「あっちいのがなあ……」
「お水が切れそうです」
僧侶ギルドの面々は決して脆弱ではない。ミランダ、ビシャスは優秀なモンクであるし、フローラは言わずもがな、クライブも『奇蹟』を使うことができる。
ジャックは何度も任務で力になってもらっていた。
しかし、この環境は過酷に過ぎた。
熱気に加えて、ブラッドオーク、強力な炎を使うモンスター。それも、かつて訪れた時よりも大幅に強くなっている。
ナギサ、ヴァージニアはそれに引けを取らないものの、ミランダらは一戦するごとに傷を負うようになり、ジャックらの足手まといになると理解して後方からの補助に徹するようになっていたが、それも限界を迎えつつあった。
「だらしないぞ」
「ハングリーさが足りないよねえ」
「ああ⁉」
「喧嘩しないでビシャス……」
ジャックは内心で、アナスタシアらが王国へ残留してて良かったと思っていた。
もし、彼女らまで参加していたら(本人の性格的に在り得ないが)、ぎゃあぎゃあ文句を言ってエレナらも加わり、よりややこしいことになっていただろう。
「しゃーねえ、いったん戻るか……」
「む、おい、誰かいるぞ」
「先遣隊の騎士じゃない? 鎧着てるし」
そうであれば保護しようと足を向けたジャックだが、すぐさまに歩みは止まった。
「あいつは……!」
そこにいたのは黒鎧の男。
熱気をものともせず、悠然とこちらへと歩いて来ていた。
「ミランダたちは後ろに下がってろ! いいか、絶対に前に出るなよ!」
「⁉ ジャックさん……?」
「あ奴はこの前の?」
武器を構えるジャックとナギサの前で、更に信じられないことが起こった。
黒い鎧の男の周囲から渦が巻き起こり、彼を包むとどんどん巨大化していく。
「おいおい……」
「な、なんだべありゃあ?」
「これって……」
巨大化が止まると、黒い渦は次第に形をはっきりとさせていった。
浮かび上がる姿は……
「龍⁉」
火龍パーセクのそれだった。
逞しい四肢、巨大な翼、とさかを有した巨大な大あごを携えた頭部。
かつてジャックが滅ぼし、そして、それと知らぬうちに奇妙な親交を持った4龍がひとつ。
ただし、全身が黒一色に染まったそれは、かつての面影を失くし、影が具現化したかのような禍々しさを有していた。
前回以上の巨体に加え、体躯のあちこちが鋭角に、より攻撃的になっている。秩序の担い手であるはずの存在を否定するかのようであった。
「おっさん……じゃねえよな」
「ー‼」
彼にしかその真意がわからない呟きを呑み込み、ジャックは『火龍』と相対する。
迷いはあるが、仲間を前にして鈍ることはない。