――さあ、その女を殺せ。
――『支配の力』を見せてみろ!
『お母さん』の命令に従って目の前にうずくまる女に剣を突き立てる。女は暫く蠢いていたが、やがて動かなくなった。すると女の身体から暖かな光が溢れ出て来る。
――成功だ! ついに、完成させたぞ!
光が
――ついに、やったぞ!
――長かった……本当に長かった……!
『お母さん』は涙を流している。そんなに
――流石は
――お前こそが人類救済の鍵となるのだ!
『お母さん』が私の肩を掴み、そう叫ぶ。そうだ。私はこの力で――
◆◆◆◆◆◆
今日は遠足当日。ライカたちはシャボンディ諸島へと来ていた。
シャボンディ諸島。そこは79本のヤルキマン・マングローブによって構成されている土地であり、厳密には島ではない。しかし、便宜上、諸島として扱われている。樹木一本一本に番号が割り振られていて、それが区分けとして使われている。例えば、番号1番を割り振られたマングローブ上の土地は「1番グローブ」と呼ばれる。
また、シャボンディ諸島で最も特徴的なのが、その名前の由来となったシャボン玉だ。ヤルキマン・マングローブの根から分泌される樹脂で出来たシャボン玉は、人が乗っても割れないほど頑丈でありながら、風船のように柔らかく、さらに空気よりも軽いので宙に浮く。このように、この土地のシャボン玉は非常に便利な性質を持っており、そのため、この土地の人々は昔からこれらを様々な形で利用してきた。今ではそれは最早一つの文化にすらなっており、シャボン玉文化と呼ばれることもある。
ライカたちが今いるのは32番グローブ。ここは繁華街として整備された30~39番グローブの地域の中でも取り分け人気が高く、多くの観光客が訪れる場所である。そしてその理由が今ライカたちの目の前にある巨大建造物だ。
シャボンディパーク。それはシャボンディ諸島の32・33・34番グローブにまたがる巨大遊園地である。シャボン玉文化の集大成とも言うべき大規模テーマパークであり、この大海賊時代でも多くの観光客が訪れ、繁盛していることからもその人気が窺い知れるだろう。
「えー、本日の遠足ですが、皆さん、ちゃんと先生方の指示に従って行動するように。遊園地に来て興奮しているのは分かりますが、だからといって他のお客様の迷惑にならないように。また、海軍の皆様が警備にあたってくれています。くれぐれも感謝の気持ちを忘れないように。では、行ってよし!」
「「「「「はい!」」」」」
教師の話が終わると同時に、子供たちが思い思いの方向へと走っていき、それに海兵たちが付いていく。
「パパ! 一緒に行こう!」
ミミはダスティに飛びついた。その後ろでライカは苦笑いを浮かべている。
「ミミ。折角の遠足なんだ。パパじゃなくて友達と遊んできたらどうだい?」
「やだ! パパもライカちゃんと一緒に来るの!」
ミミは一番の親友であるライカと一緒にシャボンディパークを回る予定だった。しかし、今回の遠足の付き添いに父親であるダスティがいることを知り、彼女たちの予定には急遽ダスティが加えられることになったのだ。
「こら、ミミ。パパは仕事でここに来ているんだ。遊びじゃないんだぞ?」
「ぶぅ~」
あくまでも海兵であろうとする自分の父に、ミミは頬を膨らませた。しかし、ここにはミミに援護射撃できるものがいる。
「いいじゃないですか、ダスティさん。ダスティさんは付き添いをしろと言われただけで、遊ぶなとは一言も言われていないのでしょう?」
「いやまあ、そうだけど……」
当たり前である。良識ある大人に態々、任務中に遊ぶなと注意するような上官はいない。
「それに私のお父さんは任務先で特産品を食べに行ったり遊びに行ったりしていたって聞いています。それが許されるなら、これくらい大丈夫なのでは?」
確かにダスティは、ベルツと同じように今回の任務で久しぶりのシャボンディ諸島を楽しもうとしていた。しかし、真面目なダスティは任務と休憩をきっちり分けて考えており、決して仕事中に楽しむつもりは無かった。しかし――
(こうも子供二人にせがまれるとなあ……)
――断りづらい。それが彼の本音だった。ミミは頬を膨らせたまま潤んだ目でこちらを見ていて、ライカは尚も屁理屈を捏ね続けている。その姿に銀髪の誰かさんの面影を見た気がしたが、ダスティは気にしないことにした。
「そこまで言われたらしょうがない。パパと一緒に行こうか」
結局ダスティは折れた。
◆◆◆◆◆◆
ミミたちは観覧車の中にいた。
「すっごーい! 高いよ! パパ!あんなに遠いところも見渡せる!」
ミミは眼下に広がる景色を指さしながら、興奮気味に言う。ライカも、初めて見る光景に興味津々なのか、外を食い入るように見ている。
「あそこに見えるのが“
そう子供たちに説明しながらも、ダスティは警戒を解かない。彼の本来の目的は子供たちの警護だ。彼は子供たちに悟られない程度に周囲に気を配り、怪しい人間がいないかチェックしていた。
