MISFITS ―はみ出し者たちの物語―   作:Astley

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Q.三か月も何してたんすか?
A.ユルシテ……ユルシテ……イソガシイトカタイチョウガワルイトカデモナク、ナントナクヤルキガデナカッタダケノワタシヲユルシテ!!!


第37話:才能

 ある日の朝のこと。今日も今日とて砂浜で二つの影がぶつかり合う。

 

「クらえッ!!」

 

「チッ! “紙絵(カミエ)”!」

 

 もはや日常そのものと化した砂浜での訓練。今回の模擬戦はフォック対ギルバートだった。

 フォックの膂力で放たれる最高速度のパンチ。以前だったら容赦無くギルバートの腹に突き刺さっていたであろう、その一撃は、しかし今のギルバートには通用しない。

 六式の訓練が始まってから早半年。ライカとフォックは最早ほぼ完全に六式を習得していて、戦闘中でも自在に使いこなせるようになり始めている。

 対するフォックは、あの日(第36話)から全く進展していなかった。六式を習い始めてから半年も経っているので、ライカとギルバート以外の訓練生も少しは六式のコツを掴み始めているというのに。フォックには全く習得できる兆しが見えない。

 フォックにとってあまりにも屈辱的なことに、この年度の訓練生で最も六式ができていないのは他ならぬフォックであった。

 

「セアッ!!」

 

「っと! 危ねぇ!」

 

 フォックの回し蹴りをギルバートが跳んで躱す。

 

(ヨけられるのはヨテイドオり……オちてきたところを──)

 

「“月歩(ゲッポウ)”!」

 

 突然ギルバートが虚空を蹴って跳んだことで、フォックの思考が強制的に中断された。以前までだったら必勝パターンであったはずの「浮かせてからの着地狩り」。かつてギルバートがライカにも決めたその戦法は、今のギルバートには通用しない。

 月歩でフォックの真上をひらりと跳ぶギルバートと、それを呆けた顔で眺めるフォック。それは明確な隙であった。そしてそれを見逃すほどギルバートは優しくない。

 

「“大瀑布落とし”ィィイ!!」

 

 無慈悲な振り下ろしは、容赦なくフォックの意識を刈り取った。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「おい、フォック。大丈夫か?」

 

 気づけばフォックは空を見上げていた。自分がギルバートに負けて、今仰向けで倒れているのだと理解するまでたっぷり数十秒。その後フォックは息を整えて立ち上がった。

 

「……また、マけた……」

 

 六式を習得する前は、フォックとギルバートではフォックの方が明らかに強かった。彼らが戦えばフォックが八割方勝っていた。それが今はどうだ。

 

「……サイゴにカったのって、イツだったっけ?」

 

 ギルバートが六式を習得してから、二人の勝率は完全に逆転した。今やフォック対ギルバートでは八割ギルバートが勝っている。

 

「あー、なんだ、その……いい動きだったぞ、フォック! それだけの力があるなら、きっと六式無しでもいつかは──」

 

 そこまで言ってギルバートは口を噤んだ。凄まじい形相で自分を睨み付けるフォックに気づいて、それでなお口を開けるほど彼は恥知らずではない。

 

「えっと……すまない、フォック」

 

「あ……いや、オレのホウこそゴメン……」

 

 砂浜に気まずい空気が満ちる。さっきからライカはどうしていいのか分からずただオロオロしている。

 

「……ギル、もうイッカイだ」

 

「……ああ、オーケーだ! 何度でも任せてくれ!」

 

 その後フォックはギルバート及びライカと何度も模擬戦を行った。しかし、ついぞフォックは二人から一勝も得られずに朝の訓練を終えることになったのだった。

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

「フォック、少しいいか?」

 

「? ナンだ、センセイ?」

 

 その日の夕方、一日の訓練が全て終わり多くの訓練生が寮へ向かう中、ゼファーはそう言ってフォックを引き留めた。

 フォックはどこか不機嫌そうであった。今日の訓練でも一切六式に進展が見られなかったからだ。

 

「ああ、お前と六式について話しておきたいことがある」

 

 その言葉にフォックは柄にもなく期待してしまう。自身に正面突破以外の戦い方を覚えさせてくれたゼファーならば、停滞している六式の訓練にも進歩が得られるかもしれない。そう思ってしまうのは当たり前のことだろう。しかし、ゼファーがかけた言葉はその期待を粉々に打ち砕くものだった。

 

「フォック……俺の見立てが正しければ、恐らくお前が六式を習得できることはないだろう。……端的に言おう。お前には()()()()()

 

「っ!? ナンだとっっ!!!」

 

 あまりにも残酷な言葉にフォックは思わず激高した。

 

「サイノウがない……オレに……」

 

「……ああ、そうだ。お前は身体能力を上げることに関しては才能に溢れているが、それを活かすことについてはてんで駄目だ」

 

 ゼファーの言葉はどうしようもないほどに事実であった。フォックの才能は、その身体能力の高さに終始していて、それ以上のことには及ばない。それは今までの戦いぶりにも現れていた。

