【仮題】感情トランスポーター   作:Gensigert

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そろそろちゃんと続きを書かないとマズいですね……一応時間がかかってる言い訳もあるにはあるんですが。


三十九 過去の重さ

 

 

 形容しがたい感覚に身を包まれる。緑に囲まれた部屋の中で感じるこれはつまり、空気が美味しいってやつなのかな。

 まあでも、この感覚は何度も経験している。だってボクが今足を踏み入れたここ、療養庭園に居ればいつだって感じられるものだから。

 

 暖色の照明に照らされた石畳がくねくねと道を作っている。その両脇や道に囲まれた空間全てに緑はある。島のようになっているそこそこ大きい木が生えているようなものもあれば、胸の高さくらいしかない植物が数種類並んでいるだけの空間もある。

 温室や倉庫などを除けば、療養庭園はそれに終始する。当てはまらないものは精々が所々にあるベンチや、片隅に置かれた自動販売機くらい。

 

 ボクがここを訪れた理由は、演習の予定が入ったから他の管理人さん方の手伝いをしてほしいとパフューマーさんに頼まれたからだ。ポデンコさんやグロリアさんまで駆り出されているらしく、あまり面識のある人は見つからない。

 だとしてもボクは完璧な仕事を全うしなければならない。ポデンコさんが帰ってきた時に数株枯れていたりしたら申し訳が立たない。

 

 そんな感じの意気込みで臨んだ手伝いは、びっくりするほど簡単なことばかりを任された。ただ肥料と水を蒔いて回るだけのお仕事で、範囲こそ広くてもやる気さえあれば数時間で終わってしまう。

 結局ボクは他の職員さんたちより先に作業を終了して、御役御免になってしまった。

 

 

 庭園の壁沿い、自販機の隣にはゴミ箱がある。

 そのゴミ箱の向かいに当たるベンチにボクは座っていた。大きい施設になるとこういうの必ずあるよね、みたいなスペースの一角だ。ベンチは全部で三個、自販機の数は二個。もう少しで夏を迎えるし、そうなればここも盛況になるのかな。

 ふわりと鼻腔をくすぐる甘い匂い。ボク個人の意見としては、花の香りを直接嗅ぐよりも、こうして風に乗って運ばれてきた匂いの方が良いと思う。なんていうか、適度に薄くて混ざっているんだ。

 

 洋風のベンチ、その背凭れが背中に少しだけど痛い当たり方をしている。座り方が定まらない。なんだかお腹の方も痛くなってきた。発熱の方は朝からずっとで、もう諦めることにした。

 

 結局ボクはベンチに寝そべった。

 庭園の上にある天井と、それを突くように聳えている特別背丈の大きい植物たち。とてもミスマッチで、天井があることに違和感を覚える。太陽でもある方がきっと自然に感じる。

 

 腕を頭の下で組んで、少し痛いけど枕にする。そうしてみれば次は目を閉じるんだ。日向ぼっこにはならないけど、こうして昼寝も悪くない。

 

 目を瞑れば、照明の光が瞼越しに明るかった。

 でも生憎ボクは明るい場所でも寝ることが出来る人種。少しずつ夢のある方へと手繰り寄せられているのを感じる。

 

 

 ──突如、暗くなった。

 

 瞼を上げてみれば、そこにはボクの顔を覗き込むヴァルポの少女が居た。鮮やかな赤に染まった双眸はボクの目の奥を覗き込んでいるようだった。そこに何があるのか、ボク自身もあまり分からないけど。

 目を開けたボクに対して何か反応を返すこともなく、今度はボクの足に視線を移した。ベンチを占領してる二本の足だ。

 座りたいのかな?眠気がさっきまで脳を占有していたせいで、ボクの頭は上手く働かなかった。だから話しかけることもなく、ごく自然な動作で上体を起こし、足を地面に下ろした。

 

 彼女の髪は綺麗なピンク色だった。それは瞳孔の緋色と比べても遜色ないほどボクの目を奪う。

 毛先が暗い灰色に染まっているから、どちらかは染料の色なのかもしれない。

 

 そして何を言うでもなく、ボクの隣に座った。

 

 

 ……えっ、これどんな状況?

