◇◆◇◆
トントン、
「もう少し頑張ろッ!」
「一之瀬さん、ありがとう......」
一之瀬に起こされた生徒は姿勢を直し、ペンを持って先生の話を真剣に聞きながら必死にノートにメモしていた。
学校の全貌が明かされた5月から一週間が経った。 Bクラスの授業態度は前より更に改善しており、今見たいに眠そうにしている生徒は誰かが起こすなどみんなで協力してクラスポイントをなるべく多く残す方針となっていた。
昼休み、各々が昼食をとるために学食に行こうとしたり、友達と机を合わせて一緒に昼食をしようとしていると、一之瀬がクラス全体に言葉を発した。
「みんなっ! いよいよ中間テストが2週間に迫ってきているんだ。そこで今日から、中間テストに向けて皆で勉強して平均点の向上を目指した方が良いと思んだけど、どうかな?」
「賛成ー! 私、数学がちょっと不安だったんだ......一之瀬さん、教えてくれない?」
「もちろん!」
「私も私も!」
一之瀬がそう答えると周りからぞろぞろと集まりだした。
「わわ、思ったより人数が多いね。流石にこの人数じゃ私でも手に余るかな。せめてもう一人くらい誰か教えてくれる人がいると助かるんだけど.....」
参加者が16人と思ったより人数が多く、指導に困った一之瀬が周りに助けを求めるような視線を送る。
「なら俺も手伝おう」
それに応じたのは
「本当にいいの? 神崎くん? 私が言うのもなんだけど、誰かに教えるのは結構難しいよ?」
「大丈夫だ。俺も少なからずクラスの中で上位の方だ。俺もBクラスの一員として全面的に協力させてくれ」
「ありがとう、神崎くん」
神崎の協力で指導役の負担が少し減ったと言え一度に16人も指導するのは流石に大変だ。そう判断した一之瀬は昼休みと放課後の2部に分け、一度に8人で勉強会を行うことにした。
クラスメイトが中間テストに向けて意気投合している中、一之瀬は一人で黙々と授業の復習をしている男子生徒に話しかけた。
「
「「ブフッ!!」」
クラスメイトの一部が吹き出した。
「おい、お前! 一之瀬さんになにを.....ムグ!」
誰かが
「なんだ一之瀬。俺の食事の邪魔をするつもりか。もし俺が餓死で死んだらお前が死ぬまで呪うからな」
「ううん。別に邪魔するつもりなんてないよ。ただ、竜宮院くんと大事な話があって......」
「くだらん。却下する」
流石に聖哉を昼食に誘うのは一之瀬でも困難だった。しかし一之瀬は諦めずに奮闘した。
「でも、本当に大事な話なんだ。それも私たちがAクラスに上がるための大事な話なの」
「Aクラスに上がるため......だと?」
一之瀬の発言を聞いた聖哉は長考した後、やがて口を開いた。
「いいだろう。どっちにしろ俺が了承するまでお前はずっと粘るつもりだっただろうからな」
「にゃはは。バレちゃった?」
一之瀬は図星を突かれそれを誤魔化すように愛想笑いした。
「それじゃあ学食に行こうか」
「あぁ」
聖哉は席を立ちあがって自分の持ち物を全てロッカーにいれた後、10個の南京錠に鍵をかけてから一之瀬と一緒に学食に向かった。
クラスメイトはそんな二人の様子を
◇◆◇◆
二人は学食にいった後、二人は定食を注文する。一之瀬は焼肉定食、聖哉は山菜定食を選び、空いていた席に腰掛けた。
「あれ、この前はあんなに文句言ってたのに結局山菜定食にするんだ」
「あぁ。味はクソまずいが無料で食べられるし十分に栄養はあるからな」
「クソまずいって......山菜定食作ってくれた人に失礼だよ......」
それからお互いに定食を食べ始めた。二人は会話せずに黙々と食事をしていると、一之瀬から話を切り出してきた。
「ところで、私が見た限り竜宮院くんは山菜定食を食べている姿しか見たことがないんだけどどうして他の定食を食べないの?」
一之瀬の言うとおり聖哉は入学してから昼食はずっと山菜定食ばかりであった。当然聖哉が山菜定食が好きというわけではなくなるべくポイントを消費しないためである。
「勿論、ポイントを節約するためだ。いつかの日か突然大量にポイントを使う日が来るかもしれないからな」
「なるほど、竜宮院くんは節約家なんだ」
「いや、俺は節約家などではない。現に俺はこの前ポイントを一度に50000ポイントくらい使った」
「えっ!? そんなに何に使ったの!?」
一之瀬の質問に聖哉は当然のような表情で答えた。
「あぁ、教えてやる。ボイスレコーダー10個だ」
「......もう一回言ってもらっていいかな?」
「ボイスレコーダー10個だ」
「......もう一回」
「ボイスレコーダー10個だ」
「なんでそんなに買うの!? 買うとしても1個じゃないかな? というかそんなもの買うこと自体不思議なんだけど!?」
