【仮題】感情トランスポーター   作:Gensigert

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はい、予約投稿また事故りました。
まだ五十七話までしか書けていません。平均文字を引き上げたことと息抜きに投稿した短編のお気に入り登録数がこの作品のそれを超えたことの二つが調和してやる気が下がってました。
毎回章の始まりがこんな感じになって本当に申し訳ありません。



四十九 黒フード

 

 

 

 

 生い茂る木々の枝葉が光を遮る鬱蒼とした森を抜け、一台の車が瓦礫の散乱している荒野に到達した。緑の迷彩模様になっている軍用車は遠くから見ればかなり浮いた存在だろうが、しかし今に限れば目を奪うのはそれではない。

 軍用車の向かう先、巨大な建造物。取り付けられたキャタピラは何列にも及び、しかしそのキャタピラでさえもが人よりずっと大きいという規格外のスケール。

 

 移動都市『龍門』を前にすると、その軍用車は虫けらのような大きさだ。皮肉にも荒野の中で目を奪っていたはずの迷彩は特段意味をなすこともなく、車は荒野に紛れていた。

 

 軍用車であるためか他の自動車より幾分か大きい駆動音は何もない荒野によく響く。風が穏やかな今、それはより一層耳朶に残る。

 

「おい、そろそろエイプリルさんを起こしてやれ」

 

 フォルテの男がハンドルを握ったままにそう言った。その声がかけられたのは、後部座席に座る黒と青のジャケットを着た青年だ。上腕のあたりに描かれたルークのロゴタイプが表すのは、そのジャケットがとある会社に支給された制服であるということだろう。

 

 青年は左の席を見る。エイプリルと呼ばれたコータスは代わり映えのしない景色に飽きて少し前から夢の中へ旅立っている。

 すやすやと眠りこけている様子を見ると、起こすに忍びない念が胸の中に湧いてきた。

 

「今は起こさないにしても、検問までには起こしておいてくれよ?龍門の警備員ってのはどいつもこいつもピリピリしてやがんだ」

 

「督察隊の元トップがそんな感じでしたからね」

 

「へえ、会ったことがあるのか?流石ロドスだな」

 

「ええ、まあ」

 

 会ったことはないが、時々食堂や通路で見ることがある。そんな風の言葉は飲み込んで、フォルテの男──ゼルが言う内容を曖昧に肯定した。

 窓の外に目を向ける。

 

「……」

 

「どうした?今更乗り物酔いか?」

 

「何でもありません。慣れていますから……」

 

 水筒の蓋を開け、中身を口へと流し込む。運転席に座るゼルが言った通り青年の顔色はかなり悪かった。それが何によるものか、そのとある会社がどのようなものであるかを知っていれば大凡(おおよそ)推察できよう。

 

「ロドスも万能じゃないってことか」

 

「ボクのような感染者はそう居ませんよ。先生に従っておけば、ボクだってこうはなりませんでしたから」

 

 青年の目が細まり、自嘲からか口が弧を描く。

 

 いや、自嘲ではない。青年が笑ったのは、自分の言い方がおかしくて堪らなかったからだ。

 一瞬たりとて、それこそ一度だって悔悟したことのない自分の生き方を後悔している風に言うことが途方もなく笑みを誘った。全く、なんて滑稽極まりないことだろうか。

 

 駆動音が響く。

 

「──もっと速く走らせてください、ゼルさん」

 

「あ?」

 

「スピードを上げてください。居ます。確実に」

 

「だから何が居るって……」

 

 コツ、と音がした。

 

 

 車の屋根に何かの瓶が当たった音だった。

 

 

 ゼルはまだ把握できていない。

 エイプリルはまだ夢の中だ。瓶の出す音からして青年──アビスの方からエイプリルの方へと投げられていたらしい。当然運転席も左側にあり、瓶に細工でもあれば最悪二人が焼け死ぬだろう。

 

「ああ、なんかもう……っ!」

 

 丁寧に脱ぎ捨てる時間はない。耐熱加工がされているジャケットを力任せに引き千切り、布切れで腕を埋めたためツノを使ってエイプリルが眠っている側の窓を叩き割る。火炎瓶らしき瓶は今にも爆発しそうに火を噴きながら窓の外に落ちていた。

