この生徒が俺TUEEEくせに慎重すぎる   作:えんびフライ

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おひさ


今後の方針

◇◆◇◆

 

 学校の授業が終わり放課後になった。一之瀬(いちのせ)の提案でBクラスの今後の方針を決めることになり、クラス会議が行われることになる。一之瀬の求心力を伺える参加率で部活に所属している生徒もクラス会議のためにわざわざ休みを取って残るほどのことだった。

 

 だが、聖哉(せいや)は一之瀬のことを全く信用していなかったのでさっさと教室から出ようと思ったが、事前に一之瀬から『今日の放課後はクラス会議があるからすぐに帰らないこと!』と釘を刺されていたため仕方なく教室に残るようにしていた。そのため珍しくHRが終わってもすぐに帰らず席を立たずに座っていた。放課後になって周りが今朝の出来事について話し合っていると壇上に一之瀬が立ち、周りが静まり返った。

 

「それじゃ、今後のクラスの方針について話そうと思うんだけど何か意見がある人はいるかな~?」

 

 一之瀬がクラスに語り掛けるが意見を言う生徒は一人もいなかった。誰もが無言を貫いているのを一通り見まわすと彼女が再び発言をした。

 

「よし。じゃあ提案なんだけどクラスで委員会制度を作らないかな?」

 

「委員会って、中学とかでもやったやつ?」

 

「そうそう! この学校には学級委員会とか整備委員会とかはないみたいなんだけど今後の学校行事でスムーズに進行ができるようにクラスで役割を作らない?」 

 

「おぉ! いいなそれ!」

 

 委員長から順に副委員長、書記と決まっていき、生徒からの意見を元にBクラスの全員が何かしら役職を持っている状態になった。

 

 ちなみに聖哉は特にやりたい役職はなかったので余りの『先生のお手伝い係』をすることになった。

 

「じゃあ次は今後の方針を決めていくにあたってクラスのルールを決めようと思うんだけど、クラスから一人も退学者を出さずにAクラスを目指すことを目標にしようと思うんだけどどうかな?」

 

「「「「賛成~~」」」」

 

「それじゃ決まりだね!」

 

 一之瀬が意見すると反論の一つもでずクラスの方針が決まった。一之瀬はこの四月からクラスメイトと積極的に関わっていたのでほとんどのBクラスの生徒から信頼を勝ち取っていた。......一人を除いて。

 

「(まったく、能天気な奴らだ)」

 

 聖哉はそんな脳内花畑のクラスメイトを心の中で見下していた。

 

「一之瀬、もしこのクラスで退学者が出たらどうすることもできないのか?」

 

 疑問を持った柴田(しばた)が一之瀬に質問をした。その質問に一之瀬は待ってましたと言わんばかりの表情で答えた。

 

「フフ。いい質問だね柴田くん。実は一つだけ方法があるんだよね!」

 

「まじかよ!?」

 

 一之瀬の回答にクラス中がざわついた。退学者を取り消せる方法がある。そのことを知ったクラスメイト達が驚愕するのは当然であった。

 

「おいおい、そんなことできるのかよ?」

 

「一之瀬さん、教えてくれよ!」

 

「まぁまぁ、落ち着いて皆。入学式の日に星之宮(ほしのみや)先生は言ってたよね? 基本的に学校内ではこのポイントを使って買えないものはなくて、学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能だって」

 

「確かにそんなこと言ってたけど...それがどうしたんだ?」

 

「よく考えてみて。学校の敷地内ってことは退学者も学校の敷地内に含まれるよね(・・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 一之瀬の問いかけにクラスメイト達は戸惑いを見せた。やがて数秒経つと言葉の真意に気付いたのかある生徒が声を漏らした。

 

「......つまり、それって退学の取り消しをポイントで買えるってこと?」

 

 誰かが漏らした言葉にクラスメイト達が戦慄した。自己紹介のときの進行と言い、ポイントの有用性と言い、改めて一之瀬帆波(ほなみ)の優秀さをクラスメイトの誰もが実感することとなった。

 

「一之瀬、それで退学の取り消しは何ポイント払えばできるんだ?」

 

