MISFITS ―はみ出し者たちの物語―   作:Astley

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第11話:襲撃

 始まりは悲鳴からだった。

 

「キャアアアアアアアアア!!!」

 

 シャボンディパークの一角で女性の叫び声が響いた。

 

「なんだ!?」

 

 近くにいた海兵たちは一斉に騒ぎの元へと向かう。そして彼らが目にしたのは、黒い何かに全身が覆われた女性と、その前で高笑いを上げる男の姿だった。

 

「ヒヒヒヒヒ! いいなァ!いいなァ! やっぱ人が死ぬのは最高だなァ!」

 

 男の名はクルーエル。自然(ロギア)系悪魔の実、『カビカビの実』の能力者であり、その能力で幾多の街をカビの海に沈めてきたことから“街喰らい”と呼ばれている。生粋の快楽殺人鬼(シリアルキラー)である彼に主義や思想は無く、ただ人の多そうな場所に行っては殺戮を繰り返すという危険人物であった。

 今回シャボンディパークで暴れ始めたのも、これと言って特別な理由は無い。ただ「たくさん人がいた」から。それだけで彼には暴れる理由に足る。彼はそういう人間なのだ。

 

「いやだぁ……助けてぇ……」

 

 全身をカビまみれにされた女性が力なく倒れる。女性は絶命していた。それを見ていた他の客たちも連鎖的に悲鳴を上げていく。

 

「うわあああぁぁぁ!!!」

 

「助けてくれえええ!!!」

 

 ついさっきまで平和そのものであったシャボンディパークは、一瞬にして地獄絵図となった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「パパ! 下で何が起こってるの!?」

 

 観覧車にいたミミたちにも下の喧騒は届いていた。

 

「海賊の襲撃だ! 二人とも、一旦降りる! しっかり掴まっててくれ!」

 

 ダスティがそう言うと両腕にミミとライカを抱えて、観覧車の扉を蹴破って飛び降りた。

 

「きゃあああああ!!!」

 

「ひゃああああああ!!!」

 

 二人は同時に絶叫した。突然抱えられて空中に投げ出されたのだからそうもなろう。しかし、ダスティは二人に衝撃が響かないよう、着地と同時に膝を折り曲げて、衝撃を逃がした。ダスティはそのまま体勢を立て直し、走り出す。

 悲鳴と銃声が鳴り響くシャボンディパークを背にして、ひたすら走る。シャボンディパークの外縁に着いたダスティは二人を下ろした。

 

「ここまで来れば大丈夫だ。二人とも、近くの海兵の指示に従って避難してくれ!」

 

「待って! パパは!? パパも一緒に逃げよう!!」

 

 ミミは泣きじゃくりながらダスティに縋り付くが、ダスティはそれを優しく引き剝がした。

 

「僕は海兵だ。海賊がいるなら、戦わなくちゃいけない」

 

「でも……!」

 

 そこでライカがミミを止めた。

 

「大丈夫だよ、ミミちゃん。あなたのお父さんもヒーローなんでしょう?」

 

「……うん」

 

 ミミは瞳に涙を貯めながらも頷いた。

 

「なら信じよう。ヒーローは負けない」

 

 ライカはそう言ってダスティを見上げた。

 

「ダスティさん、信じています。どうかご無事で!」

 

 ダスティはその言葉を聞いて、少しだけ笑った。

 

「パパ!頑張ってね!」

 

 ミミも涙声ながらダスティを送り出す。

 

「ああ。行ってくるよ」

 

 この二人にこうまで言われたら、意地でも死ぬわけにはいかない。ダスティは決意を胸に、二人に背を向けて、再び戦場へと駆けていった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

(酷いな、これは)

 

 戦場に着いたダスティが見たのは地獄だった。多数の海兵が生きたままカビに覆われて苦しんでいる。まだ無事な海兵は必死に銃を撃っているが、自然(ロギア)系相手にそれは無意味であった。

 

「ヒヒヒヒヒ! どんどん獲物が集まってきたなァ!」

 

 応援の海兵が次々と戦場に到着しているが、その誰もが彼に有効打を与えられない。最早この場はクルーエルの独壇場で、誰も彼もが死ぬのを待つのみという有様であった。

 