 

「無性にッ!」

 

 割れ残っているガラスを腕で破りながら爆発しそうな瓶の口をジャケットで素早く包み、ありったけの力とスピードで向こうに押し出した。

 瓶を中に入れたジャケットが地面に落ち、爆発は起こさず車との距離は開いていく。

 

「叫び散らしたい気分ですッ!──レユニオンが仕掛けてきます!包囲される前に全力で走り抜けてください!」

 

「お、おう!了解!」

 

「……んー?まだ龍門には着いてないの?」

 

「エイプリルさん、非常事態です。武器の準備をお願いします」

 

「まあまあ、落ち着いて寝よう?」

 

 まだ眠いのか、エイプリルの目が開いていない。

 アビスは一度顔を手で覆った後、何かを諦めたかのように短剣をエイプリルに向けた。

 

「すやぁ……あ、あぁ……あああぁああぁぁぁああ!!!──ってうわっ!?アビス!?えっ、ここどこ!?」

 

「レユニオンと交戦中です。武器の準備をお願いします」

 

「えっ、あ、うん」

 

 エイプリルの目に溜まっていた涙が頬を伝って落ちる。それを指で拭ったエイプリルは、またもクエスチョンマークを浮かべていた。

 

 絶叫して飛び起きるまでは膨大な悲しみと怒りをアーツで伝え、十分だと判断したところで少しの怒りと少しの心地良さ、そしてまた少しの楽しさという適度な感情を使いエイプリルを落ち着かせた。

 アーツユニットを使っていれば、そしてそれが不特定多数に向けた長期的で長射程を想定するアーツ行使でもなければ、アビスの鉱石病もそう進みはしない。今はどうなのか不明だが、安定していた頃は少なくともそれで良かったのだ。

 

 混乱の渦に叩き落とされた挙句猛スピードで引っ張り上げられたエイプリルはまだ頭が良く回っていない様子ではあるが、そんな状態でも弓を構えられるように訓練を終えている。

 いつのまにか割れている窓にギョッとしながらも車外を窺う。アビスも同じように窓から外の景色に目を走らせる。

 

「アビス、結構居るね。十四……違う、十五人居る」

 

 弓に矢を番える。可能なら話し合いをしてみるのも選択肢の内だが、アビスに伝えられた『交戦中』という言葉で既に除外されている。

 それに、レユニオンの残党というのは基本的にその名前を盾にしていた者たちだけだ。タルラの思想に影響されたのではなく、安全に鬱憤晴らしが出来るからとレユニオンの傘下に入っていただけなのだ。

 そんな連中と講和をして得られる物など何もない。唯一懸念すべき点は、残党の中に本物のレユニオン──つまり、『亡灵(アンデッド)』率いる遊撃部隊の隊が居るかもしれないことだ。

 タルラではなく亡灵(アンデッド)に付き従っていると考えられるが、しかしそれだけでも十分厄介になる。隊としての形があるのもそうだが、求心力のあるリーダーはそれだけで能力を何倍にも引き上げるものだ。丁度、ロドスに居るドクターのように。

 

「そっちはどう?」

 

「……ああ、はい。これはヤバいですね」

 

 アビスの力を込めた短剣の柄がみしりと音を立てる。強引に窓を割ったせいで血が垂れているものの、それらを気にする余裕などレユニオンに奪われてしまっていた。

 

「数十人居ます。もしこの車が停まったなら、何一つとして抵抗を許されず殺されるでしょう」

 

「クソッ、レユニオンは壊滅したんじゃなかったのかよ!」

 

「残党はまだまだ居ますし、龍門の停泊している周辺の地下はまだまだ全貌が明らかになっていないそうです。……だとしても、この規模は少々近衛局を怠慢だと評したくなりますが」

 

 カン、と音がする。三人には分からなかったが、車の装甲がレユニオンの粗末な矢を弾いた音だった。

 

「少々で済むかよバカが!」

 

「運が悪かったですね」

 

「うっせえ!……そんで俺はどうしたらいいんだ」

 

「とにかく走らせて、少しでも龍門との距離を詰めてください。包囲されたら終わりです──が、包囲されなければやりようはあります。まあ、ただの源石術(オリジニウムアーツ)ですが」

 

