翌日、ジャックは『ヴァレス』の助教授ジルとクリストフから、薬草収集の護衛任務を受けた。
向かう先はエルフ地方、先日の一件もあったため、彼らだけでは心もとなかったのだ。
よりによってこんな時期にと、ジャック自身思わないでもなかったが、研究に必要だと熱弁するジルに押し切られ、依頼を受けてしまった。
薬学知識が豊富なサイネリアに同行を頼んで、一行はエルフ地方へと向かった。道中は不気味なくらいに平穏で、ライトエルフの襲撃など幻であったのではと錯覚してしまいそうな陽気だった。
「これこれ、これだよ」
「なるほど」
熱心に薬草を集めるジルとクリストフの横で、ジャックは周囲の警戒を怠らずにいたが、反対にサイネリアはのんきに弁当箱を広げていた。
「見てください、フローラちゃんのお料理練習に付き合ううちにこんなに上達しましたよ」
「フローラって料理苦手なんだっけ?」
「はい、でも、最近また熱心に練習してるんですよ」
その原因はジャックにある、と暗に含みを持たせたサイネリアだったが、朴念仁ジャックには当然通じない。
「ま、うまい飯が作れるのはいいよな」
「……ですよね」
その時だった。
「ウケケケケー」
「オレタチャゴブリントリオ」
「オイテケオイテケ」
「! お前ら……」
妖精が現れた。
が、エルフではなくグリーンゴブリン、それも、ジャックも良く知ったゴブ、イソップ、モンキの3匹だった。
自称、ゴブリントリオ。
騎士としての初任務、ドワーフの荷物護送の際、山羊を狙って襲い掛かって来た。
その間抜けっぷりのおかげで被害はなく、その後はトリオの解消を経てジャックの仲間となったこともあったが、戦争を契機に袂を別っていた。
戦争で死していなかったことに安心する反面、以前ののほほんとした雰囲気を失っている様子にジャックは心が重くなった。
「ジャック、ヤッパリ」
「アノマヌケヅラ」
「オマエハドウシテフタリイル?」
「何言ってやがる」
ジルたちを下がらせて臨戦態勢を取るジャックだったが、ゴブリンたちが気になることをしゃべっていたため、情報収集を試みることにした。
それに、3匹とも元々それほど脅威となる戦闘力は持っていない。精々手持ちのハエタタキを振り回すくらいだ。
「マアイイ」
「トゥトアスノチツジョヲ」
「トリモドスゾ」
やはり、妖精たちは何らかの意思の元再び戦いを仕掛けて来ている。
いたずらとぐうたらに人生を費やしているはずのグリーンゴブリンたちの言いように、ジャックは嵐を予感せざるを得なかった。
「やるってんなら容赦しないよ!」
「微力ながら助太刀します」
「治療は任せてください!」
ジル、クリストフ、サイネリアが参戦する。
4人でかかれば苦も無く倒せる相手であるはずだったが―
「ウケテミヨ、秘儀、ゴブリンビーム!」
ゴブリントリオは手を繋いで3人扇の体勢をとった。
3人の体が発光し、中心であるゴブに莫大なエネルギーが集中していく。
「⁉ やばい!」
ジャックは、咄嗟に3人を抱え上げて退避した。
紙一重の差で、それまで彼らが立っていた空間を強大なエネルギーが疾走する。
それは山肌に直撃すると大爆発を起こし、大きく岩盤をえぐり取っていた。
「ヨケラレタ」
「チャージマデジカンガカカルゾ」
「イチジテッタイダ」
ゴブリントリオは、ジャックらが無事なのを見るや、一目散に逃げだしていた。
ジャックは追わなかった、ジルたちがいたし、撤退がブラフである可能性もあったからだ。
直撃を受ければ、一撃でジャックは倒れていただろう。
「ボルティブレイク……」
『ゴブリンビーム』は、間違いなく『ボルティブレイク』だ。
強者にのみ許された一撃、それをゴブリンたちは3人がかりとはいえ放ち、その威力はエルウェンのそれをしのぐかもしれなかった。
妖精たちの間で何かが起こっている。
少女と『ジャック』によるものだろうか。
ますます、ジーニアスの見立てを聞きたくなった。