自分をウマ娘だと思い込みたい一般少女 作:ウマママゴト
これはウマ娘の物語ではなく、ウマ娘に焦がれた人間の物語。
にんじんおいしい!
にんじんおいしい!
煮ても焼いてもにんじんおいしい。
カレーに入ったにんじんも、肉じゃがに入ったにんじんも、にんじんハンバーグもにんじんしりしりもにんじんグラッセもみんなおいしい。
なんなら生でもおいしい。丸齧りしたっておいしい。
おいしいったらおいしいのだ。うん、ウマ娘だってみんなにんじんが大好きなのだから。私の大好物でも何もおかしくない。
「にんじんおいしい、にんじんおいしい……」
「──頭おかしいんじゃないの?」
一心不乱にもしゃもしゃと朝のにんじんフルコースを食べていると、後ろから声が掛かる。
私がそれに振り返るよりも早く、後頭部をペシッって感じに叩かれた。
「……にんじんおいしい」
「とりあえずその狂った目で人参中毒になるのをやめなさい。医者呼ぶわよ?」
その声色が中々にマジだったので、おとなしく箸を置く。
不平不満をありありと込めて振り向けば、そこには仁王立ちのルームメイトさんがいた。
私の通う学校には学生寮が併設されている。
強制ではないが、希望者や遠方からの入学生はこの寮を利用できるという制度だ。
昔、この学校がトレセン学園としてウマ娘たちの学び舎であった頃の名残だという。
今はもう廃校となり、私たち人間が通う普通の学校となってしまった。
しかし、この学び舎で実際にウマ娘たちが青春を過ごしていたのだと思うと、なんだか私までウマ娘になった気分がする。
まぁ、そもそも『元トレセン学園だから』という理由でこの学校に進学したわけだが。
ともあれ、そういった歴史からここの学生寮は基本的に二人一部屋でのルームシェア。
私の相方は少々過激なところがあるが、良い人なのである。
「……で、なによ。それ」
中々に鋭い視線で私の朝食──朝のにんじんフルコースを睨む彼女。
聞くまでもなく見た通りだ。だが一応、ひとつひとつ献立を指差しながら説明していく。
「生にんじんとにんじんサラダとにんじんスティックとにんじんのおひたしだけど」
ほとんど生だとかいう指摘は受け付けない。にんじんをいかに美味しく、バラエティ豊かに朝食として頂くかを検討した結果なのだから。
ちなみに晩御飯としてにんじんハンバーグを作る予定である。あの、ど真ん中ににんじんが丸々一本突き立ってる由緒正しき『にんじんハンバーグ』である。
「ついでにあなたの分も作るつもりだから、一緒に食べよう」
「あら、ありがとう──じゃなくて!」
彼女はコホンとわざとらしく咳払いすると、私の前で人差し指をピンと立てる。まるで、物覚えの悪い子供を叱るような仕草だった。
「いい? あのね、人参だけ食べて生きていけるのはウマ娘だけなのよ」
「いや、ウマ娘だって色々食べてるけど」
「──蹴るわよ?」
手よりも先に足が出る。それもまたウマ娘。
それにしても何を言い出すかと思えば。
確かに『ウマ娘の好物=にんじん』という方程式が立つほどに彼女らは人参好きだ。
しかし、ウマ娘たちが人参しか食べていないとでも言いたげなその言葉はどうかと私は思う。そういうの、偏見と呼ぶんだよ。
「……ともかく。昨日、なんか矢鱈とおっきい荷物が届いて『何コレ』って思ってたけど」
そう言って彼女は部屋の隅にちらりと目配せする。その視線の先には、日の光が直接当たらないよう安置された段ボール箱。
既に開封済みであり、その中からはみ出しているのはオレンジ色の山──。
「まさか、あれ全部……?」
「うん」
そう、にんじんである。
「いや、あれ業務用よね? 明らかに一人で注文するものじゃないわよね?」
一体何があったのよ、と心配二割ドン引き八割な感じの視線でこちらを見る彼女。
結構な割合で引かれてることには納得しかねる。何と聞かれても、そんなの言うまでもないだろうに。