 

 

 ガン、と音がした。ボクの背丈より大きなハルバードの石突(いしづき)が床を突いた音で、一層考えてることが分からなくなった。ここに戦闘をしにきた訳でもないだろうし、ボクと彼女の間に何かある訳でもない。

 あるとしても、ボクが一方的に彼女を気にしていたくらい。彼女の方からのアプローチがあるとは思ってもみなかった。

 

「初めまして、だな」

 

「はい」

 

 沈黙がベンチに腰を下ろした。

 ボクも横に座る彼女──フロストリーフさんも、自販機の方を向いたまま黙っている。

 

「療養庭園にはよく来るのか?」

 

「そうですね、ほぼ毎日来ています」

 

「そうか」

 

 沈黙がベンチから腰を上げたかと思えば、すぐにまた座り直した。忙しないヤツだけど、今この場を支配しているのはそいつで間違いなかった。

 フロストリーフさんには見えない、反対側の手を少し動かす。特に意味もなくベンチを指で掻くように撫でて、沈黙のことを気にしないようにする。

 

 さっきまで最高のはずだった居心地は、たった一人の闖入者によって最低にまで落とされていた。エイプリルさんとかなら沈黙も心地いいんだろうけどな。

 

「その……いや、なんでもない」

 

 フロストリーフさんが声を発して、すぐに撤回した。そういうのはボクも反応しにくいから本当にやめてほしい。

 っていうかまず先に、何か用でもあったんじゃないんですか?ないとしたらボクの隣に座った意味は何ですか……?

 

 フロストリーフさんが立ち上がった。療養庭園は広いから、違う場所でゆっくりするつもりになったんだろう。

 そう思っているボクの隣に、すとんとまた腰を下ろした。手には自販機で売っている格安の飲料水があって、どうやらそのためだけに立ったらしい。

 

 どうして戻ってきちゃったんですか?

 

「少し、話がしたい。構わないか?」

 

「はい」

 

 胆力凄いな。コミュニケーション能力って言うんだっけ?シーさんとは比べ物にならない。たぶん。

 

「歳も近いし、まずは敬語をやめないか?」

 

「……うん、分かった」

 

 これはシーさん勝てない。絶対に勝てない。たぶん、なんて言葉はフロストリーフさん……じゃなくて、フロストリーフへの侮りだった。

 

「私の名前は、知っているか?」

 

「一応知ってる。フロストリーフ、で合ってるよね?」

 

「ああ、私はフロストリーフ。お前はアビスだろ?」

 

「知ってたんだ」

 

「まあな」

 

 フロストリーフはペットボトルの蓋を開けて一口飲んだ。

 

「声が図書室全体に響いていたからな」

 

「うわ、よく話しかけようと思ったね」

 

「……まあ、な」

 

 歯切れ悪くそう言うと、また変な沈黙がベンチに居座った。本来なら追求すべきじゃないのかもしれないけど、ここまであからさまだと流石にその選択肢も見えてくる。

 だけど、ただ単に図書室のことを思い出して今この会話を後悔しているのならボクはそれを露わにしたくない。もしそうだとすればボクは金輪際女の子と二人きりになんてならない。風評被害が大きすぎて泣きそうだ。

 

「そういえば、あの騒動は一体何が起こっていたんだ?私は前後が分からなかったからよく分からなかったが……」

 

「それ言わせるの?」

 

「私の中ではアビスが二股男なのか、ラーヤと呼ばれていたオペレーターが執念深い元カノなのかで議論の真っ最中だ。そのどちらかでいいと言うのなら──」

 

「オーケー、分かった。潔白を証明しよう」

 

 もう絶対女の子と二人きりになんてならないから。

 ん、あれ?今のこの状況……やめよう、もう考えたくない。

 

 

 

「──って感じかな」

 

 そう区切って、ボクは深くため息を吐いた。

 

「いつもそんなにコメディめいた日常を送っているのか」

 

