MISFITS ―はみ出し者たちの物語―   作:Astley

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第14話:はみ出し者

 マリンフォード本部でライカの「体質」について聞いたベルツは、家族の待つ家へと帰ってきた。家の扉を開けたベルツの目に最初に入ってきたのは、ひどく焦燥したライカの姿であった。

 

「ライカっ!? どうしたんだ! どこか痛むのか!?」

 

 ベルツはライカに駆け寄った。ベルツは、軍医から、ライカに外傷は無いと聞いていた。しかし、同時に、ライカが8歳の子供がしてはいけないような大立ち回りをしていたことも聞いている。その負担が今になってぶり返してきたのかとベルツは思った。

 

「私のせいで……ダスティさんが……!」

 

 しかし、その言葉を聞いてベルツは、何がライカにそんな顔をさせているのかを察した。

 

「ライカ、それは違う」

 

「違わない! 私がもっと強ければダスティさんの代わりに戦えた! 私にもっと勇気があればダスティさんが死ぬ前に前に出れた! 私にこんな体質なんか無ければダスティさんを殺すこともなかった!!」

 

 ライカが一息で叫んだことを聞いて、ベルツは瞑目した。ここで、そんなことはないと否定することは簡単だ。しかし、それでライカの気が晴れるとは思えない。彼女は責任感が強く、それ故に自罰的なところがある。

 

(一体どうしたものか……)

 

 ベルツは考えた末、ゆっくりと口を開いた。

 

「ライカ。君がダスティの立場に居たら、君はどうしていた?」

 

「そんなの、決まってる! みんなを守るために私は戦う!」

 

 ライカはベルツの目を真っ直ぐ見て、はっきりと断言した。

 

「たとえ相手が強力な海賊だったとしてもか? そのまま戦ったら死ぬかもしれない。それでも人々のために戦えるのか?」

 

「それでも、戦う! 遠足のときはできなかった! でも、次は!絶対に!」

 

 そう言うライカの顔は、あまりにも真剣であった。その顔に、ベルツは危機感を覚えた。

 

(これは上辺だけの言葉じゃないな。次に同じことがあったら、この子は本当にそういう行動に出られる。そして――)

 

――死ぬ。それは、ベルツには受け入れられない未来であった。だからこそ、言葉は慎重に選ばなければならない。

 

「もしそれで君が死んだとき、君は守った人々を恨みながら死ぬのか? 彼らが居なければ自分は死ななかったと、呪いながら死んでいくのか?」

 

「そんなことはない! だって、それが私の役目だから! 私がやるべきことだから!」

 

「だったらダスティも同じように思っていたはずだ。ダスティは君を恨んじゃいない。君がそんなに責任を感じる必要はないはずだ」

 

 ライカは目を見開いた。元々聡明なライカは、自身を責めながらも、ダスティが自分を恨むことなどあるはずがないと、心のどこかで気付いていたのだろう。それを改めて自分の父親に肯定してもらえて、ほんの少しだけ罪悪感が晴れたようだった。

 

「でも、そうだとしても! 私の体質がダスティさんを殺している! 許されていいはずがない!」

 

 しかし、ライカは自身の「体質」がダスティにとどめを刺したと思い込んでおり、それが彼女をこうまで自罰的にさせていた。

 

「……でも、ライカ。もしダスティと立場が逆だったら、君はダスティを許していたんじゃないか?もしダスティに君と同じような体質があって、生き残るためには君の魂が必要で、それを得るために君が彼に殺される必要があるとしたら、君は彼に殺されても文句は言わない。違うか?」

 

 そう言われてライカは黙る。実際、その通りだった。立場が逆になったら、勇気の無い自分は悩むだろうけど、最後は殺される道を選ぶし、そのことでダスティを恨むこともないだろう。ライカはそう思った。

 

「君がダスティを殺さなければ、ミミや君の後ろに居た多くの人々が死んでいた。だから、ダスティは君に殺されたことを感謝こそすれど、恨むことはない。あいつも一端のヒーローだからな」

 

 ベルツは敢えて、ライカがダスティを殺したものだと決めつけたうえで彼女を励ますことにした。責任感の強いライカは、罪を否定してもらうよりも、罪を一緒に背負ってほしいのだろうと理解した上で。