一之瀬が驚くのも無理はないだろう。いったいどんな思考回路をしていれば食費を節約してまでボイスレコーダーを買おうとするのだろうか。一之瀬は不思議でしかなかった。
「何を言う。せっかく買ったものが無くなったら困るだろう。そのためのスペア。スペアが無くなったときのスペア。そしてスペアが無くなったときのスペアが無くなったときの−−」
「あ、うん。もう大丈夫」
一之瀬は聖哉の発言を聞いて考えるのをやめることにした。
「う〜ん。竜宮院くんのポイントの使い道ってなんだか不思議だなぁ」
「で、こんな話をするためにわざわざ俺と一緒に食べようと提案したわけではないだろ。さっさと用件を話せ」
痺れをきらした聖哉が本題を促すと一之瀬は何処か歯切れの悪いように話しだした。
「それでね、話なんだけど......実は竜宮院くんに勉強会で指導役をしてほしいんだ」
「.....何故、俺に頼む? 指導役はお前と神崎だけで充分なはずだ」
「見たよ。小テストで竜宮院くんが満点だったの」
そう、一之瀬が言う通り聖哉は小テストでBクラスで唯一満点を取っていたのだ。
「それで竜宮院くんに指導役をやってほしいんだけど、どうかな?」
「嫌に決まっているだろ。どうして俺がそんなことをしなければならない?」
「竜宮院くんが教えてくれたら、皆の点数が上がってクラスポイントが上がるかもしれないんだよ?」
「断る。クラスの平均点が上がってもクラスポイントが増加するとは限らない。それに俺を勉強会に誘おうとしている理由は、平均点上昇だけではなく俺をクラスメイトと仲良くさせるためでもあるのだろう」
「うっ......」
聖哉に図星を突かれた一之瀬は悔しそうに唇を噛みしめた。一之瀬には勉強会を開くにあたって二つの目的があった。一つはクラスの平均点を上げること。そしてもう一つは聖哉とクラスメイトを交流させる場を設けることだった。
お察しの通り、聖哉はクラス会議の一件からほとんどのクラスメイトから嫌われるようになった。中には一之瀬や神崎、柴田のように話しかけてくれる生徒もいるがそれでもクラスのほとんどは聖哉を煙たがっていた。
中々聖哉から協力を承諾してくれないことに困った一之瀬がある一つの秘策を繰り出した。
「そういえば、竜宮院くん。前にここで店員さんと揉めあっていたよね」
一之瀬の言葉に聖哉はギロッと鋭い視線を一之瀬に向けた。
「揉めあってなどいない。ただの事実確認だ」
「にゃはは......自覚なかったんだ......。ともかく。実はそのときの揉め合いが原因でBクラスのクラスポイントが少し減点されたらしいんだよね」
「ほう。俺がクラスポイントを下げたという証拠があるんだろうな?」
そのことに一之瀬は堂々と胸を張り自信満々な様子で答えた。
「うん。前に
一之瀬がそう述べると聖哉は憤りを隠せなかった。
「......ちっ。あのババア、余計なことをしやがって。口止め料でも払っておけばよかったな」
しかし一之瀬が述べたことは全て事実だったので聖哉は反論の余地は無かった。聖哉は明日から星之宮に質問する量を100倍にすることを心に誓った。
「それで、どうかな? クラスのために協力してくれない? まさか、クラスに迷惑をかけているのに自分は協力しないなんてことはないよね〜?」
一之瀬がニヤニヤしながら聖哉の顔を覗き込む。聖哉は今すぐにでもこのムカつく女の顔面を叩き割ろうと思っていたが監視カメラがあったのでなんとか怒りを抑え込んだ。
「はぁ......。分かった。俺も勉強会に参加させてもらおう」
「よしっ。決まりだね!」
聖哉からの承諾を得た一之瀬は満足そうに微笑んだ。
「そうだっ! 確か私と竜宮院くんって連絡先交換してなかったよね? これから何度かクラスのやり取りがあるだろうし、交換しようか!」
「断る」
「えっ......。なんで断るの!?」
一之瀬は断られるとは思っていなかったので呆気にとられていた。
「無闇に人の個人情報を渡す馬鹿がいるか。もし連絡先を交換したらお前がスパムメールを一方的に送りつけてくる可能性がある。それか俺に何かと理由をつけて無理矢理ウイルスサイトを開かせて俺の端末からポイントを盗む可能性がある」
「クラスメイトにそんな悪い事しないって!?」
「どうだかな。そもそもお前が本当に一之瀬なのか怪しい。もしかしたら一之瀬に変装した他クラスの生徒と言う可能性もある」
「連絡先交換するためにわざわざ変装する必要ないでしょ!? もういいから、早く端末出して!!」
「勝手な女だ」
一之瀬のお願いに聖哉は渋々ながらも連絡先を交換することとなった。
◇◆◇◆
