【仮題】感情トランスポーター   作:Gensigert

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ストーリーが現在予想外の粘りを見せています。
六十三話で終わるとは思いますが、確定ではありません。毎日投稿怪しいんですが、更新されていなかったら危機契約して一日待ってください。

ちなみに今回戦闘シーン多めになってますのでどうぞお楽しみください。本部からは以上です。
 


六十一 見えないモノ

 

 

 

 

 

 

 スラムは閑散としていた。

 二人が以前立ち入った時よりもずっと静かだった。

 

 立ち並ぶ窓ガラスのないビル群に、それらの隙間を埋めるよう作られた露店のようなハリボテ。

 その悉くが、人の気配を感じさせない。

 

 分かりやすく異常だ。短剣を体の前で構えつつ、アビスは歩き出した。尻込みしていたエイプリルもその後ろからついてくる。

 放り出された店の主人は一体どこへ消えたのか。廃ビルだって、一切使っていなかった訳でもないだろう。

 

 歩みを止めず、周囲を警戒しながら開けた通りを真っ直ぐ進む。

 汚い布切れが風に飛ばされてきた。風は向かいから吹いている。

 

 

 考えられる理由はいくつかある。

 

 

 たとえば、スラム内で抗争が起こった場合。戦場になる危険性があるとすれば、フットワークの軽い貧民などすぐに逃げ出すだろう。彼らは暴力の近くで暮らしているが、暴力を恐れてはいる。

 精魂込めた店だったとしても、命には代えられない。誰しもがそれを理解している。

 

 たとえば、区画整理にあたって行われる近衛局の露払い。貧民が邪魔になれば無理矢理退かす必要があるため、大移動を強いられたとしても不審ではない。

 しかしそれにしては徹底的すぎる。近衛局も万能ではない、ビルの中にまで立ち入って無理矢理に移動させられるだろうか?

 

 

 どの想定も不自然だ。この状況を説明できるような整合性の取れたものは見つからない。

 理由が分からない。何故このような状態になったのか、結末だけ切り取っては何も分からない。

 

 そんな何も分からないアビスとエイプリルに、声をかける存在が居た。

 

「何か用かい、嬢ちゃん」

 

 訂正。何も分からない()()()()()に、声をかける存在が居た。確かに気配はなかったはずだが、どうしてか男は二人の警戒を潜り抜け、すぐ近くの壁に凭れていた。

 

 男が組んでいた丸太のような腕を解き、口元だけの笑顔を浮かべて近寄ってくる。毛むくじゃらな顔からはそれ以外の情報を読み取ることが出来なかった。

 

 逡巡の末、アビスは話を聞くことにした。どう考えても怪しいが、それ以上に今のスラムがどうなっているのかを知る方が重要だろうと考えたからだ。

 男との距離が縮まると、その身長──もはや体高とさえ言いたくなるが──は二メートルほどもあるように感じられた。何分アビスやエイプリルの背は低い。男が二メートルあろうがなかろうが、それを正確に判断することは不可能だった。

 

 だがそれに気圧されるオペレーターではない。アビスは何度も図体ばかり大きい傭兵達を恐怖で押し潰しているのだから、それに怯えるのはひどく今更なことだった。

 

「少し質問をしても宜しいですか?」

 

「ああ、構わねえな。だってよ、これを見て質問するなって方が無理あんだろ?」

 

「まさしくその通りです。つきましては、この有様についてご説明を賜りたいと存じます」

 

「あー、随分畏まった口調じゃねえか。ここじゃ伝わらねえヤツだって居るかもしれねえぜ?」

 

「ご忠告痛み入ります。しかし伝わる方にはこのまま対応させていただきたいので、この場での言葉遣いは変えないままで話したく思います」

 

「そんならいいけどよ。まあ何事も使い分けってのが大事なんだ、領分じゃねえモンをやるのは無駄なんだよ」

 

 アビスの肩をポンポン叩きながら、アスランの男は豪快に笑った。親しみやすい男などスラムでは稀覯(きこう)の人物だが、男は確かにその性質を備えていた。

 しかしアビスの警戒は全く解かれていなかった。礼節など口調に表れるものが全てであり、その目は睨め付けるようなものだった。

 

