【仮題】感情トランスポーター   作:Gensigert

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もう後から一息に投稿してもよかったのですが、アンケートの経過報告が出来るということで一日空いての投稿です。

今のままだとロリになります。
ロリ > 女装ショタ >> 男装ロリ > ショタですね。
男の娘がロリに追い縋っていると見るべきでしょうか、それともロリが男の娘に打ち勝ったと見るべきでしょうか。他なら前者かもしれませんが、ここはハーメルンですからね。


四章 龍門事件
四十七 火種


 

 

 

 

 

 カツ、カツ、カツ。

 ヒールが床を叩き、それに相応しい音が通路に響いている。小脇に抱えるクリップボードには数枚の紙が挟まれていて、颯爽と踏み出した足と同期して紙の角が捲り上がる。

 

 ふと、窓際に立っていたあるオペレーターに目が留まる。開いていた窓から風が吹いて、ダークブラウンの髪が(そよ)いでいる。背負っている鉄黒の弓が斜光に照らされて輝く。

 

 何も言わず、ケルシーはエイプリルの隣に立った。ロドスの窓から望むテラの大地は壮麗な景色を作り出していて、筆舌に尽くしがたい爽やかな風が心にまで吹き込むようだった。

 

 遥か向こうの大地に咲いた源石の華。

 遠く離れた空を紅に塗り潰す天災の雲。

 

 普段は忌むべきその対象にも今だけは、ただ綺麗だと言う他なかった。それ程までに、その景色は遠望する二人を魅了していた。

 

 だが、どうにも胸騒ぎがする。ケルシーの胸中で嫌な予感が膨らみつつあった。どこか自分の与り知らぬ所で火種が猛炎となりつつあるような、そんな静かで不確かな感覚だった。

 

 横を見れば、エイプリルはただ心で感じるままにその景色を堪能していた。穏やかで壮大な音楽でも流しているのだろうかと思惟するも、その答えに大した意味はないだろう。

 

 ケルシーが口を開く。

 だが何も言うことなく口を閉じた。

 

 まだ炎がエイプリルを巻き込むと決まっている訳ではない。その炎の存在すらも不確かな今、口を出すべきなのは間違ってもエイプリルに向けてではない。

 エイプリルを見るアビスが怪しかったのは本当だが、だとしてもアビスとの関係はそこまで深くない。もしアビスの近くで想定外の事態が起きたとしても、それにエイプリルが関わっている可能性はどう見積もっても低いままだ。

 

 エイプリルはアビスにとって特別なのか?

 

 窓枠という額縁の中に描かれた絵画から目を外し、ケルシーは自分の手のひらを見た。何の変哲もないただの手ではあるが、その手が救った命の数は、アビスが殺めた数よりも、ひょっとすると多いかもしれない。

 だがその手をアビスは拒絶した。親しくなっていたつもりだったケルシーは、今やアビスにとって邪魔者だ。

 

 何が違うのだろうか。アビスの言う『彼女』とエイプリルが丸っ切り違うことは、種族から見ても、身長から見ても、髪色から見ても分かってしまう。

 何故エイプリルの方が特別なのか。たった数日の、それも少しだけの付き合いでアビスの心を刺激したというのはどうしてなのか。

 

 分からない。分からないことばかりだ。

 だがそんな中でも少しずつ情報は集まってくる。鉱石病に関係した情報を取り扱う上でロドスの諜報能力はかなり長けている。アビスの出身地などはまだ不明だが、それより先に気になることや疑念は留まるところを知らない。

 

 カツ、カツ、カツ。

 ヒールの音が響いた。

 

 

 ケルシーはただ、為すべきことを為すのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

 執務室に足を踏み入れる。床に敷かれているカーペットがいつも通りの柔らかい感触を靴越しに伝えてくれた。

 

 時刻は十一時半を少し過ぎたところ。

 

「こんにちは、ドクター。書類仕事は順調ですか?」

 

「まあまあ終わってる。もう半分なくなってるからな」

 

「半……分…………?」

 

「文句があるなら言っていいぞ。殴るけどな」

 

 ドクターが手を休めてボクの方を向く。

 確かに思っていたより全然終わってなかったけど、そんなことを言いに来たんじゃないから言わない。それに殴られたらもしかすると痛いかもしれないし。

 でも本当に終わってないな。指揮官としての能力は高いのに、どうしてこの程度の書類に手間取るんだろう。

 

