【仮題】感情トランスポーター   作:Gensigert

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アンケート結果を見て作者は思いました。
これがハーメルンか、と。


幕間
四十五 ライサの胸襟


「アビスを好きになった理由、ですか?」

 

 そう聞き返すと、エイプリルさんは待ちきれないとばかりに期待で顔を彩って頷いた。

 恋に理由なんて要らない──なんてよく言うけど、そんなのフィクションに登場する情熱的な一目惚れくらい。大体の人はちゃんと好きな部分を見つけてる。一目惚れっていうのも実は遺伝子が何とかみたいな話を聞いたことあるし。

 でも、私がアビスを好きになった理由ってそこまでのものじゃないんだよね。

 

「申し訳ないですけど、ご期待には沿えませんよ?」

 

「それでもいいから!あ、でも言いたくなかったら良いんだよ?ただ聞きたいなってだけだから」

 

「うーん……なら、一応話しておきます」

 

 エイプリルさんの顔が更に輝いた。お昼時を少し過ぎて人も疎らな食堂に、なんだか花が添えられたみたいだった。

 そういえば、ここ最近は前みたいに振り返ることが少なくなってたっけ。アビスについて、まだブレーキが効いてた時は割とよく家族のこととかで泣いてたんだけどね。

 

「私とアビスが出会ったのは、知っての通りテロの被災地でした。私は一人で明日の食糧さえなくて、瓦礫になって家族を押し潰した家の前で蹲っていました」

 

「ごめんちょっとだけ待って」

 

 えっ?何があったんだろ、エイプリルさんが『やらかしちゃった』みたいな表情をして──手で顔を覆った。

 もしかして私に同情したのかな。いや、不躾だったって自省してるのかもしれない。

 エイプリルさんは許可を取って、それで私の方から話したのに自責するなんて本当に真面目で律儀。そんなこと気にする必要なんてないのに。

 

「その、ごめんなさい」

 

「気にしないでください、それにたぶんエイプリルさんが思ってるような展開にはならないので」

 

「……うん、分かった。でも話しにくかったらやめていいからね?」

 

「はい。それでえっと、アビスが通りがかったんです。テロリズムの現場で平然そうに、汚れ一つもない服を着て歩いていたから、私にはテロリストに見えました」

 

 ふんふん、と頷くエイプリルさん。

 今思えばあのアビスって相当余裕なかったんだなって思う。コータスとは言え私の方が早く近づいてくるのを気づいたし。

 

「それで、隙をついて殺してやろうと思いました」

 

「えっ」

 

「怪我した風を装って足を押さえて、のこのこと近づいて声をかけてきたアビスを手頃な瓦礫で殴りつけようとしました。そうしたらアビスは咄嗟に私の顎を蹴り上げて、そのままノックアウトされちゃいました」

 

「えっえっ」

 

 今思い出すと、あのアビスは可愛くて格好良かった。私が瓦礫を振ったことにすごく驚いてたし、その状況からもキレッキレの攻撃を繰り出せるあたり本当に半端ない。マジヤバい。語彙が足りない。

 

「アビスって余裕がない時ほど判断が輝くんです。普段は割とポンコツで、支え甲斐がある人なんですけどね」

 

「ラーヤちゃんはそれのせいで蹴られたんだよ?」

 

「役得でした」

 

 アビスの強みの一つはきっと、その天性の判断力だと私は思ってる。繰り返しの訓練で体に染み込ませた動作を最適な位置に最適化して繰り出す。

 そこに一切土壇場であることを感じさせるような淀みはなくて、しかもその戦法で只管アドバンテージを守るから怖すぎ。あんまり近付かれると私の血圧が上がり過ぎて死ぬのでやめてください。

 あとその中でも注意が散漫になるアレ可愛すぎない?キョロキョロしながら努めて冷静で居ようとするなんて、なんていうか職務に忠実な殺戮ロボットみたいな可愛さがある。

 ちょっとサンプル間違えたかもしれない。

 

