『ヴォイド』を出たジャックが向かったのは、魔術ギルド『ヴァレス』であった。
ギルドと名付けられているものの、その実態は学園であり研究施設でもある、今日も今日とて、魔術と機械の研究が行われており、怪しげな音や煙が絶えなかった。最先端の設備に彩られたそこは、他のギルトとはまた一味違った風変わりな雰囲気を漂わせている。
「どもっす」
「あら! あなた……」
「ちょっとだけ邪魔するよ」
ジャックは受付のローシェヘ軽く手をあげると、図書室へ向かった。
以前よりもさらに多くの機械がひしめき合っている。それがなんだかジャックには懐かしく思えた、足繫く通っていた頃も、日に日にこの建物はその姿を変えていた。
授業中であったためか、幸いにも人通りは少なかった。それでも、途上でヨハンとデレクとすれ違い、しばし挨拶に時間を割かれた。二人とも、『ヴァレス』から忘れられたかのように昔のままだった。だが、それはローシェも同じだったかもしれない。
「お、ジーニアスじゃん」
「ジャック⁉」
「ジャックさん!」
図書室で目当てのレオナを見つけたジャックは、その兄ジーニアスとも意外な再会を果たした。後になればすべての始まりであり、ジャックにとっては悪夢の切欠、ジーニアスにとっては新世界への入り口であった、ブラッドオーク襲撃に連なる事件に二人は直面したのだ。
「今までどこに―」
「ん、色々、レオナ、これ、お前ならわかるんじゃないか?」
気色ばむジーニアスを置いて、ジャックはレオナに古めかしい本を手渡した。
ただ古いだけでなく、何かしらの妖気を漂わせているようだった。
「これは……」
「もらったり見つけたり。俺にはさっぱりわかんないからさ、頼むわ。
あ、危なかったらモルガンとかに見てもらってよ」
「おい!」
ジーニアスがジャックの肩を乱暴に掴んだ。
「聞いてるのかジャック! 今トゥトアスは―」
「今までにない世界になってるんだろ?」
その声はどこまでも能天気だった。在りし日の少年そのままに、明るく、とぼけて、拍子抜けするように。
だからこそ、兄妹はそこに途方もない悲しみを見い出した。
リンカとフラウには気づかれなかった哀しみだ。
「龍が全部眠っちゃって、ルシオン……銀龍も俺が倒しちゃったからな」
「お前……」
「いろんなとこにいってるとさ、いろんなことがわかるんだよ。俺なりに、さ」
ジャックは晴れやかに、一片の陰もない笑顔で二人へ挨拶した。
在りし日の少年が、そのままそこにいる。
「じゃ、またな」
そういって足早に立ち去るジャックを、ジーニアスもレオナも追うことができなかった。
二人が我に返ったのは、少しして衛兵が飛び込んできたジャックの行方を尋ねてからだった。