「大切なのは志ですよ。恐らくですけど」

 

「殴っていいか?」

 

「断らせていただきます」

 

 さっさと仕事をしてください。

 

「ところで、用向きは何なんだ?」

 

「えっ?」

 

「えっ、なに」

 

「ボクは呼ばれたのでこの執務室に来たのですが……これです、これが今朝端末に来ていたメールです」

 

 起動した端末の画面をドクターに見せる。間違いじゃない、この時間に執務室を訪れるようにと確かに書いてある。

 

「いや、こんなメール俺は送ってないぞ」

 

「えっ」

 

「それは私の送ったメールですよ」

 

 後ろを振り返ると、いつのまにかドアを開いてボクとドクターの方を見るアーミヤさんが居た。

 

「アーミヤさんでしたか」

 

「はい、アーミヤです。それではまずアビスさん、廊下に置いてある荷物を運び込んでもらえますか。ちょうどそこに置くような感じでお願いします」

 

「雑用ならボクでなくとも良かったと思いますが」

 

 単純な疑問が頭に浮かぶ。そんな仕事のために呼ばれたのならボクじゃなくていいだろうし、他に何かやらせたいことがあるとしても、ボクの得意なことだとかをアーミヤさんは知らないだろうし。

 

「……さっさと運んでもらえますか」

 

 アーミヤさんは笑顔を浮かべながら黒いオーラを出し始めた。

 いや、アレはオーラじゃなくてアーツだ。アーミヤさんはボクに向けて放つアーツを準備している。

 

「どうして怒っているんですか」

 

「やりたくはありませんか」

 

 いえ、そういうことではなく。

 

「別に帰っていただいても構いませんが、その場合は分かっていますよね?」

 

「……あの、話が見えないのですが」

 

「おいアビス、やめとけ。そして思い出せ」

 

「何かありましたか?」

 

「ドクター。少し散らかりますが、掃除は私が行うので心配は要りません。退避してください」

 

「少し思い出すための時間をください」

 

「そんなに欲しいのでしたらあげましょう……」

 

 アーミヤさんの周囲に、所々に金色の混じった赤色のアーツ反応が映像作品のように湧き出した。

 

 

「『ソウルブースト』」

 

 

 七発の弾丸(スキル2)はボクの体を掠り、窓を割った。

 

「………………」

 

「それではアビスさん、運んでいただけますか?」

 

「……了解しました」

 

 

 

 山積みになっていた段ボールを運び込むと、アーミヤさんは次に開けるよう指示した。ボクの体を優に超える大きさの段ボールが二つと、他は標準的な大きさのものが沢山。

 

「どれから手をつけましょうか」

 

「どうでもいいので早くしてください」

 

「はい」

 

 えっと、じゃあこの小さい段ボールは……野菜?

 

「アーミヤさん、これは……」

 

「早くしてください」

 

「あっ、はい」

 

 野菜はどうしようもないから後回しにするとして、この大きい段ボールを開けよう。短剣を使いたくはないけど、生憎とそれ以外の刃物を持ってない。

 ドクターに頼むのはアーミヤさんが怖い。どうしてあんなに怒ってるのかも分からないんだから下手に物を言えない。

 

 ぶぶぶ、とポケットの中で端末が震えた。アーミヤさんの方を見ると、仕方がないとでも言いたそうに大きく息を吐いて、ドクターと向こうの机に向かって行った。

 好きにやっていいからさっさと終わらせろ、って言いたいんだろう。ありがたく端末を起動した。

 

『怒ってる理由→料理の約束』

 

「あっ」

 

 思わず横を見る。どうしてこの場所が指定されたのか分からなかったけど、この使ってない執務室の調理設備と鑑みると納得だ。ボクとの約束を皮切りに、もっと設備を使っていこうと思ってるんじゃないかな。

 ってことはこの段ボール……思った通り冷蔵庫だった。

 

 他の段ボールには何があるかな。

 

 野菜が幾つか、源石レンジ、冷凍されてる肉類のパックに加えて調味料もある程度揃ってる。

 そう言えばもう一つ大きな段ボールがあった。

 開けてみよう。

 

 えーっと、これってもしかしなくても組み立て式の棚…………えっ、ボクがやるの?執務室の家具をボクが組み立てるの!?