「それで、何が起こったのかお聞かせ願えますか」

 

「まあ、そうだな。そうなるよな」

 

 男は申し訳なさそうな表情をしてポリポリと頬を掻く。

 乾燥した風が二人の間を通り抜けて、エイプリルはアビスに任せていればいいかと周りを見渡した。

 

「すまねえな」

 

 男がアビスの肩にもう一度手を置こうとして、それを紙一重で回避した。目に殺意や敵意こそまだ浮かんではいないが、その手に込められていた力を見逃すほどアビスの目は衰えていなかった。

 

 だが、ここで身長差が最悪の結果をアビスに齎した。

 

 空振った手が落ちきる前に、男の膝がアビスの腹に()り込んだ。どんな動作も見逃すまいと見上げていたアビスは、予備動作を捨てた男の膝蹴りに対応することが出来なかった。

 腕と同じく、丸太に見紛うような足がアビスの腹に入ったのだ。鳩尾あたり、寸分の違いもなく──とは些かの誇張が入っているが、概ね人体の弱点を捉えていた。

 

「お前さんに恨みはねえんだよ、本当にな」

 

 アビスが地面に膝をつく。

 上手く呼吸が出来ず、腹を両手で押さえていた。

 冷や汗が一瞬の間にびっしりと浮かび上がっている。持っていた短剣はアビスのすぐ横に落ちたが、恐らくアビスはそれを認識することすら出来ていないだろう。

 

 エイプリルが振り返った時には、アビスは背中を丸めて蹲っていて、男は表情を切り替えていた。

 アビスに向けていた申し訳ないという感情は偽ってなどいないが、それを今引きずるわけにはいかないからだった。

 

「なんで……」

 

「手ェ出すなって忠告は、聞かなかったか?」

 

 エイプリルが突然の出来事に絶句して、それを受けた男の敵意がようやく場を覆った。それに入り混じるは激しい憤激の感情。

 荒れ狂うほどの感情を抱えてなお、男は咎めるように言葉を発するだけだった。粗野な言葉を使ってこそいるが、実際は紳士なのだろう。嵐の波に似た感情のうねりに蓋をするのは、それだけで相当の精神性が求められる。

 

 対峙するエイプリルも、閉口するにはまだ早い。

 即座に切り替えて男の言葉を咀嚼する。

 

「こっちこそ、初めに仕掛けたのはそっちでしょって言ったんだけど?」

 

「だとしてもあれは俺達の領分だ。テメェが、テメェらが口出すようなことじゃねえんだよ」

 

「それを判断するのがキミらだけって、その時点でちょっとおかしくない?」

 

「何もおかしくなんてねえよ。おかしいのはテメェの頭だ」

 

 エイプリルの『「なんであたしがそんなこと言われなきゃいけないの」ゲージ』が上がっていく。ガヅィアと話していたあたりは三ほどだったが、今の会話を経て倍の六にまで到達してしまった。

 最大の十にまで至ると☆5が確定するらしい。

 

 エイプリルが短弓を素早く手に取った。練習され尽くした流麗な動作で、ごく自然な風に手へと渡っていた。

 

 しかしこのままでは、エイプリルの強みが発揮できない。

 エイプリルが持つ最大のスキルは潜伏──もっと言えば、迷彩技術を活用しての一方的な狙い撃ちだ。その根幹を支える迷彩も、真正面から自分を見つめてくる敵を誤魔化せるほど万能ではない。

 

 アビスから短剣の一つでも貸してもらっていれば良かった、そう後悔しても後の祭りだ。現在エイプリルの手元にある武器は弓矢、それだけだった。

 

 

「もう、いいよな?」

 

 

 男が腕を振るう。

 咄嗟に身を翻して回避したが、男の攻撃がその程度で終わるはずもなかった。

 

 突き出された足をしゃがんで避けると、ギリギリで掠った耳が痛みを伝える。教えられている格闘術で伸び切った足を狙ったが、力が足りず振り払うのみとなった。

 ダメージソースとして肉体は役に立たない。だが弓を引くほど距離も時間も与えてくれない。

 