観覧車から見える範囲に、サングラスを被った髭面の男を発見した。ダスティは彼が人攫いであることを知っている。しかし、今は観覧車にいるので手を出せない。かといって、観覧車から降りていたとしてもそいつに手を出すことはできなかっただろう。
(天竜人さえいなければ、人攫いも
ダスティは表情を変えることなく心の中で独り言つ。
シャボンディ諸島には、シャボン玉文化や観光業といった「光の面」とはとは対極にある、「闇の面」も存在する。その代表例が、人身売買であった。人攫いが人間を攫って人間屋に売り飛ばし、売られた人間はそこで奴隷としてオークションにかけられる。そんな悪しき風習がこの島には残っている。
表向きには、人身売買は犯罪として世界政府によって禁じられている。それなのにこの島では人身売買が横行している。それは何故か? 答えは天竜人の存在にある。
天竜人にとって、奴隷とはあって当たり前の『日用品』である。それ故、奴隷の供給が止まるようなことは天竜人が許さない。だから彼らは、人身売買が禁止された後も、自身の居住地であるマリージョアからほど近いこのシャボンディ諸島にある人間屋を、その権力で保護しているのである。そのため、天竜人に逆らえない海軍はこの島の人攫いを黙認するしかない。
(何が悲しくてあんな悪党どもを野放しにしなきゃならないのか……)
暗黙の了解で、学校の遠足中は人攫いは活動しないことになっている。というのも、子供たちの前で人攫いをしようものなら、天竜人の庇護があっても拘束されることは避けられないからである。
普段、海軍は天竜人の指示で、人攫いの活動を見逃さざるを得ない。しかし、遠足中では子供たちの目がある。そのため、人攫いの活動があった場合には、逆に外聞のため人攫いを全力で捕まえにいかざるを得ない。だからこの時だけは人攫いも拘束される可能性があるのである。天竜人の庇護を受けている人攫いは捕まったとて、すぐに釈放されるだろう。しかし、態々自分から拘束されたがる人間などいない。だから、彼らは今は活動しないのである。
(人攫いどもを気にしなくていいのは助かるが……これじゃあ子供に嘘をついてるだけじゃないか!)
ダスティは声に出さずに憤慨した。誰かを守りたくて海兵になったのに、誰かを脅かす存在を見逃さざるを得ないこの現状に。
ライカの無邪気な横顔を見ていると、どうしても不安が募る。
(ライカちゃんは海兵を目指している。将来、きっと僕と同じ状況に陥る)
そのとき、彼女はどうするのだろうか? どんな選択をしたとしても、彼女の心に傷が残る気しかしない。ダスティは思わず天を仰いだ。
「パパ? どうしたの? すごく怖い顔してる」
「ダスティさん、大丈夫ですか?」
二人が心配そうな目で自分を見ていた。それに気づいたダスティは慌てて笑顔を作った。
「ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事してただけだよ」
何を考えたとしても、今の自分にはどうしようもない。そう思ったダスティは思考を打ち切り、今は二人と一緒にいることを無心に楽しもうと決意した。
◆◆◆◆◆◆
シャボンディパークは観光業の要であり、ここで海賊に暴れられれば海軍の威信にも関わる。そのため、シャボンディパークは多数の海兵によって警備されている。また、シャボンディ諸島自体が海軍本部マリンフォードにほど近いため、何かあればすぐに海兵を送り込める。そういった事情もあって、シャボンディ諸島では、治安の悪い1~29番グローブならともかく、それ以外のグローブで暴れようとする海賊はほぼいない。いたらそいつは余程の実力者か、あるいは単なる馬鹿である。
しかし、往々にして馬鹿は存在する。今から9年後の未来に、この地で天竜人を殴り飛ばす馬鹿が表れるように、今この瞬間にも、シャボンディパークには馬鹿がいた。
「ヒヒヒヒヒ! 人がいるなァ! たくさんいるなァ!!」
その馬鹿の名前はクルーエル。懸賞金1億2000万ベリー、“街喰らい”クルーエルとして知られている海賊で、二つ名通りたった一人で多数の街を地図から消し去ったことで恐れられている男だった。
「殺しがいがあるなァ!! ヒヒヒヒヒ!!」
それは、馬鹿と呼ぶにはあまりにも残虐であった。
ライカ
屁理屈のこね方は父親から学びました。
ミミ
パパ大好きライカ大好き。かわいい。
ダスティ
現状に憤慨するくらいには正義感が強いです。
9年後
説明し忘れてましたが、ライカちゃんは某麦わら帽子の少年と同い年だったりします。
クルーエル
かなりヤバい馬鹿。詳しくは次回解説。
という訳で遠足回。まあ、ワンピ二次ですし、平穏な遠足で終わるわけがないよね。次回は戦闘回になります。