「みんな下がれ! 覇気を使えない奴はいても死ぬだけだ!」

 

 ダスティは腰に下げた2本の刀を抜き、クルーエルと対峙する。

 

「ああ? なんだァ? お前。強そうだなァ。殺しがいがありそうだなァ!」

 

「…………」

 

 ダスティは何も言わない。彼はこれから殺し合う人間に言葉をかけるような性格ではない。

 

「だんまりかァ? じゃあこれ喰らったらどんな悲鳴を上げんだろうなァ!」

 

 クルーエルは右手を地面につけた。すると、そこからカビが急速に広がっていき、ダスティに向かって伸びていく。

 ダスティはそれを前に跳んで回避し、そのままクルーエルに切り掛かる。しかし、クルーエルは体の前で両腕をクロスさせて防いだ。

 

「……! 覇気だと!」

 

「ヒヒヒヒヒ!」

 

 ダスティは被害を広げられる前に決着を付けようと、初撃から渾身の覇気を込めて攻撃していた。しかし、クルーエルはそれをあっさりと防いでみせた。この時点でクルーエルが相当な実力者であることが分かる。

 

「死ねェ!」

 

 反撃に、クルーエルはカビで巨大化させた腕を振り回した。しかし、ダスティはクルーエルの身体を蹴って後ろに跳び、距離を取って避けた。

 

(なんて厄介な……前半の海に居ていい海賊じゃない!)

 

 ダスティは心の中で毒づいた。

 

「良い動きだなァ。じゃあ、これは避けられるかなァ!」

 

 クルーエルは、今度は両手を地面につけた。するとそこから次々にカビが沸き上がり、ついにはカビの壁が出来上がった。クルーエルが腕を振るうと、その壁がダスティへと突撃していく。その有様はまるで、カビの津波であった。

 先の攻撃とは違い、高さがある。故に、跳んで回避は不可能。そう即座に判断したダスティは、頭の中から回避の選択肢を消して前に突っ込む。

 

「……!」

 

 ダスティが選択したのは“攻撃”。ダスティは2本の刀をX字にクロスさせ、カビの波へと突っ込んでいく。

 

「“二刀類(にとうるい)絡刀須(ラクトース)”!」

 

 二本の刀でカビの波を切り裂き、そのままクルーエルへと迫る。クルーエルも防御ではなく攻撃を選択したようだ。両手をカビ製の刃物に作り替えて、迎え撃とうとしている。ダスティの二刀とクルーエルの両腕がぶつかり合った。

 

「ぐぅう!?」

 

「ヒヒッ!」

 

 腕と刀で鍔迫り合いになる。お互いに力は互角。つまり、このまま正面から戦っていては膠着状態に陥る。

 

(そうなったら、被害は増す一方だ!)

 

 だから、クルーエル相手に時間はかけられない。そこで、ダスティは勝負に出ることにした。腕に力を込めて、クルーエルの両腕を弾く。その衝撃で、お互いの身体が吹き飛ばされ、距離が離れる。戦況は再び振出しに戻るかと思われた、その時――

 

「ふっ!」

 

「ヒッ!?」

 

――ダスティはクルーエルの不意を突いて、左手の刀をクルーエルの顔に向けて投げた。クルーエルはなんとかギリギリでそれを弾く。

 

「ヒヒヒヒヒ! 無駄なことを! 自分から得物を手放しちまうとはなァ!」

 

 クルーエルはこの隙を突こうと、ダスティに突撃する構えを見せる。しかし――

 

「あぁ!?あいつどこに消えやがったァ!?」

 

 クルーエルの視界に、ダスティの姿が無い。顔に迫る異物を、当たる直前で防いだのだ。当然その間視界はその異物に覆われていて、他のものは見えなくなる。その隙をついてダスティは――

 

「“単刀類(たんとうるい)振工刀須(フルクトース)”!」

 

 クルーエルの真上を取っていた。クルーエルが刀を叩き落とした瞬間に、ダスティは跳躍し、クルーエルの上から奇襲を仕掛けたのだった。

 ダスティは右手の刀を両手で握り直し、落下の勢いも利用して一気に振りかぶる。

 

