誰であろうジャックが、見まごうはずがない。
最高の鎧の一つである『ヴァリアントメイル』に身を包んだ、長い金髪を携えた少女。
かつて、その髪はツインテールにまとめられていた。
「リドリー‼」
咽喉が枯れんばかりにジャックは叫んだ。
『リドリー』はじっとジャックを見つめると、無言で周囲のダークエルフを手招きした。
「おい! リドリー! お前なんだろ⁉」
『彼女』には、なんの表情も浮かんでいなかった。出会ったばかりの頃の、背伸びした険しいそれも、『霊継ぎ』の後の、憂いを含んだ顔も。
全くの無だ。
「リドリー‼」
ジャックは今にも飛び掛からんばかりだった。トーテムポールを使わず、台地へ飛び移ろうとしさせした。
「リドー」
そんな『彼女』のそばに、黒い鎧の男がふわりと降り立った。奈落の底から飛び上ったのか、ともかく、消えたはずのそれは『リドリー』の傍に佇んだ。
「……」
そして、兜に手をかけ―
「⁉」
素顔を露にした。
「⁉ ……⁉⁉」
ジャックを更なる混乱が襲った。
兜の下にあったのは、龍でも妖精でもない。
ジャックとうり二つの顔だった。
「……」
『リドリー』が手をかざすと、彼女と周囲が光りに包まれ、程なく消え去った。魔法による瞬間移動だろうか?
ジャックはと言えば、混乱の極致にあって動けずにいた。『リドリー』らを追うでもなく、ジーニアスたちを助けるでもなく、ただ立ち尽くしていた。
『リドリー』、そして自身とうり二つの存在、ダークエルフたちの問いかけ、ほとんど彼はパンク寸前だった。
「……」
ジャックがようやく動いたのは、結局『リドリー』を追おうと決めたからだった。ダークエルフと共にいたなら、『緑森京』に行けば何かわかるかもしれない。
無論、敵である自分がいけば拒絶させるだろうが、押し通ってでも『彼女』について聞き出す。
ほとんど無意識に、ジャックは『風虫の谷』の入り口まで戻ってきた。
その前に、ヴァージニアが立ちはだかる。
「ジャック君?」
「ああ、うん、『風龍』は倒したから……」
上の空で答えて行こうとしたジャックを、ヴァージニアが引止める。
「待って」
「お前のおかげでここまで来れたよ、ラークスさんにも伝えるからさ。……じゃ」
「待ってって」
「なんだよ⁉」
悲鳴に似た叫びをジャックは上げていた。今は一秒でも早く、『リドリー』について知らねばならないのだ。
「あの眼鏡の学者さん……それから、『テアトル』のお仲間は?」
「ああ、お前から騎士団に助―って!」
脛を蹴られてジャックは呻いた。
ヴァージニアが、見たこともないほど冷徹な視線で見据えて来る。
「放っておくのかい? 一緒に戦ってくれた仲間を」
ようやく、ジャックは我に返った。ジーニアスは勿論、スターたちも満身創痍のはずだった。
「僕は別にそれでもいいけどさ」
「……悪かった、サンキュ」
ジャックは深呼吸をひとつ、彼らの元へ舞い戻った。ジーニアスを抱きかかえ、マーク・Ⅱにスターとセバスチャンを背負わせて、改めて入口へと立つ。
「砦に戻ろう、案内頼む」
「そこまでが仕事だからね」
ヴァージニアはいつもの調子に戻っていた。
もし、彼女を知る者がいたら、この光景を夢か幻かと疑うだろう。
仲間を置き去りにすることを咎める。それを、『白狼』が『本心』から行っているのだ。