【仮題】感情トランスポーター 作:Gensigert
三章最終話です。
……そういえば予約投稿する時になってようやく、章のタイトルが四章になっていることに気が付きました。恥ずかしいので言って欲しかったのですが、それを言うには感想を書くしかなかったようです。
作者も活動報告とか始めてみましょうか。
誰も見ないとは思うんですが。
ナイトメアに激励されてアビス探しに出立した私は、早々にその目的を果たすことができた。っていうか服に発信機がついてる日だったからそれは簡単だった。
でも一つだけ不完全な点があった。それはアビスが私の友達のイースチナと一緒に、仲良さげに話しながら歩いてたことだ。親しそうに、楽しそうに、歩いていたことだ。
どうしてそこに居るのは私じゃないんだろう。
イースチナにはとっくのとうに警告を終えていて、余程のことがない限り近づくことなんてないと思ってた。アビスは私を探してて、それはアビス一人でやるものだって勘違いしてた。
もし庭園で私が見つかってたら、アビスの隣には私が居たはずなのに。
裏切られたことが嫉妬と憎悪に火をつけて私の心を燃やしていった。でもそれも一過性のもの。アビスやイースチナはそう暇じゃないし、暇だったとしてもそう長い間一緒にいる訳がない。
そんな私の期待は、泡になって消えたんだけど。
しばらく私を探していた二人は、通路に腰を下ろした。小さく隙間を開けたドアの向こう、壁に寄りかかっているアビスは水筒に口をつけていて、その横ではイースチナが顎に手をやって考え込んでいた。
絵になる二人だ。柄にもなくそんなことを考えた。ロドスのオペレーターの顔面偏差値はテラの中ではかなり高くて、アビスはそれに見劣りしない程度。それで私は、精々一般人の中なら可愛いくらいの容姿。イースチナなんかとは比べ物にならないかもしれない。
もしイースチナがアビスのことを好きだったら、私はすぐに負けてる。冷静に考えれば考えるほどその答えは正しくて、嫌になった。
『あなたは何故ラーヤを探しているんですか?』
けど、私にだって信じられることはあった。アビスが私に少しは情をかけてくれてる、そんな夢物語に馬鹿みたいに縋ってた。
『それは……』
言い渋るアビスに、その夢は切り裂かれた。舞い上がってた私は突然背中の羽を失って、硬い地面に叩きつけられた。
アビスが特別に思ってるのは、少なくとも私じゃない。そう分かってるからこそ、精一杯アピールしてきたつもりだった。後から思い出して恥ずかしくなることだって言ったし、かっとなって手を出すことだってあった。それは全部アビスが好きだからで、でもそのほとんどはアビスに拒絶されてた。
アビスが何も言おうとしているのか、それは分からなかった。エレベーターの扉が開いて、なんか無駄にキラキラしたオペレーターが出てきて会話をぶった切ったから。
私は仕方なくドアの横で息を殺した。アビスのことは見えなくなったけど、見ていても今は辛いだけだったから、それでいいと思えた。
『諦めるのかい?』
ドアを潜って、ミッドナイトはそう私に言った。
『諦められると思う?』
私はミッドナイトにそう返した。私は自分のこの気持ちがそう簡単に冷めないと知ってたし、それは周りにもそうだと受け取られてると思ってたから。
『俺は甘い言葉を囁くのが仕事だったんだが──それももう過去の話だ。ハッキリ言うとライサ、君は諦めることになる』
『は?殺すぞ』
『俺が吐く嘘は甘いものだけさ』
そう言うミッドナイトの目は真剣だった。
『じゃあそうだな、こんなことは知ってるか?』
そうして、私は現実に気付いた。
『アビスは君に好かれていると思ってない。あくまで精神疾患の一種で依存状態になってる、としか思ってないんだ』
『私がどうしてそんな与太話を信じると思った?』
『真実はいつもほろ苦いものだからな』
『答えになってない』
ミッドナイトを押し退けて、私はエレベーターの方に歩いて行った。心の中に生まれた猜疑心の種が僅かに蠢いて、芽が出る日を今か今かと待っている。