「ガァア!?」

 

 クルーエルは咄嗟に防御しようとするも間に合わず、胸を深く斬り裂かれた。クルーエルの身体から鮮血が流れ出す。

 

「グゥウ!? お前えェ! お前お前お前お前お前ぇえええェ!!!」

 

 クルーエルは闘うのが好きなのではない。殺すのが好きなのだ。別に強敵と闘うことに喜びを感じるような感性は持っていない。そのため、獲物にここまで抵抗された上に、自身も深い傷をつけられて、彼は今までの人生で最大級に激怒していた。

 

「やってくれたなァ!!? ぶっ殺してやらァ!!」

 

 今彼は冷静さを失っている。これならば行ける。彼我の実力差を戦術で埋めて、クルーエルを撃破できる。ダスティは投げた刀を拾いながらそう思った。再び二刀流に構え直し、クルーエルを注視する。

 

(奴の次の行動に合わせて――)

 

パァン!

 

 そこまで考えていたところで、ダスティの思考は、背中から走る痛みに遮られた。

 

「がはっ!?」

 

(何だ!? 何が起きた!?クルーエルは僕の前にいる! じゃあ今後ろから攻撃したのは誰だ!?)

 

 自分の後ろにはカビにやられた海兵がいたはず――

 そこまで考えて振り返ったダスティの目に映ったものは、あまりにもおぞましい光景であった。

 

「申し訳ありませんっ!? ダスティ少佐! か、身体が……勝手に動いて!?」

 

 そう言いながら彼は銃を再装填し、ダスティに向けて来る。

 

「なァ、知らねえのかァ?人間ってのはなァ、脳がカビちまったらなァ、カビの言いなりになっちまうんだってなァ!」

 

(こいつ!? まさか!?)

 

 周囲を見ると、先程まで微動だにしていなかったはずのカビまみれの海兵たちが、一斉に動き始めている。そのどれもがダスティに向けて銃を向けたり、剣を構えたりしていた。

 

「望まない動きを強いられて可哀想だなァ!? でもこいつらまだ生きてるからなァ!! 正義の海兵さんは仲間殺しなんてしないよなァ!?」

 

「貴様ぁあああ!!!」

 

 ダスティは激高した。同僚を生きたまま操り人形にされて、冷静でいられるはずがなかった。

 

(こいつだけは! こいつだけは――!!)

 

 しかし、そうしている間にも周囲の海兵たちはダスティに銃を放ち、剣を振るう。ダスティにとって圧倒的に不利な戦いが始まろうとしていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「二人とも、大丈夫かい!? 避難所まであと少しだよ!」

 

 ダスティと別れたミミとライカは、そこにいた海兵に連れられて避難所まで来ていた。

 

「ゼェ……ゼェ……」

 

「ありがとうございます! 私たちはもう大丈夫です! 他の方の救援を!」

 

 ミミはここまで全力で走らされて、息を切らしている。対して、ライカはまだまだ余裕そうだ。ここまで連れてきてくれた海兵にお礼を言い、ミミに肩を貸す。

 

「ミミちゃん、もう大丈夫。避難所に着いたからね」

 

「ゼェ……うん……ありがとう……」

 

 ライカはミミを安心させたかった。今ミミの心の中は不安でいっぱいだろう。何せ、大好きな父親が今戦場で戦っているのだ。マリンフォード襲撃事件で自分も同じ立場に立たされたから分かる。だからこそ、ライカはミミを落ち着かせようとしていた。

 

「大丈夫。あなたのお父さんはヒーローだもの。何があっても――」

 

「ライカちゃん?」

 

 突然横合いから声を掛けられて、言葉を中断させられる。声のした方向に振り向くと、そこには今日一緒に遠足に来ていた子供たちがいた。

 

「みんな、無事だったのね!」

 

「ライカちゃんも! 無事でよかった!」

 

 幸いにも、子供たちは全員無事であったようだ。

 

「よかった。後はダスティさんがあの海賊を倒すだけだね!」

 

