MISFITS ―はみ出し者たちの物語―   作:Astley

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第18話:二人目のはみ出し者

「お前は魚人島が今どんな状況なのか知ってるか?」

 

 ギルバートが口を開いた。

 

「えっと……今は白ひげ海賊団の縄張りになっているよね?」

 

「ああ、そうだ」

 

 ギルバートの故郷でもある魚人島は、偉大なる航路(グランドライン)の前半と後半を繋ぐ中継点になっている。そのため、制式な方法で“赤い大陸(レッドライン)”を超えることができない海賊等の犯罪者たちは、航海する上で必ず魚人島を通らなければならないのである。

 故に、大海賊時代が始まってすぐの頃は、急増した海賊たちが魚人島に集まり、魚人島は荒らされに荒らされたのだった。その状況は暫く続き、多くの魚人や人魚が殺されたり、攫われたりしたという。

 結局、魚人島に平和が戻ったのは、四皇・“白ひげ”エドワード・ニューゲートが魚人島を自身の縄張りにした後だった。魚人島が今平和なのは、白ひげの威光に守られているからなのである。

 

「恐ろしいことにな、魚人島の治安は海賊なんかに維持されてんだ」

 

 彼は忌々しそうに言った。

 

「世間一般では白ひげ海賊団は穏健派だとか何とか言われているが、所詮は海賊だ。いつ気が変わるかも分からない」

 

 どれだけ世間の人々が白ひげ海賊団を人格者だと讃えていても、彼からすれば一介の海賊でしかない。そんな存在に身の安全を託すことは、彼には耐えられなかった。

 

「結局、魚人島を守れるのは、魚人島の住人だけなんだよ」

 

 そう語る彼の顔からは、海賊への嫌悪感が見て取れた。

 

「だから、俺は海軍大将にならなければいけないんだ」

 

「なるほど……強くなれば故郷を自分の手で守れるから――」

 

「それだけじゃない。強くなりさえすればいいのなら、別に海軍に入る必要はない」

 

「えっ?じゃあ一体――?」

 

「俺が大将になって、四皇にも負けないくらい強くなったら、どうなると思う?」

 

 含みを持たせた彼の言い方に、ライカは仄暗い何かを感じた。

 

「俺が戦わなくなることを示唆すれば、海軍や世界政府は俺の言うことを聞かざるを得なくなる。四皇と戦える戦力は貴重だからな。そして、俺と戦えば消耗して他の四皇に食われかねない、って思わせられれば、四皇の動きすら俺がある程度制御できるようになる。つまり、誰も俺の言葉を無視できなくなるんだ。そうなれば、魚人島を守るだけじゃなく、何なら魚人島を地上に移すことすらできるようになるかもしれない」

 

 魚人島は、海中深くに存在する島であり、そこの住民の多くは、太陽の光が溢れる地上での生活を夢見ている。魚人島の住民にとって、地上に移住することは長年の悲願であり、今まで多くの魚人や人魚たちがそれを目指して活動してきた。

 しかし、世界政府には未だに魚人に差別意識を持つものが多く存在し、結局今までそれは達成されていない。

 それを彼は自分の手で成し遂げようというのだ。厳しい訓練もいじめも全て耐え、自分が海軍大将になることで。

 全てを話し終わったギルバートがふとライカの方に目をやると、ライカは涙ぐんでいた。

 

「おい、今の話に泣く要素があったか?」

 

「だって! あなたがこの学校に来たのも、いじめに耐えていたのも、故郷を思ってのことなんでしょう? 私、感動しちゃって……!」

 

「そんなんじゃねえよ……」

 

 ギルバートは面倒くさそうに頭を掻いた。対して、ライカは目を輝かせている。

 

「私はあなたに協力を惜しまないわ。あなたが魚人島のヒーローになれるよう、全力でサポートするから」

 

 ライカは、ギルバートにどことなく共感を覚えた。彼も自分も、結局は他人の助けになりたくてこの学校に来ているのだと思ったのだろう。

 

「……ヒーローだと? そんなものに俺がなれるわけがない」

 

 だからこそ、ギルバートはライカの言葉を否定した。

 

「何を言ってるの。あなたは魚人島を救おうとして――」

 

「ヒーローってのは、強くて正義感があって、その上みんなから好かれてる人間がなるものだろう?」

 