 ちら、とアビスがエイプリルの方を伺う。

 既に何人かを窓から射っていたエイプリルはアビスに視線で応え、場の指揮がアビスに委ねられた。

 

「それにしても、不幸中の幸いと言うべきでしょうか」

 

「……何がだ?」

 

「実は、ですが」

 

 アビスが窓を開けると、レユニオンに飼育されている猟犬が大口を開けて飛びかかってくる。その口にアビスは円柱状の何かを押し込み、外に叩き落とした。

 窓を狙って放たれた矢を掴み、左腕に取り付けられたクロスボウに押し込み返礼する。

 

「今日のボクは、完全武装なんです」

 

 その放たれた矢は猟犬の胴に刺さり、そして貫いた。未だ衰えた様子を見せないアビスは、常人には到底引けない程固いクロスボウを易々と扱ってみせた。

 押し込んでいた円柱状の何か──攻撃型手榴弾が車の後方で爆炎を上げる。

 

「どれもまだ付け焼き刃ですが、負ける気はしませんね」

 

「けっ、やられんじゃねえぞ」

 

「承知しています」

 

 

 

 

 

 

 怒号が荒野を劈く。

 

「ちっがーーーう!!それじゃ照準がつけられないでしょ!もっとしゃんと腕を伸ばして!」

 

「は、はい。すみません」

 

 ゼルが車に寄りかかり、二人の様子をぼーっと見ている。車は所々穴が開いていたり煤で汚れていたりと散々な有様だが、ゼルは掃除に取り掛かる気力もなく眺めている。

 

「ほら、撃ってみて」

 

「はい」

 

 クロスボウから矢が撃ち出され、標的の役割を果たしている手榴弾のピンを掠る。それなりに距離が開いているため、それくらいの精度が妥当だろうとゼルは結論を出した、が。

 

「違うって言ってるでしょ!?さっきと同じとこまた間違えてる、最後までブレないように構えるの!」

 

「わ、分かりました」

 

 コータスの娘がヴイーヴルの青年を叱りつけ、青年が何度か試行した後に改善を完了する。撃ち抜かれた手榴弾は信管の損傷を免れたのか、爆発することなく転がっていた。

 

「どうでしょうか」

 

「次は速射」

 

「ええっ!?」

 

「そんな時間がかかってるやり方は実戦で通用しないの!左腕に錘をつけて戦うんだったら元を取らなきゃ」

 

 見本としてエイプリルが弓を何度か打つ。一秒につき一発のペース、それは速射手として最低限求められるスキルだ。それに付加価値として何発かに一発くらいは精密な射撃をするだとか、敵が多い時は射撃速度を無理してでも上げるだとかがついてくるのだ。

 斯く言うエイプリルは敵から気付かれず一方的に射続けることを得意としている。ハンターとして生きていた頃の経験がエイプリルに気配というものの扱い方を教えたのだろう。

 

「こ、こうですか!?」

 

「はいブレてる!集中して!」

 

「はいっ!」

 

「もっと集中!」

 

「はいっ!!」

 

 鉱石病に罹ることがあったのなら、ロドスの門は叩けど、オペレーター契約はしないようにしよう。ゼルは欠伸をしながらそう思った。

 

 

 

 車を挟んだ向こう側には、数十人もの死体が散乱している。屍山血河、死屍累々、数多の死体が形作る惨憺たる景色を表す言葉は幾つかあるが、それに全く当てはまっていた。

 だがその車が走り去った少し後には、その半数以上もの死体が綺麗さっぱりなくなっていた。武器は疎か、流血でさえ何もなかったかのように消えている。

 

 まるで、それは端から作り物だったかのように。

 

 

 一方、その死体の群れから少し離れた場所では、黒フードの集団がぞろぞろと歩いていた。同じレユニオンだからと仲間意識でも持ったのか、一般兵士の姿をしたレユニオンの男が気さくな様子でそれに話しかけるが──次の瞬間には斬って捨てられた。

 先頭に居た黒フードは部下のそんな様子を一才意に介することなく道に落ちていた布切れを拾い上げる。

 

「……くはっ」

 

 それは強引に破られたジャケットだった。中に包まれていたのはどこにでもあるような酒瓶──ではなく、ゴツゴツとした粗雑な作りの杖だった。

 