 ライカはダスティが負けるとは微塵も思っていなかった。彼女にとって、ヒーローとはそういう存在であった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「ハァ……ハァ……くそっ!」

 

 クルーエルがカビを槍状に変形させて、投げる。ダスティはそれを何とか回避したが、回避後の隙を狙って、操られた海兵が銃弾を放つ。

 

「まだっ!」

 

 飛んできた銃弾を刀で切り落とし、一気に海兵まで肉薄する。

 

「“二刀類(にとうるい)絡刀須(ラクトース)”!」

 

 海兵の両手両足を、同時に傷付ける。海兵は血を流しながらその場に倒れた。

 

「これで、全員!」

 

ダスティは彼がもう動けないことを確認すると、クルーエルに向き直った。

 

「さっさと見捨てて殺せば楽だったのになァ! 正義の味方って大変なんだなァ!!」

 

 クルーエルが嘲る。実際、ダスティはもう既にボロボロであった。

 クルーエルの攻撃を捌きながら海兵たちの攻撃を避け、無力化していくのはかなり難しい。クルーエルの対処に注力すれば、横や後ろから銃撃や斬撃が飛んでくる。かといって、海兵の無力化に注力しようにも、クルーエルが妨害してくる。

 そんな中でダスティは戦い続けて、ついに海兵全員を無力化したのだった。しかし、その代償は大きかった。ダスティの全身の至る所には銃撃や斬撃による傷がついていて、限界が近いのは誰の目にも明らかだった。

 

「しかし、みんな無力化されちまうとはなァ。使えない駒は捨てないとだなァ!」

 

「? まさか……! やめろおおお!!?」

 

 クルーエルの言葉に、ダスティの頭の中を最悪の可能性が過った。ダスティは、クルーエルを止めようと彼へ走る。しかし、それも虚しく、倒れていた海兵たちの身体から、バキバキとけたたましい音が響き渡る。この一瞬で彼らの体内には急速にカビが浸食していき、彼らはあっけなく死んでしまったのだ。

 

「ヒヒヒヒヒ!! 折角助けたのに無駄だったなァ!! みんなみんな死んじまったなァ!!」

 

 ダスティの胸の内がマグマのように煮えくり返る。クルーエルはこのままダスティに冷静さを欠かせて、そのまま殺すつもりだった。しかし、これはむしろ逆効果であった。ダスティはあまりに怒り過ぎて、一周回って冷静になっていた。

 

(ここで僕が死ねば殺されていった海兵たちの死が無駄になる。こいつはここで確実に仕留める――!!)

 

「じゃあお前も、お仲間のところに送ってやるからなァ!!」

 

 クルーエルは再び両手を刃物に作り替え、ダスティに飛び掛かる。ダスティは迎え撃とうとしたが、突如身体のバランスが崩れる。足元を見ると、海兵の死体からカビが伸びて、ダスティの足に絡みついていた。

 

「終わりだなァ!! 死ね!!」

 

 体勢を崩したダスティに防御はできない。クルーエルの刃がダスティの顔に迫り――

 

「っ!?」

 

 ダスティは刃を噛んで止めた。

 

「だけど無駄な足掻きだなァ! カビは触れたら浸食するんだなァ!!」

 

 クルーエルはその状態から腕のカビを成長させて、ダスティを口から浸食しようとした。しかし、何故かカビが浸食できない。

 

「――っ!? 口を覇気で――!」

 

 ダスティは自身の口に覇気を纏わせてカビの浸食を防いでいた。そしてそのまま、腕の刃を止められて、無防備な体勢になったクルーエルの両腕を斬り裂いた。

 

「ッ!? ギャアアア!!?」

 

 あまりの痛みにクルーエルは絶叫した。その隙を見逃がすダスティではない。ダスティは両手の刀を振り上げ、追撃する。

 

「グアアアァァァ!?」

 

 腕を斬られたクルーエルに、防ぐ術はない。クルーエルはなんとか身体を後ろに反らせて避けようとしたが、ギリギリ致命傷を回避できただけで、胸から腹にかけて縦に斬り裂かれていた。

 

「終わりだ」

 

「死ぬってのかァ!? この俺がァ!?」

 

 ダスティが二刀に渾身の覇気を込め、とどめを刺そうとする。

 対するクルーエルは、さっき斬られたときに体勢を崩している。そのため今から回避することはできない。さらに、両腕が無いので、防御することもできない。つまり、詰み。

 最早クルーエルに勝機は無いと思われたその時だった。

 

「っがはぁ!?」

 

 突如としてダスティが吐血した。身体の内側から響いてくる痛みに、思わず構えを解いてしまう。

 

(なんだ、急に!? ……息が苦しい。身体に力が入らない!)