 そう言うギルバートの顔からは表情が抜け落ちていて、ライカは少し怖くなった。

 

「俺は好かれていない。誰からもな」

 

「そんなことないわ、ギルバート。例えそうだったとしても、誰かを助けたいって姿勢を示し続ければいずれは――」

 

「だから、そんなんじゃねえんだよ!」

 

 突然大声を上げたギルバートに、ライカは驚いて身体を竦ませた。

 

「すまん。急に大声を出しちまって。でも、俺はヒーローなんかにはなれないんだよ」

 

 ギルバートの表情が、さっきよりもさらに数段重苦しくなった。

 

「俺は魚人街の産まれだった」

 

 魚人街。それは魚人島のさらに深海深くに存在するスラム街である。治安は非情に悪く、魚人島の荒くれ者たちが集う場所でもある。特筆すべきは、そこにいる者の殆どが人間に対して強い憎しみを抱いていることだ。

 太陽の無い暗い環境で生活している彼らは、常に何かしらの不満を抱えている。そのため、彼らは常に不満の捌け口を必要としている。そしてその捌け口とは、大抵の場合は人間になる。その暗い環境が原因で、魚人街の人々は、人間に迫害されたことのある者はもちろんのこと、実際に迫害されたことの無い者ですら、人間に対する憎悪を貯め込んでいる。

 

「――だからな、当然俺も人間を憎んでいた。人間から直接何かされたわけでもないのにな」

 

 ライカは絶句している。マリンフォードに居ては想像もできない話に衝撃を受けているようだ。

 

「魚人街の奴らはいつも言っていた。俺たち魚人は人間と違って、力が強くて海も泳げる優性人種なんだって。本気を出せば人間なんかいつでも支配できるんだって。俺も小さい頃はそれを信じていたよ」

 

 ライカは信じられなかった。今のギルバートを見ていると、幼少期がそんなに荒れているとはとても思えなかったからだ。

 

「でもな……ある日見ちまったんだよ」

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 それはギルバートがまだ5歳だったころの出来事だった。ある日、ギルバートは魚人島の外を泳いでいた。彼は苛ついたときは、いつも決まって魚人島を出ていた。というのも、外を泳げば面白いもの(・・・・・)を見られると知っていたからである。

 

「お! またやってる!」

 

 海中にシャボン玉で覆われた船がある。魚人島は海底に存在するため、魚人族や人魚族でない者が行く場合は、シャボンディ諸島にて船をシャボン玉でコーティングし、水圧に耐えられるようにする必要がある。

 しかし、船をコーティングするシャボン玉は頑丈であるものの、所詮シャボン玉。激しい攻撃を受ければ割れてしまい、そうなれば当然乗組員は助からない。

 それを知った上で、魚人街の魚人たちは、時々魚人島に向かうコーティング船を襲っていた。目的は当然人間への復讐……という名の憂さ晴らし。

 そしてギルバートは彼らが人間たちに襲撃をかけるのを見るのが大好きだった。人間を憎む当時の彼にとって、シャボン玉が割れて、慌てふためきながら死んでいく人間たちの姿は最高の娯楽であった。

 

(今の俺は見てることしかできないけど、いずれは俺もあれに参加するんだ!)

 

 そんなことを思いながら、今日もコーティング船が襲撃されるのを眺める。コーティング船は既に多数の魚人たちに囲まれている。こうなっては、すぐにでもシャボン玉は割られて、あの船の乗員は助からないだろう。しかし、今日に限っては様子が違った。

 

(ん? みんなどうしたんだ?)

 

 いつものように魚人たちがコーティング船に突撃するが、シャボン玉は全く割れない。それどころか、突撃した魚人が、片っ端から血を流しながら吹き飛ばされていく。ある者は四肢を折られ、ある者は腹に風穴を開けられ、中には原型を留めていないほどぐちゃぐちゃに殺された者すらいた。海の中で、次々と真っ赤な華が、咲いては消えていく。

 あまりにも凄惨な光景に、ギルバートは身体が竦んで動けなくなってしまった。その間にも、次々と魚人が殺されていく。そしてギルバートが震えている間に、いつの間にか船が自分の間近に来ていた。ギルバートはシャボン玉に当たり、そのままシャボン玉の中に落ちてしまった。

 

「うわっ! いたたたたた……」

 

 船の甲板に落ちたギルバートは、痛む身体に鞭打って立ち上がろうとする。その時、肉がつぶれるような音が響いた。音のした方に顔を向けると、一人の人間が魚人の頭を握りつぶしていた。船にはその人間以外の姿は見えない。

 

(まさか、この人間がたった一人であれだけの魚人を殺したのか!?)

