【仮題】感情トランスポーター 作:Gensigert
ケルシー先生が端末をタップすると、今回の救助作戦に動員されるオペレーターの一部がプロジェクターによって映し出された。ホワイトボードに映るのは四隊と、一人。
この場に居るのはそこから一隊を除いた三隊と一人だ。
「アーミヤを入れた医療オペレーターを軸とするアーミヤ隊が石棺を直接目指す救助隊として、行動予備隊A4、行動隊A2、そしてアビスがこの区画で、それぞれの範囲での警戒及び非常時の安全確保を担ってもらう。隣接する他区画の隊とは別紙の全体配置図から連携を取ることが望ましい。続いて撤退についてだが──」
「すみません」
ボクが声のした方を見ると、ピンク髪のコータスが困惑した様子で手を挙げていた。
「あの、間違いであって欲しいのですが……アビスさんは一人で作戦に臨む、ということなんですか?」
「アビスが一番効率的に動くにはこれが最適だ──と、アビス自身から宣言されている。ああ、一応言っておくが私は反対したからな」
「よろしくお願いします」
困惑が伝播していく。半ばそれは予想できていたことで、当然だと思う。
ウルサス帝国の中で昨今起きている暴動や、それを政府が鎮圧する過程で巻き込まれたとしたら、ボクたち民間人に打つ手はない。隊を組み複数人で行動している時よりも闘争が困難な単独行動において、そのリスクは倍以上に跳ね上がる。
いくら効率の話をされたってボクのアーツについて誰も知らないし、今までロクに関わりを持ってこなかった人がそんなことを言い出せば何を勝手に、と思う。
ただ、それでも、足りないのだから仕方がない。
ボクがドクターさんとやらに見せる姿は鉱石病を恐れている群衆の中の一人であってはいけない。鉱石病を抱えて尚尽力する一人の子供でなければいけない。
そして、ドクターさんはロドスに入らなければならない。
いや、実際は、ほぼ確実にロドスに所属することになると思う。だってロドスは人望溢れるリーダーの信念を受け継いだ組織で、ドクターを受け入れる姿勢ができていて、しかもそれを成し遂げたのはリーダーを共に支えた同僚だったんだから。
だからこれはただの自己満足だ。自己満足でボクはロドスという企業に要らない心配を掛けさせている。ただ、それを分かっているであろうケルシー先生はそれを容認した。
「では撤退時だが、行動隊E1がアーミヤ隊とこの地点で合流する手筈として、また近辺にあるブレイズ隊のエアボーン地点が天災によって──」
ドクターさんを、ロドスの手に。
それはケルシー先生にとって重大な意味を持つことをボクは分かっている。
「E4偵察部隊はこのポイントから──」
結果を最良にしてみせる。
それはケルシー先生を手伝いたい、ボクの身勝手な我儘だった。
長い会議が終わり、月が地平から顔を出した。作戦決行は明日の午前からで、それ以降は天災が降る可能性の高い期間に突入する。
つまり明日を過ぎれば最悪ドクターさんは永逝されて、数年どころか果てのない眠りにつくことになる。
──もし、ボクが心変わりすることなくそれを伝えられたとして、果たして何か行動できただろうか。
もしできなかったとして、それがどうなるという訳でもないのに思案する時間が勿体ない。そう思って、そう切り捨てて、それから逃げて、ボクは気晴らしに艦内を散策し始めた。
甲板に吹き荒ぶのは冷たい風。
ロドスの航路によると、そう遠くないうちに龍門という名前の都市と接近するらしい。
『直に、この真っ暗な景色も照らされる。しかしそれは始まりに過ぎないということを、私たちは覚えておく必要がある』
訓練初日、あの別れ際にケルシー先生がそう言っていた。ドクターを手に入れる未来と重ねているのだろうか。それともただ単にそれが嚆矢となるのか。
──そうであるなら、何が始まるのか。
「貴女は知っているんですか?」
宵闇に満たされていた屋上階の影。