 

「や~っと芽吹いたかなァ」

 

 クルーエルは苦しむダスティを見て、ニヤニヤと笑っている。

 

「知らなかったのかなァ? カビは胞子を放つんだよなァ」

 

 クルーエルは戦闘が始まってから、ダスティに気付かれないようにカビの胞子を放ち続けていた。それはダスティの肺の中に根付き、発芽と同時に彼の肺を破壊していたのだ。

 

「身体の表面は守れても、肺まで守ろうとは思えねえよなァ?」

 

 クルーエルは両腕をカビで再生させ、ゆっくりとダスティに近づいていく。

 

「ここまで痛めつけてくれたんだ。楽には殺さねえからなァ!?」

 

「う……ぐ……」

 

 それでもダスティは立ち上がる。ここで自分が死ねば、海兵たちの死が無駄になるだけでなく、最悪無関係な市民まで虐殺される。ここで負けるわけにはいかない。

 

「オラァッ! さっきのお礼だなァ!!?」

 

「ぐああっ!?」

 

 しかし、現実は甘くない。クルーエルも何度か斬られて、かなり消耗している。しかし、まだまだ動けるし、戦えもする。対して、ダスティは全身を傷つけられ、肺も壊されて、最早生きているのが不思議な状態であった。

 つまり、ダスティに勝ち目は万に一つも無い。ダスティはクルーエルにひたすら弄られていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「ダスティ少佐は無事なのか?」

 

「分からない。カビのせいで近づけないから状況が分からないんだ」

 

「くそっ! 増援はまだなのか!?」

 

 避難所には海兵たちの喧騒が響いていた。その騒ぎはミミにも聞こえていて、彼女は胸が張り裂けそうなほどの不安に襲われた。

 ライカも、未だに海賊が倒されたという話が聞こえてこないこともあって、徐々に不安になり始めている。

 

(それでも、ダスティさんなら……!)

 

 ライカには願うことしかできない。この場にいる人間で、ダスティの強さを一番よく知っているのは自分だ。そんな自分がダスティの勝利を疑うようなことなんてあってはならない。

 ライカの心情が、実際の戦況に与える影響など無いということはライカ自身分かっている。しかし、ここで自分がダスティの勝利を疑ったら本当にダスティは死んでしまうのではないかという妄執が、ライカの心を蝕んでいた。

 その時だった。

 

ガシャアアアン!!

 

 突如として、避難所に何かが突っ込んできた。

 

「何だ!? 海賊の襲撃か!?」

 

「総員、戦闘態勢に入れ! 民間人を傷つけさせるな!」

 

 海兵たちが一斉にその何かに銃を向けた。砂煙が立ち上っていて、それの姿ははっきりとは見えない。しかし、それが海賊である可能性を考慮して、海兵たちは警戒する。

 

「っ! ダスティ少佐!?」

 

「パパっ!?」

 

 砂煙が晴れると、そこにはボロボロのダスティがいた。

 

「お前ら……逃げろ……!」

 

「少佐!? 一体何が!? そんな身体では――」

 

「――おっとっとォ。加減ミスってこんなに遠くまで飛ばしちまったなァ」

 

 ダスティが開けた穴から誰かが入ってくる。それはクルーエルだった。

 

「おやァ? これはミスって正解だったなァ? こんなところに避難してたとはなァ」

 

 クルーエルが嗤う。

 

「みんな……ここは僕が、時間を稼ぐ……市民を連れて、逃げろ……」

 

 ダスティは、もう自分が長くは持たないことを察していた。故に、自分が囮になってでも、避難民と他の海兵を逃がすつもりだった。

 

