翌朝、ジャックはいつものように『テアトル』へ顔を出した。
悩んでいても時間は過ぎる、ならば、悩みつつ何かしよう。と、ジャックは判断したのだった。
「お、来たな」
「っと、すげえな」
『テアトル』は人でごった返していた。
妖精たちによるパレードの襲撃を受け、恐怖が社会に蔓延していたのだ。
それまでは平気で行き来していた道でも、妖精の影がちらつく。警備依頼が引きも切らず、タナトスは依頼の対応でてんてこ舞いだった。
ジャックのとりなし(?)のお陰で、アナスタシアは違約金や責任問題の追及をしなかったが、警備担当中の事件ということで評判に水を差された感は否めない。
それを払しょくするため、各員は気合を入れて任務に励んでいる。
「ほれ、お前の分だ」
「うへえ……」
『龍殺し』、ジャックの名はその中でも絶大で、ライトエルフ撃退の立役者という噂が飛び交って、行商人から大貴族まで名指しの依頼が山のように舞い込んでいた。
「う~……頭痛え~」
「大丈夫ですか隊長?」
「飲み過ぎであろう」
「やっ! えい!」
「振りが大きいぞナルシェ」
ジャックが選んだのは、いつぞやのエキドナ門付近の建設現場の警備であった。
単純に、国からの依頼だったため依頼料が良かったためだが、ナギサを呼びに行った後、『ヘクトン』の面々がそれに便乗して来た。
現場に到着して、建設作業に勤しむ作業員の隣りで警備を始めた訳だが、そう頻繁に襲撃がある訳でもなく、ジャックたちは待機状態で時間を潰すこととなった。
「うあっ!」
「バランスを崩しちゃダメだ」
丁度いい機会だと、乞われてジャックはナルシェへ稽古をつけてやっていた。
「斧はカウンターを意識するんだよ、こっちから攻撃するには遅いし重いからな」
「う、うん!」
ナルシェに合わせ、斧『エンシェントエイジ』を構えてジャックはナルシェの攻めを受けて流す。
全く力を入れていないのに、的確に勢いを殺していなす。それも、両手ではなく片手で握ってのことだ。
重く、厚い斧を使っているのにそれを全く感じさせない。
「はあ……はあ……」
「うし、休憩すっか」
「ま、まだやれるよ……」
「休むのもトレーニングうちだぜ」
息を切らしてきたナルシェを案じたジャックだが、今度はナギサが目の前に立ちはだかった。
「勝負だ、ジャック!」
ナルシェとの稽古で、闘争心に火が付いたらしい。
そもそも彼女はジャックと決着をつけることが目的なのだ。
「……ま、いいけどさ」
ジャックは武器を『グラム』へ持ち替えてナギサと相対した。
「せいっ!」
ナギサの切り込みは見事なものだった、ナルシェは見とれ、ジャーバスでさえ二日酔いに苦しみつつ感嘆するほどだった。
シーザーの刀を使うアリシア、が二人の連想した姿だ。一撃一撃が鋭く重いのに、その動きは華麗の一言だった。体さばきも見事で、見習うべきところが多いと二人は戦士らしく注意深く見守っていた。
「……っぽ」
ダニエルは、華麗な部分にばかり目がいっていたが。
ほどなく、ジャーバスはナギサよりもジャックを注視するようになった。
(とんでもないヤツだ……)
『龍殺し』のすさまじい実力をまざまざと見せつけられた。
ナギサを全く寄せ付けず、余裕さえ感じさせる。大隊長を負かしただけのことはある、彼には『龍殺し』よりもそちらの方がよほど恐ろしかった。
(俺もまだまだだ……)
敗北感と共に、克己心も湧いてきた。
知らず知らずに、己が実力に見切りをつけていたジャーバスだったが、ジャックを前にして強さへの欲求がかま首をもたげて来ている。
一人の男の決意などいざ知らず、ジャックとナギサは結局警備が終わるまで切り合いを続け、ついに一回も肉薄させぬまま依頼を終えた。