MISFITS ―はみ出し者たちの物語―   作:Astley

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第23話:誘拐

「ゼファー先生! 方角はこっちで合っているのですか!?」

 

「ああ! 奴の気配は覚えた! 見聞色(・・・)で追える!」

 

 ゼファーとギルバートは、シャボンディ諸島の街の、建物の屋上を飛び移り、最短経路でライカを攫った魚人を追っていた。

 

「しかし、先生。奴は何故、逃げるでもなく、天竜人に危害を加えるでもなく、ライカを攫うだけして逃げていったのでしょう?」

 

「さあな。それを知りたきゃ、あいつを捕まえることだ」

 

 何も知らない市井の人間たちが、屋上を跳び伝うゼファーたちを見上げて驚く。それを気にする暇も無く、彼らは魚人を追いかけた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「何をするの!? 離して!」

 

 ライカは抱えられたまま放電するが、魚人には効いていない。いや、効いてはいるのだが、魚人が驚異的な根性で耐えているようだった。さっきから何度も放電しているのに、僅かに身体をふらつかせるだけで、一向に倒れる気配は無い。

 刀を抜こうにも、ガッチリと身体を固定されているので、身を捩ることしかできない。

 

(身体を電気に変えてもこの人の腕から逃れられない! どういうことなの!?)

 

「あなたは何なのよ!? 私を何処に連れていくつもり!?」

 

「黙れ! 我のこと、忘れたとは言わせんぞ!」

 

 魚人の目は血走っていて、明らかに正気ではなかった。

 

(私はこの人に見覚えは無い……。この人が錯乱していて、私を誰かと勘違いしている? それとも――)

 

 ライカには5歳の頃より前の記憶が殆ど無い。その間にこの魚人と会っていた可能性も考えられる。そこで何らかの因縁が発生し、それが原因で今彼に攫われている。可能性としては無くはない。しかし、いずれにせよライカ本人には全く心当たりが無い以上、ライカには魚人に攫われる理由が分からなかった。

 ライカが考えている間も、魚人は走り続ける。そして、ライカの目にある建物が見えてきた。

 

(あれは……海軍の支部?)

 

 魚人が向かう先に見えてきたのは、シャボンディ諸島の海軍支部だった。そこにいる海兵たちが二人に気付き、困惑の表情を見せる。無理もない。少女を抱えた魚人がこちらに猛スピードで突っ込んで来れば、誰だってそんな顔にもなろう。

 しかし、その尋常ならざる様子から、魚人の方は恐らく捕らえるべき犯罪者なのであろうと海兵たちは察した。一斉に武器を構え、魚人を狙う。

 

「海兵たちよ! この女を殺されたくなければ、武器を下げよ! 大人しくしてくれるなら、諸君らを傷つけるつもりはない!」

 

「……! 私は自然系(ロギア)です! あなた達の攻撃は当たりません! 構わず攻撃してください!」

 

 しかし海兵たちは、魚人にライカを人質に取られているので、攻撃することはできない。ライカ自身は構わず攻撃しろと言っているが、そう言われてはいそうですかと攻撃できるような精神性の人間なら、端から海兵などやってはいない。

 結局海兵たちは何もできず、あっさりと魚人の侵入を許してしまった。

 

「武器庫は何処だ……あそこか?」

 

 支部の中に突っ込んでいった魚人は、武器庫らしき部屋を見つけるとそこに突っ込んでいった。扉を破壊して武器庫に入り、そこをひっくり返さん勢いで物色し始める。やがて彼は一本の、鞘に納められた刀を見つけた。

 

「これは僥倖。この駐屯地から運び出す時間は無いと踏んでいたが……」

 

 魚人は腰にその刀を差すと、武器庫を出ようとする。しかし、武器庫の出口には、銃を構えた海兵たちが待ち伏せしていた。

 

「武器を捨てて投降しろ! さもなくば撃つ!」

 

「この女ごと撃つつもりか?」

 

 魚人はライカを前に出して楯にした。しかし――

 

「君が自然系(ロギア)だと先生(・・)から聞いた! 撃っていいんだな!?」

 

「……! はい! 構いません!」

 

 言うと同時に、ライカが放電し、直後、発砲が開始された。

 恐らくゼファーが、魚人の逃げた足取りから魚人がこの支部に向かうと予測して、連絡を入れてくれたのだろう。

 発砲前にライカに確認を取ったのはゼファーの入れ知恵だった。万が一、魚人が海楼石などの能力を無効化する手段を持っていた場合、ライカの能力が封じられてしまう。そうなった場合、ライカは身体を電流化できないので、海兵たちの攻撃が当たってしまう。