 

 船から逃げなければ。そう理性が強く警告しているのに、恐怖で身体が動かない。そしてその人間はゆっくりとギルバートの方を向いた。

 

(こ、殺される……!!)

 

 人間が近づいてくる。ギルバートに手を伸ばして――

 

「何故こんなところに子供が?」

 

 ――その腕で抱き上げた。

 

「駄目じゃないか。こんなところに居ては。この辺りは魚人の海賊が居て、危ないのだぞ」

 

 声からして女性だった。真っ黒なフードを被っているので、顔はよく見えない。まさか自分がその海賊の応援のためにここに居たとは言えるはずもなく、ギルバートはただただ震えていた。

 

「私は魚人島に用があってな。一緒に連れて行ってやろう」

 

 結局ギルバートはその女の船で魚人島に帰ったのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「その時俺は悟ったよ。強さに人種なんて関係ないってな。人間だろうと、強い奴は強いのさ」

 

「…………」

 

 ギルバートの過去があまりにも想像を超えすぎていて、ライカはさっきから一言も発していなかった。

 

「それからというものの、俺はどうやったらあいつのような奴から魚人島を守れるかだけを考えて生きていた。このままにしていたら、魚人街の連中が人間に喧嘩を吹っかけちまう。そして、いずれはそれが魚人島全体を巻き込むことになって、魚人島の住人は皆殺しにされてしまうだろうからな」

 

 それは、魚人街の現状を知っている者からすれば、余りに容易に予測できる未来であった。

 

「考えに考えて、一つの結論に達した。東の海(イーストブルー)みたいな安全な場所に、魚人島を移してしまうしかない、ってな」

 

 それならば、あのレベルの強者に襲撃される確率を限りなくゼロに近くできるし、海賊の襲撃も減らせる。そして、太陽の下での生活も手に入るので、魚人街の不満もある程度解消できる。ほぼ完璧に近い解答であった。唯一欠点があるとすれば――

 

「後はどうやって世界政府にそれを認めさせるかだけだった」

 

――現状では不可能であることだけだった。先に述べたように、世界政府には未だに魚人に対して差別的な人間が数多く居る。だから、今のままでそれを認めさせることは不可能に近い。

 

「……そのために、海軍に」

 

「ああ、そうだ」

 

 ギルバートはここではないどこかを見つめて、そう呟いた。

 

「でも、それなら尚更あなたはヒーローなんじゃ――」

 

「――俺がそのことを思いついた後、魚人街の人たちに俺の考えを話したよ」

 

 突然の話の転換についていけなかったライカは、目をパチクリとさせていた。

 

「みんなで海兵になった方が影響力が上がるからって。人数が多い方が、誰か一人が大将になれる確率が上がるからって。だからお前らも一緒に海軍に入ろうって。でも駄目だった。憎しみに目を曇らせたあいつらにとって、人間の軍門に下ることを提案する俺は裏切り者でしかなかった」

 

「そんな……あなたは故郷のためを思って言ったのに……」

 

「その日から俺の居場所は無くなった。魚人街では裏切り者扱い。魚人街から出て行こうにも、荒くれ者の俺には魚人街以外の居場所は無かった」

 

 ギルバートは自嘲気味に笑った。

 

「海軍なら、ひょっとして、とも思ったんだがな……結局は朝の通り。最早俺は何処に行っても『はみ出し者』、ってわけさ」

 

「……ごめんなさい。そんなに深い事情があったなんて……軽率に聞くべきじゃなかったね。本当にごめんなさい」

 

 ライカはギルバートに対して、深く頭を下げた。これはギルバートの狙い通りだった。元々ギルバートはライカの同情を誘うために自分の過去の話をしたのだから。

 しかし、心の底から反省している様子のライカを見ていると、自分が汚いことをしたような気分になる。それに、本当はここまで深く話すつもりは無かった。それなのに、このライカという女と話していたら、自然と言葉が紡ぎだされていたのだった。

