太陽へと続く小道、ヴァンクール広場を通ってジャックは戦士ギルド『テアトル・ヴァンクール』へと歩を進めていた。
ゴミ捨て場を漁るゼラニウムやニットら子供たち、かつてアルガンダーズに冒されたシーラといった面々とすれ違うが、フードを目深にかぶっていたためか気づかれることはなかった。
皆、変わらないようでいて時を重ねた結果が表に現れている、出会う人々が自分に驚いていた気持ちが、少しわかった気がした。
太陽と栄光の黄街にある居酒屋『カンちゃん』、『ビギン食堂』を通り過ぎて、ジャックはテアトルの受付へ足を踏み入れた。
「おっ」
「おっす」
出迎えたのは予想通り、受付のタナトスであった。記憶の中の姿勢のまま、気だるげに座ってジャックを見据えていた。
「なんだなんだ、どの面下げて帰って来やがった」
「うるさいなあ、たまたま寄っただけだよ」
タナトスに限らず、戦士ギルドの多くのはぶっきらぼうで乱暴な言葉遣いをする。それがなんだか懐かしくなり、思わずジャックは軽口を叩いていた。
「依頼がたまってんぞ、ちゃっちゃと片付けてくれ」
「その前に……大隊長はいる?」
「おう、しっかり挨拶してこい。ったく、急に消えやがって」
話は終わりだと言わんばかりに手を振る彼に舌を出して、ジャックは大隊長の部屋を目指した。時が戻ったような感覚に安らぎを感じ、直後すぐさまに自戒した。
絶対に戻らぬものがある。それを思い出すから、ラジアータを去ったのだ。
任務に出ているのか不在なのか、誰にも合わずにジャックは大隊長室のドアの前に立った。
「開いています」
ノックする前に、部屋の中から凛とした声が返ってきた。初めてここを訪れた時も、同じことがあった。まるで昨日のことのように思えるそれをかみしめながら、ジャックは部屋へと入った。
「お久しぶりですね」
「どうもっす、大隊長」
「テアトル・ヴァンクール」の大隊長、ラジアータ最強の剣士と称されるエルウェンがそこにいた。鎧に身を包んだ姿は威厳に満ち、かつてのままだ。
「あのー」
「まず、大隊長として注意しておきます」
「え?」
「あなたはすでに隊を預かる隊長の身分にあります、それを一言もなく放棄したことは許されることではありません。多くの依頼者、またあなたに力を貸して下さっていた方たちへ礼を欠いています」
「あ……すいません」
早々に説教を聞かされ、ジャックは出鼻をくじかれてしまった。
「テアトル所属の戦士としてあるまじき行為です。しっかりと、そのことを身に刻んでおきなさい」
「はい」
「……そして、よく戻ってきましたね。ジャック」
「……すいませんでした」
エルウェンはいわゆる『普通の』人間ではなかった。長い時を生き、龍や妖精とも面識を持っていた。古の勇者アルフレッドの従者であった時期もあり、妖精との大戦争について深いところの事情も知っていたのだった。
「迷いは晴れましたか?」
「……いえ、まだっすね」
「そうでしょう、もしかすれば最後までつき合わねばならない迷いです。向き合い、時には背を向けて、抱えていきなさい」
「そうするっす」
「それから、罰としてしばらく『アハト』として活動することを命じます」
「え~?」
「あなたあての任務がたくさん来ていますからね、それに、少し休憩が必要なようにも見受けられます」
「……うっす」
正直に言えば、拒否したかった。ラジアータには思い出が多すぎたし、エルウェンの言う『迷い』を払うために旅を続けたかった。
だが、組織人としての心構えを説かれ、それにぐうの音もでないとなると、無視するだけの厚顔さもジャックにはなかった。
「家はそのままにしてあります。それと、ジャーバス、ダニエル、ナルシェは今『ヘクトン』で待機してるはずです、会いに行きなさい」
「わかりました」
何もかもをお見通しのようだった。ジャックは頭を下げて、隊長室を後にした。力を貸す条件として彼女と立ち合い、勝利して共に戦ったが、未だ彼女には敵わないと改めて実感するようだった。
ジャックを送った後、エルウェンは窓からラジアータ城をみやった。
城はいつもと変わらずにそびえているように見える。だが、その内部で最近慌しい動きがあるとの報告が出ていた。
「また、動き出すようですね。ジャック、あなたも……」