 しかし、今ライカは放電した。つまり、能力は封じられていない。それさえ分かれば、ライカを気にすることなく遠慮なく魚人に鉛玉を浴びせられる。

 海兵たちが放った銃弾が二人に迫るその刹那、魚人はライカを抱えたまま刀を抜いた。避けるでも、防ぐでもなく、鉛玉が当たるまでのわずかな時間で彼は刀を構え――

 

「魚人剣術! “黄泉返し”!」

 

――魚人へと飛んでいたはずの銃弾は、いつの間にか海兵へと飛んでいた。

 

「うわっ!」

 

「何だと!?」

 

 そして、返された銃弾は海兵たちの銃に当たり、破壊する。海兵たちは無傷だが、武器を失っては戦えない。

 

「さらばだ」

 

 その間に魚人は跳躍し、支部の天井を突き破って逃げて行った。

 

「……! 総員! 武器庫から替えの武器を持ってこい! 奴を追うぞ!」

 

 我に返った指揮官が指示を出したが、既に魚人は肉眼で見えないくらい遠いところまで逃げていた。海兵としての責務を果たすために追跡の指示を出した指揮官だったが、心のどこかで、これは自分たちの手には負えない相手であろうことを感じていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「よし、ここならすぐには追手は来れまい」

 

 魚人がシャボンディ諸島の、治安が悪い地域に入っていく。そこの裏路地にある隠れ家的な、追手から見つかりづらそうな建物に入ったところで、ライカは下ろされた。

 

「うわっ!」

 

 雑に投げ下ろされたライカは、成す術なく地面とキスすることになった。痛む顔を抑えて立ち上がるライカに、魚人が口を開いた。

 

「女よ。アンネを何処(いずこ)へやった?」

 

「え?」

 

 突然の質問にライカは困惑するしかない。ライカにとって、アンネという名前は聞き覚えすらないものであった。

 

何故(なにゆえ)お前たちはアンネを襲った!? あの黒衣の女は一体誰なのだ!?」

 

「ちょ、ちょっと待って! 一体何のことを言ってるの!?」

 

 ライカにはこの魚人の言っていることが何一つ分からない。ただ、この魚人が自分に対して、凄まじい怒りの感情を向けていることだけは分かった。

 

「この我、フウライの顔を見ても思い出せぬと申すか!!」

 

 魚人はフウライと名乗ったが、当然ライカはそんな名前など聞いたことが無い。

 

「待って! 私は5歳から前の記憶が無いから本当に分からないの! 落ち着いて――」

 

「記憶が無いだと!? 惚けるな! これ以上ふざけたことを抜かせば、貴様もこの“柳水”の錆にしてくれよう!!」

 

 フウライは腰に差していた刀を抜いた。それは、美しく反り返った刀であった。光を反射して真っ白に輝く刃は、こんな状況でなければ見惚れてしまったであろうくらいに美しい。それは、素人でも名刀であることが察せられるレベルの刀であった。

 

(まこと)のことを吐くか、ここで死ぬか、選べ!」

 

(駄目だ! この人、全然話が通じない!)

 

「……仕方ない!」

 

 ライカはできれば話し合いで解決したかったが、それは無理だと悟る。自分も二本の刀を抜き、構える。

 

「死を選ぶか、愚か者め! 後悔するが良い!」

 

 フウライが刀を構え、ライカに突っ込んできた。

 

「くっ! “指向性放電(テスラスパーク)”!」

 

 ライカは後方へと跳びながら、手から電撃を放った。

 

「甘い! “黄泉送り”!」

 

 しかし、フウライは電撃が自分に当たる瞬間に刀を振り、ライカの放った電撃を逸らした。逸らされた電撃は、そのまま明後日の方向に飛んでいった。

 

(電撃を逸らした!? 彼は一体――!?)

 

 そのまま間合いを詰められ、格闘戦の間合いとなる。お互い得物は刀。二刀と一刀という違いこそあるものの、間合いは殆ど変わらない。故に、必然的に刀による打ち合いが始まった。

 

「“二刀類(にとうるい)絡刀須(ラクトース)”!」

 

「“黄泉送り”!」

 

 お互いが刀を使った技を放つ。打ち合いなので、当然ライカの二刀とフウライの一刀がぶつかり合い――

 

「――え?」

 

 刀がぶつかり合ったと思ったその瞬間、いつの間にかライカは虚空を斬っていた。確かにフウライに斬り掛かったはずなのに、いつの間にか明後日の方向に刀を振るっている。ライカには何が起きたのか分からなかった。

 そして虚空を斬るライカのすぐ横にはフウライがいる。ライカの隙だらけな横っ腹に、フウライは刀を振り下ろした。

 

「――っ! うああぁ!?」

 

 ライカは横合いから斬られ、思わず叫ぶ。鮮血が彼女の身体から飛び散った。

 

(斬られた!? 身体を電気化していたのに!?)