 後ろに飛び退いてみても、その分男は勢いをつけて腕を構える。それは本能に任せた理論も何もない攻撃だったが、手の先から伸びる鋭利な爪を見れば大袈裟に避けるべきだと思ってしまう。

 

 勢い任せに爪を振るい、避けた先をもう一方の爪が突く。

 切り裂いたのは空気だけで、エイプリルはそれを掻い潜って退避していた。

 

 掠ったのは耳へ一度だけだったが、エイプリルの顔つきはかなり厳しかった。持久力が特別高くもなければ、近接戦闘に慣れてもいない。

 高台とは緊張や疲労の積もり方がまるで違っていた。それを分かっていなかったから、エイプリルは既に玉の汗を額に浮かべている。

 

「避けんなよ、殺せないだろ」

 

 殺気が一際強くなって、エイプリルは跳んだ。

 どこへ跳ぶ、だとかは全く考えていなかった。とにかく今跳ばなければ何もかもが終わってしまうような気がした。

 

 エイプリルが全力で横に跳んだところを、一瞬遅れて何かが過ぎ去る。背後にあったビルの壁へとそれは突っ込んでいって、大きな破砕音を上げた。

 

 ビルの壁を壊したのは何による攻撃か。

 

 エイプリルが焦燥と共に男の方を確認すれば、男の手からボロボロと何かが崩れ落ちて行った。

 そしてその向こう、エイプリルが避けた時に崩れたものと同じように、男の側にあるビルの壁も破壊されていた。

 

 拾い上げた大きめの瓦礫を、男が振りかぶる。

 

 完全に直感だけで、エイプリルは転がるように避けた。寸前まで頭があった場所を視認できない速さで礫が通り過ぎていった。

 

 投擲の間隔を活かして矢をつがえる。エイプリルが立っているのは紛れもなく死の淵だった。何が何でもの思いで抵抗しなければ待っているのは悲惨な最後だけだ。

 

 エイプリルの矢が空を翔る。

 それは寸分違わず男の顔面を撃ち抜かんとしたが、構えられた男の腕がその行く手を阻んだ。

 

 痛苦を感じてはいるだろう。いくら鍛えていたとしても、ただの肉体ではどうしても抑えきれないダメージがあるはずだ。それが誰かの拳でもなく勢いよく射られた一矢なのだから当然だろう。

 しかし、それは些細なものだった。その程度のダメージをいくら食らったところで、少なくともエイプリルが先に力尽きるということだけは確かだった。

 

 エイプリルが臍を噛む。

 今のままではどうやっても倒せない。

 

 男がより一層大きな瓦礫を軽々と持ち上げ、エイプリルに向かって投げつけた。

 多少図体のでかい人くらいなら易々と覆ってしまえるほど大きな塊が迫ってくる。エイプリルは準備していた矢を矢筒に戻すと、力の限り横に跳んだ。

 

 だがこの程度躱されることなど相手も分かっているはずだ。そう思ってまた回避の体勢を取ろうとしたその時──眼前に四つほど光るものが迫ってきていた。

 

 否。それだけではない。

 

 光るものの向こう側に、大きな影がある。逆光で見えない何かがあって、そこから四本もの光る何かが伸ばされていた。

 

「────ッ!!」

 

 理解、そして恐怖。

 

 それが男の爪だと理解した瞬間、エイプリルの頭に凄まじいまでの信号が打ち込まれる。

 

 『危険』、『回避』、そして『恐怖』。

 

 エイプリルの体が最終的に選択したのは『恐怖』であり、『回避』だった。

 

 竦んだ足から力が抜けて、膝が折れる。

 容赦なく顔を狙って繰り出された爪撃は目の前スレスレ、顔のすぐ上を通って流れていった。

 

 回避の成功を確信。エイプリルは仰向けに倒れ込む体を無理矢理捻って横へと転がり、結果二撃目の爪は地面に刺さるだけとなった。

 

 すぐに立ち上がり、エイプリルが取った行動は──当然ながら攻撃だ。

 逃げたとしてもここは相手のホームグラウンドであり、遠距離の攻撃手段は心許なく、であれば隙を晒した瞬間を近距離で狙い撃つのみだ。

 