「くははははっ!!」

 

 声高らかに笑う。

 身を捩り、腹を抱えて笑い声を上げ続ける。

 

 晴れ晴れとしていた天気がいつのまにか雲を集めている。兵士たちは斬られた仲間を連れてそこらにある地下への入り口を厳重に閉めて下って行った。

 発された怨嗟の声は、しかし聞こえることなく霧散した。黒フード達にとってレユニオンを名乗る意味などもうなく、聞く必要もなかった。

 

「……さぁ、これからだ」

 

 空が泣いた。

 

「これから、そうだ、ようやくだッ!」

 

 風が凪いだ。

 

「ようやく、オレは……っ!」

 

 大粒の雨が地と人を叩く。

 それはいつしか浴びた血や肉と同じように、心に染み込んでもう乾くことなどない。

 

 冷たい雨の中、歩き出した。

 泥濘を越えなければ充足はない。

 

 

 

 

 全ては『半身』のために。

 

 

 

 

 

「ここが龍門……すっごい都会って感じ!しかも綺麗!」

 

 夜の帳が下りた龍門。レユニオンと交戦した件でつい先刻まで拘束されていたアビスら一行は気力を大いに削がれ、げっそりしていた、はずだった。

 事情聴取に連れて行かれた先は検問所の本部であり、それは当然ながら一等大きい搭乗口に設けられている。して、その搭乗口が龍門の玄関であることは言うまでもなく、であればその景色は素晴らしいに決まっていた。

 

 エイプリルの居た席からは窓に装甲板の補強をしたせいで景色が見えなくなっていたので、態々助手席に移動してフロントガラスから龍門の夜景を満喫していた。

 アビスも一応窓から外を見ているが、そのテンションは雲泥の差だ。

 

「どうしよ〜、もう夜なのにすごく買い物がしたい!」

 

「そうなんですか」

 

「へえ、そうなのか」

 

 一ミリも自分の感情を理解できていないにも拘らずなんとなくで相槌を打った男二人を睨みつける。一応アビスは身嗜みに気をつけているし流行に鈍い訳でもないのだが、いかんせんそれをする目的がないのであまり積極的ではなかった。

 鈍いのと同じだろという指摘は甘んじて受け入れるだろう。

 

「なあ、お二人さん」

 

「なんですか?」

 

「俺は日が昇る前に龍門を出ようと思う」

 

「えっ!?」

 

 エイプリルとアビスの両方がゼルに視線を移す。

 

「何もなければ龍門でまた別の依頼を探そうと思ってたんだが、明日になれば近衛局の取り調べが本格的に行われるかもしれねえだろ?そうなりゃ滞在費諸々で大損だ。ホテルも取りたくねえから、補給だけして別の都市に行きたいんだ」

 

「なるほど、それでは仕方がありませんね」

 

 近衛局の取り調べがあるとも限らない、だがないとも限らない。トランスポーターは命を優先こそするが、商売人である以上は損得にも敏感だ。

 それが今の状況を続ければ損になると判断した、ならばアビスやエイプリルに止められる道理はない。

 

「これの修理はいいんですか?」

 

「整備くらいなら俺でも出来るから、また今度にしとけばいい」

 

「分かりました。ではどこで解散としましょうか」

 

「良いホテルを知ってるからそれの近くに停めてやろう。お前さん方なら気に入るだろ、知らんけど」

 

「不安になる言い方ですね」

 

「……まあ、な」

 

「?」

 

「十分と少しで着く。降りる準備はしておけよ?」

 

「了解しました、ゼルさん」

 

 突然の別れにはアビスの方が慣れている。エイプリルは別れの挨拶だけ済ませると、後ろに流れていく夜景に目を移した。

 

 

 

「アビス、戻ろう。戻ってゼルを叩きのめすしかないと思う」

 

 車から降りてゼルの言葉に従い、二人は入り組んだ路地を抜けた先にあるホテルの前に並んで立っていた。ホテルに付いているネオンの看板は赤やピンク色に街路を照らし、横を見れどまともなホテルは見つからない。

 今すぐに引き返そうとしているエイプリルを見て、アビスは首を傾げながら言った。

 

「ここはホテルではないんですか?」

 

「えっ?……えっ、あっ」

 