 

 自然(ロギア)系の能力者は、自身の身体をその物質に変化させることができる。そして、変化中は物理攻撃を無力化できる。

 当然、ライカも戦闘中は常に電流化して、物理攻撃が効かないようにしている。なのに、今ライカは彼の刀で斬られていた。

 

「くっ! “放電(スパーク)”!」

 

 咄嗟に全身から放電し、反撃する。全方位に放たれた電撃は、この至近距離では避けようがないはずだった。

 

「“冥府の門”!」

 

 しかし、フウライが、自分の身体の前に楯を作るように刀を回転させた。そして、刀に当たった電撃は、次々と方向を逸らされていき、地面や空へと飛んでいった。ライカの電撃は一発たりともフウライ自身には当たらなかった。

 

「終わりだ! “黄泉送り”!」

 

 再びフウライがライカに刀を振った。ライカは考える。この間合いでは回避は不可能。手負いの身体で長期戦は悪手、故に防御も望ましくない。

 

「“二刀類(にとうるい)丸刀須(マルトース)”!」

 

 故に攻撃するしかない。突き技の丸刀須(マルトース)なら、絡刀須(ラクトース)よりも素早い攻撃ができる。だから、さっきのように、いつの間にか虚空を斬っていたという事態にはならないとライカは信じて、丸刀須(マルトース)を放つ。

 ライカが二刀を突き出してくるのに対し、フウライは、二刀の切っ先に自身の刀が同時に当たるようにその刀の角度を調整する。そして――

 

「!!」

 

 ライカは今度こそ何が起きたのかを理解した。ライカの二刀がフウライの刀に当たった瞬間、フウライは刀を二刀と同じ速度で引く。引きながら刀を滑らかに傾けていく。二刀の切っ先は、フウライの刀にまるで吸い付いているかのようにピッタリとくっついている。そしてフウライが刀から力を抜くと同時に、二刀の切っ先がフウライの刀から離れ、そのまま本来の狙いを逸れて進んでいく。彼がしたのは、所謂受け流しだった。

 彼の受け流しがあまりにも滑らかすぎて、受け流しの際に衝撃や音の類は一切発生していなかった。そのため、初見のライカでは、攻撃を受け流されていることにすら気付けなかったのである。だから、さっきのライカは、気付いたら虚空に攻撃をしていたとしか認識できなかった。それ程までに、彼の受け流しは滑らかで洗練されていた。まさに柔剣の極みとも言うべき技術が、そこにはあった。

 

(嘘っ……! 死ぬ……!?)

 

 しかし、今のライカに、その技量に感心していられるだけの余裕は無かった。突きをいなされたライカは、フウライに背中を見せる形になってしまっている。突きを放った直後のライカは、そこから急に体勢を変えることはできない。つまり今、ライカには背中からの攻撃を避ける手段を持っていない。

 

「死ね。あの世で犯した罪を省みろ」

 

 フウライが背中からライカを突き刺そうと、刀を突き出す。それを肩越しに見るライカには、最早逃れる術は無かった。白く輝く刃が自分の背中に迫り――

 

キィン!

 

――甲高い金属音が響いた。

 

「ちっ!無駄な足掻きを!」

 

 フウライの突きは、ライカの背中から伸びる二本の刃に受け止められた。

 ライカは、自分自身を二刀で刺して、刀を背中から貫通させることで自身の後ろから迫る刃を防いでいた。どういう訳かフウライの攻撃は電気化していても当たってしまうが、自分の攻撃なら、電気化さえしていれば当たらない。それを利用すれば、二刀を突き出した姿勢から、すぐに自分の真後ろに刃を送れる。それに気付いたライカは、突きの姿勢そのままに手首を内側に捻り、自分自身を突き刺していたのだった。

 

「“高電圧放電(スパーク・ハイボルト)”!」

 

 ライカは、今自分が出せる最大の出力で放電した。

 

「何!?」

 

 勝利を確信したところに不意打ちで撃たれた電撃は、フウライほどの実力者であっても流石に避けきれなかった。ライカは、戦闘が始まって初めてまともにフウライにダメージを与えられたのだった。

 

(近づいたら駄目だ! さっきみたいに受け流される! とにかく離れて、引き撃ちに徹する!)