 引き絞った弦から手を離し、矢が放たれた。

 両手は防御が間に合わず、男の右眼を貫くかに思えたその弓撃は男の回避によって僅かなダメージすら与えられることなく向こうへと飛んでいった。

 だがしかし、男の回避にも余裕は見られない。本来ならば体力や腕力からして決着がついているだろうに、戦闘経験の差から男は十全にダメージを与えられずにいた。

 エイプリルからして男は強大だったが、男からしてのエイプリルもほぼ全ての攻撃を回避する強力な敵。

 

 少しの膠着状態が生まれた。

 

 睨み合い、つがえた矢と振りかぶった拳が威圧を重ねる。未だ怒りの形相で構える男、冷静なエイプリル、どちらも退かなかった。

 

 

 そして、エイプリルは笑った。

 

 

 瞬間、男の毛が一斉に逆立った。

 濃密な殺気が男の背後から這い寄り、それは首を絞められ、更に心臓を鷲掴みにされているような恐怖を伴っていた。

 

 そして男のエイプリルに対する警戒が緩んだ瞬間を狙って、つがえていた弓から矢が再度放たれた。

 

 背後から忍び寄っていた殺気の塊。前から迫り来るエイプリルの矢。どちらも男を殺せるだけの鋭さを持っていた。

 

 そして矢が男へと到達する少し前、アビスの短剣は男の首へと至った。

 跳んでいたアビスはそのまま男の頭を掴み、首を水平に切り払おうと力を込める。

 

 

 しかし、男は咄嗟に前へと出ることが出来た。

 矢から恐怖を感じなかった訳ではないが、前へと踏み出さなければ、前へと踏み出す勇気がなければ首を切り裂かれるのだ。

 男は全力で前へ飛び出し、死力を尽くして迫る矢を潜り抜け、頭を掴んでいるアビスの腕を自分から掴み、エイプリルの元へと叩きつけ──られなかった。

 

 矢は一本だけではない。

 

 アビスは男の腕に掴まれるより先に離脱を終えていた。置き土産代わりに、アビスは男の背中を勢いよく蹴り抜いていた。

 それと同時にエイプリルは二本目の矢を放ち終えていた。

 

 男の左眼に矢が突き刺さる。

 

「があああああッ!クソ野郎、やりやがったな!!」

 

 突き刺さっている矢をそのままに、男は右の拳を握り固めてエイプリルへと放つ。

 

 だがそれを前に、エイプリルは一歩も動かなかった。

 

「力が強い、ですか」

 

 懐に飛び込んだアビスが男の右腕を掴み、自分の体ごと捻って引き寄せる。

 元から前のめりになっていた男の体勢が更に崩れて、地面へと落ちる──前に、アビスの肘が男の首を勢いよく突いた。

 

「────ッッ!!!」

 

 声を出せなくなった男が喉を押さえて後退る。人体の弱点は誰にでもあるもので、首と鳩尾はその中でも一等有名だ。

 

 男は未だ膝をついていない。鳩尾に膝蹴りをされたアビスの怒りもまだ収まっていない。

 体をくの字に曲げ声にならない声で呻いている男を前に、アビスは握り拳を作った。

 

 危険だ。

 そう認識した男がなんとかアビスへと腕を振るったが、手応えはない。アビスは大振りの攻撃が生んだ隙を利用して、懐へと入っていた。

 

「サリアさんよりは弱かったですよ」

 

 ノーガードの鳩尾を殴り抜かれた男が二、三メートル吹っ飛んで動かなくなる。死んではいないだろうが、動くこともないだろう。

 鳩尾を狙ったのは、ほぼ不意打ちで腹に蹴りを入れられたせめてもの意趣返しだった。

 

 二人顔を見合わせて、息を一つ吐く。

 

 余談だが、アビスが男を殺していないのは、男にアビスを殺す気がなかったからだ。エイプリルの方にはガンガン殺気を飛ばしていたが、どうしてかアビスにはそれがなかった。

 故にアビスは殺していない。エイプリルが始末すると決めたのなら別段加減せず息の根が止まるまで殴っただろうが、エイプリルからしてみれば疑問が絶えないはずだ。少なくともまだ、殺す気はないだろう。