「それで起きたらアビスが私のことを睨むみたいにして探ってて、とても怖く感じたのを覚えています。私のこと全部見透かされてるみたいで……はぁ、もっと堪能しておけばよかった」

 

「えっ、あ、うん」

 

 まあ仕方ないか。切り替えていこうっと。

 

「それで私は、アビスの居るロドスの話を聞いて、救助を受けるかと問われて、一も二もなく頷きました」

 

 そうしたのは、たぶんきっと。

 

「私の後ろにあった瓦礫の中に家族が居ました。潰れる音を聞いていました。悲鳴が耳にこびりついていました。私が弱い力で瓦礫を押している間に掠れていく兄の絶叫を覚えていました」

 

「それ、は……」

 

「私はそれで、迫り来る死を明瞭に認識しました。端的に言うと、死にたくなかったんです。今出来ることは何か頭を働かせても答えなんて出なくて、だからアビスの提案は私にとっての希望でした」

 

 だから精一杯役に立とうと必死だった。私が生き残るためにはアビスが必要で、そのためならある程度の傷を私が庇うことすら考えてた。

 

「それからアビスに私はついていって、その凄い戦いっぷりを後ろから見ていたんです。その時はたぶん、憧れてたんだと思います。強いアビスが羨ましくて、中途半端な役割しか熟せない自分に劣等感を感じるほどでした」

 

「そういえばあたし、アビスがちゃんと戦ってるのを見たことない。今度アビスが演習に参加したら、その演習記録見ようかな」

 

 いや渡しませんよ?

 

「あの爆弾魔との戦いも凄かったですよ。アビスは簡単に銃弾を回避してましたから」

 

「化け物じゃん」

 

「まあ結局罠にかけられちゃって、それを私が助けたんですけどね。こう、煉瓦の鉢植えを屋上からポイッと」

 

「え、えげつないね……」

 

 そんなに褒めないでくださいよ、私が欲しいのはアビスからの賛辞だけなので。頭撫でられたら死ねる自信ある。まあ死なないし堪能するけど。

 

「初めて意識したのは、アビスが私を予備隊の方々に任せた時でした」

 

「えっ、アビスと一緒の時じゃなくて?」

 

「はい。なんていうか、アビスと比べちゃったんです。アビスが一撃で仮面を叩き割っていた兵士も、盾を使って受け止めて、剣とアーツで撃退してて。それは負担を集中させない意図もあったんでしょうけど、アビスが際立って強いんだと感じちゃいました」

 

 種族柄なのか、アビスは耐えることに関して人一倍凄いように感じる。サリアさんとの訓練とかも、よく耐えられるなぁって思う。

 耐えて、耐えて、それで機を見つける。そこで判断力も生きてくるのかな。まあ木端なら一撃粉砕できる力もあるんだけど。

 

「それで一番意識したのがその後、Wと二度目の戦闘が起こった時です。──息もつかせない攻防でした。射線だけを見て銃弾を躱したかと思えばその先で手榴弾が爆発して、その爆炎の中からアビスが飛び出して」

 

 私はアビスを目で追うことが出来なかった。

 

「ラヴァさんは射程外だって愚痴を言いながら、クルースさんは弧を描く口の端をひくつかせながら……ドクターの指揮で予備隊の人はみんなアビスを補助していました」

 

「格好良かったんだ?」

 

「はい、勿論。Wが撤退した後でドーベルマン教官やニアールさんに怒られてましたけど、それでも目に焼き付いて離れなかったんです」

 

 私の耳に銃弾を発射する音と、それを上回るほど大きいお腹に響くような金属音が聞こえた。

 一つ目はそのまんま銃撃音で、二つ目はその銃弾を短剣で弾いた音だった。

 

 それをすぐに理解できるほど異常じゃなかった私だけど、それでもアビスが何かすごいことをしたんだろうなっていうのは分かった。

 撤退するWから早々に目を離したアビスは振り返って、疲れた様子を何一つ見せずにカーディさんを気遣ってみせた。上機嫌に揺れている尻尾から一気にどばっと血液が出てきて台無しになったしカーディさんが泣きそうになってたけど。

