MISFITS ―はみ出し者たちの物語―   作:Astley

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第12話:魂

――何故だ!?

 

――どうしてお前は力を使えない!?

 

 『お母さん』が怒鳴っている。()はただ泣き喚くことしかできない。

 

――一体どれだけの時間をかけたと思っているんだ!?

 

『そんなことを言われても……できないものはできないよ!!』

 

――お前に掛けた資源も! 労力も! 全て無駄だったというのか!?

 

――認めない。

 

――そんなことが認められてたまるか!!

 

 そう言って『お母さん』は()を――

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 ダスティは最後の力を振り絞ってクルーエルを蹴飛ばす。お互いの身体から、お互いの得物が抜け、二人の距離が離れる。ダスティはその勢いのまま仰向けに倒れ、二本の刀が彼の手から零れ落ちた。

 

「パパ! パパ! 死なないで! 死んじゃいや!!」

 

「ダスティさん! しっかりしてください!」

 

 ダスティは口から血を流しながらも、それでも笑みを浮かべた。

 

「ミミ……ライカちゃん……無事か……?」

 

「私は大丈夫だから! パパも死なないで!!」

 

「ダスティさん! すぐに助けが来るはずです! だから、耐えてください!!」

 

「いや……もう……手遅れだ」

 

 ダスティは、自身の胸に空いた大穴から血が流れ出ていくのを感じていた。

 

「ミミ……ライカ……君たちは――」

 

「ダスティさん! もう喋らないで! きっと助けが来ますから!」

 

 ダスティは二人の顔を見て、微笑みを浮かべる。

 

「……二人とも……元気でな……」

 

 ダスティはゆっくりとその眼を閉じた。

 

「パパ? パパ!? 噓だよね……そんなの嘘だもん!!」

 

「ダスティさん……そんな……」

 

 二人が必死に呼び掛けるも、ダスティは全く動かない。二人の脳裏に最悪の可能性が過るが、二人はそれを信じられない。否、信じたくない。だから、二人はなおのこと必死になってダスティに呼びかける。

 その時だった。二人の前で、何かが動く気配がする。

 

「ハァ……ハァ……ここまで……コケにされたのは……初めてだなァ……」

 

 二人が顔を上げると、そこにはゆっくりと立ち上がろうとするクルーエルの姿があった。

 

「泣けるなァ……! 最期の力まで出し尽くして……それでも結局、守りたいものも守れないなんてなァ!」

 

 クルーエルは一歩ずつ二人に近づいてくる。ボロボロのクルーエルに残された戦闘力は雀の涙ほどでしかないが、それでも8歳児二人を惨殺するには十分であった。

 

「うぅ……あぁぁ……!」

 

「そんな!? まだ動けるなんて!」

 

 あまりの絶望的な状況に、ミミはへたり込んでしまう。ライカはそんなミミを背中で庇うように立ち、クルーエルを正面から睨みつけた。

 

「どうしてみんなこうも無駄なことをしたがるかなァ? 結局最後は死ぬだけなのになァ!」

 

 クルーエルはゆっくりとその腕を振り上げる。傷ついてだいぶ覇気は弱まっているが、それでもライカの身体を引き裂くくらいは容易だろう。

 そして、クルーエルがライカに向けて腕を振り下ろそうとしたその時だった。突如として、ダスティの身体から暖かな光が溢れ出てきた。

 

「え? なにこれ……パパ? パパ!?」

 

「あァ? こいつまだ何かするつもりなのかァ?」

 

 その光はライカへと一直線に向かっていき、ライカの身体の中へと消えていく。

 

「これは……一体……?」

 

 ライカ自身も何が起きているのか分かっていない。しかし、光が入ってくるのと同時に、自分の頭の中に何か(・・)が流れ込んでくる。ライカはその何か(・・)に誘われるままに、ダスティの刀を手に取った。

 

(どうして……?前は一刀流の方が使いやすかったのに……今は二刀流の方がしっくりくる……!)

