マリンフォード。
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「今日から俺たちの家族になるエルンスト・ライカだ! みんな、よろしく頼む!」
「えっと……よろしくお願いします……?」
ベルツはライカを連れて、マリンフォードにある自分の家に来ていた。
「あら、あなたがライカちゃんね。電伝虫で話は聞いているわ。私はエルンスト・メルク。今日から私があなたのお母さんよ!よろしくね!」
まず最初に、肩まで茶髪を伸ばした女性が挨拶をした。メルクと名乗ったその女性は柔らかい雰囲気を纏っており、一目見ただけで親切そうであると感じられた。ライカは彼女を見ていて、何だか自然と緊張感が緩んでいくのを感じた。
「僕の名前はエルンスト・クルツ! よろしく!」
次に、ライカよりだいぶ背が高いの男の子が挨拶した。彼も母親に似て、柔和な印象を抱かせる。幼いながらも顔立ちにはメルクの面影が感じられ、一目で彼女の子であるとが分かる。ただその髪色だけはメルクと違っていて、父親と同じ銀髪だった。
「あたしのなまえはエルンスト・アルフよ! よろしくね! ライカおねえちゃん!」
「え……? お姉ちゃん?私が?」
最後に、ライカより少し背が低い女の子がライカに飛びついた。彼女は父親に似たのか、前二人と違って落ち着きが無く、お転婆な印象を抱かせた。初対面のライカをいきなり「おねえちゃん」と呼んで抱き着けるあたり、なかなか豪胆な子である。父親の遺伝子が強いのか、やはり髪色は銀髪であった。
家族全員の自己紹介が終わり、一家団欒の時間となった。
「アルフは4歳だからライカにとっては妹になるな。クルツは8歳だからライカのお兄ちゃんだ。クルツ、ライカはここに来たばかりで分からないことも多いだろうから、面倒を見てやってくれ」
事前にゼファーと相談した結果、ライカは5歳として扱われることになっている。ライカは自身の年齢すら覚えていなかったのだが、それでは何かと不便なので年齢を決めようという話になり、彼女の見た目から恐らくこのくらいだろうと予測して、5歳に決定したのだった。
「任せて! ライカ、何か分からないことがあったら僕に聞いてよ!」
「えっと……はい。分かりました」
ベルツの言葉にクルツが元気よく返事した。対して、ライカはまだ緊張気味のようだ。しかし、そんなライカの様子を見て、家族の面々は温かい目を向ける。
「ライカ、君は俺たちの家族になったんだ。そんなに硬くならなくてもいいんだぞ?」
「そうそう! もっと気楽にしていなさい!」
「うん……分かりま……じゃない、分かっ……た」
そう言ってライカは微笑もうとする。しかし、その顔はどこかぎこちなく、無理をしていることは誰の目にも明らかだった。
「ハハハ! まだちょっと固いかな?」
「しょうがないわよ。いきなり新しい環境に放り込まれたんだもの。慣れるまで時間がかかるのは当然だわ」
「それもそうだな。ライカ、心配いらないさ。ゆっくり慣れていけばいい」
「はい……」
ベルツとメルクの言葉に、相変わらずぎこちない笑顔でライカは答える。
「じゃあ改めて、ようこそわが家へ!」
こうしてライカはエルンスト家の一員となった。
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「キッチンはここにあるんだ。お風呂はここで、トイレは――」
「……分かった。ありがとう」
クルツはライカを連れて、家を案内していた。
「ねえ! ライカおねえちゃん! これがおわったらいっしょにあそぼ?」
「えっと……うん」
アルフは相変わらずライカをえらく慕っているようだ。まだ会って1時間もしていないライカをこんなにも気に入っている。ライカの持つ年不相応に大人びた雰囲気に、幼さ故に惹かれたのかもしれない。
対するライカはやはり緊張でどこかぎこちない。アルフに無理に笑いかけようとして、笑いとも呼べない微妙な表情を浮かべている。
そんな彼らをベルツとメルクが陰から見ていた。
「良かった。子供たちはもうライカを家族と認めてるようだ」
ベルツは微笑む。しかし、メルクは浮かない顔を浮かべていた。
「ねえ、あなた。さっき私があの子に気楽にしてって言ったとき……」
「ああ、やっぱり君もそう思ったか」
「ええ。あの子、むしろ怯えていた。気楽になったふりをして、こっちの顔色を窺っていた」
そう、彼女は気楽になどなっていなかった。敬語をやめたのも、笑おうとしたのも演技でしかなかった。