「交通の便は悪いですが、しかし確かにホテルだと書いてあります。知る人ぞ知る施設なのではないでしょうか」

 

「えーっと、アビス。違うの。ここはホテルなんだけど、でも一般的なホテルとは違うの」

 

「はあ」

 

「いや『はあ』じゃなくて、とにかくここはダメ。本当にやめた方がいいから」

 

「そこまで仰るのでしたら一泊ということにしましょう。夜も遅いですし、今夜だけこの宿に泊まれば良いのではないでしょうか」

 

「そういう問題じゃないんだよ、アビス」

 

 アビスの言っていることは、アビスの視点で言えば正しいことだ。それが世界を正しく捉えられていないことに言及し懇切丁寧に説明すれば、アビスはすぐにでもこの場を離れるだろう。

 しかし生憎とエイプリルにその勇気は出なかった。成人済みの女性が未成年の青年に連れ込み宿について説明するなど極めてハードルが高いため仕方がないだろう。

 

「あー、えっとね。このホテルはカップル専用なんだよ」

 

「カップル専用、ですか?」

 

「そう、恋人じゃないと入れないんだ。親子とかでもダメだし、同僚なんかもっとダメだから」

 

「そうなんですか。そんな施設があるなんて、炎国は意外とメルヘンチックな国なのかもしれませんね」

 

「…………うん、そうだね」

 

 エイプリルは後でケルシーに説明を頼もうと誓った。強力なアーツを操り人の死に慣れたところで、アビスはただの子供に過ぎない。今のところは大人スマイルで誤魔化すことにした。

 

「では、他のホテルを探しますか」

 

 

 

 少し経ち、アビスとエイプリルは無事普通のホテルに辿り着くことができた。それもアビスが連れ込み宿の従業員に対して剛毅果断にも他のホテルの場所を聞き、それの答えがしっかり返ってきた幸運によるものだろう。

 エイプリルはいつ嘘がバレるかと終始ヒヤヒヤしていたが、アビスのナイーブさはどうにか守られたのだった。

 

「ところでアビス、この住所ってどこなの?」

 

 チェックインを終えてそれぞれの部屋に荷物を下ろし、明日からの行動について詰めていくための会話、それの第一声。

 アビスはその問いに答えることができなかった。

 

 エイプリルが問題としているのは、手紙の本文に付け加えられた住所のことだ。捕捉されている単語から察するに恐らくはシルヴェスターの会社がある住所なのだろうが、二人は炎国語が堪能とは言えない。

 住所についても、単位は疎か書き方さえ違っている。

 

「分かりません。ですからそこらの通りでタクシーを拾うことが一番簡単でしょう。土地勘がありませんから多少運賃を上乗せされても気付けませんが、必要経費でしょう」

 

「明日早速行くんだよね?」

 

「はい。何か問題が?」

 

「ううん、ただの確認。じゃあ明日のことだけど……」

 

 アビスとエイプリルが計画を立てていく。

 それがすぐ水泡に帰すとも知らず、それ以上に優先されるべき事項が現れるとも知らず、二人は予定を明日から順に詰めていった。

 

 

 

 

 

 大きな音がした。

 

 それは動力として利用されることのある液状源石が外部からの干渉によって一斉に反応を起こし──平たく言えば、源石が爆発した音だった。

 

 煙が立ち上る。

 炎は荒野を赤々と照らし、しかしそれ以上延焼することもないまま小火に終わる。

 

 だから誰も分からない。

 

 その小さな火の中にはフォルテのトランスポーターが一人巻き込まれていたことを誰も分かれない。そのトランスポーターが殺されたことを誰も分かってやれない。

 

 しかし、もし誰かが顛末を見ていたとしても、その殺意は表に出ることなどなかっただろう。

 何故なら、その黒フードはどんな服装よりも闇夜に紛れていたからだ。何故なら、その車はどう見ても()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

「くはっ、くはははっ!!」

 

 笑い声が夜空に広がる。

 

 決戦の場は龍門。

 トランスポーターなど余興に過ぎない。

 

「呑気に待っているがいい」

 

 

 日付が変わる。

 

 

 小さな火と事故に拉げた車を残して、黒フードの姿はもはやどこにも見当たらなかった。

 

 

 

 

 

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