MISFITS ―はみ出し者たちの物語―   作:Astley

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第19話:得物

 ライカとギルバートの二人が、お互いを友達(ライバル)と認め合った日の翌日。今日も朝から訓練がある。しかし、昨日の訓練が基礎体力をつけるためのものであったのに対して、今日の訓練は、より実戦的なものだった。

 

「よし。全員集まっているな」

 

 訓練場を見渡し、訓練生全員がこの場にいることを確認して、ゼファーが言った。

 

「今日は実戦形式でやるぞ。二人組を作って、戦ってもらう。組み合わせは予め俺が決めておいた。実力が同じくらいの者同士がペアになっているはずだ」

 

 ゼファーが次々とペアの組み合わせを発表していった。当然というべきか、ライカはギルバートとのペアだった。

 

「全員言われたとおりにペアは組めたな?いいか、今回の訓練の目的は得物の選定だ。武器が無きゃ戦えません、となってもらっては困るが、だからといって、自分がどんな武器を得意としているのかも知らずに戦ってもらうのはもっと困る。だから、今回の訓練で自分に合う武器を見極めろ。あそこの倉庫に訓練用の武器は取り揃えてあるから、好きに使え。ここまでは分かったな?」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「能力と武器の噛み合わせも見なきゃならん。故に、今回の訓練では、能力の使用を解禁する。ただし、自然系(ロギア)は攻撃が当たらないと訓練にならないから、身体は生身のままにしておけ。何か分からないことがあったら俺に訊け。いいな?」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 訓練生たちの返事とともに、今日の訓練が始まった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 訓練場にて、槍と刀がぶつかり合う。どちらも訓練用のもので、刃は潰されている。しかし、命を奪う道具の、その特有のぎらつきは失われていない。ぶつかる度に火花が散り、持つものに、本能的に危険を予感させる。

 刀を持っているのはライカであった。彼女は訓練が始まってすぐに倉庫から二本の刀を持ち出した。6歳の頃から刀を振るい続けていたこともあるし、彼女の中のダスティの記憶(・・・・・・・)も相まって、その刀使いは非常に様になっている。

 対して、槍を持つギルバートは何処か浮かない表情をしている。その槍捌きは、彼が訓練生であることを考慮すれば見事なものであったが、ライカの二刀流相手に打ち合えるレベルのものではない。

 

「魚人槍術!“猛夜棲(たけやす)”!」

「“二刀類(にとうるい)丸刀須(マルトース)”!」

 

 お互いの突きが激突する。しかし、武器の習熟度の差で、ギルバートが押し負けた。

 

「ハアッ!」

 

「ぐおおおっ!?」

 

 そのままライカに追撃をかけられ、ギルバートは吹き飛ばされた。

 

「くっ……身体能力は互角のはずなのに……どうしてこうも勝てない?」

 

「やっぱり武器が合ってないと思う。さっきのあなたは槍に振り回されているような感じだったわ」

 

 ギルバートは先程から何度も武器を変えてライカと戦っているが、結果は全敗であった。オーソドックスな剣や刀はもちろん、斧や槍、果ては素手まで試したのだが、いずれもギルバートにはしっくりこない。

 

「そうはいってもな……じゃあ何が俺に合うんだよ」

 

「困っているようだな、ギルバート」

 

 急に横合いから野太い声が聞こえてきて、ライカとギルバートは驚いた。

 

「「ゼファー先生!」」

 

「その様子だと、合う武器が見つかってないようだな」

 

 ゼファーはギルバートの周囲に散乱する無数の武器を眺めて言った。

 

「とりあえずそこにある武器全部を一回ずつ振って見せろ。それで何が合うのか分かる」

 

「え?」

 

 ギルバートはゼファーの言葉に耳を疑った。武器を振るう本人ですら何が合うのか分かってないのに、傍から見ているだけのゼファーにそれが分かるのかと。

 しかし、ゼファーは“すべての海兵を育てた男”とすら呼ばれる名教官である。この男なら、自分が気付けなかった何かにも気付けるのではないか。一抹の希望に賭けて、ギルバートは武器を振るった。

 剣を振るい、刀を振るい、斧を振るい、槍を振るい――

 

「止まれ」

 

 そこでギルバートはゼファーに止められた。

 

「なるほど。お前に合う得物が分かった」

 

 ゼファーはギルバートから槍を取り上げると、その先端を折る。

 

「先生!? 何をしているのですか!」

 

 ギルバートが驚いて叫ぶも、ゼファーは何も言わない。折れた槍の先端を斧の先端に宛がい、どこからともなく取り出したロープでそれを固定する。斧の先端に槍の刃が固定される。それは、所謂ハルバードであった。

 

「振るってみろ」

 

 ギルバートはそれをゼファーから受け取った。

 

(斧や槍と大して変わらないように思えるが……本当にこれが俺に合う武器なのか?)

