MISFITS ―はみ出し者たちの物語―   作:Astley

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第13話:少女の特異な「体質」

――ねえ!パパ!それってどうやるの!

 

 目の前に二刀を振るう男がいる。その人は『僕』の父親だった。

 

――これが二刀流……!すごいよ、パパ!

 

 『父さん』がやったのと同じように、両手の木刀を振るう。しかし、『父さん』のように上手くはできない。

 

――僕だってもう大人です!父さんにも負けません!

 

 気付けば『僕』は大きく育っていた。『父さん』に負けない体格を得た『僕』は、既に『父さん』と互角に戦えるようになっていた。

 

――父さん!?そんな!?嘘だ!!そんなはずがない!!

 

 軍艦から運ばれてきたのは一人の男の遺体。それは『父さん』だった。『僕』は『父さん』に縋り付いて泣き叫んだ。

 

――もう二度とこんな悲劇は繰り返させない。僕がこの海を守るんだ。

 

 それからはただひたすら修行を重ねた。強くなれば起こるはずだった悲劇を止められると信じて。

 

――大丈夫だ。僕は順調に強くなっている。

 

 修行をするたびに強くなる自分を実感できた。これならば、『僕』の剣で、この海だって守れるかもしれない。

 

――違う! 父さんの剣はこんなものじゃない! これは……!

 

 でもある日気付いてしまった。『僕』の剣はそんな綺麗なものじゃない。誰かを守るために振るっていたんじゃない。ただ海賊への憎しみから振るっていただけだった。口先だけヒーローぶって、その癖、殺したがりな自分の憎悪と向き合おうともしなかった。

 

――ハハハ! そんなわけないだろ?僕の剣が綺麗だなんて……。

 

 そんな僕の剣を『綺麗だ』と言ってくれる人がいた。その人のおかげで『僕』は自分の剣を見つめ直せた。少しずつ、自分の中で燻る憎しみと折り合いを付けられるようになった。

 

――士官学校への入学だけど、少し先延ばしにしようと思う。

 

 14歳になったらすぐに士官学校に入学しようと思ってた。でも、この人と一緒に少し立ち止まって、もう一度『僕』の剣の原点に立ち帰ってみるのも悪くないかもしれない。

 

――家族……か。いや、まさか僕がこうなるとは思ってなくてさ。

 

 気付けばその人は『僕』の『妻』になり、子供も産まれていた。『娘』には、『妻』の案でミミと名付けることになった。

 

――しばらくは、こうして穏やかに暮らすのも悪くは無いかな。

 

 剣の修行を続けながらも、家族と一緒に穏やかに暮らす日々。正直に言おう。この頃の『僕』は士官学校に行かなくても良いんじゃないかと思っていた。

 

――やっぱり今の僕じゃ非力だ。家族も守れない。

 

 でも、そんなことはなかった。娘が4歳のときに、マリンフォードが襲撃を受けた。街は無事だったが、防衛の際に、僕よりも遥かに強いはずの海兵が犠牲になったらしい。僕は漠然とした不安を覚えた。

 

――ミミ。行ってくる。僕は強くなって帰ってくるよ。

 

 今のままじゃいけない。そう確信した『僕』はついに士官学校に入学した。

 

『お前も子持ちなのか! 俺たち仲間じゃないか!』

 

 銀髪の男が肩を組んでくる。その男の名はエルンスト・ベルツといった。彼も子持ちで、何か思うところがあって海兵を志願したらしい。共通点を見付けた『僕ら』は、すぐに打ち解けた。

 

――強いな、君は。本当に強い。

 

 ベルツは強かった。今まで、『父さん』を除けば格上か格下としか戦ってこなかった自分にとって、初めてライバルと呼べる存在ができた。

 

『最高だよ、お前! お前と一緒なら俺はどこまでも強くなれる!』

 

 それは『僕』の台詞だ。君のおかげで『僕』はここまで強くなれた。これからも親友でいてくれると助かる。

 

『……子供?』

 

――なんでこんな海に……こんな小さな子が……?

 

 ベルツと一緒にいるといつもトラブルが起きる。特にあの嵐の日は印象に残っている。この時の自分は、『あの子』とこんなにも長い付き合いになるとは思わなかった。

 

『ねえ、パパ! 今日公園でライカちゃんって子と遊んだんだよ! ライカちゃんってすっごく速くてすっごく強くてビリビリ~ってなって――』

 

――ミミ。もっと落ち着いて喋りなさい。何を言いたいか分からなくなってるよ。

 

 『あの子』はライカと名付けられた。ミミの話によれば普通の子供みたいにちゃんと遊べているらしい。何だか安心した。あんな拾われ方だったから、普通の人生を歩むのは難しいんじゃないかと思ってた自分を恥じた。

 

――よし、じゃあ早速始めるとするか!

