ラジアータストーリーズ 龍の目覚め   作:ニシムラタカハシ

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チーム・アハト⑨

「そこのお嬢さん!」

 

「む?」

 

 ナギサが振り返ると、そこに筋骨隆々の男が立っていた。やや後退した額と輝く白い歯、何より筋肉を誇示するようなポージングが目を引いた。

 

「『テアトル』所属のナギサさんですね?」

 

「そうだが……貴公は?」

 

「申し遅れました、武器工房『ジェフティ』社長、ライラック・ジェファーソン。『テアトル』のワルターさんの隊、『クイントム』でコンラッドがお世話になってます」

 

 ナギサにはピンとこない。一応所属はしているが、ジャック以外の隊員の名前と顔はまだまだ一致していなかった。

 

「そ、そうか、こちらこそ」

 

 そこで調子を合わせてしまうのが彼女の悪いところだ。

 

「早速ですが、依頼を頼みたいです」

 

 ポージングをしながら、ライラックは宣言した。

 

 

「モデル?」

 

「うむ」

 

 昼時、客で賑わう『ビギン食堂』の一角で、ジャックとナギサはそんな会話を交わしていた。

 

「モデルって、何すんの?」

 

「武器を持ち、指示された姿勢をとり、それを図写すると」

 

「ふーん、で?」

 

「タナトス殿に確認したところ、正式な依頼として受理されたそうだ。報酬も申し分ない」

 

「じゃ、いいじゃん」

 

「……一緒に来てくれぬか?」

 

「え、なんで」

 

「わしはライラック殿を良く知らんし……もでる、というのも初めてなのだ」

 

「大丈夫だよ、コンラッドの父ちゃんなんだから。……あんまり安心できねえか」

 

「なんだよーそれー」

 

 別席のコンラッドから不満の声があがった。

 

「相応の報酬は払おう」

 

「ん~、それならいいけど……でもさ、何か納得いかないよな」

 

「?」

 

「最初にさ、俺に話が来るんじゃない? 結構すごいんだし」

 

「前に、大隊長とアリシア様に似た様な話が来た」

 

 グレゴリーが告げる。

「そうなの?」

 

「無論、お二人とも断られたがな」

 

「じゃあ、ますます俺に話が来るべきじゃんか」

 

「モデルとして問題があるんじゃないでしょうか?」

 

 ゴードンがからかうように言うと、周囲から笑い声があがった。

 

 ジャックはぶすっとしつつ、茹でた芋にフォークを刺した。

 

 

「はい、いいですよ! そのままそのまま!」

 

「こ、こうか?」

 

 結局、ジャックはナギサに従い、『ジェフティ』の工房へ足を運んだ。実家とそん色ない大きさの一室へ案内され、モデルとしての写生が始まった。

 

 当初、ジャックはその光景を興味深げに眺めていたが、すぐに退屈して鍛錬を始めた。武器を構えたナギサを、絵描きが描写するだけで動きもほとんどなかったからだ。素早く、しかも緻密に描画する絵描きの技術には感心したが。

 

 だが、最後の製品が運ばれてきた時、流石の彼も呆気にとられた。

 

「こ、これを着るのか⁉」

 

 それは、アリシアのウィンドガープをさらに小型化した……言ってしまえば、ほとんど下着か水着かという代物だった。リンカのスティールガード並に、防御面積が小さい。

 

「我が社の最新モデルです! 『ヴァレス』の協力を得て作成した、防御力は従来の防具の10倍でありながら、重量は10分の1という逸品!」

 

「『ヴァレス』の誰に手伝ってもらったの?」

 

「モルガン教授、アドルフ助教授が中心のチームです」

 

「……」

 

 信頼してよいのだろうか?

 

「ちょ、ちょっとこれは……」

 

「我が社の一押しなんです! エルウェン大隊長やアリシアさんに着てもらいたかったのに、断られた!」

 

「だろうね」

 

 アリシアはともかく、エルウェンは絶対に応じないだろう。

 

「だから、ナギサさんに依頼したんです! お願いです! 報酬に加えてそのモデルも贈呈します!」

 

「い、いらん!」

 

 いくら高性能であろうとも、この恰好で戦場に出る度胸は彼女になかった。

 

「どうか!」

 

「無理だ!」

 

「お願い!」

 

 すったもんだの末、根負けしたナギサは依頼人に誠実であることを選んだ。

 

 顔を真っ赤にしながら、防具へ着替えてポーズをとる。いたたまれなくなって、ジャックは席を外そうとしたが、彼女はそれを許さなかった。

 

 こうしてできた『ジェフティ』新製品の広告は、売り上げの上昇に貢献しただけでなく、広告そのものが好事家の間で評判を呼んで、時として製品そのものよりも高値がついたという。

 

 

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