「っへ、龍が相手なら上等だぜ!」
「ダメ! ビシャス!」
ミランダの制止を聞かず、ビシャスが『火龍』へと突進した。
発展途上ではあるが、文句としての彼女は非常に優秀で才能に溢れている。アキレス、ゴドウィンらの指導を受け、態度や宗教観に問題はあるものの、モンクマスターも狙えると自他ともに認めるところだ。
「うおら!」
『火龍』の懐に飛び込んで、前足へ拳を見舞う。スピードがあり、体重も乗ったキレのいい攻撃だった。
「っ⁉」
が、見事打ち込んだはずの彼女の顔には苦痛が浮んでいた。
龍の肉体は、呼吸する鋼鉄を思わせる強度であった。日々鍛錬で鍛えているはずの拳に痛みと熱が宿る。
「ー!」
一瞬怯んだビシャスへ、龍の爪が襲い掛かった。人一人は楽に、巨岩でも容易に抉り得るだろう威力を有している。
「ったくよ!」
救ったのはジャックだった。彼女を抱きかかえ、空間ごとなぎ倒すような、龍の灼熱の一撃を辛うじてかわす。
だが、次撃の尾を叩きつけられたのはかわせなかった。後方のクライブ、フローラまで一瞬態勢を崩すほどの余波をもった一撃を、ジャックは辛うじて斧で受けたものの衝撃までは殺し切れず溶岩帯へと吹き飛ばされていた。
そこからの動きは見事だった、『神槍パラダイム』を握ったまま岩壁に突き刺し、器用に回転して大地へ飛び戻る。身のこなしに自身のあるヴァージニアも、思わず口笛を吹くほどだった。
「ー‼」
着地とほぼ同時に、龍は黒炎を噴射した。
かつてダイナスを屠った灼熱が、大気を食い荒らしながらジャックらに迫る。まともに浴びていれば、灰すら残らなかったろう。
「うわっち!」
その暴威を、ジャックの剣圧が払った。黒炎は四散し、仲間たちは無傷であった。
「お、おい! もう離せよ!」
「っと、わかったわかったって」
暴れるビシャスに苦笑しつつ、ジャックは彼女を解放した。その顔が紅潮していた理由を、溶岩の熱気のためだとしか思わないのが彼の鈍感さだった。
「ミランダたちに見てもらえよ? それから、おっさんのところに戻って大隊長たちを呼んできてくれ」
「……っち、わかったよ」
相変わらずの口ぶりであったが、ビシャスは素直にジャックに従った。
一撃を加えたことで、龍と自身の間の果てしない力の差を否が応でもわかってしまったからだ。
「ジャックさん! すぐに戻って来ますから!」
「なるはやで頼むぜ!」
ミランダたちの撤退を援護しつつ、ジャックは叫んだ。
『龍』を前にして、微塵の油断も余裕もない。
ただ、生き残るため、そして仲間のために戦わねばならなかった。