さて、妖精との再戦争、『龍』の復活といった大事が続くなかでも、人々は日常を過ごさねばならない。
『テアトル』の戦士たちは依頼をこなし、『オラシオン』の面々は神へ信仰を捧げる。『ヴァレス』では研究に情熱が注がれ、『ヴォイド』は暗部を担う。
そこに所属する以外の人々も、それぞれの責務を果たしていた。
ローズは相変わらず高圧的な口調で接客し、ワークは商品の武器を売ることを拒み、エレフは新区画の工事を監督する。
「今日もいい天気」
ユーリは、『ビギン食堂』で仕込みをしていた。そろそろ、『テアトル』の面々がどさっと駆け込んでくる頃だ。
「ユーリ~!」
が、今日の初客はアクセサリー屋『サンパティ』の経営者にしてルームメイトのジャスミンであった。彼女が客としてここへ来るのは珍しくないが、どうにも様子がおかしい。
「どうしたの?」
「大変なのよ、ジャックさんが―」
「ハラヘッタナア」
丁度、その『ジャック』が入ってきた。
「メシダメシ」
「オオモリニシヨウ」
そしてまた、次々と『ジャック』たちが入ってきた。
フリージアは、『ラストバイブル』に注文していた薬剤学の本を受け取りに来ていた。
「ウオオオーナケルゼエー」
「ナナカンヲヨコセ」
「オレガミテルンダ」
「あのう、立ち読みは困るんですけど……」
そこには、『ジャック』たちがマンガを立ち読みし、店主チーチルが笑顔を引きつらせている光景が広がっていた。
「アニソンハイイナア」
「コッチカケヨウゼ」
「コッチモイイゾ」
『シックレコード』でも、店を埋め尽くす『ジャック』たちがレコードを試聴していた。
ソニアは肝が据わっており、動じることなくそれを眺めている。
「ヨコセ」
「オレンダ」
「やめんかこら!」
『オラシオン』のゴドウィン青空教室では、困惑するニットらをよそに『ジャック』たちがクワガタを巡って争っており、ゴドウィンから喝を入れられていた。
「モットヤレー」
「ツギハリョウアシヲアゲテケンヲオテダマシロー」
「む、むおおおお! ワガハイならできる!」
「スター様はポージングの達人なのです」
「なぜジャック・ラッセルが複数人いるのでしょう?」
ヴァンクール広場では、日課のポージングをしているスターを、ジュース片手に『ジャック』たちが野次る。
「ジャックさん! ジャックさん!」
「ふあい?」
「ジャックさんがお店を占領してるの! なんとかして!」
「……は?」
エアデールのお叱りから解放され、惰眠を貪っていたジャックは、ノックから始まったユーリの不可解な懇願を受けて、思いがけない珍事に遭遇することとなった。