『君を幸せにすることは、きっとアビスにしか出来ない。だからどうか君の恋路が実ることを、俺は切に願っているよ』
分かりきっていたはずのことが、何故だか心の深い所にまで手を伸ばした。私を幸せに出来るのはアビスだけ……どうして、アビスはそれを分かってくれないんだろう。
鉄の箱の中に一人きり。
私は一つ、弱音を吐いた。
まだ少し残っていた肌寒い空気が通路を流れていく。
ようやくライサの状況が飲み込めてきたのか、アビスは不思議そうな顔をしつつも口を閉じている。当のライサは言わずもがな、アビスを突き放していたその態度を貫いている。
ロクに集中できない環境に嫌気が差し、イースチナはアーツで温度を常温まで引き上げると共に本をしまった。
どうしてライサはそう捻くれたのか。原因が自分にあるとは知っていても、たった二度の接近程度で折れるような心じゃないということもイースチナは知っていた。
沸々と、イースチナの心には怒りが湧き上がってきた。そうだ、そんな風ではなかったのだ。そうなってはいけないのだ。
自分の友人であるライサに、自分が今まで見てきたライサに、
「ラーヤ。何をいじけているのですか」
「何が?」
ライサは相変わらず下手な愛想笑いを続けている。
それがまた、イースチナの神経を逆撫でた。
「その程度で誤魔化せるなんて思っているのですか?」
「私が誤魔化す?何の話してんの、イースチナ」
ライサはへらへらと笑いながら、揶揄うように首を傾げてみせた。偽る能力がないくせに必死で隠そうと努力する姿は、イースチナからして煩わしいもの以外の何でもなかった。
アビスは空気を読んで黙っている。今のライサに関してはイースチナに任せるのが吉だとようやく分かったのだろう。
「何をどう感じたのか、言ってみせてください」
「……何もないよ」
ようやくライサは下手な笑顔で取り繕うことをやめた。そして覆いが取られたその顔にあるのは怒りでも悲しみでも、況してや喜びでもない。
悲しみさえ追いつかないような喪失感と、怒りに例えることすら躊躇う醜い嫉妬心だ。
「何もなかった」
「だから、ですか?」
「そう言うのじゃないって」
ドン、と壁を本が叩いた。
「何もなかった。それなのに私にはあったからですか」
「別にそうじゃない。それだけだったらイースチナが居なくなれば解決する簡単な問題でしょ?」
少し調子が戻った。だが、それはイースチナの求めている像とは少し違う。もっと笑っていなくてはいけないのだ。もっと、アビスを追いかけている時のように楽しそうでなくてはならないのだ。
アビスを好きだとかいう感情はこの際どうでもいい。ライサは幸せでなくてはならない。
どうして自分がそう考えているのかも分からないまま、あるべき形に戻すため、イースチナは発言する。
「何故そんな態度を取っているのですか」
「……勝手に勘違いして期待して、それで空回っただけ。イースチナには関係ないでしょ」
「勘違いさせて期待させた被告人、発言を」
「えっ、あ、ごめん……?」
全く心当たりがなかったアビスは展開について行けず、イースチナによる本の鉄槌が下された。
「痛いっ!?」
「……イースチナ」
ライサの声にイースチナの挙動が止まる。
「勝手に空回ったって言ったでしょ」
「ふむ……そう言われるとそうかもしれませんね。しかし被害者が居るのですからこのくらいは当然でしょう」
「ちょっと、待っ、アーツはやめて!?」
射出されたアーツがアビスの額を執拗に追いかけ、アビスは結局撃ち抜かれた。追い討ちの連打によってアビスの体が次第に仰け反っていく。
「イースチナ」
口を衝いた言葉は、苛立ちを多量に含んだものだった。
「何ですか?」
「…………………………なんでもない」
「そうですか」
ライサはイースチナの思惑に気付いている。自分を元に戻すためアビスを撃っているのだと気付いている。だからそれを我慢したのは意地だった。
