【仮題】感情トランスポーター   作:Gensigert

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着地点決めて書いたら長くなりすぎてしまった
 


七十 苦労人確定枠

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冬が嫌いだ。必ず後悔に襲われるからだ。

 

 春が嫌いだ。いつも自分が嫌になるからだ。

 

 夏が嫌いだ。彼の手が恋しくなるからだ。

 

 秋が嫌いだ。彼の言葉を思い出すからだ。

 

 

 四季が嫌いだ。彼を置いて、私だけを未来に連れていってしまうからだ。

 

 

「『来年になったらお爺ちゃんにさ、──って、思ってるんだ』」

 

 紡がれた言葉、結ばれた約定。

 人の命が泡沫であるならばきっと、人と人が作るそれらも泡沫に違いないのだろう。

 

「それ、カインの言葉?」

 

「ああ。一度たりとも忘れたことはない」

 

「そっか」

 

 リラはそれですぐに納得したようだった。そこまで分かりやすかっただろうかとペタペタ顔を触ってみたが、やはりわからない。

 

「ほら、何止まってんの。行くよ」

 

 走るリラ姉についていく。

 向かう先はオレたちの孤児院。そこで、オレはオレの感情と決着をつけなければならない。正直無理だって思ってるけどな。

 

「少しは待ってくれよ」

 

「ヤダ。早く帰らないと小さい私に寝取られる」

 

「……付き合ってねえくせに」

 

「は?」

 

「ごめんなさい」

 

 つい本気の謝罪が口から溢れ出た。こんなプレッシャーを感じたのは、あのリラ姉狂いに抱きしめるように拘束された時以来だろう。刃が口で止められた時は正直化け物に見えた。

 そのことを話せば、リラ姉はどんなことを思うだろうか。──確実に喜ぶだろう。二人はそういうバカだ。

 

「寝取られると言えば、私の容姿を借りてハグしてもらってた不届者が居たよね」

 

「……悪いかよ」

 

「うん。でも私もここにアビスが来た時抱きしめられたし、いっぱい好きって言ってくれたから怒らないであげる」

 

 うへぇ、と舌を出す。甘すぎる惚気にはもう嫉妬する気すら起きない。いや、まあ、もしカインが生きてたらオレもそうなってたと思うが、それとは話が別だろう。たぶん。

 

「どこが良いんだか」

 

「え、もし良いところ知ったら好きになっちゃうだろうから教えないよ?」

 

「どこから湧いて出てるんだよ、その自信は……」

 

「⬜︎⬜︎から、かな」

 

「確実にアイツは自分のこと好きじゃねえだろ、オレたちと同じで」

 

 リラ姉は少し考えて、納得したように頷いた。

 パルクールじみた動きで乱雑に入り組んだスラム街を駆けながらも、相当な余裕があるようだった。

 

 調停者(フィクサー)と名乗っていた。

 それはつまり、あのリラ姉狂いが誰かと問題を起こすたびにこの世界に連れ込んでどうにかするってなわけだろう。

 

 その対象が、今はオレだ。

 

「なあ、リラ姉」

 

「何? あいたぁっ!!」

 

「……大丈夫かよ」

 

「だいじょーぶ、ちょっと足引っ掛けただけ」

 

 毒気を抜かれる。

 オレを懐柔しようとしているはずなのに、今さっきは嫌悪を覚えていたはずなのに、リラはそんなオレの悪感情を嘲笑うように溶かしてしまう。

 

 変に落ち着くんだ、リラと居ると。

 イライラだとか混乱だとかが自然に抑えられているような感覚。もちろん小さな頃は全く思いもしなかったが、今だからこそわかる。

 

「何を言おうとしてたの?」

 

 少しだけ、その裏が見たくなった。

 ふざけた怒りなんかじゃなくて、もっと真っ直ぐな裏の顔。その好奇心は抑制されることもなく肥大化していく。

 

 地雷は既に見えている。

 あとは一歩だけ踏み出せば、それが本気であると思わせてしまえば、きっとリラはオレを本気で排除しようとするだろう。

 分かりきっている愚かな選択。

 