 

「すみませんアーミヤさん、あちらの棚なんですが……」

 

「お願いしますね」

 

「あっ、はい。いやでも配置とかは」

 

「料理する人にとって使いやすいことが第一です」

 

「分かりました。ドライバーはありますか?」

 

「ほい、これ」

 

「ありがとうございます」

 

 さて、じゃあさっさとやってしまおう。

 

 

 

 

 十二時を少し過ぎた頃。

 ボクは機器の設置を終えた後、早々に料理を始めた。アーミヤさんが食べるのだから少しヘルシーに、ドクターさんが食べるのだから満足感はあるように。

 

 久しぶりだったから少し量が多くなったけど、ドクターなら食べられるような気もする。

 大きめに切ったベーコンの数々が花弁のように配置されたレタスの中に置かれていて、それに手作りしたシーザードレッシングをかける。

 今回は材料が冷えてなかったから盛った器ごと、まだまだ空きスペースの多い冷蔵庫の中に入れておく。

 

 今回シーザーサラダと一緒に作るのはボロネーゼ。けどタリアテッレはなかったのでスパゲティで代用することになった。

 

 この時点で半分ボロネーゼではなくなっていたんだけど、今確認したところトマトペーストが調味料の中に見つからなかった。だからトマトケチャップで代用する訳で、もうボロネーゼではなくミートソースパスタになってしまった。

 トマトペーストくらいはあると思ったんだけどなぁ。そう思いながらみじん切りにした玉ねぎを炒めて、良い加減になったら挽肉を投入する。色が変わったところで他の用意していたソースや砂糖以外の材料を入れて沸騰させる。

 沸騰したら砂糖とソースを加えて、しばらく煮る。

 

 ちょっと暇になった。

 アーミヤさんに火を頼んで購買部に走る。たぶんあそこなら何でも置いてるだろうし、クロージャが面倒だけどそこは目を瞑ろう。

 

 帰ってきたら次にパスタを茹で始める。塩はこのくらい……かな?茹でるにはそこまで時間がかかる訳じゃないので、火から離れない。

 

 蓋をして茹でると臭くなるし、弱火で茹でたり塩を忘れるとアルデンテにはならない。パスタは茹でるだけに見えて割と覚えておくことが多い。

 ボクが食べるんだったら手抜きしてもいいんだろうけど、生憎とそんな機会は一生やってこない。ケルシー先生に食べることのできる料理のレシピを教えてもらうのも視野に入れておこう。あんまり頼りたくないけど。

 

 ということで完成、完全手作りのミートソースパスタとシーザードレッシング。うん、まあまあ手際よく出来たかな。

 

「アーミヤさん、出来ましたよ……ってあれ、ラユーシャ?」

 

「おはよっ、アビス!なんかエプロンして走ってたから追いかけて来ちゃった。私の分って作れる?」

 

「全然問題ないよ。サラダもソースも多めだったから、麺を一人分茹でるだけで済むだろうし。あと五分くらいで出来るから待ってて」

 

「はーい!」

 

 ラユーシャは今日も元気だね。

 なんだか子供の面倒を見てるみたいだ。

 

「アーミヤ、あの二人はそろそろ付き合ったか?」

 

「どうでしょうか。見てるだけだと判別は難しいですね」

 

「あっ、お皿以外の食器洗っておくの忘れてた」

 

「じゃあ私それやるよ。食べさせてもらって何もしないのはダメでしょ?」

 

「ボクは気にしないけど、やってくれるなら嬉しいよ」

 

「……付き合ってる臭くね?」

 

「恐らく、と言うのが限界です。言い切るのはあの二人からしてかなり難しいかと」

 

「あと、やりとりが親子なんだよな。母親と娘のだけど」

 

 さーて、もう一仕事だ。

 

「水洗いで済むからすぐ終わっちゃったなぁ。あ、ドクター。おはようございます」

 

「えっ、今気付いたの?」

 

「まあ、居ても居なくても私には関係ありませんし」

 

 麺はこのくらいだけど……

 塩ちょっと入れ過ぎたかな?