 ベンチに座っているボクに、隣からペットボトルが差し出された。蓋の開いているそれをぐいっと呷る。

 快適なくらいに暖かいこの庭園の中で、その中に入っている水は冷たくて美味しかった。甘い匂いが香るこの場所では、特に何の味もしないことがむしろ良く働いてるのかもしれない。

 口元を拭って、謝辞と共に返す。

 

 それにしてもコメディなんて表現をされるとは。

 

「そんな面白いものじゃないよ。ボクより他の人の方が、きっと面白い人生を送っていると思うし」

 

「私にとっては中々面白かったが」

 

「希代な人だね」

 

「そうか?」

 

 首を傾げた彼女の髪が垂れる。

 そのカーテンの向こう側にある真っ赤な瞳が、某ブラッドブルードのやり過ぎ研究者と重なってしまう。謝った方がいいかな。あの人と同じだなんてちょっと可哀想だし。名誉毀損。

 

「話す機会はなかったが、こうしてその機会を取ってみれば……中々どうして飽きさせない人だな」

 

「それは光栄。ボクも気にはなっていたんだ、君のことが」

 

「ほう、それはいつからの話だ?」

 

「君が()()()()()()()()()()って聞いた時から。君が入職して一ヶ月経つか経たないかくらいの時かな」

 

 本当に、話してみたかったんだよね。

 まあ理由はそれだけじゃないよ。

 

「それに……」

 

「それに?」

 

 

 

「君は戦場に執着していたというのに、少し離れてみただけでこの世に新しい価値を見出したって聞いたんだ」

 

 

 

 ボクからすれば皮肉を込めて、だけどフロストリーフにはその皮肉も隠れて見えなかったみたいだ。

 

「もう半年以上前になるのか」

 

 何故だか酷く腹立たしく思う。

 無理解を咎める言葉がつい口から出そうになる。

 

 とは言えボクの方から地雷に誘導して爆破するなんて理不尽だ。ボクの皮肉だってフロストリーフからすれば理解しにくいことだろうから、それを言う権利や資格は残念ながら存在しない。

 

 でもそれを思うくらいは認めてくれ。

 過去に縋り付くボクが、過去を振り切った君のことを邪魔に思うのは仕方がないことだろう?

 

「過去の私には、現在の自分を予想できなかっただろうな。凍える寒さに付き纏われていたあの日々の中では、戦うことしか出来なかったのだから」

 

 フロストリーフが天井を仰ぐ。

 ボクもつられて上を向き、何も無いことを知る。

 

 そんな程度の差だったのかもしれない。

 ボクとフロストリーフの差っていうのは。

 

「勿体ないだろう」

 

「えっ?」

 

「いいや、なんでもない。それはそうと私の話だったな」

 

 フロストリーフが誤魔化した今の一言は、何に向けての言葉だったんだろう。その答えを見つけるには発言が不可解過ぎていて、その無表情の下には何も見えない。

 ……なんかボクの周りって基本無表情な人多くない?サリアさんとか、シーさんもあんまり笑わないし。

 代わりと言ってはアレだけど表情豊かなサルカズは居たなぁ。確か今はラーヤと一緒に龍門郊外で任務だったかな。

 

 ボクも早く外に出たいけど、フロストリーフの話も一度くらいは聞いておきたい。たとえそれがボクにとって全くの無駄だと分かるだけでも満足できる。

 

「概要くらいは知ってるよ。君は昔クルビアの少年兵として戦場に居て、けれど移ろう情勢の中そのままで居ることは許されなかった。所属していた軍が壊滅した時、君はまだ傭兵として戦斧を降り続けることを選んだ」

 

「間違ってはいない。その後傭兵として長い期間生きて、そしてロドスに出会った。契約を結んだのにも拘らず、ロドスは私を戦場に出さなかった」

 

 戦場がフロストリーフに付けた枷は本来の人格を歪めるほどだった。ケルシー先生から聞いただけの情報だけど、フロストリーフは戦場を当たり前だと認識していたらしい。

 それはきっと、ボクがリラを当たり前と思うことよりも数段ありえないことのはずだ。大切な人が近くに居ることを当然と認識することは自然でも、自分にとって害のある嫌なものを受け入れるのは相当な抵抗があるはずだから。