 

 選ぶ間もなく、どうやらオレは目的地に着いてしまっていたようだった。どのみちリラ姉に喧嘩なんて売らなかったとは思うが、時間切れで処理されるのは歯切れが悪い。

 

「さて、と」

 

 オレが一人であれこれ考えていると、リラ姉が足を止めた。急いでここへ来たと言うのに裏口前で何を話すのか。中に入ってからでは遅いのか。

 

 そんな考えが丸ごと引っ込むほど、リラ姉の雰囲気は恐ろしく攻撃的になっていた。

 まるでナイフでも突きつけられているかのような強すぎる威圧に総毛立つ。

 

 急展開が過ぎる。

 なんだ、この化け物は。

 

 そう毒でも吐いてしまえればずっと楽だったのだが。リラ姉が発する存在感は鮮烈で、オレには発言すら許されていないようだった。

 

「これからナインにはトラウマを克服してもらうね。確執なんて全部、天災に襲われた街みたいに綺麗さっぱり消え失せる」

 

 敢えて使われている、オレの(かん)に障る言葉遣い。トラウマなんかじゃない、といつもなら噛みついていただろう。ただ、話し始めたリラ姉は相変わらずその威圧的な雰囲気を存分に振り翳している。

 どうしようもない。どうにもならない。

 

「だから、ね。ナインはもう用なんてなくなるんだよ」

 

 誰に、とは聞くまでもないか。

 

「これが終わったらもう近付くなよって言ってんのか」

 

「あ、偉いねナイン。大正解だよ。また昔みたいに頭でも撫でてあげようか?」

 

 どうして、と疑問が頭の中を占領する。

 オレが知ってるリラ姉にも確かに独占欲はあったが、それにしたってここまで酷いものではなかった。

 アーツで作り出したと言うのなら、オレがやったような精度でトレースできたって不自然じゃない。いや、できない方がおかしい。だとしたらこの違和感しかないリラ姉はなんなんだ?

 まるで、そう。オレみたいに誰かが中に入って、その発言をリラ姉の言葉に翻訳しているようだ。

 だがこのリラ姉はアイツの頭の中で逐次回答を作られているはずだ。無意識下だろうそれは本人だって手を出せないし、他からの介入なんてありえない。

 こんなエラーの発生はおかしい。

 

 

 ──結論。何も分からない。

 

 

 だから、オレが出す答えは安心安全のものだ。ここで変に煽って意味不明な存在を刺激する必要なんてない。

 

 なんて、言うと思ったか?

 

「おいリラ姉。覚えとけ」

 

「え、なになに?」

 

「オレは、この孤児院が大嫌いだ。カインを殺したこの孤児院が心の底から大っ嫌いだ」

 

「……」

 

 リラ姉が相槌を打たない。それはきっと真剣に話を聞いているからだ。そういうクセがあったような気がする。

 

「でもここがなけりゃカインに会うことはなかった。オレはとっくに野垂れ死んでいた。それに、ここの思い出は何も血と怒号だけじゃない。リラ姉とのものだって、アイツとのものだってある」

 

 別に恥ずかしいことを話しているわけじゃないが、なんだか背中の方がむず痒くなる。

 

「オレは結局嫌いになんてなれなかった。一人で生きていく強さなんてなかったから体のいい理由を作ってレユニオンに入って、その理由が気付けばオレの生きる理由になった。アイツを殺すだなんて理由を掲げた。嫌いじゃなかったのに、止まれなくなったんだ」

 

 別に後悔はしてない。こうする他なかったと思う。オレがこうすればよかったなんて話の前に、アイツがちゃんとオレたちを守ってくれていれば、敵なんて作らなければ良かった、って話もあるしな。

 

「そっか」

 

 リラ姉がしみじみと頷いた。

 

「生きるためには目標が必要で、その理由が次第に本当のものになる。──分かるよ、私も知ってる」

 

 リラ姉は攻撃的な部分を除けば本人そのものだ。余りにも強い威圧にイメージが一新されていたせいで目が曇っていたのか、それを忘れていた。

 儚くて透明な、線が細い少女。周りを振り回すパワフルさはあっても根幹がそうだった。

 

