ブラッドオーク、そしてモンスターたちとの戦いの最中、ジャックらと『火龍』の戦いを垣間見ることの出来た者たちは、後々その戦いをこう語った。
今でも、夢物語としか思えない。
フェルナンド、ゴドウィンの二人は、軽やかな動きで『龍』へ徒手空拳を叩き込んでいた。
「どうにも硬いのう」
「まあ、良い鍛錬となるわ」
戦士たちと違い鎧をまとわぬ身、一撃が致命となる状況であっても、いささかの乱れもない。
剣すら立たなかった『龍』を、拳足で僅かずつであるが削り取っていく。
「パーセクは……もっと強かったですよ」
エルウェンはと言えば、『聖剣アヴクール』でのすさまじい剣速でもって『龍』を寄せ付けない。二人のモンクマスターとは逆に、剣であらゆる攻撃をいなし、その場からほとんど動かぬまま、圧倒していた。
そして、『龍殺し』のジャックは、丁度その3者を折衷したような立ち回りであった。
「こっちだこっち!」
「ー!」
素早い身のこなしと、エルウェンに劣らぬ剣技。それでいて、絶えず『龍』を翻弄し、アイテムを駆使して支援にも回っている。少年の持つ独特な雰囲気と動きによってそうは見えないが、戦線を維持する最重要の役目を担っていた。
「そりゃ!」
「‼」
「腹を見せたの」
『神槍パラダイム』が『龍』の目を貫く。
たまらず横転し、さらけ出した腹部へ二人の一撃が叩き込まれる。外皮でなく、内部へと衝撃が伝染する打撃だった。
「せやっ‼」
間髪を入れずに、エルウェンの一撃が前脚を薙いだ。
岩石でできた大木を思わせるそれが、切り離されて溶岩へと落下する。
「もらったあ!」
その傷も、すぐさまに回復していく。
だが、それよりも早く、ジャックは『エンシェントエイジ』を掲げて跳んでいた。
『銀龍』の鎧を身にまとい、その攻撃に気づいた『龍』が吹き上げる黒炎の道を斬り進む。鋼鉄であろうと瞬時に蒸発させるその炎獄を、ジャックはひたすらに降下していく。
「……らあっ‼」
その果て、『龍』頭部を経て斧刃と共に大地へ帰還したジャックの背後で、『火龍』の首は切断された。
「やっぱり……おっさんじゃねえよな」
『火龍』の肉体は幻の如く虚ろとなっていく。だが、かつてパーセクが消滅した時とは様相が異なっていた。
今、ジャックの手にオーブはない。正確には、オーブはあるがそれにはすでに四龍が封印されている。故に、この『龍』を封印することは叶わないはずなのだ。
だが、この『火龍』は虚ろとなりつつ、その黒い残り香をひとつの形へ収束させつつあった。
その姿は―
「! お前……!」
黒い鎧の男だ。
『龍』は滅するのではなく、黒い鎧の男へと……否、彼が『龍』へと変じていたかのようだ。
「……」
「あ! 待て!」
男は、ブラッドオークらと戦っているジェラルドたちへと突進した。それまで優勢に戦っていたが、背後からの思わぬ奇襲に陣形を崩され、態勢を立て直すために一旦集合をかける。
その隙を見逃さず、黒い鎧の男はブラッドオークたちをまとめて撤退した。
当然戦士たちは追撃をかけたが、地形を知り尽くし身体能力で勝るオーク達には追い付けず、断念せざるを得なかった。