黒衣の少女は、先ほどの一幕がまるでなかったかのように振る舞いつつジャックを求めて歩いていた。
『星と信仰の白街』へと差し掛かり、『剣と賢が紡ぎ出す小道』へ向えば目当ての人物の家へとたどり着くところまで来た。
しかし、ここにきて迷ってしまった。リンカの地図もそこまで詳細ではなく、ここには多数の伸びる道がある、初めて訪れた彼女が迷ってしまうのも無理はない。
周囲にはガレス&エドガー、ルル、サイネリアらの姿もあるが、少女の異様な雰囲気に無意識に接近を避けていた。
「どうされましたか?」
そんな彼女に声をかけたのは、ミランダであった。
奇しくも、という訳ではない、生来のお節介焼きの彼女は、『困っている』相手を見ると誰であろうと声がけをしてしまうのだ。
「はい、道に迷ってしまいまして」
「それはお困りでしょう、ご案内差し上げます。それで、どちらへ?」
「ジャック・ラッセル様の元です」
その名を聞いて、明らかにミランダの顔が引きつった。
「ジャックさん……にご用事ですか?」
「はい」
「えっと……どういった?」
『いつも』は、このように踏み入ったことを聞きはしない。各々の事情があるのだし、犯罪に関係するものであれば助力はない。
つまりこれは、彼女の『個人的』な欲求によって出た言葉だった。
「ジャック様には大変お世話になりました。その御礼をと」
「……なるほど」
彼女を知るものであれば、その声の冷たさに驚いただろう。
それでも、ミランダは精一杯の笑顔のままで、彼女をジャックの元へ案内しようとした。
「ジャックさんのお家はこちらです、すぐそこですから―」
「あそこです、アナスタシア様」
「みーつけたわよ~! こんガキャー!」
が、そこへ先ほどのアナスタシアたちが駈けつけてしまった。
しかも、『紫色山猫騎士団』の騎士を連れてだ。
「さ、アータたち! 捕まえて!」
「あの、アナスタシア様、何もしていないのに逮捕はできないんですよ」
「それに、まだ子供ですし」
「ムキー! アータたち! アータシに口答えする気⁉」
騎士たちは溜息をついて、仕方なしに少女へと迫っていった。
ライアン家当主の命令とあれば、一先ずしたがって見せるしかない。それでアナスタシアは満足するだろうから、あとは少し離れて少女に詫びて解放すればいいだろう。
「待って下さい、何をするんですか」
だが、それに異議を唱える者がいた。ミランダだ。
「申し訳ございません、少しだけお付き合いを……」
「いけませんよ、いくら大司祭様の言いつけでも、無理やり逮捕するなんて」
「アナタ! アナスタシア様に楯突くつもりなの⁉」
そこにエレナが噛みついて、事態はますます混迷していった。
「……落着け」
「まずは大司祭の話を聞こうじゃないか。どうして彼女を逮捕しようと?」
流石に、ガレスとアルドーが割って入った。とはいえ、あくまで戦士ギルドの一戦士であり、ラジアータ有数の大貴族にして『オラシオン』の実力者たる彼女へ手を上げることは出来ない。
「もういい! いいから来なさい!」
業を煮やした騎士が強引に少女の腕を掴んだ。ひとまずここを仕切り直そうとしたのだった。
「止めてください!」
「いい加減にしないと君も―」
騎士が飛んでいた。
否、殴り飛ばされていた。民家の壁に激突したそれは、鎧がへしゃげて微動だにしない。
「仕方ありませんね……」
少女はそう言って首を鳴らした後、静かに微笑んだ。