 

 ギルバートは既に斧でも槍でもライカと戦っている。そしてそのどちらでも負けている。斧も槍も手に馴染まなかったのだ。それらとほぼ変わらないハルバードが、手に馴染むとは思えない。疑念を抱いたままハルバードを握る。

 

(あれ?)

 

 斧や槍のときとは手応えが明らかに違う。僅かな武器の差が、顕著な使い勝手の違いとして現れている。

 ギルバートは試しに斧のように振り下ろしてみる。さっきは無かった槍の刃が重心をずらしているので、振りかぶった感覚はまるで違っていた。普通の人間にとっては、この違いは使いづらさ(・・・・・)として映るのだろう。しかし、ギルバートにとっては、それは使いやすさ(・・・・・)であった。

 今度は槍のように突いてみる。こちらも、槍のときとはまるで違う。やはり斧の刃が重心をずらす。

 

(すごい……手に馴染む!)

 

 ギルバートはハルバードで突きを放ち、そのまま回転斬りを放った。それは、この訓練でギルバートが見せたどんな攻撃よりも洗練されているように感じられた。

 

「……ハハッ!」

 

 思わず笑ってしまったギルバートは、ゼファーに向き直る。

 

「ゼファー先生! ありがとうございます! これこそが俺の得物です!」

 

 ギルバートはゼファーに感謝を述べた。

 

「得物が見つかったのなら、後はそれを極めればいい。ちょうどよくライバルもいるのだからな」

 

 そう言って、ゼファーはライカを指した。つられてライカを見たギルバートと、ギルバートを見るライカの視線が重なり合う。

 ゼファーが何を言いたいのか察した二人は、お互いに向き合う。二人の間に流れる空気が急速に張りつめて言った。

 

「ライカ、本気でやれよ」

 

「言われなくても。私は常に全力よ」

 

 お互いがお互いの得物を構える。二人の視界からお互い以外のものが消えていく。

 

「……」

 

「……」

 

 訓練場の一角が沈黙に支配される。二人とも相手に対して最大限の警戒をしているので、何も言わない。

 

(まだ、動いちゃ駄目だ。下手に動いたら、ギルバートならカウンターを決められる)

(今は、仕掛け時じゃない。下手に動けば、ライカなら迎撃してくる)

 

 奇しくも同じことを考える二人。お互いに仕掛け時を待つ。そしてその時は来た。

 

「フッ!」

 

「……!」

 

 先に動いたのはギルバートだった。手に持つハルバードを槍のように扱い、ライカ目掛けて突きを放つ。

 

「“指向性放電(テスラスパーク)”!」

 

 ライカは即座に反応して電撃を放つ。しかし、ギルバートは身を捩って避けた。

 

「魚人槍術!“猛夜棲(たけやす)”!」

 

 その技はライカも一度見ている。ギリギリで見切り、こちらも身体を傾けて避ける。ライカのすぐ傍を槍の刃が通り過ぎて行った。

 今、ライカは槍の間合いの内側に居る。つまり、槍ならば追撃ができない位置にいる。相手が槍ならば、反撃し放題である。そう、槍ならば(・・・・)

 

「“二刀類(にとうるい)――」

 

「魚人槍斧術!“破獲中罠(はえなわ)”!」

 

 ギルバートは、ハルバードの斧がライカの方を向くように柄を回し、そのままハルバードを引いた。

 ライカは後方からの斬撃を避けるため、放とうとしていた技を中断し、跳んだ。しかし、それはギルバートの狙い通りだった。

 

「魚人斧術!“飛び魚斬り”!」

 

 即座にハルバードを下から振るい上げ、斬り上げを放つ。空中にいて回避ができないライカは、二刀を交差させて攻撃を防いだ。

 斬り上げを防いだことでライカの身体が上方へ弾き飛ばされる。その隙にギルバートはライカの真下へと潜り込み、ハルバードを構えた。

 

「もういっちょ! 破獲中罠(はえなわ)”!」

 

 上空のライカに向けてハルバードを突き出す。対するライカは、6年前と同じように、手足を動かして器用に重心を移動させ、ギルバートの方を向いた。そのまま自分に向かってくるハルバードを刀で防御する。

 

「くっ!」

 

 二刀とハルバードが火花を散らす。ライカはギルバートの突きを何とか防いだ。しかし、踏ん張りの利かない空中では、一度攻撃を防いだだけで大きく体勢が崩れる。ライカは体勢を崩し、空中で無防備になった。これでは、さっきのように重心移動で向き直ることはできない。そして、それを見逃がすギルバートではない。

 

「魚人槍斧術――!」

 

「“放電(スパーク)”!」

 