「こんな状態の少佐を置いて逃げることなんてできません!」

 

「我らも加勢します!」

 

「くっ……やめるんだ……逃げてくれ!」

 

 ダスティが叫ぶのも虚しく、海兵たちは一部を民間人の避難のために残して、残りは全員ダスティとクルーエルの間に入った。

 

「ヒヒヒヒヒ! お前ら程度じゃ、無駄なんだなァ!」

 

 しかし、やはりダスティ以外ではまるで歯が立たない。海兵の攻撃はクルーエルには効かず、逆にクルーエルの攻撃は一撃で海兵を殺せる。クルーエルは刃に変形させた腕で海兵たちを紙のように斬り裂いていく。

 

「ぐわあっ!?」

 

「うぐぅ!?」

 

 ダスティを守りに来た海兵たちは次々と殺されていき、ついには全滅してしまった。

 

「まずいぞ! まだ避難中なのに!」

 

 民間人の避難についていた海兵が叫ぶ。ダスティの方についた海兵たちが命を賭して時間を稼いだが、民間人の避難はまだ終わっていない。人数が多すぎて、避難が滞っているのだ。

 

「ヒヒヒヒヒ! 先にお前が守りたかったものをブッ壊すのも悪くないなァ?」

 

 それを見たクルーエルは、ダスティを見て嗤った後に、そう呟いた。

 

「やめろ!? それだけは!!」

 

 クルーエルはダスティを跳び越えて、民間人へと走っていく。

 

「くそっ! 市民を守れ!」

 

「雑魚はァ! 死んでいなァ!」

 

 避難させていた海兵たちが民間人の楯となるが、やはりいずれも歯が立たず、瞬殺されてしまう。ついにはクルーエルは民間人たちの最後方――ミミとライカに追いついた。

 

「きゃあああ!!?」

 

「ミミちゃん!?」

 

 追われる恐怖から足を縺れさせ、ミミは転んでしまった。そこに両手を刃物にしたクルーエルが迫る。

 

「死ねええェ!」

 

 ミミは思わず目を瞑った。そして来る痛みを覚悟して――

 

「“二刀類(にとうるい)丸刀須(マルトース)”!」

 

 大好きな父親の声が聞こえた。ミミが恐る恐る目を開けると――

 

「ああっ……パパぁ!!」

 

 そこにはダスティがいた。その刀は深々とクルーエルの腹に突き刺さっている。しかし、ダスティも、クルーエルに両手で貫かれていた。クルーエルの手は、ダスティの胸を貫通し、その背中から突き出ていた。




覇気、前半の海
 ワンピースに詳しくない人も読めるよう、この辺の用語も解説しようと思ったけど、戦闘描写中にそんな悠長なことはできませんでした。士官学校編で改めてその辺は解説するので、分からない方はググるかそこまで待つかしてください(丸投げ)

二刀類(にとうるい)絡刀須(ラクトース)
 二本の刀をX字に交差させ、相手を切り裂く技。

単刀類(たんとうるい)振工刀須(フルクトース)
 一本の刀を両手で握り直し、全力で振るう技。技と言っていいんすかね?これ。

クルーエル
 ・自然系(ロギア)なので覇気の伴わない物理攻撃は無効。
 ・覇気を使える。
 ・カビで広域殲滅可能。
 ・カビで武器を作ったりと、汎用性も高い。
 ・カビを脳に植え付ければ相手を操ることが可能。
 ・胞子をばら撒いて広域デバフも可能。
 結論:な ん だ こ の ク ソ ゲ ー !
 いや、マジで前半の海にいていい性能じゃないですね。何なんだこいつ。

ダスティ
 カビの浸食を防ぐため、身体の表面を常に覇気で防御しながら戦ってたけど、内側までは気が回りませんでした。安否は次回。

 という訳でダスティVSクルーエル。クルーエルの性能を高くし過ぎた気もするけど、こうでもしないと懸賞金1億2000万ベリーに説得力が出ないから仕方ないね。次回で遠足は終わるかな?もう終わってるようなものですけどね。
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