 今オレの言葉に同調したリラ姉はそんな性格を惜しみなく見せていた。触ってしまえば根本からぽっきりと折れてしまいそうな、そんな雰囲気だった。

 

 思わぬ反応だったが、これは重畳だ。

 

「オレはアイツが好きだ。用なんてあったってなくたって関係ない。オレは⬜︎⬜︎と一緒にいるつもりだ。アイツが死ぬか、次の生きる理由を見つけるまでくらいは、な」

 

 オレが真っ向から本音をぶつけるのにちょうどいい。さっきまでは言える雰囲気じゃなかった。マジで。

 

「だから人に言われた程度で離れるつもりはない。況してやとっくに死んだ幻影に言われたって、改める気なんて起きねえよ」

 

 オレは、アイツを大切な人だと思っている。勿論他意はないし他の孤児院のヤツらだって同じくらい大切な人だ。またあのメンバーで過ごしたいと思うくらいには大切だ。

 カインのことに関しては、割り切りはしても許すつもりなんてないけど。

 

 胸襟を吐露したオレ。リラ姉が納得するとは思ってねえけど、それでも少しは受け止めてくれると思っていた。

 

「私が幻影なんて。おかしなことを言うね、ナインは」

 

 失笑が漏れた。

 

「もしかして、私が⬜︎⬜︎のアーツで作り出されたとでも思ってるのかな? そんなはずないじゃん、こんなに自由に動いてる私が⬜︎⬜︎の思い通りに行動してるだなんて」

 

「別に意識的とまでは思ってねえけど」

 

「無意識的にでも、私のことをこんな底意地が悪い人だと思ってるとでも?」

 

 言葉が詰まる。確かに、あの信頼は気持ち悪いくらいのものだ。手放しの、それこそ溺愛とまで言える感情がある。リラ姉の言葉を否定できるだけの根拠は見当たらない。

 じゃあ、それなら本当に、こいつは誰だ?

 

「私はリラ。ナインが思ってるよりずっと、そして()()()()()()()()()()()()()のリラ」

 

「ありえねえだろ。死んでるヤツが、しかも他人のアーツに巻き込まれる形で現れるなんてことは……」

 

「ああ、それもだよね」

 

()()?」

 

「うん、それ。この世界は⬜︎⬜︎じゃなくて私が作ったってこと。部外者(アウトサイダー)を招いたのは(フィクサー)だよ」

 

「リラ姉が、作った……?」

 

 オカルトじみた説明だ。もし全てが本当だとしたら、死人がアーツを使って生きた他の人間を殺すことだって可能だということになる。

 それでも今の説明が嘘だと切り捨てることはできない。リラ姉の存在がそもそもイレギュラーであるからだ。

 

 明らかになった数々の事実。ただでさえ意味のわからない世界に引き摺り込まれたと言うのにこの仕打ちで、オレは一周回ってどうでもよくなりつつあった。脳内容量はとっくにパンクしてる。

 本当ならきっとあのガキを殺すことだけを考えていたはずなんだ。それなのにここまで悩ませられているんだから、この異次元的な情報群がどれだけ衝撃なのか分かろうものだと思う。

 間違ってもオレみたいに幼気(いたいけ)な少女に積み込まれていいものじゃない。何百年も生き続け、化け物を使役するような、そんなバカみたいなフェリーンだとかが対処すべきだ。

 

 つってもそれが無理だなんてことは分かりきってる。オレは思考を巡らせてどうにか脱出する手段を探るしかない。

 

「とは言えここがリラ姉が作った世界、つまりは術中であるなら、無事生還なんてクソみたいな難易度なんだけどな」

 

「えへへ、そうかも」

 

 照れた様子で頬をかく。

 正直先に言ってほしかった。それを聞いた後なら、リラ姉に脅迫される形で敵対を避けられただろうに。

 オレの後悔は半ば八つ当たりじみていたけど、今の状況が無理ゲー過ぎるから許してほしい。

 