濡羽色の髪を靡かせて、隠れていたクロージャさんが姿を現した。
「どうだろうね、あたしには判別できない」
気配に気付かれた動揺を押し殺してか、少しだけ強張った動作でクロージャさんはやれやれと肩を竦め首を振った。
言動の全てが疑わしく思えて、ついクロージャさんを見つめる。
「本当だよ?自分が何も知らないことを知っているアビスくんとは違って、あたしにはもう何が本当なのかよく分からないんだ」
トトン、と軽やかなステップを踏んで、クロージャさんは屋上の端に立った。そのまま腰を下ろし、足を揺らしてロドスの壁を叩く。
何も知らないボクは、クロージャさんから数メートルの場所にある丁度いい突起に座った。
「アビスくんは、バベルって知ってる?」
「少しは、知っています」
「へえ。頑張ってるじゃん」
どこからか出したドリンクをボクに投げ渡す。その顔はいつも通り何を考えているのか分からない。
「じゃあリーダーの名前は?」
「知りません。サルカズの女性だとは聞いています。カズデルの後継者候補だったということも」
「なるほどねぇ……」
何がなるほどなのかとボクの視線が刺し貫いて、しかしクロージャさんは既に沈んだ太陽の方角を見つめて語らなかった。ドリンクに口をつけて、クロージャさんは一気に呷った。
ボクに投げ渡されたのは長い缶のものであったけど、クロージャさんが持っていたのは短くて小さい。何秒かすれば、クロージャさんは口につけていた缶を緩慢な動作で下ろしていった。
ボクには飲めない炭酸飲料を横に置いて、ボクはクロージャさんの見つめる先を追った。
太陽は、地平線に隠れている。
月と星々は、消えた太陽に代わってボク達の
太陽が沈んだ後に、それを惜しんで追いかける人はそう居ない。また明日も昇る太陽に固執する必要はない。無駄だと割り切って、星空でも堪能するのではないだろうか。
もし、もしも太陽が墜ちてしまったら、人々はどうすればいいのだろう。代わりになってくれる月や星を探すのだろうか。それとも、自分たちの住む星を掘って、底が見えているエネルギーを更に消費させるのか。
ボクには少しだけ分かることがある。きっと、人々が最初に唱える言葉は「ありえない」だということだ。それで次は太陽が本当に戻ってこないことを確認して、どうしたら自分の住む星がそうならないかを考える。
ただ、もしその後で太陽に代わる
きっと、本質は変わらないのだと思う。
ケルシー先生の偉大さが身に染みて理解できたような気がした。あの人は太陽を失くした後、他の天体に住むアーミヤと協力して月を作った。それはいつしか本物の輝きを得て、他の天体でさえも不思議な力で吸い寄せる。
クロージャさんはどう思っているのだろう。
太陽を欲してしまう時があるのだろうか。
それとも、もしかして──。
「純正源石を買うのは、ドクターさんですか?」
小さな反応が、けれど確かに確認できた。
クロージャさんの星が選んだのは、消えた太陽を欲することでも、人工の太陽を作り上げることでも、況してやその偽物の太陽に吸い寄せられることでもない。
ドクターさんを自分の中で太陽にしてしまえばいい。クロージャさんにとっての月は、最初からそこにあったのだから。一度眠りから覚めれば光り輝いて宇宙を照らすような、そんな都合の良い存在があったのだから。
──なんて、ボクらしくもないことを考えた。
「クロージャさんも、ケルシー先生も、同じなんでしょうか。クロージャさんにとっての月が、手を加えられて太陽になる。そしたらみんなハッピーですね」
クロージャさんは何も言わない。
感情を掻き立てようとしてみたけど、クロージャさんは何も言葉にしない。
「消えた太陽に見向きもしないのであれば、それで幸せになることができたんでしょうけどね」
答えない。いつもはうざったいくらいのブラッドブルードは只管に沈黙を貫いていた。しかしそれは、むしろボクにとって上手くいっていることを示していた。