「ライカは『気楽になれという命令をされた』と解釈したんだろうな。命令に逆らったら何をされるか分からない。もしかしたらまた捨てられるかもしれない。ライカはそう感じていたのだろう」
ライカが気楽になった自分を演じていた理由もそこに尽きる。彼女にとって、新しい家族はまだまだ得体のしれない存在でしかなかった。
「拾われる前は、一体どれだけ酷い環境にいたのかしら……」
「想像もできないな。だが、そうでもなければあの年で極寒の海に捨てられるようなことにはなるまい」
ベルツたちはライカの身の上を思って同情した。正義感の強い二人にとって、今のライカから想像できる環境というものは、到底許されるべきものではなかった。
「時間をかけて、心を許してくれるのを待つしかないわね……」
「……そうだな」
結局今の彼らにできることはそれだけだった。下手に彼女の心に踏み込んでも、余計に彼女に警戒させるだけだ。それではむしろ状況を悪化させてしまう。
「それともう一つ……ゼファーさんが言ってたけど、あの子は悪魔の実の能力者なんでしょう?」
「ああ、そうらしい。まだ何の能力を持っているかは分からないが……」
「どんな能力を持っていても、あの子はもう私たちの子よ」
「その通りだ。何があってもライカを育て上げてみせる」
彼らにとって、ライカは既に家族であった。ゼファーから電伝虫で彼女のことを聴かされた時点で、メルクは既に覚悟を決めていたのだ。
「万一ライカの能力が暴走したとしても、俺の能力で抑えるさ」
「あなた……無理だけはしないで?」
「大丈夫だ。こう見えても俺は士官学校を首席で卒業している。それに子供のために無理をできない親は親じゃない」
「それはそうだけど……もう、あなたったら……」
いつもの飄々とした表情を消し去り、真剣にそう言ってのけたベルツを見て、メルクは自分が彼のどこに惚れたのかを改めて思い起こされたのだった。しかし、すぐにライカのことを思って真面目な顔付きになる。
「いつか心の底から笑わせてやるんだから!」
「ああ、その意気だ」
ライカはまだ本当の意味で家族になっていない。それでも、ずっと寄り添い続ければいつかは彼女の心もきっと開く。だから自分たちはいつまでもライカと一緒にいようと、二人はそう決意するのだった。
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「みんな、夕食の時間よ」
「「は~い!」」
ライカと遊んでいたクルツとアルフは、その声を聞いて弾かれるように駆け出した。ライカも慌てて追いかける。
「きょうのばんごはんはなんだっけ?」
「母さんが今日はハンバーグって言ってただろう? 楽しみだなあ!」
クルツとアルフは嬉々として食卓へと向かう。そんな二人の後をやや遅れて、ライカは慌ててついていった。
食卓に着くと、そこにあったのはハンバーグではなかった。
「せっかく新しい家族が増えたんだもの。みんなで盛大にお祝いしなくちゃ!」
食卓に並ぶのは、いつもより豪華な食事の数々。そしてテーブルの中央にはケーキがあった。
「ライカは自分の誕生日も覚えてないんだったな。なら、今日を君の誕生日としよう! ハッピーバースデー! ライカ!」
ベルツがそう言うと、他の面々も口々にライカに祝福の言葉をかける。
「おめでとう、ライカちゃん!」
「お誕生日おめでとう! ライカ!」
「おねえちゃん! おたんじょうびおめでとう!」
メルク、クルツ、アルフが順番にライカを祝った。事前に知らされていなかったのに咄嗟に祝いの言葉を掛けられるあたり、クルツとアルフはなかなか順応性が高いようである。
対して、突然祝われたライカは目をパチパチさせて、困惑している。
「ほら、ライカも座って。家族みんなで食べるご飯は旨いぞお!」
ベルツに促されてライカは戸惑う。クルツに案内された時には椅子が4つしか無かったはずの食卓には、いつの間にか5つ目の椅子が置かれていた。
「あ、ありがとう……」
戸惑いながらもライカは席に着いた。やはりまだ慣れない。ここにいる自分は場違いなのではないかと、そう強く思ってしまう。
「さぁ、食べよう。いただきます!」
「「「いただきます!」」」
「い、いただきます……」
ベルツが手を合わせて言ったのに続いて、家族全員が同じように手を合わせて言った。ライカも見よう見まねでそれを行う。
ライカは尚も戸惑っていたが、促されるまま目の前の料理を口に運んだ。
「……美味しい」
