政務の合間の小休止が、誇張なく秒刻みのスケジュールをこなしているラークスにとっては何よりの楽しみだった。
ジャスネ、ルシオン、政敵がそれぞれの理由で舞台から退き、ラジアータでの彼の権力は揺るぎないものになった。
宰相と大臣を兼任し、最早上司と呼べるのは国王のみ。その国王からも全幅の信頼を受けている彼は、政治権力の全てを有し、ラジアータを意のままにできる力を持っていた。
で、ありながら、腐敗や堕落とは彼は無縁であった。
清廉に、簡潔に、国家のために尽くし、国家のために働いていた。平民出でここまで昇り詰めただけありその才覚は申し分なく、敵対する勢力でさえ彼無くしてラジアータは立ちゆくまいと認めざるを得ない程だった。
ダイナス、クロスを失い弱体化した騎士団を、どうにか今の水準まで持ってこれたのも彼の手腕である。少しずつ、次世代の才は実りつつあった。
歴史上類を見ない、監視者を排除したこの新時代の『トゥトアス』を生きる者の一人として、去来する思いは一つではなかった。
「……」
香りの良い茶を含んでラークスは思案する。最高級品でなく、そこから2級ほど質を落としたものを、嗜好品に限っては彼は好んだ。
今最も関心があるのは、妖精との戦争、龍の復活、そして人間の少女。それらと縁深き青年、ジャック・ラッセル。
思えば、最初は彼ではなく彼の父、ケアン・ラッセルから授かったろう才にこそ興味があった。だから、騎士団セレクションでは大した結果を残せなかった彼を、騎士へと引き上げたのだ。
その後、紆余曲折を経て彼は騎士団を去り、『テアトル』で名を上げて、妖精との戦争では名だたる妖精たちを、花翁林を、そして龍を倒した。
「ケアン……ジャックさんを見たら、さぞ誇らしいでしょうね」
ラークスの見立てでは、親子でありながら、ケアンとジャックの『強さ』は大きく異なっていた。
一個人として破格の力を有し、ガウェインやエルウェンのようにカリスマで周囲を率いていたケアン。独力で『水龍』を倒したことからも、それは際立っていた。
快活な好漢であったが、それでもやはり周囲を畏怖させる空気をまとっていたように思える。
反面、ジャックは、無論その技量は彼らに劣らないものの、迫力という点では数段落ちる。戦闘以外では頭脳も冴えず、カリスマと言えるような雰囲気もない。
だが、その楽天的な性格故に周囲を和ませて壁を作らない。従えるのではなく、力を借りる。これは、彼らにはない才覚であった。
無論、ケアンらは妖精たちと親交を深めてはいたが、市井の人々との交流という点ではジャックに及ばない(騎士という立場の違いもあったが)。
さらに、ジャックは戦いに関して枠にとらわれなかった。
ケアン、ガウェインらが得意な武器を極限にまで研ぎ澄ませたのに対して、ジャックは何種類もの武器でそれを成した。アイテムも惜しみなく使い、勝つためならばあらゆる手段を試す。
「……」
だからこそ、ラークスは不安だった。
もし、ジャックが王国へ刃を向けたとしたら……。
個人的に見れば、ジャックがそうすることはほとんどあり得ないと断言出来た。
しかし、龍をことごとく亡ぼし、銀龍すら下した特異な存在だとすると―。
「ナツメです」
ラークスの懸想は、ノックとナツメの声で掻き消された。
どうやら休憩は終わりにしなければならない。
「入ってください」
ナツメを迎え入れ、ラークスは来る戦争に向けての演習を騎士団と打ち合わせた。