ラジアータストーリーズ 龍の目覚め   作:ニシムラタカハシ

68 / 158
チーム・アハト⑧

 『蜘蛛の道』には、元々へドロポンやリトルオイリー、グンタイネズミなど、あまり清潔でないモンスターが多かった。

 

 それが爆発的に増殖する、ということは、すなわち―

 

「おえええ~」

 

「ちょ、ちょっと匂いが……」

 

「……ウプッ」

 

 駆除する側は、すさまじい臭気に苛まれることになる。

 

 いずれも、それほど手ごわい相手ではない。しかし、その数と臭いには閉口させられる。

 

 ジャック、ホリィ、そして感情の起伏に乏しいリーリエですら、悪臭にグロッキー寸前であった。

 

 それでも、流石と云うべきか3人の働きでモンスターたちは目に見えて減っていき、どうにか平静を取り戻したように見えた。

 

「い、一旦外出ようぜ……」

 

「賛成ですわ……」

 

「……ウエッ」

 

 そして、それがこの3人をもってしても限界だった。意見が完全一致した彼らは、出口を目指して重い脚を引きずっていった。

吐き気に加えて頭痛がしてきている。

 

「う~……」

 

 朦朧とする意識の中、ジャックは地下道に隠れるように存在する、『納骨堂』と『壁画』を思い出していた。

 

 古の英雄・アルフレッドが眠る『納骨堂』。ラジアータ最強の剣士エルウェン、そして『トリトン』隊長アリシアが、深くその英雄と関りがあることは知っていた。

 

 エルウェンは彼の姿をジャックに見出し、アリシアは血と決着をつけるべく戦い、そして敗れ力を貸すと誓った。

 

 『壁画』は、かつてジーニアスに見せられた、『ラジアータ』の歴史だ。

 

 今や下水道の隠し部屋にひっそりとたたずんでおり、その存在を知る者もごく一部。ラークスの命を受け『騎士団』が管理に乗り出し、解析を進めていた。

 

 大地 産声を上げしとき 一対の眼 生まれる

 眼 平衡を護り 交互に大地を照らす

 

 定まる大地 繁る森 根ざす塔

 四の光り 現れ 大地を照らす光 堅固となる

 

 終焉の日 塔高まり 歪む大地 翳る森

 塔の頂 天を突くとき 龍 現れこれを崩す

 

 一言一句、ジャックが憶えているわけではない。

 

 だが、その大まかなところはジーニアスに解説されていた。

 

人間の歴史は、その隆盛と同時に終焉へ向かっていく。文明が過渡を迎えて大地を蝕むとき、金龍あるいは銀龍によって滅ぼされる。

 

ジャックには、いや、人であれば受け入れがたい『定め』であった。

 

しかし、その『定め』もジャックにより砕かれ、新時代を迎えている。誰にも予測できない新たなる―

 

「ジャック様?」

 

「うおっ? ど、どした?」

 

「先ほどから難しいお顔をされていますが、どうかなさいました?」

 

「あ~……なんでもない」

 

 ジーニアスに会いたいが、彼はまだ戻らない。彼ならば、鎧の男や黒い『龍』たち、そして、少女のこともわかるだろうか?

 

「……」

 

「? リーリエ?」

 

「なにか、いる」

 

 正体を待つまでもなかった。下水から、ヘドロダイルが飛び出してきた。

 

 ヘドロで出来た巨大な体を持った、ワニのモンスター。この付近の生態系の頂点に立つ存在だ。

 

「……」

 

 リーリエの腕をもってすれば、勝てない相手ではない。きっちりと相手を視認し、しかも構えてもいる。

 

 だがー

 

「―‼」

 

「⁉」

 

 『二体目』がいることまでは読めなかった。一瞬の迷いが彼女を硬直させ、交互から迫る巨体が彼女を潰さんと襲い掛かる。 

 

「リーリエ!」

 

 それを救ったのはやはりジャックだった。彼女を抱きかかえつつ、ヘドロダイルの一体を両断する。

 

 しかし、もう一体は間に合わない―

 

「んあ~」

 

 閃光。

 

 ヘドロダイルの巨体が大きく揺らぎ、すかさずそこを蹴りつけたホリィによって、モンスターは下水へと帰宅する羽目になった。

 

「間に合ったなあ」

 

「トニー!」

 

 ラジアータ三大奇人の一人、『下水道のヌシ』トニーだ。その名の通りに下水道に暮らすとぼけた男だが、過去には騎士団に所属していた凄腕の戦士とも言われている。

 

 彼も、ジャックとは顔見知りの間柄だ。

 

「騒がしいんで見に来たんだあ」

 

「助かったぜ……っと、リーリエ、大丈夫か?」

 

「重い」

 

「うおっ」

 

 リーリエは、ジャックを乱暴に押しのけて立ち上がった。

 

「ちぇっ、お礼もなしかよ」

 

 ぶつくさ呟くジャックであったが、それが赤らんだ顔を彼から隠すためという、彼女の意に気づくことはなかった。

 

「……」

 

 ホリィは気づいたようで、心なしか微笑がひきつって見えた。

「おまあらのおかげで、暮らしやすくなるなあ」

 

「ま、仕事だよ」

 

「最近は、『騎士団』や『ヴァレス』の連中がよう出入りしとるなあ、あの壁画に何かあるんかあ?」

 

「! 壁画のこと知ってんの?」

 

「見たことあるなあ、おっかねえよなあ」

 

 このトニー、見かけによらず中々情報通である。下水を流れて来る新聞や雑誌から、世間のことを頭に入れる。

 

「『ヴァレス』……」

 

 連想されるのはジーニアス、あの壁画から、まだ何か得られる情報があるのだろうか? 果たして……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。