 柴田の発言に教室中が静まり返った。

 

「それは......2000万ポイントだよ」

 

 2000万という大金にクラス中が驚きが隠せなかった。

 

「何だよ〜、それじゃ意味ねぇじゃねぇかよ」

 

誰もがそんな大金を払えるわけがない。そんな事実を突きつけられクラス中が期待外れだと落胆していた。だが一之瀬はほぼ不可能である方法に決して落胆していなかった。

 

「でも、退学者を取り消せる方法があるってだけで大きな収穫だと私は思うんだ。問題はどうやってそのポイントを集めるか何だけど......」 

 

 一之瀬が悩んでいると思わぬ方から意見が飛んできた。

 

「それなら提案なんだがクラスで毎月支給されるポイントから何万か集金するのはどうだろう?」

 

 意見したのは神崎(かんざき)であった。神崎は普段からあまり目立つ行動をしなかったので大勢の場で目立つ行動をしたことにクラス中が意外な表情を浮かべていた。

 

「詳しく説明してもらってもいいかな? 神崎君?」

 

「あぁ、俺たちは毎月何万かポイントを貰えるがそれでも2000万には到底届かない計算になっている。だがそれは個人で貯めた場合の話だ。クラスで少しずつポイントを貯めて置けば時間はかかるがいずれ2000万貯めることができるだろう」

 

 神崎が一通り説明すると周囲を感心させた。神崎隆二(りゅうじ)の有能ぶりを垣間見た瞬間である。

 

「なるほどなるほどー。じゃあ、そうしよっか! じゃあ皆からいくらかポイントを貰うね」 

 

 一之瀬の発言にほぼ全員が同意を示した。たった一人を除いて......

 

「待て、一之瀬。その制度には穴がある。それは集金をする側のお前が私利私欲のためにクラスを裏切る可能性があるということだ」  

 

 聖哉が一石を投じると一瞬教室内の雰囲気が静まり返った。その数秒後に多くのヘイトが聖哉へと向けられた。

 

「何いってんだよお前!!」

 

「そうだー! 一之瀬さんに謝れ!」

 

 一之瀬と日頃親しくしている女子生徒を中心に多くの糾弾が聖哉へ降り掛かった。だが聖哉はそんなことを気にせず喋り続けた。

 

「お前らはそうやって一之瀬を庇うがこいつが裏切らない理由なんてどこにある? それはお前らの勝手な妄想でしかないだろう? 例えば一之瀬が皆から集めたプライベートポイントを贅沢に使って高級な寿司や焼き肉を食べるかもしれない」

 

「竜宮院くん! 勝手に私のことを大食いキャラにしないでよ!!」

 

 えぇ......突っ込むとこソコ!?と一之瀬と聖哉以外の生徒は一之瀬の天然さに引いていた。

 

「他にもこいつはお前らから2000万ポイントを集めきった後卒業日に1人でAクラスに上がる(・・・・・・・・・・・・・・・)可能性がある」 

 

 刹那、騒がしかったクラスに静寂が訪れた。クラスメイト達が何も言えずに沈黙を貫いていると再び聖哉の口が開かれた。

 

「何だ、知らないのか。2000万ポイントがあれば好きなクラスに行くことができる。退学者を取り消すことにポイントを使うことができるんだ。クラス移動にも可能に決まっているだろ」

 

 『えぇ......本当に一人でAクラスに上がる気なんじゃ?』『違う! 一之瀬さんはそんなこと絶対に考えていない!』と僅かだがクラス内に亀裂が入ってしまい、それがだんだんウイルスのように周りへと広がっていった。

 

「皆、聞いて!!!」

 

 ドンッ! 一之瀬が教卓の机を両手で大きく叩き、騒がしかった教室が一瞬で誰もが話すことができない空気へと変わった。

 

「確かに竜宮院くんみたいに集金制度が嫌だという人もいるかも知れない。だから私から提案なんだけど、それだったら集金する人を委員長、副委員長、書記の三人にして、個人が2000万プライベートポイントを持たないようにうまく調節しよう。それだったらどうかな?」

 

「もう一つ追加だ。一日一回クラスの前で集金したプライベートポイントが使われていないか確認させろ」

 

