少女はただ、歩いているだけであった。
リンカにもらった地図に従い、『狂気と狂信の小道』を進んでいく。
にもかかわらず、道行く人々や店員たちから注目を一身に集めていた。
ここは、『ヴァレス』の教授や生徒たちがよく行き来し、『ヴォイド』の者たちも姿をよく見せる。
モルガンやアドルフ、ディミトリといった強烈な恰好の人々はよく見かけるから、少女のそれも目立ちはするが、際立って奇妙とは言えない。
少女の持つ、空気と云うべきかオーラと云うべきか、その禍々しい雰囲気が否が応にも衆目を吸い寄せているのだ。
「ここを真っすぐでしょうか?」
「おうおう、嬢ちゃん」
そんな彼女へ、アルバが肩を揺らしながら絡みにいった。
『ヴォイド』の舎弟頭補佐、極め付きの凶相を持った彼は、どこからどう見ても裏社会の人間にしか見えない。姿を見れば女子供はもちろん、大の男でも黙って道を譲るような迫力があった。
短気で凶暴な男だが、損得勘定の出来る程度の頭はある。
ラジアータの暗部に生きる者として、『余所者』でありただならぬ雰囲気をまとっている少女のことは見過ごせなかった。
「一体全体どこへ行こうってんだ? おおっ?」
「ジャック様のおうちへ向かっております」
アルバは一瞬言葉を切った。
ジャックのことはよく知っている、彼が頭角を現してきたころに因縁をつけて返り討ちにあい、その結果として力を貸すようになった。
生意気でお調子者、能天気な子供というのが彼の持つジャックの印象であるが、決して嫌いな相手ではない。
「あのガキの知り合いか?」
「はい、以前お世話になりましてお礼をと」
ここで流して、そのままアルバは歩き去って行っても良かった。
だが、そう選択させなかったのは、少女に違和感を感じたからだった。同じ『ヴォイド』の連中や、『テアトル』の猛者たちならともかく、普通、自分と相対して平静でいられるわけがない。
「見ねえ顔だが、どっから来た?」
「南からです」
質問した側でありながら、アルバは返答に詰まった。
ラジアータからそう遠出したことのない彼には、彼女が南からやってきたと知ってもどう反応すればよいかわからなかったからだ。ニュクスやソナタは北の大地出身らしいが、聞けばわかるだろうか?
「あの」
「お?」
「もうよろしいでしょうか? ジャック様のお家へ参りたいのですが」
「お、おお……」
悲しいかな、これ以上引止めるための理由付けがアルバには思いつかなった。
いつものように腕力に訴えることも考えたが、相手は少女であるしジャックの知り合いであるならば、利よりも害が上回ると勘定できる。
間違いなく堅気の雰囲気ではないが、後はもっとこういったことが得意な、ヘルツやジェイドへ任せようと判断したのは悪くない考えだった。
「もういい、どこにでも行けっ」
「はい、それでは……」
「ちょっとアータたち、そこどきなさい」
だが、いつも不運はそこかしこに漂泊しているものである。
アルバを訪問したそれは、アナスタシアという姿をしていた。