翌日、退院を果たしたジャックは姉と共に自室へ戻ったのだが、早々に姉に追い出された。
留守にしていた間の掃除のため、とエアデールは述べたが、恐らくは日常に戻るため、少々の時間を欲したのだろうとジャックは想像した。
思いがけず生じた間は、来訪者であるいけすかないアルによって埋められた。ラークスによる召還命令があったのだ。
自室でジャックを迎えたラークスは、改めて『地龍』討伐を褒め称え、かつジャックの無事を祝った。
『地龍』は、その後動き出すこともなく、『地の谷』にも異様は見られず、少なくとも無力化されたことは確実だった。
「今回も、皆のおかげっすよ」
ジャックの答えは、ラークスには好ましかった。ケアンに似た、ガウェイン、ダイナスらとは別種の謙虚さがあった。
ラークスはそのまま、ガンツの騎士団復帰と『桃色豚闘士』の団長就任が決定したことを告げた。
ジャックは喜んだが、次いで、ジーニアス、クライブも、所属ギルドはそのままに、騎士として団に所属となったことも知らされると、さすがに戸惑いを見せた。
「ジーニアスさんは、ジャックさんたちと一緒にいたほうが都合が良いとのことです。クライブさんは……ガンツからの希望です」
「団長が?」
「クライブさんに頼まれたそうで……」
引っ掛かりはしたが、それ時のジャックには、より大きな関心ごとがあった。
「ゴンドノビッチたち……ドワーフはどうなりましたか?」
「監視を送ってはいますが……」
ドワーフたちは、何か拍子抜けしたかのように日常に戻っていた。無論、人間への敵意を維持し、戦闘準備も怠っていないものの、これまでのように隠れるのをやめ、採掘と鍛冶を再開している。
ゴブリンたちも、これまで通りの生産性のない日々を取戻しているらしかった。
「少なくとも、今軍事行動を起こす予定も余力もありません、害がない限りは、不干渉が国王の方針です」
ほっ、とジャックは息を吐いた。安心と悔恨が同時に湧いてくる、戦う覚悟を決めたはずなのに、その相手が無事と知って安堵する、偽善であり、矛盾だ。
ラークスにも、少なからずその想いがある。かつて、ドワーフたちからの要求を受けた彼は、クロスの進言を受け容れて谷を占拠した。
その時は、その判断が正しいと思った。ドワーフたちにはそれまで数多くの譲歩を行ってきていたが、もたらされる利益と見合っているとは言えなかった。
また、その要求も過分に過ぎた。もともと人間に反発を持っていたドワーフへ武力を示し、正当な投資と見返りの均衡を取戻す、それがラークスの狙いであった。
だが、クロスらは暴走し、大虐殺を引き起こした。その後も、独断専行や拙攻が目立ち、ダイナスの死の一因にもなったうえ、最後には『黒色山羊槍士団』は壊滅、彼自身も銀龍により殺害された。
さらに、妖精との戦争のきっかけに、彼は関与していた。全てがラークスの知らぬことであったが、結果として一個人の欲望に振り回されたことは、宰相として過去の事と忘却できなかった。