 

「だから、そんなに気に病むな。ダスティの死を悲しむのはいい。でも、だからといって自分は生きるべきじゃなかったって卑下するのはやめろ。それじゃあダスティが君を守った意味がなくなる」

 

「……! うぅっ! ……ひぐっ……うわぁああん!」

 

 そこまで言われてしまえば、もうライカも「私のせい」とはいえなかった。ライカは感情が決壊して、大声で泣き始めた。そんなライカの頭を、ベルツは撫で続けた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 泣きに泣いて自分の感情を出しきって、ライカはだいぶ落ち着いたようだ。さっきのように焦燥した様子はもう見られない。

 

「お父さん」

 

 いつの間にか泣き止んでいたライカが、ベルツと目を合わせる。その瞳には、どこか強い決意が感じ取れた。

 

「私、ヒーローになる」

 

 突如として放たれた言葉をしっかりと受け止めて、ベルツは次の言葉を待つ。

 

「私がダスティさんを殺してまで生き残った意味は、きっと、ダスティさんの分まで私が誰かを助けることだと思うから」

 

 それは、ライカなりに考え抜いた結論であり、覚悟であった。ベルツは静かに目を閉じ、そして開く。

 

「ライカ、君が生き残った意味はもう一つある」

 

「え?」

 

 ベルツはライカの肩に手を置いて、目線を合わせた。

 

「君はダスティが死んだとき、どんな気分になった?」

 

「それは、もちろん悲しくて、悔しくて……」

 

 ライカは俯きながらぼそぼそと答えた。あの時に受けた悲しみを思い出して、心が軋んでいるのだろう。

 

「君が死んだとき、俺たち家族もきっと同じ気分になる」

 

「……!」

 

「君の生き残った意味は二つ。一つは誰かを守ること。もう一つは何があっても生きることだ」

 

 凛とした声でベルツが断言した。いつになく重い雰囲気のベルツに、ライカは自然と緊張する。

 

「ダスティに助けられた命を、勝手に捨てるようなことは俺が許さん。絶対に生きろ」

 

 そう言いながらベルツはライカに小指を差し出す。

 

「約束だ。もし君が老衰以外で死んだら、針千本飲ます」

 

 さっきまでの重い雰囲気を霧散させて、おどけたように言った。その言葉に、昔同じようなことを言われたのを思い出して、ライカは薄く笑みを浮かべた。

 

「……死んだら針千本は飲めないよ」

 

 そう言いつつ、ライカも小指を差し出す。二人は小指を結び、ここに約束した。

 

「父さんも、私とした約束覚えてるよね?」

 

「ああ、もちろん。俺が死んだら針千本飲ますってやつだろ?」

 

「うん」

 

 二人して微笑む。ライカの顔には、もう悲痛な感情は残っていなかった。

 

「死なないでね、父さん」

「死ぬなよ、ライカ」

 

 今回の事件でライカの心に刻まれた傷は深く、癒えるまでには長い時間が掛かるだろう。しかし、ベルツは、ライカの表情を見て、彼女がその傷すら糧にして、ヒーローとして逞しく成長していくことを確信していた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 ダスティの葬式が終われば、その死にどれだけ打ちのめされていようとも、人々はまた日常生活に戻らねばならない。それはあの遠足にいた子供たちも同じだ。彼らは身近な人間の死に、恐怖や悲しみなど様々な感情を抱えつつも、以前と同じように学校へと通う。

 もちろん、ライカもそうである。以前と同じように学校へ向かい、以前と同じ教室に入る。

 

「おはよう」

 

「……お、おはよう」

 

「……」

 

 ライカは以前と同じように挨拶した。しかし、帰ってくる返事は以前と違いまばらで、どこか遠慮がちに感じられる。

 

「おはよう」

 

「…………」

 

 ライカは以前と同じ席に座り、以前と同じように隣の席のミミに挨拶をする。しかし、ミミはライカに挨拶を返さなかった。彼女は、ライカに対して明らかに敵意を向けている。

 ミミは、ライカと同じように、ダスティにとどめを刺したのはライカだと未だに思い込んでいるようだ。しかし、それも無理もない。まだ未熟な彼女の心は、父親を失った悲しみに耐えきれず、それを晴らすために、身近に憎めるものを必要としていた。クルーエルがインペルダウンに収容された以上、その矛先がライカへと向くのはある意味必然であった。

