ラジアータストーリーズ 龍の目覚め   作:ニシムラタカハシ

78 / 158
『バンパイア』の夜

 帰宅するために城を出たジャックであったが、その足が向く先は『奈落獣』であった。

 

 そのまま『ヴォイド』の事務所に行って、オルトロスと顔を合わせる。

 

「これはこれは、『風龍』の討伐おめでとうございます。私どもが安心して暮らせるのも、ひとえに貴方様のおかげでございます。

また、我等の微力な助けを過大に評価いただき、光栄の至りです」

 

「頼みたいことがあるんだ」

 

 慇懃なオルトロスの挨拶をよけて、ジャックは簡潔に要求を述べた。

 

 リドリー、そして黒い鎧の男の情報を教えて欲しい。

 

 『盗賊ギルド』であれば、何か情報を握っているのではと言う淡い希望だったが、生憎彼の口からは、両者とも正体不明であると決まりきった答えしか出てこなかった。

 

 あるいは、故意に何かを隠しているのかもしれない。であっても、それには彼らなりの理由があり、例え腕力に訴えても聞きだせるものではない。

 

 今後、新情報が入り次第知らせるとの言質をとって、ジャックはクラブ『ヴァンパイア』へ腰を降ろし、ダンの作る料理をぼうっと眺めていた。

 

「覇王―っ‼ クッキングファイティング‼」

 

 空腹であった。『ビギン食堂』は言わずもがな、『カンちゃん』も閉まっている。とすると、食事をするならここしかない。

 

 深夜とあって、『ヴォイド』の面々は『本業』に出ているのか顔を出さない。カジノも今日は閑古鳥が鳴いているらしく、シルビアが欠伸をしながらチップを磨いていた。

 

「ぼくにも同じのを、彼のおごりで」

 

 ひょいと、ジャックの隣りにヴァージニアが座った。

 

「よお」

 

「仕事終わりなんだ、いやあ、疲れたよ」

 

「お待ち、そっちも同じのだな」

 

 差し出されたダンの料理を口に運ぶ。大雑把だが、濃い味付けで中々うまい。

 

「あららん、デートかしら? アツアツだわあん」

 

「うっせえよ、飲み物でも持って来い」

 

 サルビアをあしらいながら、ジャックは黙々と料理を平らげた。

 

「『龍殺し』の英雄さんが、こんな時間に、こんなところでご飯?」

 

「こんなところとはなんだ」

 

「食いそびれちゃったんだよ。そっちこそ、こんな時間まで『仕事』?」

 

「出店の片付けとかあってね、盗賊も楽じゃないんだ」

 

 ふと、ジャックは気になっていたことを尋ねてみた。

 

「あのこと言わなかったのか?」

 

「何を? しっかりラークス卿には報告したけど?」

 

「リドリーと……あの黒い鎧のことだよ」

 

 リドリーは目撃情報がすでに挙げられている。しかし、黒い鎧の男の中身が『ジャック』であったことは、ラークスには無視できぬ話のはずだ。

 

 だが、先ほどの会話ではそれがあがらなかった。隠している、という風でもなく、知らないのだ。

 

「ああ、そうだったね、ついうっかり忘れちゃったよ」

 

「何を企んでんだよ」

 

 この『白狼』に限って、善意や思いやりなどということはあり得ない。しばらく一緒にいたジャックには、少なくともそう映った。

 

「やだなあ、ぼくとジャック君の仲じゃないか」

 

「変なこというな」

 

「ははっ、まあ、おいおいね。それにしても、君も隅に置けないね。リドリー君のことなんか何も言ってなかったじゃないか?」

 

「話すようなことじゃねえもん」

 

「ま、中々複雑な関係みたいだからね」

 

 オルトロスから何か聞いているのだろうか? だが、実際ジャックとリドリーの関係は一言では言い表せない。

 

 騎士団セレクションで戦い、同じ『桃色豚闘士団』に配属された。反発しながらも互いに理解を深めていたが、クロスの陰謀(ひいては銀龍)によるブラッドオーク襲撃を切欠に団は解散。

 

 ジャックは『テアトル』へ、リドリーは新騎士団の団長となったが、彼女は『霊継ぎ』の影響に悩んだ末妖精たちの元へ走り、人間の敵となった。

 

 片や人類の英雄『龍殺し』。

 

 片や人類の『裏切り者』。

 

 何度か顔を合わせることもあったが、その終わりは『白夜の都』での死別と言う悲劇に終わった。

 

 ジャックとリドリーの間にあったのは何か?

 

 親愛? 友愛? 情愛? 彼自身、未だに問い続けている。

 

「今度会ったらどうするんだい?」

 

「わかんねえよ……」

 

 だが、きっと彼の身体は動き剣を振るうだろう。そうでなければ、人々を護れない。

 

「すべて終わったら、また北の地にくるといいよ」

 

「もういかねえよ」

 

「そうかい? ほとぼりが冷めれば、中々過ごしやすいけどね……」

 

 ヴァージニアは、ジャックに体を傾け預けた。

 

「あそこなら、『龍殺し』でなく、ジャック君でいられるよ」

 

「俺は俺だよ」

 

「そうかな……」

 

 『バンパイア』に入ってこようとしたイオンは、二人の様子を見てドアそっと閉じて立ち去った。

 

 そのまま朝まで、ジャックとヴァージニアはカウンターで過ごして、どちらともなく帰っていった。

 

 ジャックは家に一歩足を踏み入れた途端、朝帰りを鬼の顔をしたエアデールに りつけられて、久しぶりに半泣きした。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。