レレ・C・ロスからの『お説教』からようやく解放されたジャックは、片付けに明け暮れる『ヴァレス』の面々の片づけを少し手伝ったあと、ホリィを伴って出立した。
「あらら~ん、あんさん見つけちゃったわあん」
妙に悪寒のする声色に聞き覚えがあった。
ジャックがふり返ってみると、違わずそこにはピーキィがいた。
人目をひくアフロヘア、やや鋭角の男らしい顔立ち、そしてそれらを全て吹き飛ばすオネェ言葉。『ヴォイド』の幹部の一人である。
「オルトロスの旦那が呼んでるわよ~ん、探したんだからあ」
「あ~……、後でいい?」
「だめよ、あんさん。旦那が呼んでるんだからあん」
口調も声色もなんら変化はないが、有無を言わせない圧があった。
『ヴォイド』のメンバーの中では比較的温和な彼(彼女?)だが、そこは見誤らない。
「それにねえん、あんさんのためになる情報もあるってよ」
「はあ……わかったよ」
こうした件で、オルトロスに無駄足を踏まされたことはなかった。
決して尊敬や好意を寄せる相手ではないが、『信用』はできるのが『ヴォイド』の若頭なのだ。
奈落獣を抜け、『ヴォイド』の事務所に通されたジャックたちは、呼び出された立場であるというのにしばし待たされた。
「神は全てに慈愛を授けてくださいます」
「んあ~? 肉をくれるのかあ?」
「うっす、悪の神様にしっかり毎日祈ってるっすよ」
「信仰を持つのは良い事です」
ボディガード役のジョケルとアルマ相手に説法するホリィを横目に、ジャックはオルトロスから呼び出された理由と『情報』へと思いを馳せた。恐らくは―
「お待たせいたしました」
「やっほー」
オルトロスと、ヴァージニアも一緒だった。気品と威厳にあふれたその姿は、物々しい義眼を除けば大物政治家か財界人にも見える。
「お呼び出てしながら申し訳ございませぬ」
「いいよ」
正直、この『遅刻』が本物か、この場の主導権を握るための『手法』の一部かジャックには判別がつかない。ならば、下手に追求しないに限る。
「さて、ジャック様。ホリィ様の件で少々面倒なことになっておりますな」
「あら、私のお名前を御存じで?」
「よ~く知ってるよ、『鉄腕の聖女』さん」
ジャックは苦虫を嚙み潰したようだった。やはり、今朝の襲撃の件だ。
「お城の高貴な方々はもちろん、私どもも困惑しておりまして。ジャック様のお知り合いとは」
老人は暗にこう言っている、『仕事を邪魔された』と。
あの襲撃者たちは、『高貴な方』に依頼されて彼が手配した者たちであろう。
つまり、『ヴォイドの法』によれば、ジャックは折角の『仕事』を邪魔したことになる。
こと『ラジアータ』の裏社会では、表よりも裏の法が尊ばれるのだ。
「だって、放ってもおけないし……俺も殺そうとしたし」
「私どもこそ陳謝せねばなりません、『オラシオン教団』のお膝元で無法者を暴れさせ、ジャック様とご友人に襲い掛かるなどと……手抜かりでございます。ですがご安心を、以降、決してこのようなことはさせませぬ」
オルトロスの言葉を額面通りに受け取ってはいけない。
その裏には老獪で海千山千の裏社会の大物らしい『真意』が隠されている。
かつてはそれに気づかず、『やけに丁寧なおっさん』程度にしか彼を理解していなかったジャックは、その頃が無性に懐かしくなった。