湧いたバベルへの好奇心を満たすため、クロージャさんの感情を刺激する。珍しくボクは他者の事情に深入りするという、『不正解』の選択をしていた。ああ、この時のボクの思考は本当に良くなかった。
静かな甲板で、時間だけが過ぎていく。
月が昇る。
黒い髪が風に揺られて月光の下へと躍り出る。しっとりと湿気を孕んだ髪は返って目を背けたくなるほどに優美な輝きを纏っていた。
クロージャさんの放り捨てた缶が、ロドスの下の方で軽い音を立てた。小さな体の動きが発する微細な衣擦れまでもが耳へとこびりつく。
風が鳴いた。
ツノに巻きついた鬱陶しい髪を手櫛で梳いて、撫でつける。夜風の吹く甲板はとても静かで、吊り下げ式の源石灯の揺れる音がその静寂を切り裂いた。
次第に風声も収まって、クロージャさんの声が突然響いた。
「アビスくんって、やっぱり人と接する経験が足りてないね」
棘のある言葉。
感情の発露。
「君にとって、ここが月でもないくせに」
その毒舌は、ボクが思っていた以上にボクへと牙を突き立てた。取るに足らないマナー違反の好奇心は、ボクに虎の尾を踏ませた。それを、ボクはこの時遅れて理解した。
反論したくて、反論できなくて、でもそれを認める訳にはいかなくて、脳に押し寄せる葛藤がエラーを生み出した。
それでも、ボクはもう月を見つけたはずだったんだ。太陽の代わりとなり得るものを、ボクは見出したはずだったんだ。
「まだそうじゃなくたって、ボクは」
「君にとっての太陽は人なんでしょ?分かるよ、君ってそういう顔してる。誰かに頼らないと生きられない──って人の顔」
ナイフのように尖った言葉遣いはボクの神経を逆撫でた。
ああいや、ダメだ。先に挑発したのはボクの方なんだから、笑って受け流さないと。そんなことを考えた。
笑えはしない、受け流せもしない、幼稚な精神で大人ぶって、そんなことを考えた。
「ロドスが月?あはは、笑える」
クロージャさんの笑い方は、まるで本心から嘲笑しているようだった。いや、本当にそうなのかもしれない。ボクにはそこまで関係ないことだったけど。
「君一人に注がれた感情と、平等に降り注ぐ庇護。今の君は、ひょっとすると源石になって消えても思い込み続けるかもしれないから言っておくね?」
クロージャさんが振り返り、ボクと目が合う。
「その二つに差が無い訳ないでしょ。少なくとも今のロドスは、君が満足できるようなものじゃないよ。決して、ね」
風に髪が靡く。
「ドクターが起きて始まるのは、ただのドクターの物語だよ。二部構成なんて羨ましいよね、間違いなくあたしたちより制作費にお金がかかってる」
顔を元に戻す。
「所詮、あたしたちはあたしたち。モブキャラは黙って背景に居るのが一番だよ、っと」
揺らしていた足を戻してクロージャさんは立ち上がる。
はためいた服の裾を押さえて、乱れた髪を直して、そしてそれだけだった。
クロージャは空になど目を向けず、甲板から去っていった。
「それで、どうしてそんなに怒ってるのよ」
「関係ないでしょう」
「関係ない訳ないでしょう、ここに居るんだから」
珍しく画材を持っていないシーさんがボクを見て目を細める。それは本当に珍しく、ボクとの会話と、それによるボクが抱える問題の解決を狙っての行動だった。
意外性に少しだけボクの拒絶が剥がれ落ちて、その隙間からこじ開けるようにシーさんが距離を詰める。
「ほら、話しなさいよ」
床に座って壁に寄りかかっているボクの両肩に手を置いて何度も揺さぶる。何度か勢いが強過ぎて後頭部を壁に打ち付けて、それなりの痛みが伝わってくる。
「分かりましたから、やめてくださ──ちょっと、シーさん!」
ボクに──恐ろしくも文字通りの意味で──更なる揺さぶりをかけてきたシーさんの両腕を掴んで強引に止める。シーさんが痛みを感じるほど強くは握らず引き剥がすように力を込める。