 

「初恋?」

 

「そうですね、正直家族以外の男の人は嫌いでしたから」

 

「そっか。いいなぁ」

 

「何がですか?」

 

「今を生きてるって感じ。あたしはロドスに来てからちゃんと生きてる実感はするんだけど、ときめくような体験は残念ながらなくてさ」

 

 ふーん。エイプリルさんってもっと、良い意味で遊んでる人だと思ってたんだけどな。なんていうか、健全な大学生みたいな感じ。いかがわしいサークルには入ってなくて、自由を謳歌してる、みたいな。

 でもそっか、そうなんだ。オペレーターに限らず職員を含めれば、ロドスは相当出会いの数があると思うんだけど。

 

「レンジャーさんとか良い人ですよ」

 

「……着眼点が違うね」

 

「ぶっちゃけ全員同じに見えてるんですけどね」

 

「アビス以外?」

 

「アビス以外です」

 

「そっか。でも年齢くらいは見ておいた方がいいよ?」

 

「そんなものですか?」

 

「そんなものだよ、うん。少なくともレンジャーさんは間に合ってると思うし」

 

 よく分かんない。クオーラは私の考えに同調してくれたんだけどなぁ。年齢は関係ないって考えることはいけないのかな。

 まあでも、エイプリルさんが言うならそうなのかな。

 

「今日は時間取っちゃってごめんね、ラーヤちゃん」

 

「え?ああ、構いませんよ。アビスも今はロドスに居ませんし」

 

「えっ?さっき廊下で見かけたよ?」

 

 は?

 

「アビスは今日任務があって、居るはずなんて……嘘?作戦の失敗?いやアビスが作戦に失敗するなんてありえない、嘘吐いたんだ」

 

「あっ」

 

「…………エイプリルさん、急用が出来ました」

 

「程々にね?」

 

「約束はできません」

 

 早くカーディさんの所に行かなきゃ。

 

 

 

 

「……後でアビスに謝っとこ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーテンまで閉め切られた、静かな部屋の中。

 ライサはゆっくりと体を起こした。

 

 少し前の日の夢だった。

 Wと出会ってから少し後の、食堂での会話だ。

 エイプリルの持つ感情を見極めるという意味でも設けたその時間は思いの外自分の脳に居座り続けているらしい。どうせ夢なら彼との時間を過ごしたいものだが。

 

 もう、そんな些細なことも叶わない。それはもう何日にも跨って閉ざされている自室のドアが原因だ。ライサの体はあの日からずっと外に出ていない。

 

 ライサはアビスの前で泣いてしまった。

 その原因はアビスの鉱石病にある。思っていたよりもずっと命が消えかかっていたアビスを見ただけで、沸々と悲しみが湧き上がってきた。

 延々と泣き喚くそれがアビスにとって迷惑だと分かってはいたが、だからといって自制することも不可能だった。

 

 泣いた後のライサは一言も発しないまま、逃げるように自分の部屋へと駆け込んだ。いや、()()()ではなく、実際に逃げたのだ。アビスの死を拒絶したいライサは、現実から逃げたのだ。

 そんなことを自覚できないほど耗弱していた精神も、今ではかなり回復した。それによって自分を嫌ってしまい、また外に出る勇気を失うのだ。

 

 頭を振る。

 どうやら暗い部屋が心に錘を乗せているらしい。

 

 布団にくるまっていたライサは、取り敢えず抜け出してみた。そこにはロドスに支給された端末が置いてあり、数日ぶりに起動してみるとかなりの数通知が来ていた。

 武器のメンテナンスが終わっただとか、香水がもう取り寄せられているだとか。大方購買部の倉庫にはかなりの数放置されているのだろう。クロージャには悪いが、まだそこまで外出する勇気は出なかった。スワイプすると、友人からのメッセージも届いていた。

 

「……香水、か」

 

 そんなものに感けている暇があるのか。気になっている人が全く振り向いてくれないのに、そんな余裕が自分にはあるのか。その答えは決まっていた。

 せめて気付いてくれたのなら、まだ良かった。少しでも興味を持ってくれたのなら、例え嫌いな匂いだとか言われても少しショックを受けるだけで済んだ。

 