「うん。いいよ」

 

 特に否定する理由も無かったので一之瀬は承諾した。

 

「そうか。なら、俺はプライベートポイントを預けるとしよう」

 

 その答えを聞いた一之瀬は満足そうに微笑んだ。

 

「納得してくれてありがとう。竜宮院くん」

 

 その後、一之瀬、神崎、白波の三人にBクラスから集金したプライベートポイントが振り込まれた。

 

◇◆◇◆

 

 話し合いが終わった後、教室に残っていた一部の生徒が聖哉に対して文句を言っていたが、一之瀬や神崎、柴田がなんとかクラスメイト達の不満を抑えていた。聖哉は特にそれを気にすることもなく教室を出て家電量販店に向かっていた。その目的はボイスレコーダーを入手することである。今後他クラスから脅迫されるかもしれない、もしくは他クラスにとって都合の悪い話を録音して弱みを握ることができるかもしれない。そのために今まであまり使ってこなかったプライベートポイントを使おうと考えていた。

 

 家電量販店の中に入ると店内の敷地面積が広く、同じ製品でも有名なメーカーからマイナーなメーカーまで一通り揃っていた。

 

「ふむ。品揃えがいいが、ここまで種類が多いとどれを選べばいいか分からないな......」

 

「あんた確か竜宮院だったよね、ここで何してんの?」

 

 聖哉に話しかけてきたのは同じ1年Bクラスの姫野(ひめの)ユキだった。

 

 姫野は他人とは違う特徴的な髪色をしている。Bクラスの生徒はほとんど基本的に礼儀正しく、真面目な生徒が多かったので姫野のような口調の荒い生徒に聖哉は意外な印象を受けていた。どうやら姫野は寮の照明が切れてしまったため、新しい電球を買いに来たようだった。

 

「誰だ、貴様は?」

 

「はぁ? あんた自分のクラスメイトすら覚えていないの? 姫野ユキだよ」

 

 気怠そうな声で姫野は自己紹介をしたが聖哉は興味なさげな様子だった。

 

「そうか。俺はお前の名前を覚える気はない」

 

「奇遇。私もあんたの名前覚える気がない」

 

 お互いに会話はあまり得意な方ではなかった。そのため二人の間に沈黙が訪れる。少しの時間が経つと、姫野の方から話題を振ってきた。

 

「......それで、アンタは何しに来たの?」

 

「ボイスレコーダーを購入するためだ」

 

「ボイスレコーダー? そんな物、一体何に使うんだよ」

 

「今後Aクラスを巡って争っていく中で、他クラスとのいざこざが起こるだろう。それに備えてだ」

 

「あっそ」

 

 自分から聞いておいて然程(さほど)興味の無さそうな姫野であった。

 

「そういえば、これ。ちゃんと意味あったんだ」

 

 聖哉が姫野の向いている方向に振り向くと1か月3点まで。と注意書きされている『無料コーナー』があった。無料コーナーの中にはLED電球や乾電池など生活で使う物が陳列棚(ちんれつだな)に並ばれてあった。

 

「Ⅾクラスの奴らのほとんどが一か月で10万使い切ったんだってね。マジざまぁー」

 

 姫野は今頃ポイントが無くて喚いているDクラスの様子を想像しながら気怠い表情で煽った。そんな姫野を無視し、聖哉は近くにいた店員に話しかけていた。

 

「おい、店員。この店にあるボイスレコーダーでおすすめの商品を教えろ。勿論メーカー保証付きの中でだ」

 

「えっ。あ、はい。でしたらこの5000円のボイスレコーダーがお薦めです。高性能と独自機能にこだわった製品を多数開発しているメーカー品で、ボイスレコーダーの分野においてもクリアな高音質で記録できますけど......」

 

 聖哉が高圧的な態度を取っているため店員が萎縮しながらも敬語を崩さずに答えている。聖哉は店員に勧められたボイスレコーダーを手に取り、表や裏など隅々なところまでみて商品の状態や品質を確認していた。確認し終わると持っていたボイスレコーダーを店員に渡した。

 

「よし。では、そのボイスレコーダーを10個くれ」

 