 ギルバートは足にあらん限りの力を込めて、一気に跳び上がった。ハルバードを直上に振り上げ、とどめの大技を放とうとする。対して、ライカは全方位に放電することで、次に来る攻撃を迎え撃とうとした。

 

「――“大瀑布落とし”!」

 

「――うああぁっ!?」

 

 ギルバートが全力で振り下ろしたハルバードは電撃を斬り裂き、ライカの身体へと突き刺さった。そのままライカは真下に叩き落とされ、叫びながら地面へと激突した。その威力は凄まじく、地面が割れて、土煙が上がっている。

 

「よっしゃああぁ! 俺の勝ちだ!」

 

 ついにライカから一勝をもぎ取ったギルバートは、ガッツポーズをした。

 

「……しかし、全力で振り下ろしちまったが、大丈夫か?」

 

 全力でやれとは言ったが、あそこまでのクリーンヒットを叩き出すことになるとは思っていなかった。心配になったギルバートは、未だ土煙で姿が見えないライカのところへ走った。

 

「あ痛たたた……」

 

 割れた地面からライカが這い出てきた。身体はボロボロだが、無事であるようだ。

 

「ライカ、大丈夫か?」

 

「大丈夫よ、これでも鍛えてるから。それにしても、見事なハルバード使いだったわ」

 

 ライカはギルバートが手に持つハルバードを眺める。ゼファーが即席で作り上げたそれは、見た目こそみすぼらしい。しかし、その強さを身をもって実感したライカからすれば、それは最早業物にも等しかった。

 

「ああ。こいつが一番手に馴染む。やっと見つけたぜ、俺の得物を」

 

 ギルバートは満足そうな笑みを浮かべていた。

 

「ゼファー先生! 本当にありがとうございます! これで俺はさらに強くなれます!」

 

「教官として当然のことをしたまでだ。それと、お前のハルバード捌きは見事なものだったが、それでもこの海全体で見ればまだまだひよっこの域を出ていない。鍛錬を怠るなよ?」

 

「はい!」

 

 ゼファーはギルバートに釘を刺した。実際彼の技量は間違いなく高いのだが、偉大なる航路(グランドライン)基準で考えればまだまだ太刀打ちできるようなものではない。ギルバート自身、それをよく分かっているので、ここで驕るような真似はしない。

 

「そういう訳だ、ライカ。まだまだ訓練に付き合ってもらうぞ」

 

「望むところよ、ギル」

 

 再び二人が向き合う。二人の対決は訓練時間が終わるまで続いた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「はぁ~、流石に疲れたなあ……」

 

「私も……身体中が痛い……」

 

 訓練後、二人は重い身体を引きずって寮に向かっていた。今日は自主訓練はしない。そんなことできるだけの体力はもう残っていない。

 あれから二人は幾度も戦い続けた。ハルバードを手に入れたギルバートはライカと互角であり、勝敗はほぼ五分五分であった。

 

「クソッ……結局勝てなかったなあ……」

 

「ほとんど互角だったじゃない……まあ、向上心があるのはいいことね……」

 

 しかし、勝率は僅かにライカの方が上で、今回の訓練ではライカが勝ち越している。そのためギルバートは敗北感を感じていた。

 

「次は負けねえ。絶対勝ってやる」

 

「望むところよ。私だって、負けられないんだから」

 

 お互いに闘争心を剝き出しにして宣戦布告をする。全力を出し合えるライバルが居ることに、二人とも奇妙な心地良さを感じていた。




自然系(ロギア)の身体
 原作158話にて、エースとスモーカーがルフィの“ゴムゴムのロケット”で吹っ飛ばされる描写があるので、私は自然系の能力者は身体を生身とその物質とに切り替えられて、生身なら物理攻撃も効くと解釈してます。

猛夜棲(たけやす)
 単なる突き技。由来は銛の一種、“竹ヤス”から。

破獲中罠(はえなわ)
 ハルバードの間合いの内側に入った相手に対して、ハルバードを引くことでハルバードの斧部分を当て、相手を斬り裂く技。由来は漁法の一種“はえ縄”から。

“大瀑布落とし”
 必殺のハルバード振り下ろし。由来もクソも無いですね。

指向性放電(テスラスパーク)
 指向性を持たせて放電することで電撃を遠くに飛ばす飛び道具。由来はテスラコイルから。

ギルバート
 得物発見。今後ハルバードがメインウエポンになります。

ライカ
 相変わらずの電撃二刀流魂喰らい属性盛り盛り娘。

ゼファー先生
 流石先生。というかこのSSでゼファー先生が先生らしいことしてる描写を書けたの、何気にこれが初めてなのでは?

 ということでギルバートの武器選定回。ハルバードって意外とワンピースに出てきたことない気がするけど、どうだったっけ?原作読み直さなきゃ(使命感)。
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