その国書こそがきっかけだった。内容は、産出量が落ちて来た『地の谷』の資源等の買取価格の値上げ要求であった。
時の家老、妖精との融和政策を進めていたジャスネの眼をしても、それは過大な要求に映った。
一部修正を行っての受諾回答を返そうとした彼に対して、クロスを始めとする強硬派は反発し、『地の谷』の軍事占拠を提案した。
ラークスはそれを容れ、騎士団による『地の谷』への侵攻が実施されたのだった。ドワーフの抵抗、地龍の出現等で多くの犠牲を出したが、結果は地龍討伐及び占拠の成功を成し遂げたのだった。
この時、ゴンドノビッチら一部ドワーフは逃走し行方をくらましている。支配を強固にするためにも、彼らの確保は急務であった。
だが、程なくして戦争が勃発した。それは勝利に終わったものの、騎士団の損害は大きく、『地の谷』の管理運営には人員が不足し、半ば放置の状態が続いていたのだった。
近年、ようやくラークスが改善に着手しようとした矢先、ゴンドノビッチらの蜂起と地龍の出現が知らされた。
かくして、王国、否、人間の存亡を賭けた戦いへと至ったのだ。
「思えば少しの間に色々変わっちまったのう。ガウェインも逝ってしまった」
ガンツ、そしてジャックの顔が曇った。
「ケアン、ガウェインの息子は……妖精の敵になったか」
「ゴンドノビッチ殿、私たちは決して争いを望んでおりません。どうか、刃を下げて話し合いをしようじゃありませんか」
「ああ、なんか色々、ややこしくなってるしな」
かか、とゴンドノビッチは笑った。
「そういうところは、あいつらの子供だな。だがな、もう遅いようじゃ」
ドワーフたちが前に出る、ウラジミールら、見知った顔だ。
「ジャックよ、おめえとあの娘っ子……そうリドリーだったな。
こっちにも、そっちにもおる。トゥトアスが乱れとる証拠じゃ」
「何か知っているのか?」
ジーニアスが躍り出てきた。『戦いは専門外』と後方に下がっていたはずだが、学術的欲求には逆らえないようだ。
「おや? ジーニアスさん、お久しぶりですね」
「どうなんだ、ゴンドノビッチ殿?」
「お前さんは……そうか、学者さんかい」
両者には面識があった。戦争以前、妖精たちと交流を図ろうとしていたジーニアスは、当然ドワーフにも接触していたのだ。
意志疎通が難しいゴブリンにオーク、完全に交流を絶っているライトエルフを除けば、ダークエルフの次にドワーフは友好的な妖精族だったからだ。
「確かに今、大地は大きな変化の中にある。だけど、必ずしもそれは種族の滅亡を意味しないんだ」
「相変わらず難しい言葉を使うの」
「争う必要はない、変化を受け容れれば、妖精たちももっと反映できるかもしれないんだ」
「なんと! ゴンドノビッチ殿! 今一度、交渉の場を設けませんか? このジーニアスさん、ラジアータ随一の頭脳の持ち主ですよ」
ジャックは感心していた。ジーニアスは彼なりに、平和を模索している。或る意味、戦いに臨んでいる自分よりも、強く賢いのかもしれない。
だが―
「あいにくの……わしらは人間のように、割り切れんのよ。何百、何千年も続けてきた生き様をの。『地の谷』のこともある……」
「オレタチャサイケッセイゴブリントリオ」
「ニンゲンハテキ」
「ナアジャック」
『地龍』は咆哮した。
『種族』の断絶は、埋めがたい。
「ジャック、ガンツ、どうにも今はややこしい……じゃからの」
突如、地響きがジャックたちを襲った。
「白も黒も……戦って決めようぞ!」
足元から、地下を進んできたギアゴーレムの大群が飛び出してきた。