そもそもライサは、自分がそう長く同じ態度を取れると思っていない。何しろアビスとならレポート作成でさえも楽しく感じられるほど好きで、その感情は決して冷めてなどいないのだから。
しかしながら、告白されるらしいと思い込んでアビスを探した結果イースチナと並んでいるのを発見するなんてことはライサにとって地獄だった。イースチナには嫉妬して、アビスには独善的な怒りを覚えた。
自分は面倒な女だった。それをハッキリと自覚して、ライサは少しの間くらい自分の感情に逆らいたくなった。そこにアビスから好かれるかもしれないという醜い考えが存在しない訳ではなかったが、それ以上に、自分のことが嫌いだった。
自分のことは変えられない。
アビスへの恋情はライサの生き方を制限する。自分の中で生まれたに過ぎない感情はしかし、ライサ自身の目的を邪魔する障害になっていた。
「もう、いいです。私にできることも限りがありますし、私の言葉程度ではラーヤを変えることなんて出来ないでしょう」
「そんなことありませんよ」
「あなたは黙ってろください」
ライサとは関係なく割と本気で手が出そうになった。命令口調と敬語が不適当に混じっている言葉は、だからこそイラッときたイースチナの感情を余すことなく表現できる。
アビスはきゅっと口を結んだ。叱られた後のテンニンカと同じような雰囲気を持っている。イースチナは鬱陶しく思いながら目線を元に戻し、チラチラと窺っている友人の顔が目に入った。
自分はなんて無益な行為をしているのか。
「ラーヤ、あなたには無理なんですよ」
「何が?」
「アビスさんを嫌うことが、です。あなたには絶対に無理です。……それはあなたも分かっているのでしょう?」
答えは決まっていた。それが判然としていたからこそ、イースチナもアビスにイライラさせられたのだ。幸せにならなくてはいけない友人を幸せにできる男は、その友人を冷たくあしらっていたのだから当然だ。
それでも、理由なく好きでいられる訳はない。アビスが少なくとも友人としては付き合いやすい性分であることを理解して、イースチナはより一層ため息を吐きたくなった。いっそ最低な人であれば私刑するだけで済んだ。
だがそれを、ライサは不思議そうにして答えた。
「まだ勘違いしてるみたいだけど、私はアビスを嫌いになろうとしてこうしてる訳じゃない。嫌ってるフリでもない」
イースチナとライサの目が揺れることはない。
「最初に言ったことが全部なの。空回って、馬鹿みたいなことして、自己嫌悪してる。本当にそれだけなの」
「それが簡単に晴れるものなら良かったのですが」
ため息を吐いたイースチナを、怪訝そうな顔のライサが見つめている。
「何ですか?」
「どうしてそんなに踏み込んでくるのかなって」
「駄目ですか」
「ダメじゃないけど、理由なんて……」
一つしか思い当たらなかった。
「イースチナのそれが私のためじゃないから?」
あっけらかんと言い放たれたライサの言葉は、疑問符を浮かばせるに十分な唐突さを持っていた。無論浮かべたのはアビスのみならず、イースチナも同様である。
「何を言っているのでしょう?」
「見えてるんだよ。イースチナの目の中に、私に対しての感情がはっきりくっきり見えてるの。それはついこの間まで知らなかったけど、ようやく分かったんだ」
「何だったの?」
「違う自分を憐れんでた。違う自分っていうのは、自分みたいな境遇で自分のようにはならなかった人のことね」
ライサが気づく切っ掛けとなったのは、あのWとの邂逅だった。Wを見るアビスの目がイースチナと似た何かを持っていると気付いて、そしてそれが同情心を発端とする歪な自己愛だと知った。
「イースチナはさ、私に幸せになってほしいんだよね。今日じゃないけど、前からそれは聞いてたよ」
「それが憐憫だと言いたいのですか?」
「違う、そっちじゃない。まあここからは私の勝手な推測だけどさ、たぶん私はイースチナにとって幸せでなければいけない存在で、それを肯定することはイースチナ自身のためでしかない」
なんで私がそんな存在なのか、って?