 

「……いや、いい。俺も助けてもらったのに、こんな話を聞かせちまって。悪かったな」

 

 バツが悪くなったギルバートは、罪悪感を振り払うように首を振った。

 

「なあ、俺も一つ聞いていいか?」

 

「うん。さっきのこともあるし、何でも聞いてくれていいよ」

 

 ギルバートも、ライカに対して聞きたいことがあった。ギルバートは、せっかくの機会だから、ここでライバルとなり得る女の情報を得ておこうと考えていた。

 

「一部の連中がお前のことを“魂喰らいの魔女”とか呼んでいたが、ありゃあ何だ?入学初日に付けられるあだ名にしては、物騒すぎると思ったんだが――」

 

 そこまで言って、ギルバートは目の前の少女が苦虫を嚙み潰したような顔をして俯いていることに気付いた。

 

(これは地雷を踏んじまったな……)

 

 ギルバートの心にさらに罪悪感が上乗せされた。

 

「ああ、いいんだ! 言いづらいことなら、言わなくても――」

 

「いえ、あなたに過去を喋らせたのだから、私も話すわ。あれは6年前の出来事で――」

 

 ライカも自身の過去を話した。遠足での襲撃事件、ボロボロにされた恩人、そして恩人の魂を食べた自分。全てを赤裸々に語った。

 

「――それ以来、マリンフォードに居る人の殆どは、私のことを“魂喰らいの魔女”とか呼んでいるの」

 

「……ひでえ話だな」

 

 人々を助けるために行動したのに、結局最後は報われない。誰かと似たような話を聞かされたギルバートは、打算抜きで彼女に同情していた。

 

「そんなことないわ。私がダスティさんを殺したのは事実だから。受けて当然の報いよ……」

 

 数分前の誰かのように自嘲的な笑みを浮かべるライカを見て、ギルバートは、彼女に自分と通じるものがあるように感じられた。

 

「……お互い色々抱え込んでいるんだなあ」

 

「まあ、それは……そうね」

 

 お互いがお互いに、そこまで自虐的になる必要はないんじゃないかと思いながらも、結局その思いを口にすることは無かった。それは、彼らがなんとなく理解していたからなのかもしれない。今彼らに必要なのは、傷を舐め合う相手ではないということを。

 

「つまり、俺たちは似た者同士ってわけだ」

 

「……そうなのかな」

 

「そうだろう。どっちも『はみ出し者』さ」

 

「ふふっ、確かにそうね」

 

 ギルバートが言ったことは、決して大袈裟ではなかった。二人とも、周りの人間からすれば、はみ出した存在なのだから。

 

「昨日はこんな女と訓練なんかできるか、なんて思ってたんだがな。案外上手くやっていけそうじゃないか」

 

「喜んでいいのか分からないけど、ありがとう。これからよろしくね、ギルバート」

 

 ライカはギルバートに手を差し伸べるが、ギルバートはその手を取らなかった。代わりに口を開く。

 

「ギルでいい」

 

「えっ?」

 

「ギルバートだと長いだろう?ギルって呼んでくれて構わない」

 

 そこまで言ってから、彼はライカの手を取った。それは、二人のはみ出し者が、名実ともに友達(ライバル)となった瞬間であった。

 

「よろしくね! ギル!」

 

「ああ。よろしくな。ライカ」

 

 彼らは理解していた。今お互いに必要なのは、切磋琢磨できる友達(ライバル)だと。昨日はライカが一方的に友達(ライバル)だと思っていただけだった。しかし、今日、彼らは間違いなく友達(ライバル)になったのだ。

 




魚人島
 正直立地的に色々詰んでる気がする島。原作からして大丈夫じゃなかった。

東の海(イーストブルー)みたいな安全な場所
 安全(海賊王の故郷)(よく赤髪が来る)(英雄もいる)(未来の海賊王候補の生まれ故郷)……安全?

ギルバート
 過去にはやんちゃしてました。二人目のはみ出し者。

ライカ
 未だにダスティにとどめを刺したのは自分だと思ってます。

 ということでギルバートの過去回。お互いに過去を開示するのが信頼関係を結ぶ一番の近道ってそれ一番言われてるから(KYN並感)。ようやくライカとギルバートが仲良くなれました。次回は……何の話にしよう?(小説初心者並感)
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