 

「良いパンチだったね」

 

「ありがとうございます。エイプリルも、よく耐えられていましたね」

 

「本当だよ。何回死んだと思ったと思ってるの?ずっとアビス待ちだったんだからね?」

 

「申し訳ありません。しかし、初撃からああも回避に対応されてはどうにも出来ませんよ」

 

「アビスって最低限の動きで避けようとするもんね」

 

「大きく避けるとサリアさんにやられます。あの人の前で隙を作るなんて自殺行為ですから」

 

「あー、あの人って不意打ちあんまりしなさそう」

 

「必要ないんですよ、きっと」

 

 談笑しつつ、二人は男の状態を念入りに確認した。縛り上げることが可能ならそうしたかったが、生憎と丈夫な紐や縄がない。

 男の衣服を使おうにも、脱力した大男の服を脱がせるにはかなりの労力が必要だ。それに縛り上げることが必ずしも必要な訳ではない。これだけ痛めつけられているのであれば、エイプリルもアビスも一対一で勝てるだろう。

 

 慈悲として、左眼の応急処置をしておいた。とは言え刺さっている部分を抜いては恐らくトドメになってしまうため、露出している部分を根本の方で折るくらいしかしていないが。

 

「それで、どうして最後避けなかったんですか?」

 

 一段落して、アビスとエイプリルは男が起きるのを待つことにした。外した矢も回収して、廃ビルのそばに腰を下ろす。

 話題となるのはやはり先程の戦いのことで、アビスが気にしていたのはエイプリルが避けようとしなかった理由のようだ。

 確かに、あの瞬間エイプリルはアビスのことが見えていないはずだった。アビスが横から入った時も、エイプリルは矢を放った後の体勢のまま男を見ていた。

 

「アビスはどうしてだと思う?」

 

 にやにやと笑いながらエイプリルが聞く。揶揄うような笑みだったが故に、何も言わず従う気にはなれなかった。

 

「分からないから聞いてるんですよ」

 

 それを聞いて、エイプリルがより一層笑みを濃くした。アビスの子供っぽい面を見るのは一体何度目だろうか。そう多くはなかったはずだ。

 それに、答えは少し考えれば分かることだ。

 

「自分で考えてほしいからクイズで出してるの」

 

「そうは言っても……」

 

 アビスが真剣な顔をして考え始めた。そう難しい問いでもないはずだったが、アビスはまるで難問にでも挑んでいるかのようにうんうん唸っていた。

 

「分かりません。あの場で避けない理由なんて本当にあったんですか?」

 

「あ、うん。アビスの認識は大分間違ってるね」

 

 『避けない理由がある』ではなく『避ける必要がない』シチュエーションだった。恐らくアビスはもうダメだ。その部分を正したとしても答えに辿り着くことはないだろう。

 

 エイプリルが苦笑いしたのも当然だった。

 

 二人で少し話していれば、段々と戦闘に昂っていた体が落ち着いてくる。澄ましていた感覚は次第に鋭さを失っていく。

 アビスが答えを出すことはなかったが、別段構わなかった。その答えに何か特別な意味がある訳でもない。

 

 ただ、アビスのことを信頼している。

 それが答えなのだから。

 

 

 

 そして、そんな時間が終わりを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

「な、こっち見ろよ」

 

 

 

 

 

 

 すぐさま立ち上がり武器を構えて、しかし二人の顔には困惑が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

「なあ。……くっ、見えねえよな。ってるぜ

 

 

 

 

 

 

 声のした方を見ても、何の姿も捉えられない。ステルスか、迷彩か、それともアーツを使っているのか。

 若い男の声だ。少年とも青年とも取りにくい中途半端な声ではあったが、男だということは分かった。

 

 アビスの手がグリップをより強く握りしめる。

 

 

 

 

て、名乗っおくか。俺は〝カイ〟」

 

 

 

 

 戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「通亡灵(アンデッド)』。こんなナリで一応ニオンの幹部さ、つって見えねえんろうけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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