『火龍』討伐による盛大な宴の終った翌日、ラジアータの人々は大別して二つに分けられた。
「う~、頭痛え~」
「くそったれ、説法なんかいってられっか、休みだ休み」
「むにゃむにゃ……セバスチャン……」
羽目を外し過ぎて日常に順応できないでいるものと、
「ゴードン、次の依頼はどこに行きゃいいんだ」
「おめえら、今日のヤマはでけえぞ。ぬかるんじゃねえ」
「人型ゴーレムに投資してくれそうな貴族がこんなに……ふふふ」
オンとオフを完ぺきに分けて、いつも通りの日常を送る者だ。
「そろそろ行くぞ」
「はあい、リンカ姉さま」
盗賊ギルドのリンカ、フラウのコンビは後者だった。
『火龍』討伐へ参加しなかったため宴には出席できなかったものの、代わりにノクターン経由で『手ごろな』貴族の情報が流れて来た。
後ろ暗いことで集めた金を貯め込んでいて、盗まれても出るところへ出ることができない。絶好の狙い目だ。
コテツをゴドウィンの青空教室へ送り出し、二人はその貴族の邸宅へ侵入せんと準備を進めていた。『偶然』この時間はその貴族が会議に出ている手はずである。
「もし、そこのお方」
だが、思いがけない障害が二人に襲い掛かろうとしていた。
声をかけてきたのは、黒衣に身を包んだ少女である。
宗教的な意匠を施されてはいるが、『オラシオン』のそれとは違う。第一、新体制派であろうと漆黒の衣装に身を包むことはないだろう。頭部のベールまで漆黒である。
唯一、覗いている顔はあどけなさの残るそれだった。フラウよりも、年下だと思われた。
端正な顔立ちで、柔和な笑みを浮かべている。
だが、その笑顔にはどこか歪みがあった。どこがどう、と説明はできないが、一皮むけば底なしの悪意が渦巻いている、とでも言った様だ。その瞳も、濁り切った漆黒であった。
見た目だけを言えば、何らおかしなところがない。
が、相対した者にだけわかるひりつくような空気をまとっていた。
「……なんだい?」
「ジャック様、ジャック・ラッセル様はどちらにいらっしゃるかご存知ありませんか?」
一瞬リンカとフラウの間で視線がかわされた。
「さあね、落ち着きのない奴だからね。家を張ってりゃ、いつかは戻るだろうから教えてやるよ」
「まあ、ご丁寧にありがとうございます」
リンカは少女へ地図を描いてやった。
丁寧な会釈と共に少女は去って行き、二人は『仕事』をこなすべく改めて歩み出した。
「いいのリンカ姉さま? どうみてもヤバい奴だよ」
「知り合いみたいだし、あとはあいつらの問題だ。それよりこっちの仕事に集中しな」
「はあい」
あっさりジャックの家を教えたのは、裏社会に身を置く二人のドライな感性も一因であった。
だが、それ以上に少女ともめたくない、というのが大きい。
大事な仕事の前だから、でもあるが、何かを間違えれば命が危いと思わせる禍々しさが少女にはあった。