 今からでも撤回してアイツから離れると約束することも頭を(よぎ)ったが、一度拒否したオレが信じられるかは甚だ疑問だ。

 今は良くとも、現実に戻った際どうなるかわからない。リラ姉の立場から見ればオレはそんな立ち位置になる。亡灵(アンデッド)の時のオレだったらそんな不確定存在は消す。

 

「私は一応ナインのことを思って動いてるんだよ? 別にナインのトラウマなんて放っておいて、直接殺したっていいんだからさ。でも今ナインのトラウマを消してあげようとしてる。殺されそうになったら軌道修正してあげてる。だからそんな私からのお願い一つくらい、聞いてくれてもいいんじゃない?」

 

「───、────」

 

 余りにも上から目線で語られる恩着せがましい言葉の群れ。まるで全てにおいてオレより上だとでも思っているような、オレの命なんて路傍の石とでも思っているかのような発言に閉口する。

 

 ……聞くだけならそれこそ石でもできる。でもオレは人だ。対話で、折衝で、何とか逃げ道を探るしかない。

 

 そう言えば、気になることが一つ。

 

「どうして、オレに近づいて欲しくないんだ? アイツがオレをそういう目で見てないのは流石に分かるだろ」

 

「決まってるじゃん、ナインが気にかけてもらえてるからだよ」

 

「別にオレだけじゃない」

 

「うん、それはそうだね。でも昔同じ孤児院に居たことと、自分に復讐心を持ってるってことでナインはそれなりに強く心配してもらえてるんだよ」

 

「だからオレにその復讐と向き合わせたわけか」

 

「うん」

 

 オレのトラウマを消そうとしてるのはただ利益に繋がるからということだ。人間性と倫理観の大部分をかなぐり捨てたのか、リラ姉は。

 

「⬜︎⬜︎は私のことをずっと見てなきゃダメなの。過去を割り切るなんて絶対にさせない。前なんて向かせない」

 

「アイツのためを考えるとか、ないのかよ」

 

「好きな人のことを考えて、自分のことを忘れてもらう? こっちの自我が残ってる状態で? 一度は両思いだった好きな人が他に好きな人を作って幸せな家庭を築いてくのをずっと、ずーっと指咥えて見てろって? ねえ、それどんな拷問?」

 

 六年。袂を分かった二人が積み上げた年月は、人生を三等分したうちの一つだ。その中でリラ姉がどれだけ悩んだのかは、想像の範疇にすらない。

 

「まあ冗談だけど」

 

「えっ」

 

「そりゃ納得はできないけど、何かできるわけでもないし。本当の本当に嫌で嫌で仕方がないんだけど、仕方のないことだから」

 

 思っていたよりずっと理性的だった。

 それなら、何故あんなことを口走ったのか。

 

「他にも理由があって私は頭の中に居座んなきゃいけないの。こればっかりは説明できないけど、そういうものだって思って」

 

「大義名分を得てブレーキがぶっ壊れた、ってとこか」

 

「ひどっ!? あ、でも理由があるって分かってくれてありがと!」

 

 理解はしても納得はしてないけどな。

 吐き捨てるようにそう言えばリラ姉がぶー垂れた。

 

 ──疑問が一つ浮かんだ。何の脈絡もない小さな疑問だったが、解消しようとするたびに頭の中でより強く存在を主張する。

 

「どうして、オレはまだ死んでない?」

 

「えっ」

 

 術中にハマっている。そのはずだ。もう抗いようのないくらいにこのアーツはオレを支配している。

 オレは、正直もう死んだ方がリラ姉にとって得なんだ。簡単に殺せるのなら、頑固なオレの説得なんてせずに殺してしまった方が早い。

 今のリラ姉はたぶんオレに興味がカケラもない。執着もない。なのにオレは生きてる。

 

 考えられることは──。

 

「リラ姉が使ってるアーツは恐らく⬜︎⬜︎のアーツ。殺すなら感覚神経だけじゃなく運動神経にも信号を伝えなきゃいけない。その場合、オレに勘付かれてレジストされ、この世界に閉じ込めることすら出来なくなる可能性が高い」

 