「......は?」

 

 姫野は聖哉の奇怪な発言に驚きを隠せなかった。開いた口が塞がらない。

 

「あ、あの。お客さん? 本当に10個でいいんですか? このボイスレコーダーは大変人気な商品でして値段はそれなりにしますし、なにより在庫が10個もあるかどうか――」

 

「二度は言わん。さっさと用意しろ。もし在庫が無かったらすぐにでも注文をしろ」

 

「は、はい! 申し訳ございません! 只今在庫の確認をしてきます!!」

 

 そう言うと店員は大慌てで店内の奥へと消えていった。その光景を一部始終見てた姫野はドン引きしていた。

 

「あ、あんた......まじで言ってんの?」

 

「当たり前だ。常備用。スペア用。スペアが無くなった時のスペア。自宅用。その他もろもろ。最低10個は必要だ」

 

 慎重というより最早、病的であった。どんな思考回路をしたらボイスレコーダーを、しかも10個も買おうとする学生がいるのだろうか。姫野は困惑していた。

 

「うわぁ......あんた、頭おかしいんじゃないの? 病院にでもいって頭を診てもらえば?」

 

「何を言う。俺の頭は常に正常だ。毎日最低三回は病院や保健室に行っているからな。今日も俺の体に病気や怪我などは一切ない」

 

 聖哉の言葉を聞いた姫野はすっかり呆れていた。

 

「はぁ......さっきの放課後のときといいあんたホントなんなの? あんたはBクラスなんだからさ、もうちょっと同じクラスメイトの馬鹿な奴らと仲良くしたら?」

 

「それはこっちの台詞だ。お前は何故クラス会議のときに誰とも話さずに退屈そうに窓を見つめていた?」

 

「は? 私のこと見てたの? キモッ。死ねば?」

 

「自意識過剰だな。お前が1人で黄昏れていた様子があまりには可哀そうだったからな。嫌でも目立っていたぞ」 

 

「......っぜ。アンタと話しているとだんだん頭痛がしてきた。もう帰る」

 

 これ以上聖哉と話しているとストレスが爆発しそうになったので姫野はさっさと買い物を済ませて店の外に出てしまった。

 

「(姫野ユキ......Bクラスの奴らとは一歩引いた性格。仲良しこよしなBクラスにとって姫野ユキはBクラスの......(がん)とも言える存在だな。だが、使い方次第ではBクラスの体制を変えることができる手札の一つともなり得るだろうな)」

 

 Bクラスは傍から見るとほとんどの生徒が一之瀬帆波を信頼しているように感じられる。だが聖哉はそれを『信頼』ではなく『信仰』だと思っていた。例えるなら一之瀬帆波を女神とすると、他のBクラスの生徒は女神を信仰する教徒だろうか。

 

 一之瀬帆波は優秀な生徒だ。それは一之瀬と関わってきた誰もが認めており、聖哉も渋々ながら認めていた。

 

 しかし、どんな優秀な人間でもいつか誤った選択をするかも知れない。もしこれからずっと先の未来で一之瀬が誤った選択をしようとしたとき、そのときに物申す者がいなかったら誰も一之瀬の暴走を止めることができない。そんなことになったら気付いたときにはもう手遅れになっていることだろう。

 

 だが、一之瀬が最悪の選択肢を選ぼうとするときに物申せる存在がいたら? きっと最善とはいかなくても最悪な結果になる可能性は極端に低くなることだろう。

 

今のところ物申せそうな存在として男子の神崎が当てはまりそうな様子だ。それでも、本人の性格上クラス全体に干渉することはほぼ不可能に近いだろう。現時点でのリーダー、一之瀬は女子である。そうなると必然的に女子の方が男子より発言権は強くなる。

 

 女子の中で唯一一之瀬に対して物申せそうな姫野ユキの存在が今後BクラスがAクラスに上がるための重要なピースになるかも知れない。そんなことを聖哉は考えた。最も、彼女にその気があるのかが一番の問題だが。

 

「(そうだな......俺専用の雑用係としては丁度いいだろう)」

 

 

 




久し振りなので鈍っていますが許してください
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