 しかし気付いてもらえなかった。彼は自分がどんなにお洒落な服装をしてもどんなに近付いて香りを匂わせてみても、それに言及することは(つい)ぞ無かった。

 彼が自分を見ていないことは知っていた。それでも少しくらいは気を引きたかった。振り向いてくれなかったとしても、自分の努力は認めてほしかった。

 

 自分は思っているよりもずっと滅入っているらしい。こんな思考をするなんて、学校に通っていた時もなかった。いや、それは当たり前か。こんなに人を盲目的に好きになったことなんてなかったのだから。

 だからより一層自分が滅入っていることが分かって、ライサは自嘲するように顔を歪めた。

 

 こんなに気分が下を向いているのは、暗い部屋の中で一人きりだからだろうか。いや、違うだろう。

 自分の近くに彼がいてくれないからだ。暗い部屋だとか一人だとかはそこまで関係ない。部屋を明るくしたって、他の人と一緒に居たって、胸にある空虚を埋められることはない。

 

「あー、もう嫌だ。演習記録でも見よう」

 

 どこまでも俯く顔を無理矢理押し上げた。

 

 新米オペレーターであるライサは他のオペレーターよりも任務の難易度が低く頻度も少ないが、代わりに演習記録の閲覧ノルマがある。レポートを作って提出するまでが課題なので、中々面倒なものだった。

 座椅子に座って、テーブルの下に置いてある箱の中から演習記録を取り出した。

 もし彼が手伝ってくれるのならきっとすぐに終わる。少し前、明日が検査で暇だからと手伝ってくれた時は頼りになった。ロドスに加入する以前はまだ体が小さかったために計画を練って行動することが多かったらしく、ライサに色々と教えてくれた。

 

 セットし終えて再生しようとする。しかし演習記録は画面に映らなかった。ライサの指が止まっていた。力を込めることができなかった。

 結局ライサはリモコンをテーブルに戻して、背凭れに寄りかかった。

 ボタンを押さなかったのは、再生しなかったのは、一人で見たくなかったからだ。彼が隣に居ないことを浮き彫りにしたくなくて、ライサはそれを見たくなかった。

 

 しかしそれもまた意識しているということだ。隣に居ないことを遠ざけようとして、返って頭の中をぐるぐる巡らせてしまう。対処の仕方は分からなかった。

 

 ライサは感傷的な気分になった。だが何故かそれが他人事のように思えた。少しだけ遠くから誰かのことを見つめているような気分になった。

 しかしだからと言って、それがどうしたというのか。ライサは自分の思考を一蹴し、行き詰まった現実を再び嘆いた。今は客観的になれていたって、彼を目の前にすれば主観以外で居られなくなる。

 目の前にしなくても、あのことを聞くまではそうなっていた。暴走していた。それはやめられない。だとしたら意味がない。アビスの隣に居る時こそ一番大事で、その時以外の時間は……友人との時間を除けば、全て些事だろう。

 

「これが物語だったら、連絡の一つでも入るのにな」

 

 端末に入っているメッセージ機能。

 彼からの連絡はない。遡れるほど履歴もない。彼と可能な限り直接会っていたライサには、いっそ宿舎にでも飾ってやろうかと思うくらいに無用の長物と化していた。雰囲気が良くなるならばきっとそれの方が良い。

 それの犠牲となるのは、好きな人にこれっぽっちも振り向いてもらえない自分ただ一人なのだから。

 

 結局端末はベッドに投げた。動力の補給はしない。それが必要なほど端末の動力は減っていなかったし、縦しんばそれが切れたとしても彼から通知は来ない。虚しいことに、今の自分にとっては本当に役立たずなものになってしまっているのだ。

 