 

「ラーヤさん、最近アビスさんと何かありましたか?」

 

「どうしてですか?」

 

「呼び方が、変わっているじゃないですか」

 

 アーミヤさんってどれくらい食べるのかな。

 割と食べそうだけど。

 

「まあ、あったと言えばありましたけど」

 

「へえ、俺もラーヤちゃんのことその呼び方で──」

 

「調子乗ってんじゃねぇよクソ野郎」

 

「ドクター、謝るべきですよ」

 

「あ、はい。調子乗ってすみませんでした」

 

 よし、サラダはちゃんと冷えてる。

 

「まずサラダがこちらに……どんな状況ですか?」

 

「ドクターにセクハラされた」

 

「えっ」

 

「アビスに頭撫でられるまでトラウマかもしれない」

 

 なんだ、やっぱり冗談か。

 

「はいはい、ご飯食べたらね」

 

「えー」

 

「オカンだ」

 

「入ってくんなよお前」

 

「うぃっす」

 

 何言ってるんだ、ラユーシャ。

 ドクターもどうしてそんな簡単に謝ってるんだよ。

 

「ラユーシャ」

 

「……ごめんなさい」

 

 それでよし。

 

「じゃあ、ちょっとお皿運ぶの手伝ってくれる?」

 

「任せて!」

 

「……アビスって歳離れてたっけ?」

 

「確か今年で十八歳だったと思います」

 

「…………なんなのアイツ」

 

「分かりません」

 

「あ、そうだラユーシャ。ワイングラスも持って行って。クロージャの所から赤ワインを買ってきたから」

 

「えっ、なんなのアイツ」

 

「何なんですかね」

 

 

 

 

 巻いたスパゲティをドクターが食べる横で、アーミヤさんが一度フォークをお皿に置いて口元を拭き、ボクの方を見た。

 

「アビスさん、ここに来た目的をお忘れではありませんか?」

 

 目的?

 

「ああ、忘れていませんよ。会話でしたよね」

 

「は?何それ」

 

「職務上アーミヤさんはオペレーターと仲良くする必要があるんだよ」

 

「必要って言わないでください」

 

「このぐらいがアビスだよな。うまっ」

 

 ボクをそんな毒舌みたいに扱わないでください。ただ隠す必要がない場所では隠そうとしていないだけですから。

 ラユーシャがアーミヤさんをまだ睨みつけていたので、ラユーシャのフォークを取って口の前にスパゲティを巻きつけて差し出した。

 

 うん、いい食べっぷりだ。食事に集中させてればアーミヤさんに噛み付くことも多分なくなるよね。

 

「それで、アビスさん。近況はいかがですか」

 

「つい先日に手術を受けました。問題視されていた胆石症という病気は快癒に向かっているので、そう遠くないうちにまた任務を受けることになるかと思います。……少し制限はかかりそうですが」

 

 ケルシー先生は相変わらず過保護で、それを意識的に演じている節がある。あの人はどれだけボクのことが嫌いなのだろう。

 ボクってそんなに悪いことをしたかな?

 

「それは良かったです。鉱石病の方は安定していますか?」

 

「いえ、予断はできません。ですがまだ死ぬつもりはありませんから、どうにか安定させますよ」

 

「そうですか。まだレユニオンの残党はどこかに潜み、そしてその影響も色濃く残っています。闘琤(とうじょう)を望みはしませんが、アビスさんの参入が待ち遠しいですね」

 

「──残党、ですか。噂に聞くところによれば、まだ幹部が一人残っていたという話でしたよね?」

 

 あ、ドクターが固まった。

 目で知らないフリをするように合図すると、ドクターは努めて自然体を装った。ラユーシャはその些細な違和感を感じ取ったのだろう、ドクターを睨むように見つめてる。

 はい、サラダ食べて。

 

「レユニオンの幹部、『亡灵(アンデッド)』。忽然と消息を絶ってからかなり経ちますが、最近になって気になることもありました」

 

「気になること、ですか?」

 

「はい。龍門の郊外での殲滅作戦において、幹部を匂わせる報告が頻出していたというデータがつい先日明らかになりました。数日前までは、敵影の誤認や異常な規模の行軍を確認する声が頻繁に報告されていたんです」

 

「前者は分かりませんが、後者はほぼ間違いなく幹部が関係している……そう見ても?」

 

「はい、恐らくはその見方で宜しいかと──って、何の話をしているんですかっ!!」

 

 アーミヤさんがバン、と机を叩いて立ち上がった。面倒だとでも思ったのかな、レタスを咀嚼していたドクターは視線すら向けず食事を続けてる。

 

「この会話は業務連絡じゃありません!もっと趣味だとか、習慣だとか、そういうことを教えてもらいたいんです!」

 

「趣味は料理、習慣は朝の筋力トレーニングでしょうか」

 

「へえ、アビスって朝にそんなのやってるんだ。今度私もそれ見てていい?あと朝から歩くの面倒くさいからアビスの部屋に泊まってもいいよね?」

 

