精の手引きまではやらないよ、ウチも」
末端はともかく、『ヴォイド』の頭オルトロスは損得勘定ができる男だ。
莫大な報酬を得たとしても、王国そのものを敵に増してしまっては組織の存続自体が危うくなる。国家の暗部に巣くう以上、宿主を失っては生きていけないのだ。
「ノクターンのジジイたちはさ、その準備してる時にエルフに襲われたってよ」
これは、アルマが駆け込んできた時のことだろう。
そういえば、彼を含め『ヴァレス』の面々は騎士団が到着した時点で煙のように消え去っていた。
「そういうこと、じゃーねー」
アナスタシアらがこちらへやって来るのを認めて、フラウは軽やかな身のこなしで逃走した。
彼女とアナスタシアの間には、浅からぬ因縁があったのだ。
「ちょっとアータ! どうしてくれるのよ!」
「なにが?」
「アータがしっかりしてないから、アータシのパレードが台無しじゃないの!」
「はい、アナスタシア様」
「エレナがそういうならそうね」
こと、アナスタシアのこととなると、エレナは頼りにならなかった。アディーナも(理由は違うが)同様だった。
「し、しかし大司教、ライトエルフの襲撃など予想できるものでは……」
「おだまりっ!」
「はいいい!」
「隊長……」
一蹴されてしまったジャーバスだが、これは彼にもアナスタシアに理があるとわかっていたのも一因である。
どんな理由があれ、一度受けた警備の任務を『テアトル』が失敗して、パレード中止という結果を招いたのは事実である。
その点で言えば、責任は免れない。莫大な違約金を課せられても、処罰を受けても仕方がない。
「……わかんねえ」
が、相手はジャックだった。
「はああ? アータ、そんなことで―」
「もー、色々ありすぎてわかんねえよ。今日はもう、吞もうぜ!」
多くの戦いと冒険、別れにより成長してはいるが、根本的にジャックは馬鹿で、能天気で根明な少年であった。
加えて、一度に多くのことが起こりすぎてしまって最早頭が働かない。
「隊長! ダニエル! ナルシェ! ……ってか副長もみんな、アナスタシアのおごりで
飲み明かそうぜ!」
「ちょっとアータ! 何を勝手に―」
「それじゃ早速しゅっぱーつ!」
アナスタシアを強引に引っ張り出し、ジャックは戸惑う周囲を無視して、一路『カンちゃん』へ歩きだしたのだった。