 

 まるで十数年間(・・・・)二刀流で戦ってきたのではないかと錯覚するくらい、二刀流が手に馴染む。そしてライカは無意識にその構え(・・・・)を取っていた。

 

「へェ……お前もあの海兵と同じ型(・・・)を使うのかァ」

 

 半身になり、右腕を前に、左腕を後ろに。それは奇しくもダスティの構えと同じであった。そしてこの構えを取った瞬間、何か(・・)がライカの思考を高速化させる。この構えからどう動けるのか、どう動くべきなのかがすらすらと頭の中に浮かび上がってくる。

 

「まあいい。どのみちお前は俺に殺されるんだなァ!」

 

 クルーエルはライカに飛び掛かった。対してライカは何か(・・)の促すままに刀を振るう。そしてライカの二刀とクルーエルの両手がぶつかり合った。

 それはまるで、先程のダスティとクルーエルの鍔迫り合いの再現のようであった。しかし、ライカはダスティよりも力が弱く、体重も軽いので、あっさりと吹き飛ばされてしまう。

 

「くっ!?」

 

 ライカの身体が宙に浮く。それに対してクルーエルは、まだ空中にいて受け身を取れないライカに追撃の突きを放つ。しかし、何故だかライカはこの状況に既視感(デジャブ)を抱いていた。ライカは何か(・・)に導かれて、器用に手足を動かし、重心移動だけでクルーエルの方に向き直る。

 

「“二刀類(にとうるい)丸刀須(マルトース)”!」

 

 そのままライカも二刀で突きを放った。お互いの得物が空中でぶつかり合い、火花を散らす。衝撃で再びお互いが吹き飛んだ。

 

(グッ!?あの海兵に付けられたダメージが!)

 

 ライカは着地に成功したが、クルーエルは着地できずに体勢が崩れた。ダスティとの戦いで散々斬り刻まれて、クルーエルの身体は最早限界を迎えていたのだ。

 それを見たライカはすかさずクルーエルに向かって走る。

 

「まだだァ! このクソガキィ!」

 

 体勢を立て直すのは間に合わないと判断したクルーエルは、ダスティにも放ったカビの津波を放つ。それは、ダスティに放ったのと比べれば大きさも速さも数段落ちる。しかし、8歳の子供一人を殺すには十分すぎるはず(・・)だった。

 

「“二刀類(にとうるい)絡刀須(ラクトース)”!」

 

「何ィッ!?」

 

 刀をX字に構え、クルーエルに突撃する。それは、先程ダスティがカビの津波に対して繰り出したのと全く同じ動きであった。

 カビの津波を破られ、そのままクルーエルにライカが迫る。限界を迎えた身体では回避などできるはずもなく、クルーエルの身体はX字に斬られた。クルーエルの胴体から両腕と下半身が離れる。

 

「ヒヒヒヒヒ!動きには驚かされたが、覇気が籠ってないなら無意味なんだなァ!」

 

 クルーエルは自然(ロギア)系の能力者。覇気の籠っていない物理攻撃ではダメージを与えられない。ライカはまだ覇気を扱えないので、この一撃ではクルーエルにダメージは入らない。

 しかし、ダメージの入らない攻撃が無駄かと言えば、そうではない。両手両足を失ったクルーエルは、四肢を再生中で、隙だらけである。ダスティからの連戦で、殆どの体力を失っているクルーエルは、身体を再生させるのも非常に緩慢であった。

 

「そこっ!」

 

 その隙を見逃がすライカではない。今度は何か(・・)の誘いを無視して、クルーエルに抱き着く。

 

「カビ人間に触れるたあなァ! 自分から死ぬ気かなァ!?」

 

 しかし、クルーエルのカビはライカを浸食できない。

 

(こいつの身体!? まさかこいつも自然系(ロギア)なのか――!)

 

 ライカはビリビリの実の電気人間である。だから、身体を電気化させて、カビの浸食を防ぐことができる。そのうえ、ビリビリの実の能力者であるなら――

 

「“放電(スパーク)!”」

 

「ッギャァアアア!!?」

 

 ライカは全身から電撃を放つ。身体がカビのクルーエルは、物理攻撃は効かない。しかし、逆を言えばそれ以外なら効く。電撃にカビを焼かれ、クルーエルが叫び声をあげた。

 

「ハァァァアアア!!!」

 

 ライカはさらに電撃の威力を強めていった。凄まじい閃光と共に、クルーエルの身体が焼け焦げていく。全てが終わった後に残ったのは、黒焦げのまま気絶したクルーエルだけであった。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 ライカはその場に座り込んだ。何か(・・)に導かれるまま、二刀流で大立ち回りを決めたが、それは、本来は二刀流で十数年戦い続けた者(・・・・・・・・・・・・・)だけが使える技術であった。それをまだ未熟な8歳の身体で使えば、当然、身体に大きな負担がかかる。ライカは身体中が痛み、頭も何だかふらついていた。