 

 それなのにフロストリーフは戦場と自分を結び付けていて、だからこそケルシー先生はフロストリーフを戦場から隔離した。それは恐らくケルシー先生としても、長い治療の一ステップ目だったんじゃないかな。

 戦場と共にあることを当たり前だと理解していたフロストリーフの思考を解きほぐす、それはほんの少し武器を振らなかったくらいで実現するほど易いことじゃない。

 

 でも事実そうなった。ボクが知りたいのはそこだ。フロストリーフの話にはまだ先があるはずで、どうやって戦場と自分を剥離させたのか聞きたい。

 どうやって、過去と決別するに至ったのか知りたい。

 

 

 どうして過去を捨ててしまえたのか、聞きたい。

 

 

「クルビアの少年兵。お前はこの言葉を聞いて何を思う?」

 

 えぇ、初っ端から嫌な話題。

 

「それ言う必要ある?」

 

「いや、無理にとは言わない」

 

 まあ別にいいか、その程度なら。

 

「銃口と親の死体」

 

「……それは、言わなくても良かったと思うが」

 

「いいよ。それがなかったらボクは一番大切な人に会えなかったから」

 

「ケルシー先生のことか?」

 

 えっ、ちょっ、そんな風に見えてるの!?

 

「嘘でしょ?」

 

「あ、いや、あー……冗談だったかもしれないな

 

「聞こえてるからね!?それってつまり冗談じゃない可能性の存在を肯定してるよね!?ケルシー先生とボクはどっちかって言えば仲悪い方だよ!!」

 

「ケンカするほど何とやら、と言うだろう」

 

「あの人はそういうのじゃないって!ボクのことが心底嫌いで、ボクのやることなすこと願うこと、全部最悪に持って行くんだ!」

 

「そうか?」

 

「そうだよ!」

 

 ケルシー先生はボクことが大っ嫌いなんだよ!?フロストリーフの考えがもしケルシー先生の耳に入ったらたぶん何の躊躇いもなくドクター並みの書類仕事とか押しつけてくるよ、あの人は!

 

「……後が大変になりそうだ」

 

「後って……今そんな話してなかったよね?」

 

「歳の差なんて私は関係ないと思う派だ」

 

 だ、か、ら!

 

「サムズアップしてもらって悪いんだけど全部間違ってるんだよねっ!!あとそれ文脈無いし、もっと言うといい加減元の話に戻ってくれないか!」

 

「それもそうだな」

 

「そうだよっ!」

 

 はぁー、はぁー……まさかリラのことを言ってケルシー先生と間違えられるなんて思いもしなかった。あぁ、ちょっと疲れた。

 

「水でも飲むか?」

 

「飲むけど」

 

「?」

 

 あの日より前だったら仕方ないと思えたのかな。ケルシー先生がボクへの嫌悪を表明したあの日以前なら、もしかして。

 いやないな。それでもリラには代わらない。

 

「それで、少年兵がどうしたの?」

 

 ペットボトルを手渡す。

 ちょっと飲み過ぎたかな。

 

「他の国では知らないが、私の居たクルビアでの少年兵の扱いは酷いものだった。平然と使い捨てられる私たちの命は正に、人的資源という表現が相応しかった」

 

 人的資源、か。あんまり好きじゃないけど、その考え方自体はとても効果的だと思う。人を数としか見られない上層部が、もし自分のことを『1』としか見られない奴隷を使役し始めたら、それこそ最高にマッチする。

 きっとその奴隷っていうのは、感染者だ。感染者を非人道的に軍事雇用することで、人的資源という考え方は人道に従ったまま実現することが出来る。

 レユニオンみたいな組織の成立さえ止められれば実現可能性は高い。まあそんな感染者たちよりも、強大なアーツを操る術師一人の方が手強かったりするけど。タルラさんとか。

 

