砦に戻ったジャックは、『風龍』討伐の報告と、ジーニアスらの治療を騎士たちの手に任せた。
「よお、ジャック」
ややあって、レナードらが到着すると、それまで混乱の中にあった砦が秩序を取戻した。親父ギャグ好きのおっさん呼ばわりされる彼だったが、ナツメの後任を任されるに足る実力を備えているのだ。
「団長殿、ダークエルフらは『緑森京』へと退却しました」
「『風龍』をジャックが討ったからだろうな」
「このまま、追撃して一気に……」
「待て待て、こっちも被害が大きい、よしんば『緑森京』を落とせても、他の妖精と『龍』にそこを襲われたらひとたまりもないぞ」
「そんな弱気では勝てるものも勝てません!」
「こちらには『龍殺し』のジャック・ラッセルがいます!」
血気盛んな一部の騎士たちが異を唱える。『風龍』を下して勢いに乗っていると同時に、騎士たちの間でもジャックの実力が確固たるものとして認められている証でもあった。
「だとよジャック?」
「え~、おっさん、俺疲れたし帰りたいんだけど」
「僕も」
拍子抜けするような答えがジャックから返って来て、ヴァージニアも便乗した。
決して、ジャックはふざけているわけではない。『風龍』との戦い、そして『リドリー』との一連の遭遇でだいぶ消耗している。素直に休みたかった。
「私たちもいったん帰らせてもらうよ、拘束時間が長すぎるわ。ここまでの報酬をいただくわよ」
「オラ! しっかり金払えやゴラッ」
「なんだと!」
「王国の一大事に貴様!」
「待て待て、ここはワガハイに任すがいい」
ひと悶着あったものの、結局ジャックが乗り気でないというのが大きく、『緑森京』攻撃は先送りとなった。
現状を維持しつつ、偵察と負傷者の救助に専念。ラークスに指示を仰ぐ、というのがレナードの方針だ。
ジャックたちと『ヴォイド』の面々は、ジーニアスを始めとした負傷者たちを伴い、王国へと帰国する。
当人が抱く思いとは裏腹に、『風龍』を倒した『龍殺し』と、その協力者として。
「ジャック~‼」
「元隊長として鼻が高いぞ! あ、我々は『テアトル』の『チーム・ヘクトン』です! 大小どんな依頼も受けます! 『龍殺し』もいた『ヘクトン』です!」
「お兄ちゃん!」
『火龍』討伐の時と劣らぬ大歓待が、ジャックたちを出迎えた。
フォコン門にさしかかった時点で、負傷者らとは別に、一行は用意された輿に乗せられ、そこからは歩く必要がなかった。
夜と欲望の黒街は人々でごった返し、『ヴォイド』の面々の屋台が並んで動きが取れない程だった。
「うおおおー! 今度は俺も連れてってくれー!」
「んだあ、おらも綺麗なべべ着てえなあ」
「♪ハードなビートを奏でるゼ!」
「やっぱり彼じゃ花がないね、今からでもボクをあそこに置いた方がいいんじゃないか?」
近場ということもあってか、『ヴァレス』と『オラシオン』の面々が多かった。
「むははは! ワガハイが新たなる『龍殺し』なのであーる!」
「ジュウデンチュウ……ジュウデンチュウ……」
「興味深いデータが取れました、これを改造に活かして―」
ふと、ジャックはヴァージニアらが姿を消していることに気づいた。『こういう』場には、相応しくないと判断したのだろう。あるいは、オルトロスの指示だろうか。
「残りの龍もやっつけろ~!」
「妖精たちを今度こそ滅ぼすんだ~‼」
血気盛んな声を受けながら、ジャックはひたすら本心を隠して、『ジャック』として振る舞った。
「おっし、このジャック様に任せろ! 『龍』も『妖精』もちょちょいのちょいだぜ!」
その胸の内に気づくものは、限りなく少ない。