 さて、と気分を切り替える。

 起き出した以上はいつまでも寝巻きでいる訳にもいかないし、食事もしなければいけない。泣いた後に散々寝ていたせいかお腹は盛大な音を立てて主張を始めている。

 本来寝巻きではないが伸縮性が高いというだけで寝巻きに採用している服を脱ぎ捨て、適当なシャツとショートパンツを着た。見せる相手がいないというのに色合いを気にしてしまうあたり、自分は変わったものだとしみじみ思う。

 

 料理も一応出来るようにはしようとした。実際簡単なものなら手際よく作れるくらいにはなった。だがそれ以上はダメだった。好かれる努力だとしても、レシピという、然して興味のない複雑なものを覚えられるほど利口ではなかった。

 それに彼は料理が得意だ。一度だけ強請ったのが成功して食べさせてもらえたが、レストランも斯くやと思わされる出来だった。それ故かアビスはロドスの食堂に行くこともなく、他のオペレーターより料理の下手な自分が振る舞うのは無理だろう。

 

 そんなことを考えながらも料理は進み、適当に炒めた野菜と目玉焼き、レンジで温めただけのパンが皿の上に乗った。黒胡椒と、とある前衛オペレーターから勧められた醤油というものを目玉焼きに掛けた。

 

 フォークで目玉焼きを持ち上げる。黒とも茶色ともつかないような曖昧な色で、本当に美味しいのだろうかと不安になる。しかしあのオペレーターに周りの人も賛同していた。恐らくは、きっと大丈夫。

 

「ちょっと塩辛い」

 

 美味しい、確かに美味しいのだが味が濃すぎる。少し掛けすぎたのだろうか。いやしかしこの入れ物から出る時は相当なスピードだ。少量しかかけないものをこんな勢いの強い容器に入れるのか?

 今度は炒めた野菜の方を、皿に溜まっている醤油に浸けて食べてみた。

 

「あっ、いいかもしれない」

 

 今度は塩辛く感じなかった。いや、適度な塩辛さがしっかりと美味しく感じられた。

 

「アビスにも……あ、いや」

 

 寂しさが一層胸の奥を突く。口に入れた目玉焼きの味すら感じ取らないままに深い感情が脳を支配する。その一口を最後にナイフとフォークを皿に置いて、暫く考え込んだ。

 しかし、たった十数秒の熟考で答えは出た。

 

「アビスに、会わなきゃ」

 

 正確には会いたいだけだが、それを口に出すことは恥ずかしいのでしない。そも、半ばからほぼ彼目当てでロドスに加入したのに自分から離れるなんて勿体無い。好きな人から距離を置くのは、手の込んだ自罰行為としかならない。

 彼が告げた鉱石病の数値にショックは受けた。だがそれだけだ。彼は今すぐ死ぬ訳じゃない。身の振り方を考えることはしても、関係を絶つなんてものは、彼の死が決定して、それの恐怖に耐えきれなくなった自分が決定的な瞬間から逃れるために取る手段だ。

 少なくとも、離れるのは今じゃない。

 

 ちなみに今の思考の後半は蛇足だ。このライサ、端から彼に会いたくて只管言い訳を心の中で叫んでいる。ただ気恥ずかしてそれを認めることは未来永劫無いのではあろうが。

 

 端末を起動して、とあるアプリを開いた。

 ロドス艦内であればどこでも使用可能な発信機の信号を受信できるアプリだ。何故かアビスの部屋を訪れてLancet-2と会話しているユーネクテスに作ってもらったものだ。クロージャはちょっと遠慮しておいた。

 分野はかなり違ったらしいが、源石機器に強いことは変わらない。結局他の職員も巻き込みはしたが、どうにか作り上げられたのだった。

 

「アビスは……って、まずは支度か」

 

 腰を上げる。さっきまでは重かったはずなのに、随分と軽く感じられた。どうしようもなく会いたいのだと自覚して赤面しそうになるが、別段恥じ入ることでもない。

 ライサは服と化粧品を広げて、吟味を始めた。

 

 

 一方その頃、アビスは療養庭園に行くか図書室に行くかで迷っていた。ライサは泣いていい。




執筆ペースが落ちてます。
明日の更新は中々難しそうです。
四章は五月中に書き上がればいいのですが。
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