「待って待って待ってなんで分かっちゃうの」

 

「リラ姉よりずっと、オレはアーツに理解があるからな」

 

「ペアルックのアーツいいなぁ……」

 

「魂レベルで運命かもな。──いっってぇぇ!! なんっだコレ!! クソ痛え!!?」

 

「痛覚だけなら私の思うがままだし。気づかれた以上はもう秘密にする意味もないし、いいかなって」

 

 オレの方から茶々を入れておいてアレだけど本当に容赦ねえのな。リラ姉のこと嫌いになりそうだ。

 

 我ながらかなり酷い八つ当たりをしている、と思いつつ、オレの痛覚への干渉をやめた、もしくはやりきったリラ姉に目を向ける。

 

「なあ、リラ姉。妥協点を見つけないか?」

 

「……」

 

「オレはこの後ガキに会って、何とかする。アイツが心配しないように自立する。その代わりにオレがアイツと一緒にいることを許してくれ」

 

 なんか、アレだ。オレがしたことはないけど、なんとなく実家の挨拶みたいだった。リラ姉が頑固親父でアイツが娘。

 

「ぐぬぬ……」

 

 テンプレめいた呻き声をあげるリラ姉(頑固親父)。こうして考えると、アイツを守ってるように捉えられなくもない。随分と短気で攻撃的だが、もしかすると守護霊的な存在なのかもしれない、と今更ながら思い当たる。

 お化けなんて居ないのは分かってるけどな。うん。お化けなんて存在しない。そもそも非科学的だし。実証がないのに信じられるわけないし。

 

 変な方向に脱線したオレを置いて、リラ姉は決断を下そうとしていた。自分の選択に不安を持ちつつも、どこか割り切ったような顔で。

 

「私はナインを信じるよ。そういうことにはならないって信じる。私から奪わないって信じる。──ナイン、応えてくれる?」

 

「ああ、最初からそのつもりだ」

 

 差し出された手を握る。気恥ずかしそうに照れてるリラ姉はどうにも綺麗で、もし奪おうとしたって、オレには敵いそうもない。

 オレはずっとリラ姉や⬜︎⬜︎に憧れてたんだ。カインと二人で大好きだったんだ。

 

 

 それから少しして、リラ姉がアイツを呼びに行った。オレはあのガキを見ると頭に血が上って周りが見えなくなるから、どう向き合うにしろストッパー役のアイツが必要だって結論になったからだ。

 あのガキのことを考えれば考えるだけイライラするオレの相手をリラ姉一人がするってのも気が引ける。自分で言うなって話なんだけどな。

 

「こっちこっち! 早く!」

 

「あっちのリラと話してたんだけど……って、ナイン!?」

 

「よう」

 

 アビスはオレを見つけるとすぐに駆け寄ってきた。おい、先導してたリラ姉を追い越したせいで不機嫌になってるぞ。オレのことはいいから機嫌を取れ。

 

「大丈夫みたいで安心したよ。強いのは知ってるけどスラムでは何が起こるか分かったものじゃないんだから、単独行動は控えること。いいね?」

 

「……オレを心配する必要なんてねえよ」

 

「ボクたちは家族なんだから当たり前。何か間違ってること言った?」

 

 何も間違ってないから早く離れろ。肩に手を置いたあたりからリラ姉の目がマジになってる。気付け、バカ。

 

「もういいだろ。さっさと話に入るぞ」

 

「うん、私もそれがいいと思う」

 

 間髪入れない同意。ずずい、とリラ姉がオレたちの方に近づいてきてる。

 

「分かった。……本当に心配したからね」

 

 戦った時のそれとは違って、それはオレを拘束するような強いものじゃなかった。ただ腕の中の存在を慈しむためだけの暖かい抱擁だった。──リラ姉が向けてくる絶対零度の視線を除けば、な。意味分かんねえくらい無機質な目がオレを貫く。

 

「三度目の正直。仏の顔も三度まで」

 

 次はない。リラ姉の口がそう動いた。

 

 

 ……オレ、ちゃんと無事に帰れるかなぁ。

 

 

 

 

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