ライカの表情に初めて自然な笑顔が浮かんだ。
「そうだろう、そうだろう! メルクの料理は最高なんだ!」
ベルツが得意げになって胸を張る。
「ちょっとあなた、恥ずかしいわ」
メルクも満更でもない様子で微笑む。
「母さんの料理はいつも美味しいけど、今日のは特に美味しい!」
「あ~むっ! おいひい~!!」
クルツはめったに食べられないご馳走に舌鼓を打ち、アルフは美味しさのあまり口の中にまだ残ったまま喋っている。
家族全員が満面の笑みを浮かべていた。ただ一人、ライカを除いて。
「……!」
ライカは涙を流していた。家族というものの温かさに触れたことで、初めて感情が爆発する。
「ライカ!? どうしたの?」
「おねえちゃん? どこかいたいの?」
クルツとアルフが心配してライカに寄り添う。
「違うんです……これは……うれしくて……」
ライカは泣きながらそう言った。ベルツとメルクはそんなライカを見て微笑んでいた。
(存外心配しなくても大丈夫かもしれないな)
さっきまで、彼女が本当の意味で家族になるには時間が掛かると思っていた。しかし、今の光景を見て、ライカが自分から家族を名乗れるような日もそう遠くないような気がした。
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誕生日会も終わってすっかり夜になり、良い子は寝る時間がやってきた。さっきのクルツの案内でまだ自分のベッドが無いことを知っているライカは、床で寝ようとした。
「ライカちゃん、まだあなたのベッドは届いてないから、今日は私のベッドで寝なさい?」
「え、でもメルクさん――」
「良いの良いの! 私はソファでも眠れるから! それと、私のことは“お母さん”って呼んでも良いのよ?」
「……はい、お、お母さん……」
「はい! 良くできました!」
いつの間にか、ライカはメルクのベッドで寝ることになっていたようだ。
「おいおい、メルク。ライカには俺のベッドを貸すから、君がソファで寝る必要はないぞ」
「でもあなたのベッド、少し匂うじゃない。女の子を寝かせる訳にはいかないわ」
「それは……そうだな」
ベルツは渋々引き下がった。こうしてライカはメルクのベッドで眠ることになった。
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家族みんなが寝静まっている中、ライカはなかなか寝付けないでいた。メルクのベッドはフカフカで、眠気を誘うものであった。しかし、ライカの頭の中で今日の出来事の整理が付かず、いつまでも思考がグルグルと回っていた。
ライカは記憶の殆どを失っている。数少ない覚えていることといえば、自身が持つ悪魔の実の能力の使い方と、そして――
『――やだ! 私を捨てないで! お母さん! お母さん!!』
「――っ!!」
ライカは思わず歯を嚙み締めた。自身の記憶を遡ろうとするたびに
しかし、そんな嫌な記憶が何度自分を襲っても、ライカは眠気に逆らって記憶を遡ろうとしてしまう。
そもそも彼女は、自分が本当に「ライカ」なのかということさえ分からなかった。訓練艦に拾われて、ゼファーに何か覚えていないかと聞かれたとき、ライカは僅かに残っていた記憶を必死に呼び起こした。そして、誰かが自分に向かって繰り返し「ライカ」と叫んでいた光景が頭の中に浮かんできた。黙ったままでいるのは気まずいと思った彼女は、咄嗟にその名前を口にした。そして、今ではそれが自分を表す名前になってしまっている。
自分はひょっとしたら、誰か別の人の名前を勝手に使っているのではないのか。そんな思いが彼女の眠りを妨げる。罪悪感と一緒に湧き出た焦りが、彼女に何もしないことを許さない。そうして手持ち無沙汰のまま記憶を遡り、そして
「……わたしは……誰なの……?」
絞り出すように発せられたその声は、家族の寝息にかき消される。彼女の問いに答えてくれる者は誰もいなかった。
マリンフォード
多分グランドラインで一番安全。というかここが安全じゃなかったらグランドラインに安全な島なんてないでしょ。
エルンスト家
みんな優しい。子供の髪色については、父親の遺伝子が強すぎる。
ライカ
まだまだ完全には心を許せません。『お母さん』に捨てられてるし、しょうがないね。
ベルツのベッド
臭そう(直球)
とりあえず2話目。家族の団欒って書くの難しくないですか?(小説初心者並みの感想)正直満足のいく表現が出来てないので、ひょっとしたら後から書き直すかもしれません。