レナードの檄は理にかなっている。妖精たちが進撃を決意したのも、人間たちが背水の陣を敷いているのも、『地龍』あってこそであった。
故に『地龍』さえ打倒できれば、妖精たちは霧散し人間の勝利は確定される。
だが―
「ぬおっ⁉ 硬えぞ!」
「むう……!」
斬り込んだジェラルドは驚愕し、アキレスは初撃を加えたあと、顔をしかめて後退した。『地龍』の表皮は、この二人でさえ傷一つ付けられない程の硬質だった。
「くっ……」
「これは少々……」
「老体にこたえるのお」
『オラシオン教団』の古老たちの鉄拳、そしてエルウェンの『アヴァクール』ですら龍を貫けない。この場にいない、ニュクスでも恐らく同様だったろう。
「くそっ! 通じねえ!」
「えいやっ! ……ほおおおお~」
ジャックの『魔剣グラム』と『アービトレイター』ですら、どうにか皮を切れるだけでしかない。ガンツは大剣を振り下ろすも、弾かれ痺れで全身を震わせていた。
龍には『時の癒し』がある。傷を負わせられない上に、無限に近い体力を有しているのだ。
「―‼」
唯一、救いなのは魔砲はその限りではないという点だった。『ヴァレス』の面々から注がれるそれは、物理的なものとは別であるからか、『地龍』の足を止めてくれている。
だが、それも長くは続かない。魔砲も無限に放ち続けられるわけではないのだ。いずれ来る魔力の枯渇を以て、いよいよ龍は手に負えなくなる。
「『ゴブリンビーム』!」
「うんがああ~」
「ああ、ジョケル! しっかりするッス!」
さらに、『地龍』という壁を得て、態勢を立て直した妖精たちの反撃も始まった。狡猾なのは、前に出ずに龍の背後から、投石や酒瓶を利用した火炎瓶、『ゴブリンビーム』による嫌がらせに徹底している点だ。
中々どうして、ゴンドノビッチは戦術家らしい。
「くそっ」
ジャックは必死に考える。剣が通じない、辛うじて斧であれば重量で衝撃を与えることができるが、傷をつけられない。これではどうあっても勝ち目がない。
どうにか『地龍』を、魔砲は通じる、だが―
「‼」
そのひらめきを、ジャックは見逃さなかった。
「みんな! 一旦下がってくれ! おっさんのところまで!」
最前線の面々に困惑が広がった。それでも皆が従ったのは、発言者がジャックであったからだ。
魔砲によるけん制が続く中、『地龍』と前線の間に空白地帯ができた。これを利用し、レナードは陣形の再編成と休息を命じつつ、ジャックに問う。
「おい、ジャック、何か考えがあるんだろうな?」
「任せろよおっさん」
「おっさん言うな!」
「はは、で、ちょっとお願いがあるんだ……」
数刻後、ジャックは、『エンシェントエイジ』を構え、一人『地龍』へと悠然と迫っていった。