『蜘蛛の道』での任務を終え、リーリエと別れたジャックたちはすぐさま『テアトル』のシャワールームに直行した。
念入りに3回は体を洗い、出てきたところでデニスに遭遇し、まだ臭いと指摘され、さらに2回体を洗った。
ホリィと別れて帰宅すると、エアデールにも臭うと言われ、ジャックは泣く泣く6回目のシャワーを浴びる羽目となった。
「一体どこでなにをしてたの?」
「仕事だってば」
ようやく帰宅(ジャックの家だが)を許されたかと思えば、今度は姉に連れ出された。折角だし、外食をしようと言うのだ。
「ジャック、悪い事してないでしょうね? 父さんが知ったら泣くわよ」
「してねえって!」
姉と話すと9割方はお説教をされている気がする、せめて外ではやめて欲しいと思っているのだが、母親代わりの彼女に逆らえるわけもない。
「それで、おいしいお店くらいは知ってるんでしょうね?」
「う~ん……」
『ビギン食堂』が真っ先に思い浮かんだが、『テアトル』の顔見知りに会うと色々と面倒だ。絶対にからかわれる。
『クラブ・ヴァンパイア』のダン……、駄目だ、あんなところに連れて行ったら入り口の時点で血相を変えるに決まっている。
『カンちゃん』……『ビギン食堂』と同じ理由で却下。
ラジアータ城の食堂、『ヴァレス』食堂はどちらも、店ではない。
参った、早くもジャックは万策尽きてしまっていた。
「むむっ、そこを行くは―」
「ジャックさん、今晩は」
「……」
通りがかったのは、お馴染みスターたちであった。
「そちらの令嬢はどなたかな?」
「はじめまして、セバスチャンと申します」
「……同じく、マーク・Ⅱです」
「あ、はじめまして。ジャックの姉の、エアデールです」
若干引きつりながらエアデールは挨拶を返した。スターはともかく、セバスチャンとマーク・Ⅱは故郷では見馴れないゴーレムであったからだ。
「なにっ、貴様に姉君がいたというのか!」
「ジャックさんには常々お世話になってます」
「……」
「い、いえ、こちらこそ……」
「うん、じゃあ―」
「待て待てえい!」
ジャックは内心で舌打ちした、呼び止めるということは何か良くないことに巻き込まれるのだ。
「貴様らは運が良い! 吾輩のディナーに招待する!」
「……はい?」
事態は意外な方向に転がり出した。
「どうかなお味は?」
「え、ええ、とってもおいしいです……」
所は『テアトル』のスター隊の一室(と勝手にスターが呼んでる)、そこにジャックたちはいた。
要は空き部屋であるから、中は簡素で広くもない。
だが、そこに並んでいるのは、不釣り合いなほどに豪勢な料理の数々だった。ジャックですら、これほどのものは先日の城での慰労会でしか見たことがない。
「遠慮なく食べるがいい」
「ど、どうも……」
「おい、どうしたんだこれ?」
「シュテルン家からの差し入れです」
「スターの実家?」
「スター様はとかくお食事に不自由しておりまして……見かねたお父様が時々こうやって」
「理解不能ですね」
「スター様には内緒にしといてくださいね、ファンの方からの差し入れと言うことになっているんです」
「わかったよ……」
何とも奇妙な晩餐であった。
「このラジアンエビのムニエルはまさに絶品である!」
「は、はい、とってもおいしいです」
ジャックには、気圧されているエアデールが珍しく映った。彼女は基本的におしとやかで柔和な性格をしているが、弟に対しては早くに両親を亡くしたため厳しく接しており、それがジャックには普段の姿として映っていたのだ。
ともあれ、奇妙な晩餐は緩やかに進んでいたのだが―
「ジャックさんはこちらに?」
飛び込んできたゴードンにより終わりを告げられた。