 こんな感じの思考は珍しくないと思う。だからどの国でも少年兵ってそんなものじゃないかな。厚遇するより他にやるべきこともあるだろうし。

 ああでも、ウルサス帝国なんかは兵力があるから、余程追い詰められないと少年兵そのものが存在しないかもしれない。

 

「今でこそ平然と戦場に出ることが出来るが、少年兵になった直後は戦場が怖くて仕方なかった。アビスも分かるんじゃないか、そのあたりは」

 

「ボクは学校で戦い方まで教わってたから、そこまででも無かったかな。それにボクは人に大切な人を殺されたショックで、殺意だけは有り余っていたから」

 

 ボクが最初に人を殺したのは、リラに出会う少し前。スラムへと不用意に足を踏み入れた子供に目をつけた痩せぎすの男だった。

 男は持っていた雨樋のようなパイプをボクに振り下ろして、それをボクは真正面から殴って砕いた。とにかく憂さ晴らしがしたくて、もう一度振りかぶった男の腹にタックルして汚い地面に押し倒し、何度も顔面を殴った。

 

 ボクの体は頑丈で、男の頭蓋骨を全力で殴りつけてもボクのダメージの方が小さいくらいだった。だから遠慮なく全力で力を振るった。

 男はもしかすると、最初の数発で死んでいたかもしれない。少なくとも意識はなかったと思う。それでもボクは何十もの回数殴りつけた。

 それをやめたのだって、自分が死体を殴っている、と思ったからだ。やりすぎだとか満足したとかではなく、汚いものに触れたくなくて中断した。

 

 ボクとフロストリーフは抜本的な所で違っているのかもしれない。ボクは本能的で自己中心的な感情に支配されていて、彼女は論理を基にする感情に支配された。言うなればケルシー先生タイプかな。

 

「紅血が死と共にばら撒かれる戦場は、私以外のみならず私自身の命でさえも容易く奪ってのける。それを認識できないほど愚かな子供では居られなかった。……それを認識できず初陣に臨む仲間や、それを忘れてしまう先達は沢山居たが」

 

 へえ、フロストリーフには生き残るための考え方が最初から備わっていたんだ。

 自分以外と自分を同一視できない馬鹿から、戦場では死んでいくんだろう。自分は死なないなんて高を括っている向こう見ずな死にたがりは運を味方につけなければ生き残れない。

 

 フロストリーフ以外の少年兵は、どれだけの数がそれを認識できていたのだろうか。本当の意味で怯えていた子だけを数えればきっと、両の指で事足りる。

 

「軽々に命が消えていく。首は頭を繋ぎ止める役割を全う出来ず、体は易々と貫かれ鮮血を溢してしまう。そんな場面を、私はみんなより少し後ろからずっと見ていた」

 

 暖かい庭園の温度が少しずつ下がっていく。

 フロストリーフは手で弄っていたペットボトルをベンチに置いて、一つ溜め息を吐いた。それだけで冷たい空気は霧散していったけど、きっと今のアーツは無意識のものなんだろう。意識してボクをアーツで包むような人柄ではないようだから。

 

 だとすれば、どうしてそこまでのデメリットを容認して、ボクにその話をしているのだろう。出会って間もないボクに対してその話をする意味はどこにもない。それが自分の中でもまだ熱を持った過去であるのなら、ボクに話す意味が分からない。

 

「殺す勇気は出なかった。たとえ自分の味方が何人死んだとしても復讐しようとは思えなかった。それ以上に自分を守ることの方が大切だった。自分以外の存在を庇える強さなど夢物語で、自分以外から伸びる凶刃を躱すことも出来ないのだから当然だろう。私は戦闘の機会を出来る限り減らし、助けてもらえる位置でしか戦わなかった」

 

「それはそれは、お手本みたいな生き残り方だね。それで、少年兵としては最悪な戦い方だ」

 

「鉄砲玉を欲されていることなど、分からなかったさ。言葉にしてもらえなければ分からなかったんだ」

 

 そう感傷的に呟く彼女の姿は、とても小さく見えた。

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