 しかし、それでもライカは自然と笑みを浮かべていた。憧れていたヒーロー。無力な人々を守る存在。今の自分はまさにそれと言ってもいい活躍をした。その満足感がライカを笑顔にしていた。

 ライカは未だに怯えているミミと、倒れているダスティのところに、ふらつきながらも駆け寄った。

 

「ダスティさん! もう大丈夫です! あいつは倒しましたよ!」

 

 ライカが満面の笑顔で語りかける。しかし、ダスティからの返事は無い。

 

「ダスティ……さん?」

 

 何度も何度も繰り返し呼び掛ける。手を当てて、その身体を揺らす。しかしダスティはピクリとも動かない。

 そこに至って漸くライカは現実を受け容れた。ダスティはもう既に息絶えてしまったのだ。

 

「そんな……ダスティさん……」

 

 ライカの瞳に涙が浮かぶ。身近な人の死。この大海賊時代で覚悟していたはずのそれに、ライカは打ちのめされていた。全く動かないダスティの姿に酷く心をかき乱されて、ライカ瞳から大粒の涙が零れ始める。しかし、急に横合いから声を掛けられて、ライカはそれを中断させられた。

 

「ねえ……ライカちゃん。さっきは、パパに、何をしたの?」

 

「……えっ?」

 

 声を掛けたのはミミだった。

 ライカは一瞬ミミが何のことを言っているのか分からなかった。しかし、すぐに思い当たった。ライカがクルーエルと戦う前、突然ダスティの身体から光が溢れてきて、それが自分の中に入っていったこと。あれが何であったのかは、ライカ自身ですら分からない。ただ、あれが起こってから、急に二刀流が扱えるようになって、ダスティが使っていた技の使い方も分かるようになって――

 

「あれ?」

 

 そこまで考えて、ライカは理解した。理解してしまった(・・・・・・・・)

 

(もしかして……あの光は……ダスティさんの――!?)

 

 ひょっとしてダスティが死んだのは、クルーエルの攻撃で力尽きたからではなく、自分がダスティからあの光(・・・)を奪ったからではないのか。最近は鳴りを潜めていたとはいえ、もともと自罰的なところのあるライカは、そんな考えに至ってしまった。

 ふとそこで彼女は、ミミが自身に向ける視線に、恐怖の色が多分に含まれていることに気付いた。

 

「……ミ、ミミちゃん?」

 

「ひっ!?」

 

 ライカが恐る恐る呼び掛けると、ミミは怯えて後ずさる。

 

「ねえ……ライカちゃん。パパに何をしたの……パパをどうしたの!?」

 

 ミミが怯えながらも発したその問いに対する答えを、ライカは持たない。いや、正確には持っているが、口にすることはできない。

 

「ねえ! パパを返してよ!! パパはそこにいるんでしょ!?」

 

 ミミは、娘であるがゆえにダスティの戦い方を知っていた。そして、ダスティから光を奪った(・・・)後のライカの動きが、ダスティにそっくりだったと来れば、達する結論は一つだった。

 

お前(・・)がパパを殺したんだ!! パパの魂を食べたんだ!!」

 

「…………えっ?」

 

 子供特有の理不尽な八つ当たり。しかし、今のライカには、その言葉はとどめにも等しかった。

 ライカは、人々を守れた喜びにも、ダスティが死んだ悲しみにも浸れず。ただミミに糾弾されながら、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。




クルーエル
 こいつしぶと過ぎじゃね?でもワンピ時空の人間なのでこういうこともあるんです。

ダスティの身体から暖かな光が――
 10話初めの回想でも示唆してましたが、これこそが特異な『体質』です。詳細は次回。

器用に手足を動かし、重心移動だけでクルーエルの方に向き直る
 AMBACです。

何か(・・)って結局何だったの?
 サブタイトルをご覧ください。

 ということでやっとあらすじで言っていた“特異体質”くんが出てきました。これでもうあらすじ詐欺とは言わせないぞ!!

魚人族海兵「おっ」
ミンク族海兵「そうだな」

 ちなみに何故これを能力とか力とか呼ばずに『体質』と呼んでいるのかは次回にて。
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