『カンちゃん』はまれに見る客入りとなった。
アナスタシアを連れたジャックがまず入って来て、すぐにエレナとアディーナが続き、『ヘクトン』が恐る恐るという様子で入店して来た。
「ジャックさん! あなたまだ未成年じゃ……」
「そうだっけ? ならジュースくれよジュース。ほら、お前らも座って座って」
「アータ! アータシをこんな汚い店に―」
「ああ⁉ 文句があるなら出て行きやがれ!」
「んまーっ! アータシに向かってなんて口の利き方!」
「いらっしゃい、団体様ね」
「う、うん、そうだよユーリちゃん!」
「ただ酒にありつけそうだぞ!」
「ナルシェ、お酒はハタチになってからよ」
「うん」
ほどなくして酒や料理、飲み物が配られた。
ぶつくさ文句を言っていたアナスタシアであったが、ラジアータ一と称されるギスケの酒と肴が気に入ったのか、本腰を入れて飲み始めた。
ドワイトら教団メンバー、ジェラルドら戦士たち、どこから聞きつけたのかユージンやポールと言ったただ酒目当ての輩も合流して、店内はすっかり賑やかになっていた。
「ハア……しかし、戦争となれば……ハア、また商売チャンスでもありますねえ」
「ムフフー、そうよ、アータシのパレードに泥を塗った分、妖精たちから取り返さなきゃね」
「がっぱり儲けませんとね」
聖職者の風上にも置けない連中が、神罰上等な商談を交わしている。
「戦争ともなりゃまた出動せねばならん、オメエたち、鍛錬しておけよ」
「はい、副長」
「はい」
「ふわあ~い……おーい、もう一杯~」
「すっかり出来上がってるわね」
戦士たちは疲れを癒しつつ、気たる戦争に向けて鋭気を養う。先刻の一件は一大事ながらも、それぞれに受け入れて次へ進むための足場とする。
たくましい人々であった。
「どこもかしこも戦争だな」
「そういうこと」
ジャックとナギサは、ジュース片手にその様子を少し離れた席から眺めていた。
両者の目に映るのは、同じ出来事でも受け取る内容は少々異なっている。
ナギサには初めて見る猥雑だが活気あふれた人々の姿として、ジャックには、かつて何度も目にした懐かしい日々の再現として。
がむしゃらに進んだ毎日だった、トゥトアスの理や龍の存在が意味するところ、そしてリドリーの行く末なだ思いもよらない……今思えば、あの頃が一番楽しかったかもしれない。
「ジャックさん!」
目を吊り上げたエレナが目の前に立ちはだかった。
「アナスタシア様を無理矢理こんな汚い店に連れて来て、どうしてくれるんですか」
「汚ねえたあ、なんだ!」
ギスケの怒鳴り声にやや押されながら、エレナはアナスタシアの従者としての責務を果たすべくジャックへの抗議を続行した。
「ナルシェも、悪い遊びを覚えたらどうするんです」
「……踊ろっか」
「え? きゃっ―」
言うが早く、ジャックはエレナの手を取ると踊り出した。
「ちょ、じゃ、ジャックさん、ちょっと!」
注目を浴び、はやし立てられてエレナは赤面した。アナスタシアが出席するようなダンスパーティーであればともかく、このようなところで、服もそのままで踊るのは初めてだ。
「ちょっと、エレナ姉さんに恥をかかせないで」
「アディーナも来いよ」
今度はアディーナの手を取り、ジャックは踊った。
それこそ、酒も飲まずに酔っていたのだろう。
その後、ナギサ、アリシア、なぜかダニエルと踊りの相手を変えて、最後にもう一度エレナと踊ってその場はお開きとなった。