放課後、早速今日から勉強会を開くこととなった。指導役として一之瀬、神崎、聖哉の三人が選出されて、三人で昼の部と放課後の部と一度に二人が指導役をやる形で決まった。最初は聖哉が指導役をすることに文句を言った生徒もいたが一之瀬がなんとか説得して、渋々了承することとなった。
最初に指導役を担当する二人は一之瀬と聖哉だった。
図書館に行くと思ったより混雑していて生徒達がグループになって勉強をしていた。一年生以外の学年もいることからテストは重要な存在だと感じられる。空いたスペースに席を確保し、先生から配れたテスト範囲を勉強していく。
「一之瀬さん、助けてください!」
「は〜い、何処が分からないのかな? えっとね、この問題は......」
問題が分からない生徒が指導役に助けを求めるがクラスから煙たがれている聖哉には助けが来るはずもなく一之瀬が答える形となっていた。
質問がなく手持ち無沙汰になっていた聖哉は勉強しているクラスメイトを眺めていると、珍しい生徒がいたので聖哉はその生徒の元へ話しかけることにした。
「おい、お前は勉強会に来ないといけないほど頭が悪かったのか?」
聖哉が話しかけたのは姫野だった。姫野が聖哉の顔を見た瞬間心底嫌そうな顔つきになった。
「ふざけんな。一之瀬に無理やり参加させられたんだよ」
一之瀬は聖哉以外にもあまりクラスと交流していない生徒を中心に誘ったようだった。一之瀬のお願いがあまりにもしつこかったようで姫野は仕方なく一回だけ勉強会に参加することとなった。
「おい、そこの問題が分からないのか」
姫野はバツの悪そうな顔になっていた。
「順列と組み合わせかどっちを使えばいいか分からないんだよ」
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例題15
男子 5 人(A、B、C、D、E)、女子 2 人(X、Y)がいます。
この中から3人を選ぶ方法は何通りあるか。
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姫野の言う通り順列と組み合わせの区別は数Aを習う上で最初に躓く人が多い所だ。問題文を理解できてもどっちを使えばいいのか分からない人は非常に多い。
「いいか。順列と組み合わせは確かに似ているが厳密に言えば違う。この二つを見分けるポイントは順番に並べるか順番を変えると意味が変わるかを考えることだ」
「この問題は、7人の中から3人を選ぶだけだから、並べる必要はない。そして「A、B、Xを選ぶ」のと「X、A、Bを選ぶ」のは意味が同じになる。つまり、この問題は「組み合わせ」の問題ということだ」
聖哉が一通り解説を終えると、姫野は驚いた表情になっていた。
「.....意外。あんた、人に教えるの下手くそだと思ってた」
「あたりまえだ。これくらいの問題出来て当然だ。お前のような馬鹿とは違ってな」
「......っぜ。一言余計なんだよ」
聖哉は姫野のことを馬鹿にしているが姫野はどちらかというと学力が高い方である。
「そもそもこのくらいで悩んでいるようじゃこちらとしても困る」
「は? それどういう意味?」
「それくらい自分で考えろ」
「(は? こいつ、クソうぜぇぇぇ! しかも頭が良いのが更に腹が立つ!)」
それからある程度聖哉に教えて貰い、姫野は一通り順列と組み合わせの区別ができるようになった。
「ふぅ......まぁあんためちゃくちゃうざいけど解説がとても分かりやすかったから今日くらいは感謝してやるよ。ありがと−−」
「いや、まだだ」
「は?」
そう言うと聖哉は姫野の座っている机の上に大量の問題集が置かれた。
「この程度ではまだ不安だ。小テストの最後の三問で高1で習わらない範囲が出たんだ。中間テストではもっと難しい入試レベル、いや難関大学の問題が出るかも知れない。今から高3の範囲までは勉強できなくても高1の範囲くらいならお前にもできるだろう。さぁ、やるぞ。勿論、休憩はこの問題集が全部解けるまでだ」
刹那、姫野は突然椅子から転げ落ちた。
「え、姫野さん!?」
周囲にいた生徒たちが驚いた。無理もない。姫野はさっきまで同じような問題ができるまで100回まで休憩することなく何度も解かされたのだ。何回か解いていくうちにストレスがだんだんと溜まっていて、それに追い打ちをかけられるように大量の問題集が見た瞬間ついにストレスの限界が来てしまい姫野は気を失ってしまった。
「姫野さん! 今、保健室に運ぶからね!!」
当然周りは勉強会どころではなくなり中断という形になった。ちなみに聖哉が指導役から外されたのは言うまでもない。
アンケート回答してくれた方ありがとうございました