 

『はい!』

 

 いつしか『僕』は定期的にライカに訓練する立場になっていた。ライカはミミと同い年なのに、大人顔負けに強い。そんな彼女に訓練してやるのは、『僕』自身にとっても良い訓練になった。

 

――本当に強くなったね、ライカちゃん。

 

『でも、未だにあなたに勝てるビジョンが浮かびません……』

 

 ベルツには悪いが、『僕』はライカをもう一人の娘のように思っていた。『僕』や部下の訓練を受けて、どんどん技術を吸収して強くなっていく。そんなライカを心のどこかで誇りに思っていた。

 

――ミミ。折角の遠足なんだ。パパじゃなくて友達と遊んできたらどうだい?

 

『やだ! パパもライカちゃんと一緒に来るの!』

 

『いいじゃないですか、ダスティさん。ダスティさんは付き添いをしろと言われただけで、遊ぶなとは一言も言われていないのでしょう?』

 

――いやまあ、そうだけど……。

 

 だから、そんな『二人の娘』に一緒に来て欲しいと言われたときは、内心大喜びしていた。同時に、何があっても絶対にこの二人だけは守り抜こうと改めて決意した。

 

『死ねええェ!』

 

――“二刀類(にとうるい)丸刀須(マルトース)”!

 

 だから二人が危機に陥ったあのとき、動かないはずの身体から急に力が溢れてきて、何とかあいつと二人の間に『僕』の身体を滑り込ませることができた。

 刺し違えてもこいつだけは倒す。『僕』の胸にあいつの腕が迫り――

 

 

 

 

「キャアアッ!!?」

 

 そこでライカの目は覚めた。

 

(今のって、ダスティさんの……!?)

 

 そこまで考えたところで、ライカは激しい吐き気に見舞われた。

 

「うぷ……っ!」

 

 ライカは必死にそれを抑えようとした。しかし、恐怖や罪悪感が綯い交ぜになったものが心にのしかかり、彼女を責め立てる。

 

「おぇ……っ! げほっ! ごほ……っ!」

 

 結局ライカの心は決壊し、彼女は胃の中の物を吐き出し始めた。

 

「ぅぐ……っ! ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 ベッドを汚しながら吐き続け、胃の中が空っぽになったところで漸く彼女の嘔吐は止まった。

 

「私のせいだ……私のせいだ……!」

 

 ライカは自分を責めていた。あの時自分がもっと早く行動できていたら、ダスティは死なずに済んだのではないか? あるいは、あの時自分がいなければ、自分がダスティから光を奪わずに終わり、彼は最後まで生き延びれたのではないか?

 実際はそんなことない。ライカがいようがいまいが、ダスティはクルーエルに敗北して死んでいただろう。しかし、自責の念から思考が支離滅裂になっているライカは、自分を責めることを辞められない。

 

『ねえ! パパを返してよ!! パパはそこにいるんでしょ!?』

 

『お前がパパを殺したんだ!! パパの魂を食べたんだ!!』

 

「……うぶっ!?」

 

 昨日のことが思い出されて、再び吐き気に襲われた。最早吐くものも無くなった身体が、尚も吐こうとしてえづく。

 

「ライカ! ライカっ!! 大丈夫!?」

 

 メルクが部屋の中に駆け込んできた。

 

「私のせいだ! 私が殺したんだ!!」

 

 ライカは震えながら叫んだ。

 

「違う! そんなことないわ! あなたはみんなを守ったのでしょう!?」

 

 メルクに抱きしめられ、背中を撫でられる。伝わる熱がライカを多少落ち着かせた。

 

「でも、ダスティさんが……ダスティさんが……!」

 

 しかし、自罰的な彼女はそれでも納得していなかった。自分は親友の父親を殺し、親友の心を傷つけたんだ。だから、自分は消えるべきなのではないか。そんな思考が、あの日のことを思い出すたびに湧き出す。

 

「あなたのせいじゃないわ! あなたがやって駄目なら誰がやっても駄目だったわよ! お願いだから自分を責めないで!」

 

 ライカを抱きしめる力が強くなる。ライカは、メルクが涙を流していることに気付いた。そこで初めて彼女は、自分が消えたら悲しむ人がいることに気付いた。

 

「うぅっ! ……うわぁああぁ!!」

 

 メルクにつられて、ライカも大声で泣きだした。消えることは許されず、ミミにどう贖罪したらいいかも分からない。これからどうすればいいのか何も思いつかないライカは、その不安に駆られて、いつまでもメルクの胸の中で泣いていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「……ダスティ」

 

 マリンフォードにて、ダスティの葬式が開かれた。そこには当然ベルツの姿もあった。

 

「お前は……」

 

 何かを言おうとして、結局何も言えずに口を閉ざす。いつか来るかもしれないと覚悟していたはずの親友の死は、想像以上に重くベルツにのしかかっていた。

 棺の前で泣き叫ぶミミを見る。

 

「…………」

 

 もし自分が死んだら、ライカも――そんな考えを打ち消すように首を振り、今一度決心する。

 

(最期までライカの面倒を見ると誓ったんだ。俺は生き抜いてやる! ダスティが生きられなかった分まで、ずっと!!)