 マリンフォードに連れてこられた当初は、ゼファー相手に正面から殴りかかることしかできなかった。そして多少改善された今でも、ライカやギルバートと比べると遥かに手数は少ない。鍛える才能(・・・・・)はあっても、それを使う才能(・・・・)は無い。戦士として絶望的に不器用。それがフォックという人間だった。

 しかし、同時にフォックは「才能が無い」と言われてはいそうですかと諦めるような人間でもなかった。そもそも彼は強くなるためだけに故郷を捨てて海に出ている。それだけの覚悟を秘めた人間が、この程度の挫折に屈するはずがなかった。

 

「じゃあオレはどうすればいい? どうすればもっとツヨくなれる? どうすればそのサイノウをモてる? どうすればミトめてもらえる(・・・・・・・・)?」

 

 「認めてもらえる」。それはフォックが度々口にしていた言葉であった。

 

(ライカやギルバートは既にお前のことを認めているだろうに……。いや、何ならあいつら以外でも、同期の訓練生は全員お前の強さだけ(・・)なら間違いなく認めているし、上層部からもそういう意味では注目されている。ただ、それを話したところで──)

 

──きっと何も変わらない。ゼファーはそう直感していた。恐らくフォックはライカたちを通じて、その先に別の誰か(・・・・)の影を見ている。そして、その人こそが彼の認められたい相手なのだろう。そう長い教官生活で鍛えられたゼファーの洞察は告げていた。そしてフォック自身は、その誰か(・・)に認めてもらうためには強くならなければならないと思い込んでいることも。

 

(ならば俺のしてやれることは一つだけだ。結局のところ、今の俺は教官でしかないのだから)

 

 ゼファーは、改めて決意を固める。大将を退いて教官となった、その日に誓った決意を。

 

(この海の平和のために……そして何より、この海で戦う海兵たち自身のために。受け持った訓練生は絶対に一人前に育て上げる。ここまで不器用な奴は初めてだが、結局やることは変わらんのだ)

 

 ゼファーの教官としての人生の中で、史上最も不器用なこの生徒を、それでも一人前にして送り出す。それがゼファーの決意であった。

 

「フォック。お前に一つ教えておいてやる。強くなるためには、必ずしも才能は必要はない」

 

「?」

 

「何かに劣っているということは、別の何かに優れているということだ。お前の不器用さを、お前だけが扱える武器にしろ」

 

「ナニをイって……」

 

 今確実にフォックを苦しめているその不器用さ。それが武器になるなど、フォックには到底信じられない。そんなフォックの様子を知りつつも、ゼファーは話を続ける。

 

「フォック、お前は俺を強いと思うか?」

 

「……? ウン。モチロン」

 

 なに分かりきったことを聞いてんだと言わんばかりの顔で、フォックは答えた。

 

「お前は俺に才能があると思うか?」

 

「ウン。そうじゃなきゃツヨくなれないだろう?」

 

「そうか。だが俺は、俺に才能は全く無いと思っている」

 

「……えっ?」

 

 フォックは耳を疑った。

 老齢でありながら、万全とは言い難い健康状態でありながら、それでもライカたち三人を纏めてぶっ飛ばせる男。それがゼファーという人間であった。そんな化け物に才能が無いとは、フォックには信じられない。

 

「フォック、覇気について習ったのは覚えているな?」

 

 フォックは首を縦に振る。訓練生たちは一度座学で覇気というものの存在を習っていた。頭脳にだいぶ問題のあるフォックであるが、しかし覇気についてはある程度覚えていたようだった。

 

「『ハキとはココロのツヨさ』、だっけ……シュギョウすると、ココロのツヨさをカラダのソトにヒきダせるようになって、それをツカってイロイロできる……ってヤツだったっけ」

 

「……まあ、間違ってはいない」

 

 あまりにも覚え方が曖昧なフォックに、ゼファーは頭が痛くなる。しかしそこは本題ではない。故に、無視して言葉を続ける。

 

「覇気の習得は才能に依るところが大きい、というのは覚えているな?」

 

「エっと……ウン」

 

「覇王色はともかくとして、武装色と見聞色は全員が習得の可能性を秘めていると言われている。しかし、その習得の速さには残酷なまでに才能の差が現れる」

 

「ン」

 

 座学で一度習った内容であったため、フォックも素直に相槌を打つ。

 

「お前は俺が何歳くらいで覇気を習得したと思う?」

 

「センセイが……ウ~ン……?」

 

 フォックは考える。ゼファーの覇気はどう見ても一朝一夕で練り上げたものではない。以前訓練のときにゼファーの武装色硬化を見たことがあったが、そのときの彼の腕はまるで鋼鉄のように黒光りしていた。今でさえ彼の武装色硬化は凄まじい威圧感を放っているのに、全盛期はそれ以上であったというのだから、それだけの領域に達するには早くからの覇気の鍛錬が必要だとフォックは考える。

 

「えっと……20サイくらい?」

 

 フォックは思ったことをそのまま口にする。ゼファーはそれを聞き、苦笑しながら否定した。

 

「残念、不正解だ。答えは34だ」

 