ギチ、と両肩への負荷が強くなった。少なくともボクが何か話すまでは手は離さないらしいと直感で理解した。
「……今から数十分前、甲板でのことです」
「つまり、何をどうしたいの?」
恐らくだけどイマイチボクの行動原理が理解できず、シーさんは首を傾げた。そしてその問いかけに返せる言葉を、ボクは持っていなかった。
どうしたいのかなんて、分からない。
「それが分かっていればこの通路には居ませんよ」
食事も済ませているのだから、この通路に居る理由なんてない。ボクの言いたいことはそれだけじゃなかったけど、決してそれを否定する内容でもなかった。
シーさんが口の端を僅かにひくつかせた。
「それはそれでムカつくわね」
「だからどうという訳でもありませんけどね」
「それを言うのは私なのよ」
そうですねと返すと、無言のままに頭を掴まれて振られた。すぐに気持ち悪くなったので即座にそれはダメだと制止したけど、結局のところボクに拒否権はなかった。
しばらく経ってようやくシーさんが満足して、気分の悪くなったボクは壁に凭れながら体力の回復を測っていた。
「貴方はもしかして、後悔してるのかしら」
「後悔ですか?」
「ええ、後悔。貴方って最近ケルシー先生に絆されていたじゃない?」
「自覚はありませんが」
そんな風に見えていたのか。ただそれは兎も角として、あまり外に出ないシーさんがそうもボクのことを理解できるものだろうか?
でも思い当たる節はあるし、的外れなことを言われた訳じゃない。何だったらそれに納得している自分すら居る。自覚はなかったけど、確かにそんな感じだった。
「貴方はケルシー先生に絆されていた。でもクロージャの言葉で、貴方はロドスのために働く意欲を削がれてしまった。生きる意味として見出していたオペレーターとしての仕事が自分にとってなんら意味のないものだと思えてしまったのね」
まるでボクの心を読んだかのように、その言葉はぴったりとハマった。ボクの体も、それこそが正解だとでも言いたそうに硬直した。
ただ、本当にそれが模範回答だったとしても、感情の面では反論したくもある語り口だった。
「とっても我儘ですね」
自己嫌悪に顔を歪ませながら、ボクは毒を吐いた。正解を中傷することはつまり、今のボク自身を否定するということなのだから、当然だった。
なんて我儘なんだろうか。ケルシー先生のことを応援しておきながら、一助になりたいと願いながら、その一方で自分が不快に思う相手が関係するとすぐに正反対のことを考える。
ボクの方が悪いのにクロージャさんを責めたくなった時点で相当我儘だけど、ケルシー先生とのことにそれを関係させるのであれば、ボクの自己中心さ加減は輪をかけて酷い。
けど。
「人なんてそんなモノじゃない」
シーさんはボクの自己嫌悪を切って捨てた。あっけらかんと、それはまるで好きな食べ物を聞かれた時のように軽々と、シーさんは言い放った。
それに論駁しようとしたボクの額に、シーさんは白い指を押し当てた。
「今から大事なことを聞くわ。いい?」
返答を待たず、黙したボクの前で真剣な顔で口を開いた。
「ケルシー先生を助けたかったけど、クロージャが嫌いになったから手を貸さなかった自分と、嫌いな人まで助けてやれる自分、どっちがいいのかしら?」
「それは、後者ですが」
その質問は二極化が過ぎるとボクは思う。
「ならそれでいいのよ。なりたい自分になりなさい。そのために努力できれば完璧よ。何も言うことはないわ」
シーさんのマイペースはここから来てるのかな。何も言うことはないとか言ってるけど、もし憧れたのがテロリストとかだったらどうするんだ。
いや、その辺にもこの人理解ありそうだな。だってシーさんだし。
「──とは言ってみたけれど、好き勝手やられても迷惑ね」
「シーさんが言うんですか!?」
「はあ?私が何したって言うのよ!?」
「数日前には訓練室を占領してオペレーターを大いに困らせたと聞きましたが、それは嘘なんですか?」
