自分をウマ娘だと思い込みたい一般少女   作:ウマママゴト

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自分をウマ娘だと思い込みたい一般少女

 

 ──ウマ娘ってスゴい。

 

 初めから理解しきっていた憧憬を改めて自覚しながら、私は芝生の上に倒れ込んだ。

 

 肺がじくじくと痛む。足が焼けるように熱い。

 照り付ける太陽の光が、私の残り僅かな体力を奪い取るようだった。

 汗を拭おうと掲げた腕はそのまま力なく投げ出される。身動ぎさえも怠くて、私は人目を気にせず四肢を放り出した。

 背中に伝わる柔らかな感触。よく手入れされた芝生だ。この上を他の優駿たちが駆けていたのかもしれないと思うと、所謂『間接キス』に似た背徳と興奮というか……好きな人と同じもの共有しているような、そんな幸福感が得られる気がした。

 

「……七分、二十八秒」

 

 握り締めたストップウォッチを覗き込む。

 人の疎らな公園。私以外の誰も走っていない共用トラック。『トレーナー』なんていない自主練。

 タイムを測ってくれる協力者なんて当然いない。だからヤケクソでこいつを握りながら走った。

 まあ、そんな中途半端なことをして良い記録なんて出せるはずもなし。

 2000mを全力で走り切った私のタイムなんて、誰に見せても見向きもされないクソみたいな記録だ。

 だから、特に感慨もなくストップウォッチをリセットする。

 空を仰ぎ見ながら息を整えていれば、もうとっくに、自分が今しがた出したタイムの秒の桁は忘れてしまった。

 七分、七分か、と大雑把なタイムを口の中で転がす。

 

「ここからあと五分は縮めないとなぁ」

 

 声に出すと、私の背筋がすっと冷える。

 自分でも心の底では理解している、到底不可能な目標。

 それをバカ真面目に達成しようと無理やり思い込む。可能だと信じ込む。ただの自己暗示だ。

 それが如何に無駄なのかは、この本能(悪寒)が証明している。

 

「勝負服作ってみようかなぁ。いや、なんならシューズに蹄鉄を……逆にタイム伸びそう」

 

 頭にポツポツと浮かぶ改善案はどれも現実的とはいえない。

 そんなものにかまけるよりも、さっさと走れ。スタミナを付けろ。脚力を上げろ。フォームを見直せ。

 私にできるのは身体的な努力と改善のみ。

 勝負服を着た方が潜在能力が上がる? 

 蹄鉄の良し悪しで走りやすさが変わる? 

 そんなアドバンテージ(都合の良い話)、私にはないのだから。

 

 ウマ娘よりもなお泥臭く。

 ウマ娘よりもなおみっともなく。

 ウマ娘よりもなお愚鈍に。

 どれだけ血の滲むような努力をしようとも。精根尽き果てるまで駆け抜けようとも。それでも届きはしない。

 決して変わらぬ真理として、人間はウマ娘に敵わないのだから。

 それが世界の理であり、覆しようのない現実。

 私はウマ娘の世界には踏み込めない。

 その事実を再確認して、また一つ大きなため息をつく。

 ああ、本当に──。

 

「それでも、あんな風に走りたいなぁ」

 

 どうして私は人間に生まれてしまったのだろうか。

 私はウマ娘に生まれたかった。

 ウマ娘の世界で生きていきたかった。

 私が走る理由はただ一つ。ウマ娘のように走ってみたいから、走っているのだ。

 それ以外に理由などない。

 別に特別なドラマがあったわけでも、悲しいトラウマがあるわけでもない。

 自分が人間で、彼女らはウマ娘。

 姿かたちが似片寄っていても、種族が違うのだ。そこを履き違えるつもりはない。

 けれど、初めて彼女らの走りを見た時、私は魂の底から震えたのだ。

 風のようにターフを駆け抜けるウマ娘。

 観客席から垣間見た彼女らの顔。

 ゴール板を通り過ぎ、喜び或いは泣く姿。

 それらの一体何に()()を感じたのか、私には未だに分からない。

 けれど確かに覚えている。あの瞬間私の胸に飛来した憧れを。

 純粋な感動ではなく、憧憬。ただ良いものを『良し』とするのではなく、『私もああなりたい』と思ってしまった。

 隣の芝生は青いという。

 その通りだ。私には決して得られぬもの。私には決して関わることのできない世界。

 

 ──だからこそ、憧れは叶わない()()として永遠に心に燻り続ける。

 

 私はそれを捨てきれなかった愚か者。

 ヒトとウマ娘という壁から目を反らした大バ鹿者。

 現実が見られていないお子様だ。

 

 それでもなお私はあの日見た輝きに憧れている。

 私もあれになりたいと願っている。

 ならば、どうすればいいのか。答えは単純明快だ。

 私は、ウマ娘のように走る。

 到底無理だ。分かっている。

 けどそれで諦められるようなら、初めからこの胸に熱なんて燻っていない。

 それが今なお私を突き動かすというのなら、私は、私の願いはまだ諦めていない。諦めることを許していない。

 だから、やってやる。

 どんなに辛くて苦しくても、たとえその結果が惨めなものになるとしても。

 絶対に叶わない願いに焦がれ、私は今日も走り続けよう。

 

 私はウマ娘だ。誰が何を言おうとウマ娘なんだ。

 少なくとも私はそう願う(思い込む)

 

「いや……流石に無理があるかなぁ」

 

 とりあえず、自己暗示のために付けたウマ耳や尻尾(子供用コスプレセット)はタイムの邪魔にしかならなかったので外そうと思う。

 

 

 

 





 日中の公園のトラックで全力疾走する、ウマ娘のコスプレをした一般人。
 これはとても不審者。


(思いつき短編なのでしっかりした設定はそんなに)ないです。

続き……

  • いりゅ
  • いりゃん(いりゅ)
  • いりゅ(鋼の意思)
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