ジャックとヴァージニア(+スター隊)は、『風虫の谷』を目指して進軍を開始した。
「妖精どもを薙ぎ払え!」
「ニンゲンは出てけ!」
途上、騎士たちとエルフ、妖精らの激闘が繰り広げられていた。
ジャックらはそれを回避し、『風龍』の元へ急がねばならかったが、その凄惨な光景は見ているだけでも堪えた。
「シャトが怪我した!」
「ミカエルを呼んで!」
ことに、その中に顔見知りが何人もいるとあっては。ダークエルフの面々に、ドワーフ、ゴブリンらの姿もあった。いずれも、かつてはともに笑い合い冒険をしたこともある者たちだ。
戦争で全ては一変し―
「ジャック君、平気かい?」
「! ……ああ、悪いボーっとしてた」
珍しく、ヴァージニアがジャックを覗き込んできた。余ほど考え込んでいたように見えたのだろう。
「悪いけどね、『龍』の前には立てないよ。命が惜しいからね」
「わかってるよ」
それも含めての、『ヴォイド』の貢献だろう。
まだ脱落していないスター隊を伴って、ジャックたちは進んだ。
『風虫の谷』は、摩訶不思議な場所だった。
切り立った大地が点在し、そこを繋ぐのはトーテムポールであある。これを刺激すると突風が吹き、別の台地へと移動することができる。
あまりにも無茶苦茶な仕組みである。それもそのはず、これは後付けの仕様であったからだ。
かの地は、風龍セファイドが住まう聖地とされている。エルフの守護者たる龍を敬し、ライトエルフたちは参詣を忘れなかった。
その後、ダークエルフが誕生すると、当然彼らも参詣を望んだが、翼を有さない彼らには叶わぬ願いだ。
そこで、当時はライトエルフの族長であったノゲイラがドワーフへと依頼し、トーテムポールを設置した。ダークエルフたちは歓喜し、その縁が基でノゲイラは弟のザインへ地位を譲り、ダークエルフの長へとなったのだった。
戦争の際、セファイドを討伐せんとした騎士たちが、多大な被害を出したのも、こうした地の利がエルフらにあったのも一因である。
戦後処理を終えたラークスは、公式文書にこう記している。
「彼の地での戦闘は自死に等しい」
しかし、今また、『龍殺し』は立たねばならなかった。
「ジーニアス!」
「ジャ、ジャックか⁉ 助けてくれ‼」
まともに目も空けてられないほどの暴風が吹き荒れる谷で、ジーニアスは満身創痍ながら生き残っていた。
「待ってろよ!」
「スター隊とつげーぬおおっ!」
「スター様!」
「これが『龍』……」
『風虫の谷』は、夜の如き漆黒の風に支配されていた。
その風の根源は『風龍セファイド』。かつてジャックが相対し、
打破した姿そのままで鎮座している。雲をまとった巨人の姿の前では、ジーニアスが虫に見える。
そして、やはりその巨躯は黒く染まっていた。