ライサが続ける。
「私があのチェルノボーグを辛い経験なんてせず生き残った、最高に幸運なオペレーターだったから。そうでしょ?」
「私が幸せになってくれないと、イースチナたちに幸せが訪れるのはもっと先になる。だって助けられた私よりずっと不幸なんだから、それは当然だ、なんて考えてる」
「幸せな自分と、不幸な自分。私っていう幸せなイースチナがもし幸せじゃなくなったのなら、あれからずっと苦しんでる自分が馬鹿みたい」
「だってそれは、どれだけ不幸な目に遭わされたかなんて関係なく、このテラが等しく人を不幸にさせるものだと言ってるのと同じだから」
イースチナはアビスと真逆の位置に立っている。
境遇や性格はこの際考慮しないとして、テラに対する考えが抜本的に正反対だ。
テラは不幸を生み出すように作られている。
テラが不幸を作り出している訳がない。
源石を呪ったアビスに、テロリストを呪ったイースチナ。二人にとっての価値基準はそれぞれによって等しく歪められていて、それは死生観などが筆頭として挙げられる。
好きな人の源石で死にたいなどと宣う狂人が生まれついてのものだったなら、種族はきっとサルカズだ。
話が逸れた。
イースチナにとって重要なのは、テラではない。
救いだ。
イースチナは自分の人生にいつか現れるだろう救いを夢見ている。それは思春期の少年少女をして、自然なことだろう。アビスに影響されて少しは現実的に物を考えられるライサにもそのような考えは存在する。アビスは知らん。
ライサの言っていた通り、イースチナはアビスに救われたライサの存在に救いを見た。どんな状況にも救いの手はあるのだと信じた。自分の人生に小さな小さな希望が灯った。
ライサにとっての〝救い〟だったアビスには〝救い〟など存在していないのだが、そのあたりは知らないし、知っても意味などないだろう。
イースチナは一種の代償行為をしているに過ぎない。そしてそれの対象はライサでなくてはならないのだ。
ライサが、幸せにならなくてはならない。
その他は目に入っていない。何故か?──ライサ以外はイースチナ自身の〝救い〟と何も関係がないからだ。
「ラーヤ、私は……」
「そんなつもりじゃなかった?それは知ってる、だから私だって別に気付いても怒らなかった。それで良いと思えるなら、それでいいんだからさ。……でもね?」
ライサの手が壁を叩いた。
イースチナの体が大きく跳ねる。
「そろそろウザいかな」
ライサはイースチナを友人だと思っていたが。
イースチナはライサを友人だと思っていただろうか。
「ねえ、イースチナ」
ライサの表情が消える。
「自分のことにしか興味がないんだったら、さっさと部屋に帰って本でも読んでればいいんじゃない?」
「良かったの?」
「何が?」
「イースチナさんのこと」
一人分の空白を間に入れて、二人は話している。
「良くないよ。でもあそこで全部受け入れてたら、それはそれで間違ってた。ちゃんと生きるなら、友達が誰でも良くはないでしょ?」
アビスが死ぬことを隣で見届けると、ライサは言った。そしてアビスに言われてその後のことを考え始めた。
今までならきっと、そのままにしておいたのだろう。
「ラーヤ」
「なに?」
「言っておきたいことがあるんだ」
いつになく深刻なアビスの言葉に、ライサが姿勢を正した。鉱石病のことだろうか、それともまだ知らない他の何かなのだろうか。
「ラーヤ……いや、ラユーシャ」
「えっ」
ところで話は変わるが、ウルサス帝国人の名前には三種類の呼び方がある。
一つは本名、つまりライサの場合はそのまま
一つは略称。もしくは愛称と呼ばれることの方が多いかもしれない。友人や同僚など、幅広い相手から呼ばれることがある。ライサの場合は
最後の一つが、愛称。略称を愛称と呼んでいる場合は親称と呼ばれる。これは家族などの親しい間柄でのみ使われる特別な呼び方で、ライサの場合は
ライサの親称をアビスが知っていたのには訳がある。
なんてことはない、ライサがロドスに来てから少し経った後にその名前で呼んでほしいと言われたからだ。
通りがかっていたウルサス出身の職員の表情から何かを察し、呼称に関して少しの知識を仕入れたアビスは、一つ下の愛称でライサを呼ぶことにした。
そんな顛末で、アビスは『ラユーシャ』という親称のことを知っていた。
だがアビスは少ししか知らない。
親称で呼ぶのが家族くらいの特別親しい相手のみであることを知らない。
その頃はまだ問題行動もなかったため、その呼称も親しい相手がそう呼ぶのだろうくらいにしか認識していなかった。
ライサの頭に疑問符が浮かび、そしてそれが一瞬全て停止した。