「えっ?」

 

 遅すぎる。それがフォックの素直な感想だった。

 

「俺にはガープやセンゴクのような才能はなかった。物覚えは悪かったし、頭も良くなかった。士官学校に入学したかったのに、結局入ったのは海軍学校だった。今俺たちが『下の学校』と蔑むあそここそが俺の古巣だったんだぞ?」

 

 冗談めかして笑うゼファーに、フォックは何を言っていいのか分からなくなる。

 

「何度も才能ある奴らを妬んだよ。どうして俺はできないのかって、どうしてこんなに差があるんだって」

 

「……」

 

 それは六式の訓練が始まってから、フォックがライカたちに何度も感じていた感情と同じであった。

 

「だが、あるとき俺は、自分に才能が無いことは幸運なことだと気付いた」

 

「? それってどういう――」

 

「才能が無いからこそ、才能ある誰かの背中を追える。俺の非才さは、才能ある奴らには不可能なモチベーションを俺に与えた」

 

 ゼファーは顔を少し上に向けて語り始めた。

 

「俺はどんな手を使ってでもあいつらに追いつこうと必死に努力した。訓練できる時間は全部訓練に費やした。日々の生活は腕に錘を付けたままやっていたし、寝るときも寝てる間に“鉄塊(鉄塊)”をし続けられないか試してみたりしていた。怪我したときは怪我してないところを動かし続けたし、とにかくできることは全部やった」

 

 「まあこれは、本当はあまり褒められたやり方じゃないんだがな」と自嘲気味に笑うゼファーにフォックは何も言えない。フォックの想像を遥かに超えたゼファーの壮絶な努力に、フォックは今自分が口を開けたままであることすら忘れ、ただただ呆然としていた。

 

「おかげで俺は自分の強さに絶対の強さを持てた。当たり前だ。俺以外に俺ほど努力してる奴なんかいなかったんだからな。そして『覇気とは心の強さ』。自分の強さに絶対の自信を持つ俺が、誰よりも強力な覇気を手にしたのは必然だったんだろう」

 

 全盛期のゼファーの覇気は、彼の代名詞とすら言えるほどの武器であったという。それは彼の二つ名にも現れていた。『黒腕』のゼファー。それは即ち、ゼファーの異常とも言える武装色硬化の強度を語り伝えた称号であった。

 

「才能が無いが故に最高の覇気を手に入れた。俺にとって才能の無さは武器だったんだ。だから俺は思う。何かに劣っているということは、何かに優れているということなのだと」

 

「!」

 

 さっきは理解できなかったゼファーの言葉が、今度は遮るものなくフォックの心の中にストンと堕ちた。

 

「だからフォック、お前はお前の不器用さを活かせ。お前の不器用さで何ができるかを必死に考えろ。それはいつか、お前にしかない最強の武器になる」

 

「ッ!! ウン!!」

 

「不器用さを武器に、だなんて荒唐無稽に聞こえるかもしれない。だが、才能の無さすら武器になるんだ。それよりはずっと現実的だろう?」

 

 フォックは勢いよく首を縦に振った。ずっと行き詰っていた訓練に、一筋の光が見えたような気がした。

 

「話は以上だ。引き留めて悪かったな。明日も頑張れよ」

 

「ウン! オレもセンセイみたいに、ガンバってみせるよ!」

 

 話が終わり解放されたフォックは、最近はめっきり見せることが減っていた笑顔を浮かべる。そのまま寮に帰ろうとして、訓練場の出口でゼファーを振り返った。

 

「センセイ、ありがとう!!」

 

「フン、別にいい。教官としての仕事を果たしたまでだ」

 

 フォックは今度こそ訓練場を後にする。ふと空を見上げてみると、いつのまにか太陽は完全に沈んでいて、月が昇り始めていた。半分だけ地平線と重なっている月は、それでいて夜の闇を斬り裂くように輝いている。雲一つない暗黒に、一筋の月光が差し込んでいた。




フォック
 六式の習得を諦められるくらいに不器用。でも覚醒フラグが立ちました。

ゼファー
 「第千巻」とかの情報と照らし合わせると、この人は天才というより努力の人なんじゃないかって気がする。実際本編でも若くして覇気を使いこなしている人もかなりいるのに、ゼファー先生は覇気の習得に34までかかってるし、それが海軍大将まで上り詰めたのはこういうことなんじゃないかって妄想した。

不器用さを武器に
 「ブキ」ヨウさを「ブキ」に。別にダジャレにする意図は無かった。

 ということで三か月ぶりの更新。お待たせして本っ当に申し訳ございませんでした。何故かモチベーションが湧かない日々が続いて全然書けませんでした。でも、FILM REDを公開当日に見れない自分の境遇への怒りを創作意欲に変換したらすらすら書くことができました(憤慨)。マジフザケンナヨ……
 次の更新はなるべく早くしたい。でも、前回の更新に一か月かかって、今回の更新に三か月かかってるから、多分次の更新は五か月後くらいになるんじゃないかな(ヤケクソ)。気長に待っていただけると幸いです。
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