 

「“高電圧指向性放電(テスラスパーク・ハイボルト)”!」

 

 ライカは後ろに跳びながら電撃を放ち続ける。これならば、刀での打ち合いのときのように、受け流されて隙を晒すことは無い。安全にフウライに攻撃できる。

 フウライに向けて何発も電撃を放ち、こちらに近づけないようにする。フウライは放たれた電撃を全て刀で防いでいるので、ダメージは与えられていない。しかし、フウライをその場に釘付けにすることには成功していた。

 

(相手は電撃に封殺されていて動けない! このまま距離を稼いで、一気に逃げるか、あるいは……あれ?)

 

 そこでライカは違和感を覚えた。彼は戦いの始めでは、走りながら電撃を受け流すことさえしてきた。なのに、今は立ち止まって電撃を防いでいる。走りもしなければ、受け流しもしていない。ただ彼が封殺されているだけだと思えれば楽なのだが、彼の技量を身をもって味わったライカは、そこにどうしても嫌な予感がするのだった。

 

(最初の走りながらの受け流しは、偶々上手くいっただけ? それとも――)

 

 そこに至って初めて、ライカはフウライの刀が眩い光を放ち始めていることに気付いた。フウライがライカの電撃を防ぐ度に光は強くなっていき、ついには眩しさすら覚えるほどに強くなっていた。

 

「あの光……一体何が……?」

 

 刀の輝きが最高潮に達した瞬間に、フウライは今までの防御一辺倒な構えをやめ、刀を構え直す。

 

「魚人剣術奥義!“黄泉平坂(よもつひらさか)下り”!」

 

 そしてそのまま刀を横に振るった。すると、刀から途轍もない出力の電撃が飛びだし、ライカに向けて飛んでいった。フウライに遠距離攻撃の手段は無いと思い込んでいたライカに、それを避ける術は無かった。

 

「キャアアアァァァ!!?」

 

 電撃で身体を焼かれ、ライカは倒れた。

 ライカはビリビリの実の能力者である。だから、多少の電気は浴びたところでダメージにはなり得ない。しかし、フウライが刀から放った電撃は、その許容量を遥かに超えていた。

 

「グッ……この、電撃……私の……?」

 

 ライカは食らってから気付いた。いま浴びた電撃は自分が放ったもの(・・・・・・・・)だ。フウライは、受け流しの要領で、ライカが放った電撃を全て刀に留めていた。そして、刀を振るうことで溜まったそれらを一気に開放し、ライカに逆に浴びせてみせたのだった。

 

「多少はやるようだが、それもここまでだ」

 

 倒れるライカをフウライが見下ろす。最早ライカに戦えるだけの体力は残っていない。逃げることも、立ち上がって応戦することも叶わない。

 

「今度こそ、死ね」

 

 フウライが、刀を振り上げ、そして下ろす。

 

(ああ……もう駄目だ……今度こそ、死んだ……)

 

 ライカは倒れたまま、顔だけはフウライに向ける。フウライの振るった白い刃が目の前に迫り――

 

ガキイィィン!!

 

「人の教え子に、何をしてくれている?」

 

「っ! 貴様は!」

 

――真っ黒に染まった両腕に防がれた。

 

「ギルバート! ライカを連れて離脱しろ!」

 

「はい!」

 

 ゼファーが黒く染まった両腕でフウライの刀を抑えている間に、ギルバートがライカを抱えて離脱する。

 

「くっ!退け! 我は貴様に用は無い!」

 

「悪いが、俺はお前に用があるんでな。人の教え子を傷付けた代償は払ってもらうぞ」

 

 そう言って、ゼファーは黒く染まった両腕を構える。

 一線を退いて教官となる前は、ゼファーは海軍大将であった。その頃のゼファーは『“黒腕”のゼファー』と呼ばれていて、覇気で黒く硬質化させた腕による近接戦闘の強さで、当時の海賊から死神の如く恐れられていた。

 今では大将を退き、老いて全盛期とは比べるまでもなく弱体化してしまっているが、それでも彼の実力は未だに一級品である。教え子のため、ゼファーは今出せる全力を発揮しようとしていた。




ライカ
 負けました。相手が悪すぎる。

ギルバート
 今回は影薄め。次回か次々回くらいで輝きます。

フウライ
 カウンター特化の柔剣使い。覇気も使えるし、訓練生にぶつけていい敵じゃない。ライカと何らかの因縁があるようだが……?

ゼファー
 見聞色でフウライを追跡。この世界線では右腕を斬られてないので、(スマッシャー君の出番は)ないです。

という訳で主人公誘拐回。次回はゼファーVSフウライになるかな?
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