その日、ジャックは珍しく早起きすると、掃除道具と花を持って街を出た。
向かう先は、リドリーの墓である。王国が一望できる丘の上に、それはあった。
「っと……」
先客がいた、前家老のジャスネ・コルトン。リドリーの父である。
「……」
ジャスネはしばらく墓前に佇んでいたが。ややあって、その場を後にした。
「うっす……」
「……」
すれ違うジャックを無視して、王国へと歩いて行く。ジャックの記憶の中の彼は、赤ら顔の肥満体といった様相だったが。今は痩せて血色も悪く、髪も白くなっていた。年月以上に、心労が老いを進めているのだろう。
「よっ、来たぜ」
ジャックは墓前に立つと、花を供えて掃除を始めた。
「なあ、お前は……ここにいるんだよな?」
どうしても、あの『リドリー』の事が思い浮かぶ。確かに、自分はここに彼女を埋葬した。だが、あの姿は……。
「違うんならさ、言いに来いよ。オッサンだって心配するだろうし」
正直、ジャスネとは良い思い出がないし、そもそも関りが殆どなかった。だが、娘を亡くした父として、不憫に思う。
「それとさ、あの鎧のやつ、俺? なんでだよ? 俺はここにいるのにさ」
ジーニアスになら、わかるかもしれない。しかし、彼は以前として面会謝絶状態だった。
「色々わかんねえよな……せっかく強くなったのにさ」
強くあれば、迷わないと思った。
だから、『ラジアータ』を出て、世界を回り力を付けた。
だが、今のジャックは、あの戦争の頃とまるで同じ、何もわからず、戦う事しかできない。
「また来るよ」
それでも、立ち止まれない。
「やあ、久しぶり」
「あ、ども」
帰り道、行商人のルイーズに会った。まだ、『ラジアータ』のいたころはよく世話になっていた。
「『龍』をまたやっつけたんだって? すごいね」
「まあね」
「何か買っていくかい? サービスするよ」
「いや、また今度」
「そっか、残念。あ、そうそう、あの元騎士の男の人に会ったよ」
「え? 団長?」
「うん、ぽちゃっとした人。オーレ地方の方だったかな」
「そうなんだ……」
ガンツが戻ってきている。それはジャックの心を明るくした。何しろ、別れてから何の音沙汰もなかった。
「元気そうだった?」
「うん、だけど用があるからって、王国には向かわなかったみたいだよ」
「そっか、ありがとう」
心配はしていない。実力は……秀でていなかったが、彼は強い人間であり、尊敬できる団長だ。
彼には彼の考えと人生があり、縁があればまたきっと再会できるだろう。
その時は、『桃色豚闘士団』団長として迎えたい。