「見るのはいいけど、泊まるのはダメ」

 

「ほんとにダメ?」

 

「ラユーシャ、風紀を乱すようなことはするべきじゃないよ。ここは企業で……家じゃ、ないんだから…………」

 

 ケルシーとイースチナの姿が脳裏に描かれる。

 

 

『ロドスは家じゃない』

 

 

 どうしてボクはこんな簡単に言えてしまったんだろう。みんなより余っ程それを弁えることのできていないボクがそれを言うなんて、厚顔無恥にも程がある。

 それがリラのことなら周りなんてどうでもいいけど、ボクがロドスを自分の家みたいに扱うだなんてこれっぽっちも関係のないことだ。

 それを弁えられないなんて──格好の悪い人だ。

 

「アビス?」

 

「ん?あー、いや、なんでもないよ。ちょっと考え事」

 

「それを話してくださっても構いませんよ」

 

「いえ、これに関してはボクが恥ずかしいので控えさせていただきます。代わりと言っては何ですが、ボクがカーディさんやポデンコさんに固執する訳でも話しましょう」

 

「そんなものがあったのか!?」

 

「理由なんてあったの!?」

 

「ようやく一歩距離を詰められそうですね。聞かせてください」

 

「えぇ、事の発端はボクの両親の話にまで遡ります」

 

「まさかの因縁!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「リラ、と。彼女はそう名乗りました」

 

 

 

 どうしてだろう。

 

 この三人にリラのことを話すのは、何故だか抵抗がなかった。

 もしかしてフロストリーフさんが言っていたようになってしまったのかな。ボクは過去を切り捨ててしまったのかな。

 

『お前は今生きていることに意味があると思うか?』

 

 生きている意味……本当に、ラユーシャがそうなのかな。大切な人だとは思っても、それが意味を持つとはどうしても思えない。

 ボクにとって生きる理由だったリラの代わりになるなんて、それだけは絶対に思えない。

 

 だとすれば、ボクは一つ武器を失くしたのかもしれない。

 その可能性がないなら、きっとボクは克服することが出来てしまったんだ。

 

 あの、過去を土足で踏み躙られる恐怖を。

 

 この人たちなら大丈夫だと少しは思えているんだと思う。それどころか、リラのことをもっと知ってほしいとすら思える。ボクが今まで生きていられた理由の、大好きなリラのことを。

 

 話せば話すほど不満そうな顔になるラユーシャの髪を撫でつけて、ボクはリラの好きなところを沢山語った。

 最初のうちは笑顔でも、感染者としての最期が近づいて悲しそうな色を混じらせるアーミヤさん。終始静かに、時折相槌を打ってボクの話に耳を傾けたドクター。

 ボクの手の下で破顔してる、まともに話を聞いてないラユーシャ。

 

 三人目はどうだか知らないけど、ドクターとアーミヤさんはボクのリラを傷つけるような人じゃない。

 もしそんな人だったら、ボクはとっくのとうにこの執務室から部屋に帰ってる。

 

 じゃあ、ここなのかな?

 ボクの大切な生きる理由って……

 

 

『君にとって、ここが月でもないくせに』

 

 

 ……そっか。

 

 

 ねえ、リラ。もしここに君が居たのなら、今頃はどんな生活になっていたのかな。

 きっと楽しかったよね。もし鉱石病に罹っていなくてもリラは差別なんて許さなかっただろうから、もし一つだけ違っていれば、ボクとリラはロドスで笑えていたんじゃないかな。

 

 ラユーシャを助ける時も二人で、あの時だってリラが居ればボクはもっと出来たはずだから。

 

 

 でも、ボクはボクの罪を、本当に許していいのかな。

 ボクが間違えてしまった選択はそんな簡単に許してもいいのかな。もしボクの疑念が正解なら、リラの優しさはボクに向くべきじゃないかもしれないって、少しだけそう思っているんだ。

 

 

 

 

 亡灵(アンデッド)

 

 

 君がもしボクの思っている通りなら……

 

 

 君はボクを殺したいのかな。

 

 

 ボクは君のそれを、受け入れるべきなのかな。

 

 

 よく、分からないや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰よりも近くに居た。

 

 

 

 

 そこに居ることが当たり前だった。

 

 

 

 

 自分の半身だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはあの日、潰えてしまった。

 

 

 

 

 




 
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