 

 かつてライカと結んだ約束が頭を過る。

 

「ダスティ……見ていてくれ。俺はまだ針千本を飲むつもりはない」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 葬式が終わってから、ベルツはマリンフォードの本部を訪れていた。

 

「軍医殿、うちのライカがダスティの魂を食べたとか何とか噂になってましたが……あれは本当なのですか?」

 

「ええ。目撃者は多数いますので、報告書通りのことが起きたのはほぼ確実と言ってよろしいかと」

 

 あの戦いは、避難の遅れた民間人たち全員が見ていたので、それだけ証言も多い。つまり、事件の報告書は事実であるという裏付けが取れていると言っても、過言ではないのである。

 

「魂を食べるなんて、そんな……」

 

 ベルツが呟く。

 あの戦いの後、戦闘で体力を大きく消耗したライカは軍医の下に運ばれ、そこで精密検査を受けることになった。無論、その目的には、ライカの治療だけでなく、ライカに光が集まっていったあの現象の正体を解明することも含まれている。そしてその検査の結果――

 

「しかし、結局我々はあれが何であるか全く分かりませんでした」

 

「そうか……」

 

――そう、何一つとして分からなかったのである。

 

「恐らく、死人から魂のようなものを吸収しているのだと思われますが……」

 

「ライカが、あれがダスティにとどめを刺してしまったんだと言っていましたが……それは本当なんですか?」

 

「いえ、それすら我々には分かりません。私としてはあれは死人から抜けた魂を集めただけであって、とどめにはなっていないと思ったんですが……しかし、詳細が分からない以上、あれがとどめとなった可能性もゼロとは言い切れません」

 

「……何一つはっきりしないな」

 

 ベルツのぼやきに軍医はすいませんと平謝りするしかない。しかし、実際何も分からなかったのだから、責められるのも仕方ない。

 

「悪魔の実の能力という線も考えましたが……」

 

「でも、ライカはビリビリの実の能力者です。悪魔の実を2つ以上食べることはできないのだから、あれは悪魔の実の能力じゃない」

 

 ベルツが指摘した通り、悪魔の実を2つ以上食べると、その人は死んでしまうことが知られている。つまり、あの現象は能力によるものではない。

 

「悪魔の実の能力でないならば、一体……?」

 

「まさか『体質』というわけでもないでしょうし……」

 

 軍医とベルツは二人揃って頭を抱える。ライカに起きた現象は、軍医はおろか、海軍の全ての人間にとって、全く未知の現象であった。

 

「存外、その線が正しいのかもしれません」

 

「……まさか、あれが単なる体質だと?」

 

「ここは偉大なる航路(グランドライン)です。どんな人間がいてもおかしくはない」

 

 実際、偉大なる航路(グランドライン)には魚人族や人魚族など、存在を知らない人からしたらファンタジーにしか思えないような人種が存在する。実はライカが、見た目が人間と同じなだけの別種族である可能性も、否定することはできなかった。

 

「とにかく、正体が分からない以上、あれはそういう『体質』として上に報告します」

 

「……分かりました」

 

 ベルツは、とにかく今はそれで納得するしかなかった。これ以上話せることが無くなった軍医は、ベルツに帰るように促した。

 本部からの帰路にて、ベルツはライカのことを考えていた。

 

(ライカ……君は本当に一体何者なんだ)

 

 酒場でダスティと話したことが思い出される。今は亡きダスティの懸念は、あながち間違いではなかったようだった。

 

(それでも……それでもライカは俺の娘だ。何があっても、彼女がどんな存在であろうとも、俺は彼女の味方で居続ける)

 

 もう何度目かも分からないほどしてきたその決意。それを改めてもう一回。今度は今までのどの時よりも強い決意を込めて、決心したのだった。




ライカ
 3話以来の自罰的なライカちゃん。最近は家族や友達を得て改善されてましたが、今回の事件で再びぶり返しました。

「体質」
 まあ、ワンピ時空には、電気を発する獣人とか、身体から炎を出す翼人とかいるし、魂を食べる体質の少女がいてもおかしくはないよね。

 次回は……タグの「モブの民度低め」が機能します。お楽しみに。
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