「なにって──ウマ娘だよ」
「とりあえず全国のウマ娘に謝りなさい」
「あべしっ」
ひどい。また叩かれた。
「……まぁ待ってよ、これにはれっきとした深いワケがあるから」
暴力に訴えかける彼女を手で制し、先日のことを話す。
いつものように近所の公園トレーニングをしていたこと。
その一環として2000mのタイムを測っていたこと。
そしてその際に、自己暗示のために付けていたウマ耳と尻尾が邪魔だと悟ってしまったことを。
「私は更なる速さのために、泣く泣く耳と尻尾を外したわけだけど」
「色々と言いたいけど突っ込まないわよ」
その後、十分な休憩を終えて再び2000mを走った時──私は気が付いてしまったのだ。
それは私の在り方に致命的な瑕を与えうるもの。私の願いに絶望的な現実を突き付けうるもの。
それほどまでに恐ろしい、残酷な真実というものを。
そう。それ即ち、
「──これ、人間が2000m走をやってるのと変わんないじゃん」
「当たり前すぎる事実ね」
深刻極まりないその問題を口にした瞬間、『おまえは何を言っているんだ』といわんばかりの白い目を向けられる。
分かっている。普通の人には理解されないことくらい。
しかしこれは、私にとっては由々しき事態だ。
完全に失念していた。ただの人間が1000m走ろうが、2000mでも3000mでも走ろうが、それは『人間のスポーツ』の範疇にしかならないのだ。
その殻を破ってこそウマ娘。破ることこそ私の本来の悲願。
であれば、このままでは良くないと結論付けるのは当然のことだった。
ウマ娘としての
どちらを捨てても『ウマ娘』からは一歩遠退く。しかし、どちらかを捨てなければ『ウマ娘』には近付けない。
私はその時、苦渋の決断を迫られたのだ。
葛藤に次ぐ葛藤。一晩中考え続けてもなお答えは出ず。
──しかし、その瞬間天啓が舞い降りた。
どちらを取っても『ウマ娘』から一歩遠退いてしまうならば、その分別の形で『ウマ娘』に近付けば良いのだと。
そうして閃いたのが『にんじん生活計画』である。
ウマ娘はとにかくにんじんが好きだ。「にんじんといえばウマ娘」といった風に連想できるほどには良く知られた話だ。
だが、ウマ娘だってにんじんしか食べないわけじゃない。それは彼女にも言った通り。
とはいえ『にんじん』と『ウマ娘』には切っても切れない関係性があるのもまた事実。
じゃあ、ウマ娘よりもなおストイックににんじんを食べたら、より純粋な『ウマ娘』という概念に近付くのでは?
それこそが天啓。徹夜明けの脳内に走った電光の如き発想。
思い立ったが吉日。そうして私は、ネットで業務用にんじん詰め合わせをポチっと注文したのである──。
「で、今日からにんじんを食べることにしたというワケ」
「そう……」
といった一連の葛藤劇を残りの朝食を食べながら語る。
その間、対面に座った彼女は私の作ったサラダとおひたしをもそもそと食べていた。
けっこう多めに作り置きしていたので、お裾分けである。
彼女は私の説明に気のない返事をすると黙り込む。しばらく互いに無言で朝食をつつく時間が過ぎていった。
やがてその沈黙を先に破ったのは、やはり彼女の方だった。
「──あんた、バ鹿ね?」
「ひどくない?」
流石に私でも泣くよ?
とりあえずにんじん食っときゃそれはもうウマ娘(ド偏見)
超ざっくり話の流れは組みましたが、多分癖のありすぎる話になると思います。
続き……
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いりゅ
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いりゃん(いりゅ)
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いりゅ(鋼の意思)