オルトロスの『真意』は、要するに襲撃者撃退で生じた損失の埋め合わせの要求であった。
襲撃者と言っても湧いて出るわけではない、『ヴォイド』で声をかけ、情報を与え、実行を任せる。
それが成功しようと失敗に終わろうと、得られる損得は『ヴォイド』に降りかかる。今回の損は金銭的にはそれほど大きくはなかった、前払いの代金と装備や道具の経費、雀の涙といっていい。
が、それ以外の損失は無視できなかった。今回の依頼者は新規の客であり、うまく運べば今後も何かと利がある相手であったし、懇意にしているラジアータ上層部の派閥の一員だったから、より覚えがめでたくなるというものだ。
だが、結果は言うまでもない。
それはそれとして活かすオルトロスであるが、方々へ、その分の『落とし前』は取らねばならなかった。
「う~……」
「大丈夫ですかジャック様?」
「こっち」
今、ジャック、ホリィ、リーリエの3人は、『蜘蛛の道』を進んでいた。
『蜘蛛の道』、ラジアータの地下、迷路のように張り巡らされた下水道である。
悪臭と汚水に溢れ、モンスターらも生息しているとあって、出入りする人々はほとんどいない。
が、だからこそ好都合とする者も存在する。密会場所として、隠れ家として、あるいは非合法な物の運搬通路として、多くは『ヴォイド』の関係者である。彼らにとっては庭と等しく、ラジアータ地下に別種の世界が存在していたのだった。
さて、そんな地下道に近頃悩みの種ができた。急増したモンスターたちである。一説には『龍』の出現からその数を一気に増したとも言われているが、ともかく、その数は『仕事』に支障をきたすに十分すぎるほどだった。
とすれば、当然の流れとして駆除を選ばねばならない。そこで問題となるのは、『誰に』駆除を願うかであった。最も手近なのは『テアトル』であるが、ジェラルドとノクターンは因縁の中であり、『余計な物』を見つけられても面倒だ。『ヴァレス』『オラシオン』が論外で、騎士団に頼めるならそもそも苦労はしない。
となると、身内でどうにかするしかなかった。しかし、悲しいことに『ヴァレス』は裏方、非合法活動が主であり、戦力という点ではやや心もとない。
オルトロス、ノクターン、イリス、ソナタと、凄腕のものは揃っているがいずれも上級幹部であって、些事に動かせない。
かといって、アルバやヘルツ、ピーキィでは腕に不安があり、それ以下となっては心もとない。臨時雇いを募るにしても、腕に自信のある者は中々集まらないものだ。
そこで、ジャックだった。『テアトル』所属だが、ある程度裏のことに理解がある(物事を深く考えていないともいう)、腕は申し分なく、人格もまあ及第点。かつ、『ヴォイド』への借りがある。
「うえ~」
「足もとが滑りますね」
余計な娘が付いているが、彼が大丈夫というからには心配はないだろう。
かくして、やや非合法めいた依頼が、ジャックに課せられたのだった。