 また、ミミ以外の子供たちも、ライカを遠ざけようとしている。というのも、彼らもあの事件でライカがダスティに何をしていたのかを直接その目で見ている。そのため、彼らのライカの認識は、「一クラスメイト」から、「魂を食べる女」になっていた。誰が好き好んでそんな存在に近づくだろうか。彼らは、それを表には出していないが、その実ライカに恐怖していた。

 今、この教室で、ライカは完全に孤立していた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 ライカの人生の中で、史上最も苦痛だった学校生活が終わり、放課後になった。ライカは以前と同じように駐屯地に来て、訓練を受けようとした。駐屯地に着き、門番の海兵に話しかける。

 

「こんにちは」

 

「や、やあ、ライカちゃん。き、来てくれたんだね!今、訓練場に案内するよ!」

 

 しかし、門番の様子がおかしい。なんだかよそよそしくて、ライカから距離を取ろうとしているのが感じ取れる。

 

「ライカちゃん! 今日もよく来てくれたね!」

 

 訓練で顔馴染みのある海兵は以前と同じように接してくれた。それがライカにとって数少ない救いとなっていた。

 

「あの、他の海兵さんたちは……」

 

「ああ、あれか。気にするな。噂を真に受けて子供に辛く当たるような海兵なんて、気に掛けてやる価値もない」

 

 彼らにも、ライカの噂は広まっていた。そのため、一部の元々ライカと交流が深かった海兵以外は、なるべくならライカと関わりたくないと思っていた。

 

「まあ、とにかく今まで通り頑張ってくれ、ライカちゃん。俺は何があっても君を応援するよ」

 

「……はい」

 

 今日もライカは訓練を始めた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 ライカは広大な訓練場で、ただ一人孤独に訓練をしていた。元々この駐屯地には、ダスティ以外にライカについて来られる人間はいなかった。そのため、ダスティ亡き今では、ライカに訓練を付けられる人間は誰も居なくなってしまっていたのだ。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 ライカはひたすらに両手に持った刀を振るう。ダスティの意志を継ぐためにも、彼の二刀流を極めなければならない。そう考えるライカは、ひたすら鍛錬を積む。

 どう動けばいいのかも、どう刀を振るえばいいのかも、自分の中にいる何か(・・)が教えてくれる。しかし、それに身体がついて来ない。だから、訓練をする。

 

(なるんだ! ヒーローに! ダスティさんのためにも!)

 

 少女の孤独な訓練は、日が沈み始めるまで続いた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 訓練を終え、駐屯地からの帰り道。そこでもライカは街行く人々からの好奇の視線に晒されていた。あの事件の噂は既にマリンフォードの街中に伝わっている。事件以前からライカを知っている人たちは当然ライカに味方したが、そうでない人々からすれば、ライカの印象は「魂を食べた子供」でしかない。

 ライカはそんな人々から送られる視線を敏感に感じて、傷ついた。

 今やこの街の人間の大半にとって、ライカは避けるべき存在であった。一夜にしてはみ出し者(・・・・・)となった彼女は、夕焼けで赤く照らされた街をとぼとぼと帰っていった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 それからもライカの孤独な日々は続いた。ごく一部の人以外からは話しかけられることすらなく、こちらから近づけば恐怖の視線を送られる日々。しかし、そんな状況に陥っても、ライカは折れなかった。なぜなら、彼女の心には目指すべきものがあったから。友達付き合いをできなくなった彼女は、さらに訓練の日を増やし、ひたすらにヒーローを目指し続けた。

 

 学年が上がっても、学校を卒業しても、何も変わらない孤独な日々。しかし、それも今日終わる。

 あの事件から6年。ライカは14歳になった。背が高くなり、手足も伸びて、彼女は美しく成長していた。その身体は細身で、一見華奢に見えるが、6歳のころから鍛え続けていたおかげで、大人顔負けの力を発揮できる。二刀流も板について、ダスティほどではないが、使いこなせるようになった。

 

「ライカ、忘れ物は無い?」

 

「うん。大丈夫だよ、母さん。行ってくる」

 

「気を付けてね! くれぐれも怪我しないようにね!」

 