「……」
やっばり本当なんじゃないですか。
いや、実はそれは流石のシーさんでも嘘だろうと思って先鋒役に出したんですけど、まさかの本当なんですか。
口に出すまでもなく表情に全部出ていたのだろう、ボクの顔を見たシーさんがぷるぷる震えている。
シーさんが筆を一振りすると、小自在が現れた。
彼我の距離、僅か1メートル弱。
「えっ」
「ひ、人なんてそんなモノじゃない!」
小自在に吹っ飛ばされ、何かに当たった後、ボクの意識は闇の中に溶けていった。
話を一旦区切ってアビスは顔を上げた。アビスの目には中は暗くて見通せない、小さな穴が見えた。それは黒く縁取られた穴で、Wの手にしている筒の中で、つまりはアビスに向けられた銃口だった。
「あんた、あたしに嘘をついてるでしょ」
「どうしてそんなことになったのか聞かせて欲しいな」
「だっておかしいじゃない、あたしはそのシーって女がどんなヤツなのかは知らないけど、ロドスにそんなオペレーターは居る訳がないってことくらいは分かるわ」
どうやらシーが中傷されているらしかった。アビスはWに分からないくらい小さく怪訝そうな雰囲気を増して、Wが何故そんなことになったのか頭の中で精査する。たしかにシーはオペレーターではないのだが、それを言いたい訳でもないだろう。
「Wは知らないのかもしれないけど、ロドスのオペレーターは割とどこかおかしいんだよ」
「あんたねぇ……あたしには分からないとでも?」
信じようとしないWに、アビスが手のひらを見せる。待たないわよ、と言おうとしたWの前で、一本指が折られた。
「とある医療オペレーターは病人に自白剤を処方しようとして、患者の隣に居た重装オペレーターに殴られ吹っ飛ばされた」
「えっ?」
「とある狙撃オペレーターはドクターを射る時に集中し過ぎて頭部の装備を撃ち抜いた」
「えっ」
「とある医療オペレーターは人を拉致する計画を立てて、他多数のオペレーターと共に実行しようとした」
三本折られて、しかしWは懐疑的な目を向け続けていた。
「それが本当なんて保証はないわ」
「では一つ言っておきたいんだけど、もしボクが今までの話で嘘をついていたとして、何か問題ある?」
「大アリよ、あんたの話が信用できない」
「それは最初から分かっていたこと、そうじゃない?ボクが君に対して本当のことを洗いざらい話すなんてことは幻想だ。ボクにとって今のこの状況は日常の一コマと然して変わりはない」
アビスの言っていることは本当だった。
アビスはロドスにおいてほぼ一番鉱石病が進行している重篤な患者だ。それは例えばイフリータやスペクターなどと比べたとしても、アビスの脆弱な生理的耐性を鑑みればトップだと断ずることができる。
そしてその中に含まれる諦念、少しの期待。それを覆い隠す程の恐怖。Wが末期の鉱石病患者とどれほど接したことがあるかは分からないが、もしそれが皆無だったとしてもそのアビスの莫大な感情を感じ取れないような愚鈍さは持ち合わせていなかった。
「安心して、少なくともチェルノボーグでのことを誤魔化すほどボクは命知らずじゃない。ボクは死にたくないんだ」
「……よく言うわ」
アビスが姿勢を正す。ようやくWの本当に知りたいと望んだ情報へと差し掛かっているのだから、Wにアビスを撃つ道理はない。
「じゃあ、これで許してあげましょう」
マズルフラッシュに目が眩む。
Wの腕は反動を受けて少しだけ上を向いている。特に射撃の態勢にもならず撃てば体を傷つけそうなものだが、Wは経験と力で強引にそれを押しとどめていた。
室内で撃ったために耳鳴りがひどい。だがWはそれに慣れているのか、飄々とした笑みを崩さなかった。
アビスの耳から血が垂れた。
「さぁ、続きをどうぞ?」
「本当に、最悪だね」
アビスは耳を抑えることもせず、その左肩へと真紅の液体を滴らせながら次を話し始めた。
しっとりクロージャ、良いと思います。