今から言われる内容が徐々に見えてくる。アビスが何を言おうとしているのか察してしまう。
「ボクは」
「待って」
「えっ」
「待って。ちょっと待ってて」
アビスとは反対の方向を向いて深呼吸する。
新たな燃料を投下された体はより一層ヒートアップし、心臓の拍動がペースを上げる。
「何を聞けばいいのか分からないけど……どう?」
「ダメだった」
「そっか」
何が何だか分からないが、今はダメらしい。
「いつなら良くなりそう?」
「無理」
「そっか」
何が何だか分からないが、無理だったようだ。
「それなら、また今度にする?」
「今日がいい」
「……そっか。でもこのまま待ち続けると埒が明かないし、もう言うことにするよ」
「えっ、いや待って──」
「ラユーシャ」
いつのまにかアビスは一人分の距離を詰めていた。
振り返ったライサが硬直し、アビスの顔の目と鼻の先に、赤くなった顔が強張って静止している。
「君はボクの大切な人だよ」
「ほ、ほんとに……?」
「本当だよ、ラユーシャ。って言っても信じられないか」
アビスが苦笑する。
「つい最近までボクは、君がそばに居て当たり前だと思ってたんだ。君を遠ざけようとしたのも上辺だけで、でもそれに気付いたのは本当に最近のことなんだ」
「だっ、大丈夫!全然気にしてないから!うん!」
「そんな簡単に許さなくてもいいんだよ?」
「私が許さなかったら殴っていいよ」
「落ち着こうか、ラユーシャ」
「何だったら今殴っていいよ」
「落ち着こうか」
「本当だよ?」
「本当じゃなくていいよ」
「そうかな」
少しだけ緊張していたライサの顔がほころんだ。
それは今まで何度か見たことのある笑みだったが、何故だかアビスには全く違うもののように感じられた。
だかそんな訳はない。ライサの笑顔はアビスが以前見たものとほとんど同じなのだから。
違うものと言えば、ライサの心だけ。
ライサの意思だけだ。
「ねえ、アビス」
「なに?」
「私、決めた」
ライサは笑う。
アビスはその笑みの中に、偏愛と慈悲を見た。
いつぞやアビスがリラに向けたものと遜色ない程の大きさでアビスを想い、そしてその愛はアビスの幸せを願っている。
ライサの手がアビスの頬に伸ばされて、強張ったのはアビスの方だった。
その暖かい手は優しくアビスを撫ぜる。
「絶対死なせない」
愛があるから。
アビスのことを好きだから。
そう思って、一度は受け入れたことだった。
だがそれは間違っていた。
アビスのことを本当に好きでいるなら、アビスのことを幸せにしたいのなら、そんな選択はありえない。
アビスの最期を看取るなんて拷問だ。
アビスに最期を許すなんて怠慢だ。
本当に好きでいるのなら、アビスに迫る死など全力で押し退けて然るべきなのだ。
「アビスが死ぬなんて許さない」
「絶対?」
「うん、絶対に許さない」
「……それは困る」
「アビスが折れてくれるまで、私は精一杯抵抗する。忘れられない記憶は全部私が塗り替える」
そんなことはありえない。
アビスにとって、リラは絶対的な存在だ。
「私を見てくれるまで離さないから」
だからこそその座を奪い取る。
相手が強ければ強いほど、勝った時に得られるものは大きいのだ。
リラの代わりになれたのなら、正しくそれはアビスにとって新しい生きる理由になる。
好きな相手を自分に惚れさせる。
好きな相手を死なせない。
一石二鳥だ。
ライサは笑う。
恋情と嫉妬の火を灯して、好戦的な笑みが浮かぶ。
「覚悟してよ、
はい、これにて盛り上がりに欠ける三章は終了しました。
kykyさん、柊の木さん、評価ありがとうございます!
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
作者は旅に出ます。嘘です。
後書きで感想や評価をねだるのはどうだろうと思い悩む一方、効果があるなら試してみるのもどうかと考えています、作者です。
三章は盛り上がりに欠けていますので後書きだけでも盛り上げていきたい所存の作者です。
さて、三章の後についてくる幕間ですが、恐らく二話投稿されます。恐らくというのはまだ二つ目が完成していないからです。ちなみに幕間をちょこちょこ進めていたせいでこの一話はギリギリでした。
もし余裕があったら四章の一話目も投稿しますが、多分ありません。作者にもリアルの都合があります。冗談です。そこまで深刻じゃありません。
仮題もそろそろ片付けたいなとは思っているんですけどね。おっと、誤字ではありませんよ。本当に【仮題】の話です。
さてさて。
それでは、これにて三章を締めさせていただきます。
読了ありがとうございました。