「分かってるよ、母さん。父さんとも約束したから」

 

 荷物をまとめて家を出る。そう、14歳といえば、海軍士官学校に入学できる最低年齢である。今日ライカは、ついに制式に海兵への一歩を歩みだすのである。

 

「いってらっしゃい! ライカ!」

 

「いってきます! お母さん!」

 

 入学者に事前に支給されていた制服を身に着け、ずっと暮らしてきた家を発つ。幼少の頃から彼女のトレードマークであった長い黒髪を振りまき、少女は目的地へと走る。行先は海軍士官学校。今、一人の少女が正義の門を叩こうとしていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 同じころ、シャボンディ諸島にて。

 

「……そろそろ船の時間か」

 

 シャボンディ諸島のレストランにて、大柄な男が席に座っていた。テーブルの上の皿は全て空っぽで、随分前に食べ終わっていることが窺える。

 男は明らかに人間ではなかった。身体は焦げ茶色で、顔からは5対のひげが生えている。そして手の指の間には水かきが付いている。そう、男は魚人であった。

 

「さてと……」

 

 ゆっくりと立ち上がり、勘定を払って店を出る。

 

(別に船なんか使わなくても海くらい泳いで行けるが……)

 

 しかし、彼にはそれをしたくない理由があった。

 

(これから行くのは人間どもの本拠地ともいえる場所だ。どうせ差別主義者もごまんといる。辿り着く前に余計な体力は消耗したくない)

 

 この世界において、魚人は差別されている。何せ、彼らは200年前までは「魚類」に分類されていて、人間扱いされていなかった。それが改正された今でも、当時の差別的な風習は残り続けている。そのため、人間の中には、未だに魚人に対する差別意識を持つものも少なくはない。

 

「マリンフォード行きの船は30分後に出航します!乗られる方はお急ぎを!」

 

 人間が叫んでいる声が聞こえる。マリンフォード行きの船の前には、行列ができている。この機に乗じてマリンフォードにスパイ等を送り込まれないよう、搭乗予定の人たちを一人一人検査しているからだ。彼もその列に並ぶ。

 

「はい、少しいいですか?身元をチェックさせて……え?」

 

 検査の海兵がその男を見て、目を見開く。

 

「なんだ?俺がどうかしたのか?」

 

「い、いえ!身元をチェックさせていただきます!」

 

 この船はマリンフォード行きの、士官学校入学志願者(・・・・・・・・・)を運ぶための船。基本的に、海軍に入るのは人間か巨人族だけで、それ以外の人種が入ることは殆ど無い。そのため、今までこの船に乗り込んだことがあるのはそれらの人種の人間だけであった。しかし、今目の前に、魚人族でありながらこの船に乗ろうとしている者がいる。

 

(魚人が海兵に?そんな馬鹿な。何かを企んでいるんじゃないのか?)

 

 海兵は内心であまりにも失礼なことを考えていた。対する男は、その海兵の表情から、自分がどう思われているかを察した。しかし、それに対する嫌悪感をおくびにも出さない。

 

(俺の目的のためにも、今問題を起こすわけにはいかない。なんとしても海兵にならなければ……)

 

 やがて検査が終わり、男は船に乗った。当然ながら、他の乗員から奇異の目で見られている。男は、やっぱり泳いでいった方が良かったんじゃないのかと思い始めていたが、今更船を降りる訳にもいかない。そのまま船に揺られて、マリンフォードに向かうことにした。

 この船の中ではもちろんのこと、海軍全体を見ても唯一の魚人である彼。そんなはみ出し者(・・・・・)な彼は、今正義の門を叩こうとしていた。




マリンフォードのモブ
 民度を低くし過ぎたような気もしたけど、ドレスローザやワノ国を見る限り、これでもまだ高い気がしてきた。

ライカ
 ついに士官学校に。立派に成長しました。

魚人
 言わなくても分かると思うけど、あらすじのあの人です。

 という訳でついに幼少期編が終了。次回から士官学校編スタートです。しかし、あらすじ通りに“特異体質”の少女が海兵になるまでに14話もかかったとかマジ?でもこれで、ようやっとあらすじ詐欺から脱却できました!やったぜ。




ミンク族海兵「ん?」
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